未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2023

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※展開が少し早まると思います。
※次あたりから、軍曹のこれまでのやらかしへの因果応報が訪れる予定です。コミカルにまとめるよう頑張ります。


06

 

 

06は、僕らが戦闘時に着用するぴったりとしたインナースーツを身に纏っていた。街灯の光を浴びて、あまり起伏の無いボディラインがくっきりと浮かび上がっている。彼女は僕の隣まで歩くと、ベンチにストンと腰掛けて浮いた足をフラフラと揺らし始めた。

 

「質問が有るんだろう?軍曹」

 

再会を喜ぶ時間は不要の様だ。

ちょうど良い、聞きたくて仕方がない事が山ほどある。

 

「今まで何してたんだ、06。なんで少尉殿のところに顔を出さない」

 

彼女は振っていた足を止めて、紅い瞳をこちらに向けた。

 

「今の私は別の軍で働いている。すまんがそれ以上は話せない」

「……おい、質問させといてそれは無いだろ。詳細に報告しろと命令したら良いのか?」

「貴方にその権限は無いな。所属が違うし、今の私の階級は大尉だ」

 

得意げに鼻を鳴らす06をよそに、僕は焦りを努力して抑えながら声を絞り出した。

 

「まさかお前、こんな時間に昇進自慢をしに来たんじゃないだろうな。マトモに話すつもりが無いなら帰るぞ」

「そう怒るな。もちろん、ちゃんと用件はある」

 

勢いよくベンチから飛び降りると、06はこちらに向き直った。

 

「会う前に伝えた通り、我々はこれまで『少尉殿』を護り続けてきた」

 

数時間ほど前に、僕は少尉殿の身辺警護に関する状況報告を06から受け取っていた。その内容は歩哨システムだけに留まらない。僕の想像を遥かに超える規模の組織が、今現在も少尉殿を護るために稼働し続けている。

 

「率直に言おう。我々が引き続き『少尉殿』の安全を護る為にも、貴方に少しばかり協力して欲しい事がある」

 

僕は一瞬、06の言葉を聞き間違えたのかと思った。あれほど少尉殿を慕っていた06が、彼女の安全を取引材料にしようとしているからだ。

 

僕の表情を見た06が、気まずげに言葉を続けた。

 

「……理解していると思うが、我々の敷いている警護体制には結構な人的資源が投入されている。三百年先から来た貴方たちを狙う連中は結構多いんだ。今はまだ余裕があるから、貴方たちを監禁したりせずにこんな無駄の多い事を続けていられる。だがもし我々が窮地に立たされているとしたら……そんな状況で貴方に協力を求めるのは、道理を外れた事か?」

「……仕事の内容を教えてくれ」

 

06の表情が分かりやすく緩む。

 

「助かる。今から16日と13時間後、この世界に新たな『漂流物』が漂着する。貴方にはその排除を手伝って貰いたい」

 

片眉を上げている僕に、06が分かっているとばかりに首を縦に振る。

 

「『漂流物』とは、三百年先から送り込まれてくる様々な異物の事だ。その大半が、かつて私達が戦っていた「情報知性体」の機動兵器群で占められている」

「敵の機動歩兵やら多脚砲台やらが、三百年先から流れ着いて来るって事か?」

「まぁ、そんな感じだな」

 

敵がこの世界にも来る。

そうなれば、少尉殿の日常はあっさりと蹂躙されるだろう。

 

「……いつ出現するのか予測できるんだな」

「誰にでも分かる明確な規則性があるんだよ。出現時期の変化量をプロットしていけば、綺麗な一本の曲線が見えてくる。出現位置の予測についてはもっと単純だ。三百年先に存在していた敵の重要施設周辺に必ず出現するんだ。把握されていない拠点も多いから完全に先回りは出来ないが、時刻さえ分かれば対応はできる」

 

僕は思わず06の両肩を掴んでいた。

 

「なら、僕ら以外の小隊員がこの世界に現れる時期も分からないか?まさか、もうお前の所に居たりしないよな?!」

 

06は後ずさって僕の手から逃れると、僅かに動揺した様子で質問に答える。

 

「私も軍曹も『少尉殿』も、ここに来た時期がバラバラだっただろう?明らかに規則から外れている。直前に受けたC小隊の砲撃が影響しているのかもしれない」

「……そうか」

 

