未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2023
つpさん、感想あざます!やる気がでます!
※書き溜めモチベ維持できませんでした。逐次投稿します。
※ふたりの待遇は改善されませんでした。
悪夢の放送から一週間ばかりが過ぎた、夏の気配を感じる夕暮れ時。僕は窓枠に寄りかかりながら、揺れるカーテンをぼんやりと眺めている。
なんにもやる気がしない。
あの放送以来、完全に心が折れてしまっている。事務所の社長への怒りは当然あるが、自分の間抜けさへの失望の方が遥かに大きい。復讐する気力など当分は湧きそうもなかった。
このまま窓際で一生を過ごすのが、僕にはお似合いなのかも知れない。その前に静けさは確保しておきたい所だ。
僕は体を起こすと、騒音の発信源へと声を荒げた。
「少尉殿ぉ!もうそろそろ終わりにして夕食にしませんか?!」
「待て軍曹、今忙しい!!」
少尉殿がテレビの前に陣取っている。彼女は前のめりになって画面を見つめ、手に持ったゲーム機のコントローラをガチャガチャといじくり回していた。
「きたぞ……もうちょいでAマイナス帯だ ……!」
テレビ画面の中では、少尉殿の操作する青い大型ロボットが目まぐるしく動き回っていた。そこに一機の敵が立ち塞がり、ビームを集束させた剣を振り上げる。すわ一刀両断かと思いきや、少尉殿の機体は多数の円盤が鎖のように連なった武器を右手で振り上げ、それを敵の機体に巻きつけた。
「ヒャハー!!ちょっとは学習しろぉ!!」
全ての円盤が一気に爆発し、ダメージを受けた敵ロボットが後ろに倒れていく。トンデモ兵装にも程がある。しかし何故だろう……妙に心が躍る。
傍から見るに、どうやらこのゲームは六機対六機のチーム戦らしい。こまごまとしたルールがあるようだが、大枠として時間内に敵を出来るだけ倒し、最終的にスコアが多かったチームが勝ちとなるようだ。
しかし海兵としての本能だろうか。やはりゲームをするにしてもロボットが登場する作品を選ぶのだなと妙に感心する。
「もしもし貴様ら!?」
試合も終盤というところで、少尉殿が怒声を上げる。
「勝ってるのになんで突っ込んでくんだ!!」
どうやら複数の味方が敵陣に突入し始めたらしい。残り時間はあと僅かだ。このゲームの事をロクに知らない僕でも、スコアが優っているなら攻めに回るのは悪手だと思う。予想通り攻め込んだ味方が全滅し、スコアが逆転されて試合は終了になった。
「こんの……バカタレどもが!!貴様ら懲罰だ!!」
コントローラを放り出し、少尉殿は脇にあるちゃぶ台をバンバン叩きまくる。こんなに荒ぶる少尉殿は戦場でも見たことはない。
「……少尉殿は戦いがお嫌いなのかと思っておりましたが、結構好戦的ですよね」
「ああん?!ゲームと現実をごっちゃにするな!!」
いや、さっき懲罰とか言ってましたよね……。
呆れる僕の視線の先で、少尉殿はちゃぶ台に突っ伏した。そのまま彼女はくぐもった声で呪いの言葉を唱え始める。
「ボンクラどもが……懲罰房に送ってやる……それが無理ならせめて再教育させろ……なんでチャットできないんだよ……」
多分、少尉殿みたいな輩がたくさんいるからだろう。僕は無言で窓を閉めた。すっかり外は暗くなっている。
「……もういい。明日はPS5が届くんだ。気分がいいから許してやる」
のろのろと顔を起こした少尉殿が強がるように言う。
PS5は……半年ほど前に発売されたばかりのゲーム機か。品薄で入手が非常に困難なのをいい事に、メーカーが設定した価格よりも遥かに高値で取引されているようだ。
どうりで、一日中ずっとゲームばかりしていたわけだ。普段の少尉殿は食後に二時間だけ遊ぶと決めている様子なのに、今日に限って無制限なのはおかしいと思っていた。待ちきれない気持ちをゲームで鎮めていたのだろう。
