未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2023

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いざ行かん戦場へ

 

 

 

 

A3の引き渡しを終えてアパートまで戻ると、時刻は午後六時半を回っていた。何とか夕食の時間に遅れずに済んだ事に安堵しつつ、息を整えてドアノブを捻る。

 

扉の向こうには、空っぽな薄暗い空間があった。

 

台所の熱気と騒音を無意識に期待していた僕は、音の無い部屋を前にして一瞬固まってしまった。いつもの「お帰り」の言葉は無く、台所に立っているはずの少尉殿の姿も見当たらない。

 

滅茶苦茶に靴を脱ぎ捨てて、居間へと続くふすまに飛びつく。開いたその先にも少尉殿の姿は無かった。ただ夕日に照らされたちゃぶ台が部屋の真ん中にあるだけだ。その上にはラップされた幾つかの皿と共に一枚の置き手紙が残されている。

 

僕は転がるようにちゃぶ台の前に膝立ちになり、おぼつかない手つきで置き手紙を拾い上げる。同時に紙幣らしきものがひらりと落ちていくが、僕の両目はチラシの裏に書かれたヘタクソな文字に釘付けになっている。

 

『仕事で二日ほど家を空ける。木曜日に帰宅予定。何かあれば携帯に連絡のこと。食事はその一万円で自己調達されたし』

 

読み終えた僕は、腰砕けになって畳の上にへたり込んでしまった。僕との暮らしに嫌気が差して、ついに出て行ってしまったのかと思ったのだ。冷静に考えてみれば随分と厚かましい考えだ。ここは少尉殿の部屋で、出て行くべきは僕の方なんだから。

 

今になって汗が大量に出てきた。

長い息を吐きながら気の抜けた視線をちゃぶ台に向けると、そこに並んでいる料理は僕の食べられる物ばかりだった。置き手紙を手にしたまま溜め息を吐く。こうして手間暇かけて気遣いされているにも関わらず、少尉殿との距離が今も遠ざかり続けているように感じる。義務感で飼われているような気すらしてくるのだ。

 

これから十日ほどここに帰れなくなる事を、僕はまだ少尉殿に伝えられていない。それを聞いた06が、こうして無理に家に帰してくれだのだが……むしろ会えなくて良かったのかもしれない。この話をどう切り出したらいいか皆目見当が付かないからだ。

 

とはいえ、何も伝えずに長期間戻らない訳にもいかない。

 

しばらく迷った後でため息と共に体を起こした僕は、置き手紙に追記するためにサインペンを探し始めた。

 

 

 

 

朝焼けに照らされる駐機場に、複数の輸送機が長い影を落としている。着慣れない野戦服に身を包んだ僕は、06と共に朝露に濡れたコンクリートの上を歩いていた。

 

「軍曹、『少尉殿』には挨拶できたか!?」

 

隣で06が声を張り上げた。ジェットエンジンの轟音に顔をしかめていた僕の眉間に、さらに深い皺が刻まれる。軽く言ってくれるが、どんな挨拶をしろと言うんだ。口止めされている事が多過ぎて、しばらく帰れない理由を聞かれたら説明のしようがないではないか。

 

十日ほど出掛けます。何かあればご連絡を。

 

こんな最低限の伝言を残す事がせいぜいだ。僕はヤケクソになって怒鳴り返す。

 

「問題ない!!」

「そうか、ならば良い!!」

 

行く手にある四発エンジンの輸送機の機首には、車両などを搬入する大きな開口部が設けられている。06に促されるまま傾斜路を登って機内に入ると、そこには布で厳重に包まれた僕のA3が横たわっていた。外よりはマシだが機内もだいぶ騒がしい。

 

「クソッタレな揚陸艦を思い出すな」

「なんだって?!」

 

僕の呟きに反応した06が聞き返してきた。

 

「武装が見当たらないが?!」

「別の便で先に送ってある!!こいつが最終便だ!!」

 

ならば、残りもさっさと運んでもらおう。僕は金属製の床を指差して声を張り上げる。

 

「僕はこの辺りに転がってればいいのか?!」

「そんな訳あるか!!軍曹殿にはファーストクラスの座席をご用意してある!!」

 

