未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2023

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助言

 

 

 

あれから一睡もする事なく、僕は次の日の朝を迎えた。

 

鳥の鳴き声が部屋の外から響く中、僕は布団から身を起こした。今日は目黒芸能事務所に行く予定になっている。社長の春野と直接話したい事があったからだ。

 

約束の時間までまだ二時間ほどあるので、僕はその間に少尉殿が所望していた風呂の用意をする事にした。

 

いつも起床する時刻をだいぶ過ぎた辺りで湯を張り終えると、僕は少尉殿を起こしに掛かった。ところが布団を剥がそうが体をゆすろうが、唸り声を上げるばかりで一向に起きようとしない。このままでは湯が冷めてしまうではないか。ウンザリしつつも、僕は彼女を風呂場まで担いで行く事にした。さすがに湯を浴びせたら目を覚ますだろうと考えたのだ。

 

当然ながら、服を着せたまま入浴させる訳にも行かない。僕は寝ぼけている少尉殿の体に跨り、パジャマのボタンを上から順に外し始めた。こちらを見上げている彼女の目は半覚醒状態で虚ろだったが、それが不意に大きく見開かれたと思った次の瞬間、僕は頬に強烈な平手打ちを喰らって畳の上を転がっていた。

 

そこからは大変だった。物を投げまくる少尉殿を背にして辛うじて財布とパーカーを引っ掴んだ僕は、寝巻きを着たまま家を飛び出さざるを得なかった。当然ながら少尉殿に行き先を告げる暇も無い。

 

結婚の話は確かに僕が軽率だったのかも知れない。だが、服を脱がそうとした位であんなに激怒されるのは全く以って解せない。軍の定期検査で互いの裸は何度も見ているし、何なら昨晩だって服を脱がしたばかりではないか。条件によって何か変わるのか?不可解にも程がある。

 

ともあれ、どうにかして少尉殿の怒りを解かねばならないのだが、今の僕には彼女がまるで異星人のように思える。如何にして言葉の通じない相手と分かり合うか頭を悩ませている内に、僕を乗せた電車は目黒駅のホームに滑り込んでいく。

 

僕は答えの出ない難問から頭を切り替えると、パーカーのフードを目深に被り直して開いたドアを潜り抜けた。

 

 

 

 

時間まで街中をブラブラしてから、僕は目黒芸能事務所のエントランスに足を踏み入れた。これで二度目だ。マネージャーの和泉女史が半泣きで歓迎してくるのには若干腰が引けた。他の職員も不気味なほど手厚く迎えてくれる。

 

如何にもコストが掛かっていそうな内装の会議室に案内されて、僕は座り心地の良い椅子に収まった。社長の春野が少しばかり遅れるとの事で和泉女史が応接してくれているのだが、当然のように話題は僕の赤く腫れた頬へと流れていく。僕は少し考えてから、二度の平手打ちを喰らった経緯を彼女に話す事にした。今後の少尉殿への対応策を彼女に相談したいと思ったからだ。それくらい今の僕は切羽詰まっている。

 

話を聞いている間、和泉女史は自分の表情を必死に消そうとしている様子だった。残念ながらそれはあまり上手く行っておらず、隠しきれない呆れの感情が滲み出てしまっている。

 

「……というわけで、着替える間も無く追い出されて来た感じです」

 

僕が今朝の顛末を語り終えて口を閉ざすと、沈黙を保っていた彼女は咳払いを一つしてから慎重に話し始めた。

 

「ええと……まずハナさんですが、以前はジローさんに裸を見られても平気だったんですよね。ですが今はそうでは無くなっていると。プロポーズに対する反応はどうだったんでしょう。断られはしなかったんですよね?」

 

僕はあの時の少尉殿の姿を思い出す。

 

「……とても驚いた様子で、顔を赤くしながら慌てていました。プロポーズは……確かに断られていませんね」

 

その答えをきっかけに、和泉女史は表情を隠す努力をやめたようだ。彼女は落胆を露わにするとボソリと言葉を漏らした。

 

「これはハナさん苦労しそう」

 

そして嘆息と共に言葉を続ける。

 

「なんでまた「お試しの」愛の告白なんて酷い事をしたのかは敢えて聞きませんが、ハナさんは多分、それを本気の告白として受け取ったのだと思います。じゃなきゃそんなに怒ったりしませんから。きっと物凄く傷ついたと思いますよ」