「高価な買い物をしましたね。そう言えば生活資金は大丈夫なんですか?」
「来週からバイトする!」
自分が有名になれば隊員が見つけてくれる筈だという適当過ぎる考えの下に、少尉殿は望んでもいないアイドル業を続けていた。僕のA3がある今なら、そんな事をせずとも隊員を探す事が可能だ。以前ほどやりたくない仕事を頑張る必要は無くなった。
だがアイドル業を減らすとなってくると、代わりの収入源を確保する必要が出てくる。A3を使って変な事はするなと少尉殿から釘を刺されている以上、ATMに細工して紙幣を取り出し放題なんて事は許されない。
何らか仕事を探さねばなるまい。全く気が進まない状況だが、少尉殿はそれすら楽しんでいる様子だ。
「色んな仕事をしてみたいと思ってたんだ。花屋とか、ケーキ屋とかいいよな」
ゲーム機の電源を落としながら、少尉殿が楽しげに言う。物凄く不安だ。何も起きなければいいが。
※
次の日。
荷物の到着予定日となり、ますます少尉殿は落ち着かない様子になった。
座った目が爛々と輝いている。あまり眠れていないのだろう。実際、夜中にも何度か起きては携帯をいじっていた。気配に目が覚めてしまったので何をしているのか聞いてみれば、荷物を追跡しているとのこと。呆れるほかない。何度確認した所で到着が早まるわけでもなかろうに。
家の外から車が近づく音が聴こえるたびにソワソワと膝立ちになり、通過していくと肩を落として座り込む。そんなせわしない同居人のせいで、こちらまで時間の進みが遅く感じてしまう。
時計の針を睨みながら、どれだけ待ったか。
ついに階段を登ってくる足跡が聞こえ始めた。
「軍曹……かわりに受け取ってきてくれ」
扉をノックする音のあと、少尉殿が上目遣いにそう言ってきた。三文判を差し出す手が震えている。何故かこちらまで緊張してきた。
扉の向こう、配達員の隣に置かれていた段ボール箱は、思っていたよりもずっと大きかった。僕は受け取った段ボール箱と共に何とか扉をくぐると、それを居間の中央に置いた。
「……こんなにでかいの?」
「開けてみましょう」
予め用意されていたカッターを受け取ると、僕はさっさとガムテープを両断していく。
開いてみると、身構えていたよりもだいぶ小さい箱がみっしりと並んで入っていた。この時点で色々とおかしいが、とりあえず一つ取り出して少尉殿に手渡す。
「これと同じ物が複数入っています」
少尉殿は、受け取った物を見て固まっている。まるで生まれて初めて何かを手にしたかのように、目の前にあるソレが何なのかを測りかねている様子だ。その姿を横目に、僕はどんどんと中に入っている箱を取り出していく。
やがてちゃぶ台の上に箱の山を作り終えた僕は、手元に残った最後の一つに視線を落とす。そこには『GS5』という商品名が書かれている。Pではない。Gだ。商品名の隣にはPS5と似た形状のゲーム機本体が描かれているが、細部が異なる上に明らかに小さすぎる。要するにまがい物、偽物のたぐいという事だろう。
涙と鼻水を流しながら思考を停止していた少尉殿が、ついに決壊した。
「ち゛か゛う゛う゛う゛!!こ゛れ゛し゛ゃな゛い゛い゛い゛!!」
顔を歪めて座り込んだ彼女は、なぜかGS5の箱をしっかりと抱えて口をわななかせはじめた。ポタポタとこぼれ落ちる涙が、胸の上の箱を濡らしていく。
「いっごでもイヤなのにぃ!!なんで、だぐざんおぐっでぐるのお!?」
箱は全部で十二個。調べてみるに、GS5の売り値はおよそ五千円だ。総額で六万円ほど。PS5の価格に近い。変な所で律儀な取引相手である。
「だのじみ、だっだのに……」
ベコベコになるほど箱をきつく抱いたまま、呼吸もおぼつかない様子で泣き続ける少尉殿。丸まったその背中をさすりながら、僕は思う。
この世界は、戦場よりも油断ならない所なのかもしれない。
傷心の少尉を癒すべく、軍曹の空回りが再び始まる。
次回、「バイト」