期待が即座に折られてよかった。無駄な希望は持ちたく無いからな。しかし予測が可能になるほどのサンプル数だ、戦闘は一回や二回という訳ではないだろう。

 

「……今まで、どれだけ戦ってきたんだ?」

「言えない。それなりの数とでも思っておいてくれ」

「だいぶネットを探ったが、そんな大ごとの気配は全くなかったぞ」

「それはまぁ、この世界のネットに関しては現地人の方が専門家だからな。情報隠蔽に関しては手段の蓄積があるし、三百年先の技術のサポートもある」

 

得意げな06を見つめながら、僕は畏敬の念を覚えていた。コイツはこの世界でも戦い続けている。僕が呑気に暮らしていた間もずっとだ。

 

「……言えば幾らでも手伝った。交換条件なんて出さなくてもだ」

「貴方と『少尉殿』からは、出来るだけ距離を置きたいんだ。今回はその線引きを破る例外中の例外と思って欲しい。次までには現地型A3の配備が間に合う予定だから、今後は貴方の手を煩わせる事も無くなる」

 

どうやらコイツは、本気で僕らから離れようとしているらしい。焼ける様な焦りから一転、今度は冷たい手が僕の心臓を握り始めている。

 

「なぜ距離を置きたがってるのか分からんが、お前は今も小隊の一員だ。勝手な除隊は絶対に認めんからな」

 

その言葉に、06は一瞬だけ苦しげな表情を浮かべた。今はまた生意気な笑顔に戻っている。

 

「有難いお言葉だが、もう転職してしまっててな。次の職場で頑張りたいんだ」

 

そう言うと06は片足を引き、闇の中に半身を溶け込ませる。

 

「最後に軍曹、とても大切な事を言っておく。私の存在を誰にも伝えてはならない。もし『少尉殿』に私の存在が漏れ伝わったら、破滅的な問題が発生する可能性が高い。貴方は余計な事は考えず、『少尉殿』を幸せにする事だけを考えろ」

 

 

 

 

次の日から、僕の新たな苦悩の日々が始まった。

 

少尉殿との問題に加えて、核弾頭級の秘密を抱える事になってしまった。少尉殿との会話を避けたい自分に気づいているし、言えない事が出来て罪悪感に押しつぶされそうなのも自覚している。要するに最悪な気分なのだ。

 

幸か不幸か、バイトを始めた少尉殿は家を空けがちになった。それに安堵しつつも悲しみに暮れる僕は、いつもの散歩ついでに衝動的にマサに相談を持ち掛けてしまった。冷静に考えれば自暴自棄としか思えない行為だが、人は切羽詰まるとロクな事をしないものである。

 

「……で、今は姉と非常に気まずい状態なんだ」

 

喋ってもいい方の相談、つまり少尉殿の胸の件を聞き終えたマサが、脚が一本取れた木製の丸椅子に器用に座りながら完全に凍りついている。

 

沈黙が続き、橋の上を行き交う車の騒音だけが響く。

 

やがてマサは、僕が買って来たコンビニの握り飯をひと齧りした。そしてそれを咀嚼しながら呆れ声で言う。

 

「……やってんなぁ、にぃちゃん」

 

言葉の意味が分からんが、言いたい事は分かる。

 

「マズい事をしたのは分かっている。どうしたらいい」

「おっちゃんに聞く位なら、そのへんの犬とかに聞いた方がええ気がするねんけど……まぁ、分かったわ。こういうのに打ってつけな相談相手がおる。昔の仕事仲間でな、ハナちゃんも知っとる奴よ」

 

言いながら、マサは薄汚れたジャケットの内ポケットをゴソゴソと探り始めた。

 

「アイツは人の心を持っとらんけど、他人の心を操る事にかけちゃ天下一品よ。間違いなくにいちゃんの悩みを解決してくれるはず」

 

僕が紹介相手の恐ろしい人物評に慄いている前で、マサは懐から取り出した二つ折りタイプの携帯端末を開いて力強くボタンを押し始める。

 

「……おお。ワシよ。今大丈夫?ちょっと相談したい事があってね」

 

暫く話し込んだ後、マサは僕に携帯を渡してきた。訳もわからないまま、僕はそれを受け取って耳に当てる。そのスピーカーから、数日前に聞いたばかりの不快な声が勢いよく放たれ始めた。

 

「よぉジロー!!なんか面白い事になってんな!!」

 

僕は思わず、携帯を取り落としていた。

 

 

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