未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
ひとしきり少尉殿をなだめたあと、僕らは二人で押し入れに忌まわしきGS5を封印した。部屋の貴重なスペースに、心底いらないものを並べていく。虚無である。
作業を終える頃には、少尉殿も泣き止んでいた。SwitchとPS4とXBoxがあるから大丈夫だと自分に言い聞かせるように呟いていたが⋯⋯あまり大丈夫な様子じゃない。
ともかくだ、怒りで爆発しそうだった僕は、A3を悪用するなという少尉殿からの言いつけを破って詐欺業者に制裁を加えることにした。連中は法に引っ掛からないグレーゾーンで活動している。ならば私刑で対応するほかない。
僕は業者の持っている全ての口座を特定し、その預金を全世界の慈善団体の口座に分散送金した。
気付いた業者が何を足掻いたところで無駄だ。五千回以上の振り込み処理を取り消す費用は取り戻せる金額を軽く超えるし、今後も奴らが使う口座は空にする予定である。僕は割と執念深いのだ。
だが、虚しい。
こんなことをしたって、呪われたGS5がこの部屋の押し入れから消えることはないし、少尉殿の傷心が癒える訳でもない。僕がA3を使ってPS5を探す事を提案してみたところ、もう要らないと不貞腐れる始末である。しばらくそっとしておいた方が良さそうだ。
※
次の日。
今日もまた真夏日だ。外よりはマシだが、部屋の中は結構な暑さである。そろそろエアコンを購入すべきだと本気で思う。
少尉殿はまだ眠っている。こんな暑さなのに、何度呼んでも全く目を覚ます気配が無い。時計を見れば、針が三時近くを指し示している。GS5の件がよほどショックだったのだろうが、それにしたって寝すぎだと思う。
僕はため息を吐いた。
一緒にコインランドリーに行こうと約束していたのに。
仕方がない、一人で行くしかあるまい。部屋の扉を開けると熱線が大量に降り注いでくる。僕は洗濯カゴを担ぎ、口をへの字に曲げながら歩きだした。
それから、だいたい3時間後。
暑さで柔らかくなったアスファルトの上を汗水たらしながら帰ってくれば、なんとまあ少尉殿はまだ寝ているではないか。これはさすがにダメだろう。僕は忌々しい洗濯カゴを放り出すように畳の上に置くと、布団まで膝立ちで詰め寄った。少尉殿の体を抱き起して気持ち強めに揺すってみる。
そこで僕は、ようやく異変に気付いた。
少尉殿の呼吸が、あまりに弱々しい。頬を軽く叩いても全くの無反応だ。胸に耳を当てると、心臓の動きは異様に遅かった。少尉殿に何度も呼びかけながら、部屋の中が急に広くなっていくような奇妙な感覚に襲われる。
どうしたらいい。
現地の病院に連れて行ってもいいのか?
だが、僕らの体の構造は明らかに現地人と違う。特に循環器系は通常人と比較して大幅に最適化された仕様になっているから、診察の過程で医師に見咎められる可能性が高い。
いや、そんなこと言ってる場合か?命には代えられないだろう。
僕はA3を通して受け入れてくれそうな病院を探そうとした。
その時だった。
『やめておけ』
聞き慣れた声が、僕の頭の中に反響した。
※
躊躇しつつも、僕は寝息を立てる少尉殿を残して部屋を出た。アパートの階段を転がるように駆け下りる。
向かうのは少尉殿と再会した日に訪れた公園だ。全力で走って走って、やがて目的の公園に到着すると、汗を拭う事も忘れて周囲を見回す。
薄暮で薄暗くなった公園の隅に、小柄な人影が立っていた。それは迷い無くこちらへと近づいてくる。誰なのかは見間違えようがない。
「06」
僕の声と同時に影は立ち止まり、深紅の瞳をこちらに向けた。
「軍曹、久しぶりだな」