未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
その後に06から伝達された『仕事』の詳細は、なかなかに難儀なものだった。06の拠点は北米である。つまり、仕事場への移動距離がとても長いのである。
これからA3を横田にある空軍基地まで運び、そのまま輸送機で北米に向かう。到着後に06の部隊と合流してシミュレータによる演習を行った後、ほとんどぶっつけで降下作戦を実行。終了後に現地で身体だけピックアップしてもらい、民間機で羽田に戻る。
とんでもない弾丸スケジュールだ。準備不足も甚だしい。僕が参加しない方がちゃんと回るのではないかとすら思う。
滅茶苦茶だが、致し方ない。まぁ良しとしよう。それよりも、これだけの事を少尉殿に知られずにやり遂げないとならないってのが難しい。もう一人の僕が欲しくなってくる。
『『少尉殿』には、入院費を稼ぐために出稼ぎに出ると伝言したらどうだ。嘘は言ってないだろう?』
こんな事を言ってやがったが、正気か?無理があり過ぎるだろ。フォローするから任せておけとは言っていたが⋯⋯コイツを信用して大丈夫なんだろうか。
こんな疲弊した状態で、このままアメリカ行きか。
本音を言えば、少尉殿の許を一瞬たりとも離れたくない。入院させることが出来たのはひと安心ではあるが⋯⋯僕の戦死もあり得るわけで。
だが、これは必要な戦いなんだと自分に言い聞かせる。
少尉殿の平穏な日々を守るためにやるべき事なのである。
※
どれくらいの間、こんな詮無い事を考え続けていたのだろう。僕は頭を振って無駄な思考を意識の外に押しやると、ハンドライトを持ち直して目の前の作業に集中した。
僕が今立っている場所は、渋谷の地下に広がる巨大な地下空間だ。暗闇の中で僕が動く度に、この広大な空間に澄んだ水音が反響していく。目の前にある僕のA3も、ハンドライトで照らすと水溜りの上に跪いているのが分かる。
豪雨が来たら、ここは雨水で一杯になる。そんな場所にA3を置きっぱなしにしている理由は、この巨体を外に出せるだけの広い通路がこの施設に存在しないからだ。
早い話、ここに転移してきて以来、ずっと閉じ込められてしまっているのだ。
最悪の場合はどこかを破壊して外に出るしか無いと覚悟していたが、06にはコイツを運び出す何らかの方策がある様子だった。
突然、いくつかの光が遠くで瞬いた。
同時に複数の足音が階段を降りて来る。
「待たせたなー!軍曹ー!」
06の声が何重にも反響しながら届いてくる。僕はハンドライトを振って彼女に応えた。しかし、なにしろこの地下貯留槽は広大だ。06が普通に会話できる距離まで来るのに一分以上はかかった。
闇から浮かび上がった彼女は、オリーブ色の作業ツナギに白い安全ヘルメットという出立ちだった。どうにも似合っておらず、服に着られているような印象がある。僕は歩み寄って来る彼女に声を掛けた。
「よう。しかしなんで毎回、直接会うんだ?」
「対面での会話を軽く見てはいけない。私がこの世界で学んだ事の一つだな」
そういうものか?
肩をすくめた僕は、右手のハンドライトをA3に向けた。
「で、どうやってコイツを外に出すんだ」
「道路の緊急工事という名目で搬出口を作り終わった。そろそろ運び出す手筈になっている」
「……滅茶苦茶やるな」
「それだけの価値があるんだ」
そう言われると悪い気がしない。
「無駄かもしれんが、軽く点検しておいた。弾も丸々残ってる」
「有り難い。それじゃ、搬出が始まるまで少し待ってくれ」
06は満足げだったが、僕の様子にひっかかる物を感じたようだ。彼女はこちらに向き直って疑問を口にした。
「どうした軍曹。なにか懸念があるなら言ってくれ」
「……なぁ、06。本当に少尉殿に黙ってていいのか?」
僕の言葉を聞いた06は、腕を組んで沈黙してしまった。
遠く水音だけが聞こえる。
「……軍曹。私は少尉を敬愛している。あの方の為なら何だってしてみせる。その私の言葉を信じてくれ。『少尉殿』は、この件に絶対に関わらせてはならない。ただこの世界で幸せに生きてくれればそれでいい。そして、それを支えるために私たちは戦うんだ」
共感できなくはない。いや、共感しかないな。僕だって少尉殿には戦って欲しく無い。せいぜいビデオゲームで荒ぶるくらいにしておいて貰いたいのだ。だが上官に黙って事を起こすのも、副官という立場上なかなか許容しづらいものがある。
考えども葛藤に折り合いは付かず、僕はそれを無理やり胸の奥に押し込む事で蓋をする。
「……一旦、この件は置くことにしよう」
僕の返事を聞いて、06の緊張があからさまに解けた。
「分かった。それじゃあ、私は準備に戻る。機体に搭乗しておいてくれよ」
「紹介してくれないのか?」
僕は06の背後に立っているはずの気配へと視線を向けた。
「ああ、すまん。部下のマニング曹長だ」
暗闇の中から、身長170センチ程度のがっしりとした男性が姿を現した。06と同じくツナギ姿だ。彼が目深に被っていた安全ヘルメットを脱ぐと、金髪碧眼の実直そうな相貌がその下から現れる。顔の骨までしっかりしていて、とにかく頑丈そうな男だ。彼はつぶらな目を細めて手を差し出してきた。
「クロード•マニングです。お会いできて光栄です。何とお呼びすれば?」
大きめの手を握り返しながら、僕は迷いなく答える。
「軍曹と。それが名前みたいなものです」