未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
06は、無地の白いTシャツにカーキ色のカーゴパンツ、それに分厚いブーツというラフな姿で立っている。
「大丈夫か軍曹、少し落ち着け」
再会の前置きなど一切なく、落ち着いた声で06がたしなめてくる。丁度いい。まどろっこしい事なんぞをしてる場合じゃない。
「お前の言うとおり医者には診せなかったぞ。止めた理由を聞かせて貰えるんだろうな」
「意味がないからだ。そこらの医者に診せたところで私たちの身体のことなど分かる訳がないし、面倒な騒ぎになるだけだ」
当たり前の事を言わせるなという顔だ。
「そもそもステイシスが機能しているんだ、医者に診せる必要が無いのは貴方も分かっているだろう」
ステイシスとは、僕らの体内で無数に活動している微小機械群のことだ。こいつらは僕らの体を常にメンテし続ける。大ケガをしたら組織を修復し、致命的な病原体を発見したら速やかに排除する。死んだ後もメンテしてくれるもんで、
「そのステイシスが対応できてないからこうなってるんだろ」
「対応できんさ、病気じゃないからな。私も一度、同じ状態になった。2日ほど全く目を覚まさなかったよ」
僕は振り上げた拳を下ろした。脱力感と共に焦りが急速に鎮火していく。
「……そうなのか」
「私達兵士が何年も生きている事が設計の想定を超えてるんだ。知らない不具合も出てくるさ」
言い終えたあと、06は僕の納得しきれていない表情を読み取って小さくため息を吐いた。
「とはいえ、このままじゃ安心できんだろうから、事情を知る施設に入院させる事にしよう。米軍と提携している医療機関だ。そこで異常なしとの判定が出れば、貴方も少しは安心できるだろう?」
は?
事情を知る施設?米軍?
「お前、この時代の組織と関わりを持ってるのか?」
「私は今、米軍に所属している」
想像を超える答えに一瞬目が眩む。
「できればこの事は貴方にも伏せておきたかったんだがな」
「⋯⋯おい、さっぱり事情が分からんぞ。お前、今まで何をしてたんだ。なぜ少尉殿に顔を見せなかった?全部分かるように順番に話せ」
「貴方がこの世界で最初にコンタクトできたのが『少尉殿』だったように、私がこの世界で最初にコンタクトしたのが米軍だった。特別な経緯などは無い。『少尉殿』に会いに行かなかったのは、彼女を私の事情に巻き込みたくなかったから。それだけの話だ」
06は僕の横を通り抜けると、背後にあったベンチに腰を降ろした。
「まぁ、私は運が良かったよ。特に苦労もなくこの世界に馴染む事ができた。実験動物にもなってないしな」
「⋯⋯何年前にこっちに来たんだ」
06はベンチに座って俯いたまま、足をブラブラと揺らし始めた。
「6年前だな。今は大尉として中隊を率いている。これでいいかな?軍曹」
おいおい、なんとまぁ、大出世ではないか。伍長から何階級特進だ?僕なんて生まれた時から軍曹で、死ぬ時だって多分軍曹のままなのに。
「これはこれは、先ほどから失礼致しました、大尉殿」
「謝罪を受け入れよう。今後は気を付けろよ、軍曹」
コイツ⋯⋯。
目の下をヒクつかせる僕を、06が面白そうに見ている。相変わらず苛立たしい奴だ。
「⋯⋯やはり、直接会わないほうがよかった。貴方には、どうしても甘えたくなってしまう」
か細い声だった。
聞き直そうとした僕に、06が覚悟を決めたような表情で口を開いた。
「なぁ軍曹。突然ですまないが、私たちの仕事に力を貸してくれないだろうか。無論、その間の『少尉殿』の安全は保証する」
「仕事?」
「ああ。今から6日と13時間後、この世界に新たな『漂流物』が漂着する。貴方にその排除を手伝って欲しいんだ」
本当に突然だな。
片眉を上げている僕に、06が分かっているとばかりに首を縦に振る。
「『漂流物』とは、三百年先の未来から送り込まれてくる様々な異物の事だ。その中には、かつて我々が戦っていた『
「はぁ?機動歩兵やら多脚砲台やらが、僕らみたいに三百年先の未来から流れ着いて来てるって事か?」
「まぁ、そんな感じだ」
僕は寒気を抑え込むのに精一杯だった。
敵がこの世界にも来てる?冗談だろ。
これまでの日々を思い出す。
もしあの戦いがこの世界でも繰り返されたならば、少尉殿の日常はあっさりと蹂躙されるだろう。
「急な話で困惑するだろうが、どうだろう。検討してくれないだろうか」
「……今から6日後か。ずいぶん、正確に出現時期を予測できるんだな」
「送られてくる漂流物に、次に来る漂流物の規模と到着日時が記録されているんだ。今のところ予告通りに出現している」
僕は耳を疑った。何時何分に攻撃しますので宜しく、なんて教えてくれる敵など聞いたことがない。
「なんだそりゃ、ご親切にも程があるだろ」
「親切ついでに出現場所も教えて欲しかったよ。三百年先に存在していた敵の最重要施設の座標に必ず出現しているから、手掛かりはあるがな。対応する部隊の数が足りないので完全な先回りは出来ないが、監視網を敷いて即応できる体制を敷いてある」
聞き終えた僕は、自分がマヌケになった気分だった。
「⋯⋯これまで何度もネットを探ってるが、そんな大ごとの気配は全くなかったぞ」
「それはまぁ、この世界のネットに関しては現地人の方が専門家だからな。情報隠蔽を長年やってきた経験があるし、三百年先の技術のサポートもある」
小柄な06を見つめながら、僕は畏敬の念を覚えていた。それと同時に疎外感と悔しさで口の中が苦くなっていく。
「……言ってくれれば幾らでも手伝った」
「『少尉殿』からは、出来るだけ距離を置きたかったんだ。彼女には、何も知らぬまま幸せに生きて欲しいと思っている。なのに今回、貴方に助力を乞うことになってしまったのは痛恨の極みだ」
「バカを抜かせ。どういうつもりか知らんが、少尉殿と僕を部外者扱いするのは無理だぞ。お前一人だけを戦わせるなんてこと出来る訳ないだろうが」
その言葉に、06は一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた。今はまた不敵な笑顔に戻っている。
「ともかく、礼を言わせてくれ。予告によると次の漂流物はかなりの規模でな、貴方がいないと勝てないと思う。代わりという訳では無いが、『少尉殿』の事は任せてくれ。私にとっても大切な人だ」
06はベンチを飛び降り、建物から落ちる長い影に駆け込んでからこちらを振り返った。
「では、これにて私は戻る。仕事の内容については後ほど詳細を送る」
表情の見えない顔から、声だけが響く。
「最後に軍曹、とても大切な事を言っておく。私の存在を絶対に『少尉殿』に伝えないでほしい。もし『少尉殿』に私の存在が漏れ伝わったら、君たちは今の暮らしを続けられなくなる可能性が非常に高い。だから頼む、私の事は黙っておいてくれ」