大仰なお辞儀をした後、06は機外へと歩き出す。

こいつの芝居がかった態度はいつまで続くんだ?僕はかつての不敵で無愛想な06を懐かしみながら、その背中を追った。

 

 

 

 

夢と現実の狭間を、僕は漂い続けている。

 

途切れ途切れの夢が目まぐるしく入れ替わっていく。そのいずれにも少尉殿がいて、彼女を泣かせたり怒らせたりした記憶をぼんやり残して消えていく。苦しくて仕方ない。吐きそうだ。

 

ふと肩を揺り動かされて、僕はうっすらと目を開いた。

 

「起きてくれ、軍曹。そろそろ到着だ」

 

意識がはっきりしてくるにつれて、エンジンの轟音が再び押し寄せてくる。目に入ってきた汗を拭いながら、僕は顔をしかめて暗い機内を見回した。隣に座る06の顔が滲む視界に映り込む。

 

「大丈夫か軍曹」

「……最悪な寝心地だなコイツは」

 

東京からアメリカ西海岸、そこで別の機に乗り継いでアメリカ南東部と、地球をほぼ半周する長旅だった。しかもこの輸送機はやたらと揺れる。未だぼんやりとしている視界を前方のコクピットへと向けると、操縦士達の向こうにある窓で雷光が閃いている。どうやら夜の嵐の中を飛んでいるらしい。往復を続けるワイパーが忙しそうだ。

 

「疲れている所済まないが、到着したらすぐに情報の共有を行いたい。その間に貴方のA3を準備させる。忙しくなるぞ」

「……その割には楽しそうじゃないか」

「貴方には悪いが、そうだな。肩を並べて共に戦える事が楽しみで仕方がない」

 

特大の雷光に照らされた06の横顔は、良からぬ事を企む悪人の顔そのままだった。そうだ。こいつはこういう笑い方をする奴だった。素の表情を見たのはこの世界に来て初めての事で、僕はなんとなく嬉しくなった。

 

そんな彼女の笑みが不意に消える。

 

「悪いと思っているのは本当だ。前にも話したが、私の部隊は戦力不足もいいところだ。機材配備の遅れもあって、情けない事に土壇場で貴方に助けを求める事になってしまった」

 

部外者扱いなのが未だに納得いかない。

 

「何度も謝るな。それより、ぶっつけでやれるのか」

「やるしか無い。やらないと敵の橋頭堡が築かれて世界の終わりの始まりだ。訓練は積んでいる。全くやれない事は無いはずだ」

「他の部隊からの支援は期待できるのか?」

「そのあたりは後で話そうと思っていたんだが、まぁいい。可能な状況であれば誘導爆弾や巡航ミサイルの支援を要請できるが、私の経験上、あまり効果があるとは思えない。いずれにせよ、戦車や航空機など従来の兵器を投入したら容認できない損失を出す結果になるだろう。何より『漂流物』との戦闘は、可能な限り秘密裏に行う事が要求されている。要するに他は当てにしない方がいい」

 

ならば、06が現地型と呼ぶA3に頼むしかなくなる。合衆国がどのレベルまでA3をコピーできたのかについては、06が寄越した資料を見ればおおよそ把握できる。クワック(いんちき)ジェネレータは当然ながら搭載出来ておらず、かわりに高出力な使い捨てバッテリーを動力源としている。慣性減衰器とフライトユニットも再現出来なかったようだ。代わりに跳躍はロケットブースターで行う仕様となっている。これでは空中での機動力は期待できないし、継戦能力も著しく低いだろう。

 

朗報なのは火器と駆動系のコピーにある程度成功している事だ。耐久性に劣るため一回の戦闘ごとに使い捨てやフルメンテナンスの必要があるのが難点だが、最低限必要な項目をクリア出来ている点には希望が持てた。

 

「何でもかんでも使い捨てか。手の掛かる軍隊だ」

「私達には関係ない。札束を燃やすつもりでやればいいさ」

 

大国のやり方に染まりきった06の言葉に驚きながら、僕はスーパーで十円の違いに一喜一憂する少尉殿を思い出す。あのつまらない暮らしが、今の僕には輝いて見える。

 

二人でまたスーパーに行くんだ。

僕はそのために戦場に向かっている。

 

 

 

 

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