未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
少尉殿が帰ってくる日。
僕は早朝から北赤羽の改札に立っていた。
ひっきりなしに、改札前を通る人々に話しかけられる。顔見知りになってしまった人達も何人か。僕は彼らに無難に対応しつつ、視界の端から改札口を外さない。少尉殿を待っていると伝えると、忠犬ハチ公みたいだと笑われた。悪い気はしない。
夕方頃、少尉殿がエスカレーターで降りてくるのが見えてきた。僕に気がついて手を振っている。
「軍曹、駅まで来てくれたのか」
改札を出て駆け寄っててきた少尉殿は、予想に反して元気な様子だった。心なしか、白いワンピースから伸びている手足が焼けているように見える。
帰り道を歩きながら、少尉殿は上機嫌だった。
「沖縄はすごかったぞ!砂浜以外、みーーーんな真っ青なんだ!写真撮ってきたからあとで一緒に観ような」
少尉殿の様子が面白くなかった。理由はよく分からない。
「ずいぶんとご機嫌ですね」
「そりゃまぁな、地元に帰ったら安心するさ。それに週末にはPS5が届くだろ、興奮しない方がおかしい」
少尉殿の欲しがっているゲーム機だ。去年発売されて以来ずっと品薄が続いている。今現在も入手困難であるが、少尉殿は上手く購入できたと言っていた。
「ああ、楽しみすぎる」
※
そして迎えた、PS5の到着予定日。
少尉殿の緊張は極限に達していた。
普段の寝坊っぷりが消え去り、今日は早朝から起きて目を爛々と輝かせている。もしかして寝ていないのかもしれない。夜中にも何度か起きては携帯をいじっていた。気配に目が覚めてしまったので何をしているのか聞いてみれば、荷物を追跡しているとのこと。呆れるほかない。何度確認した所で到着が早まるわけでもなかろうに。既に買ってある対応ソフトの説明書も何度も読み直していたな。一度も起動していないのに、操作法を完全に覚えてしまっていることだろう。
日が昇ってからは、家の外から車が近づく音が聴こえるたびにソワソワと膝立ちになり、通過していくと肩を落として座り込む。ゲーム機がそんなに良い物なのかは疑問であるが、少尉殿の帰りを待っていた僕はその気持ちが痛いほど分かる。お陰でこちらまで時間の進みが遅く感じてしまう。
時計の針を睨みながら、どれだけ待ったか。
ついに階段を登ってくる足跡が聞こえ始めた。
「軍曹……かわりに受け取ってきてくれ」
扉をノックする音のあと、少尉殿が上目遣いにそう言ってきた。三文判を差し出す手が震えている。何故かこちらまで緊張してきた。
扉の向こう、配達員の隣に置かれていた段ボール箱は、思っていたよりもずっと大きかった。僕は受け取った段ボール箱と共に何とか扉をくぐると、それを居間の中央に置いた。
「……こんなでかいの?」
「開けてみましょう」
予め用意されていたカッターを受け取ると、僕はさっさとガムテープを両断していく。
開いてみると、中には身構えていたよりもだいぶ小さい箱がみっしりと並んで入っていた。この時点で色々とおかしいが、とりあえず一つ取り出して少尉殿に手渡す。
「これと同じ物が複数入っています」
少尉殿は、受け取った物を見て固まっている。まるで生まれて初めて何かを手にしたかのように、目の前にあるソレが何なのかを測りかねている様子だ。その姿を横目に、僕はどんどんと中に入っている箱を取り出していく。
やがてちゃぶ台の上に箱の山を作り終えた僕は、手元に残った最後の一つに視線を落とす。そこには『GS5』という商品名が書かれている。Pではない。Gだ。商品名の隣にはPS5と似た形状のゲーム機本体が描かれているが、細部が異なる上に明らかに小さすぎる。要するにまがい物、偽物のたぐいという事だろう。
涙と鼻水を流しながら思考を停止していた少尉殿が、ついに決壊した。
「ち゛か゛う゛う゛う゛!!こ゛れ゛し゛ゃな゛い゛い゛い゛!!」
顔を歪めて座り込んだ彼女は、なぜかGS5の箱をしっかりと抱えて口をわななかせはじめた。ポタポタとこぼれ落ちる涙が、胸の上の箱を濡らしていく。
「いっごでもイヤなのにぃ!!なんで、だぐざんおぐっでぐるのお!?」
箱は全部で十二個。調べてみるに、GS5の売り値はおよそ五千円だ。総額で六万円ほど。PS5の価格に近い。変な所で律儀な取引相手である。
「だのじみ、だっだのに……」
ベコベコになるほど箱をきつく抱いたまま、呼吸もおぼつかない様子で泣き続ける少尉殿。丸まったその背中をさすりながら、僕は湧き上がる怒りに耐え続けた。