 

「傷ついた」いう言葉に、僕は思わず息を呑む。

 

「……傷つけるつもりは無かったんですが」

「いやいや、つもりが無いのは尚更マズいですから。失礼を覚悟で率直に申し上げますが、ジローさんは女性の扱いについては信じられないほどのダメ男です。しかも無自覚ときた」

 

さっきまであった和泉女史の遠慮はどこへ行った。

 

「ジローさんが自力で解決出来るとは思えませんので、ハナさんが落ち着いて来たあたりでお互いの気持ちを真剣に話し合ってみてください。大丈夫、ジローさんのハナさんへの気持ちはあの放送を観たら丸わかりですし、アレを見せられて落ちない女は居ません。必ず上手くいきます」

 

不意に表情を柔らげた和泉女史が、テーブル越しに体を乗り出して来た。彼女は抑えた声で言葉を続ける。

 

「ジローさんとハナさんはタレントで、それ以前に弟と姉です。そんなお二人を応援するのはマネージャーとしても大人としても失格なのかもしれませんけど、それでも私はお二人の力になりたいと思ってますから」

 

彼女がそう言い終えた直後、会議室の扉が開いて社長が入室してきた。彼はテーブルに乗り出している和泉女史の姿に片眉を上げたが、楚々として立ち上がった彼女から視線を外すと、改めて僕へと向き直った。

 

「よおジロー、待たせて悪かった……おい、どうしたよその顔」

「気にするな。姉に仕置きされただけだ」

「はぁ?商売道具なんだから顔はやめとけよ」

 

なんだこの気やすさは。この男は自分がやった事を忘れてしまったのだろうか。僕は口を引き結んで社長を睨んだ。

 

「……なんだ怒ってるのか?お前もハナと一緒かぁ」

 

社長が苦々しげにそう言いながら椅子に座るのと入れ替わりに、和泉女史が僕らに一礼してから部屋を出ていく。

 

「その様子じゃ次の出演の相談じゃ無さそうだな」

 

テーブルに置かれていたペットボトルを開封しながら、社長はため息を吐いた。僕の眉間の皺がますます深くなっていく。

 

「どんな思考をしたらそんな期待を持てるんだ?あの放送を観た後、僕はテレビ局とこのビルを瓦礫の山に変えるべきか真剣に検討したんだぞ」

「おっかねぇなお前は!じゃあ何の話をしに来たんだよ」

「僕らの住んでいるアパートについて聞きたい」

 

あのアパートの敷地は長い私道の行き止まりに位置しているため、通じる道は一本しかない。その道沿いに並ぶ家々の表札は「春野」が大半を占めていて、それぞれの軒先に設置された監視カメラの殆どが私道に向けられている。

 

僕の指摘を聞き終えた社長は、ペットポトルを傾けてから話し始めた。

 

「ハナも最初は目黒のマンションに住まわせてたんだよ。ちゃんとセキュリティの入った物件な。だが変な奴に何度か絡まれて、人間不信みたいになっちまってな」

 

腹立たしげに言葉を切って、彼はボトルをテーブルに置く。

 

「だもんで今の場所に越させたんだ。あのあたりは俺の嫁さんの親族が固まって住んでんだよ。全員漏れなくハナの大ファンだ。それに町の連中も自警団みたいなもんを作ってくれててな。他所もんがハナに近づこうとしたら一発で囲まれるぞ。実際何人か怪しいのを警察に突き出してるし、嫁さんの家は顔が利くんで警察の動きもいい」

 

まさかこの男に感謝する日が来るとは思わなかった。あの一見無防備なアパートは、僕が手を加えるまでもなく既に多くの人々に護られている。

 

「では、あの辺りにいくつも設置されている歩哨システムもそちらが用意したのか?アレは簡単に入手できる様なモノでは無いはずだが」

 

余裕で皮膚を炭化できる高出力レーザー発振器を装備した歩哨システムが、私道沿いの電柱に合計で十二基設置されていた。監視カメラに偽装されており、どう見てもこの国の法を逸脱した装置である。

 

案の定、社長は意味が分からないという顔をしている。ならばこれ以上聞くこともない。僕はこの話を強引に終わらせた。

 

誰があんな物を。

次の番組出演を熱烈に提案し始めた社長の声を聞き流しながら、僕の思考は新たな疑問に沈んでいった。

 

 

 

 

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