未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2000

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06がウザい

 

 

『……とまぁそんな感じで、ダンの奴は案外と束縛が強くてな。昨日も私にベッタリだよ。まったく困った奴だ』

 

06。お前、全く困ってないだろ。

僕は煩くて本当に困ってる。

今喋ったら、自分でもびっくりするくらい冷たい声だろうよ。

 

少し前に輸送機から投下された僕らは、南米の密林へ向けて高高度を滑空している最中だ。無論、生身でではない。翼がついたコンテナにA3ごと格納された状態でだ。まあこの段階に入ってしまえば僕らに出来る事なんて無いが、だからと言ってこんな意味の分からん繰り言を垂れ流すような呑気な状況じゃないだろう。

 

『……でもな、私もダンの奴が目移りしないか心配だよ。奴が貴方に向ける目はどうにも普通とは思えない。軍曹、貴様絶対にダンを誘惑するなよ。したら許さんからな』

 

僕はそんな情報知りたくなかったよ……。

 

目元が痙攣し始めるのを感じながら、僕は06に起きた変化に改めて戦慄していた。精密機械のごとく冷静沈着だった06が、こんな阿呆に成り下がってしまうとは。かように精神を破壊され尽くした06を目の当たりにしては、わが身にも危機感を覚えずにいられない。こんな風になるなら死んだ方がマシである。

 

眼前に警告が表示されると同時に、僕のA3を梱包していたコンテナの外板が一気に剥離した。狭い檻の中から解放された先には雄大な雲海が広がっている。共に降下している中隊全機も、コンテナを一斉に脱ぎ捨てて外装を夜空にバラ撒いている。真っ黒な夜空の中で、それらは無数の星のように煌めきを放つ。

 

しかし、まさかこの時代で降下を行うことになるとは思わなかった。僕ら海兵にとって、この降下中が最も緊張する時間だ。ある程度の回避運動が可能とはいえ、対空砲火に対して非常に脆弱な状態になるからだ。前回の降下がまさにそんな状況だった。

 

懸念していた対空砲火は今の所かなり散漫で、極めて順調な降下である。06曰く、この世界に出現した直後の『漂流物』は寝起き状態らしく、しばらくの間は射撃の精度がかなり低いとの事だった。

 

だがそれは、裏を返せば時間経過に応じて敵の攻撃に正確さが増していくという事でもある。貴重な時間だ。それを僕らはすでに一時間以上も消費している。

 

さすがの06も降下の最終段階に入ると口を閉ざした。歩行戦車組がパラシュートとロケットブースターで減速を開始するのを尻目に、僕と06は更に自由落下を継続する。A3は慣性制御器を備えているため、墜落まがいの着地が可能だ。これが出来ない歩行戦車の降下は本来ならば無謀とも言えるが、敵が起き抜けであるお陰で何とか強襲降下が成立している。

 

雲間から見えた降下地点は密林だった。着地と同時に機体が樹木をなぎ倒していく。僕は植物を犠牲にする罪悪感に蓋をしながら敵の施設へ向けて移動を開始した。転移してきた施設はデータベースにも登録されている。種別は規模判定Bの大型環境再生施設、この規模に標準的な防衛部隊は二個中隊相当。普通に戦えば確実に負ける。

 

時間が惜しい。僕と06は危険を承知で跳躍し、敵の施設へと肉薄していく。僕らの後方では、十一機の歩行戦車が次々と降下を完了して移動を開始している。

 

不意に、一条の熱線が密林を焼きながら走り抜けた。闇に沈んでいた森が燃え上がり、一気に視界が明るくなる。

 

『さすがにこの距離だと当てに来るな。1ー1より全機へ、マトになるから跳ぶなよ。私と軍曹が前に出る』

 

僕だってマトになりたくないんだが。

跳躍した06を追って地面を蹴った僕は、注がれる砲火を空中でかい潜りながら部隊の布陣を決定していく。密林の中での戦闘など無論初めての事だ。濃密な妨害のため可視光と弾道以外に敵の位置を把握する手段が無い状況で、視界を塞ぐようにぎっしりと生えている植物は厄介極まりない。06から伝達された敵の数は二十機、あいつなら見落としは無いはずだ。

 

気がつけば、いつの間にか後続の歩行戦車部隊が見事な陣形で戦闘に参加していた。彼らの一糸乱れぬ動きに僕は感嘆する。

 

「やるな」

『当たり前だ。軍歴は私達よりも長いんだぞ』

 

得意げな06に苦笑しながら、僕は自分たちがやや切り込みすぎていると感じていた。敵の射撃が圧力を増している。どうやらボーナスタイムは終わったらしい、

 

「06、こっちは任せて歩行戦車の隊列に加われ」

 

鈍重な情報戦仕様のA3が敵の砲火の中を跳ね回るなんて光景は、とてもでは無いが見ていられない。このままではいずれ直撃を貰うだろう。

 

『まだいける』

「いいから下がってくれ!連中の指揮を頼む!」

 

強めに言えば、渋々ながら06が後退を開始する。

圧力が倍になり、僕は味方への移動指示を中断して回避に専念し始めた。少尉殿の下で戦っていた時もギリギリの状況ばかりだったが、少なくとも彼我の兵器の質は拮抗していた。敵の目が利かないというハンデを貰っていてなお、この戦力差は中々に厳しいものがある。僕は改めて06とそのお仲間に対する畏敬の念を覚える。こんな戦いを繰り返してよく今まで生き延びてきたものだ。

 

どれくらい時間が経過しただろうか。夢中になって跳ね回っているうちに敵からの圧力が消えていた。着地して状況を確認してみれば、こちらが数機損傷を受けたのみに対して、敵は残りわずかだ。張り詰め続けていた気が抜けていく。辺りには濃厚な煙が立ち込め、燃え盛る木々が散乱している。この後始末はどうつけるのだろう。僕が戦いからその後の事へと関心を移し始めたその時だった。

 

視界が真っ白になった。

 

吹き飛ばされた僕の機体は激しく横転し、木々に受け止められてようやく止まった。霞む視界をなんとか上げれば、燃え盛る炎の向こうに巨大な機影が黒々とそびえ立っている。

 

僕は慌てて機体を立ち上がらせた。同時に中隊各機の状況を確認する。シグナルはあるものの、06を含む全員の動きが止まっている。

 

『目標施設から新手が出てきた!!見た事の無い奴だ、バカでかい!!』

「立て直しが必要だ!!動ける奴らを連れて下がれ!!」

『ダメだ!!それじゃ貴方はどうなる!!』

 

悲痛な06の叫びと同時に、再び同じ攻撃がくり返される。敵はどうやら強大な出力の主機から生み出される斥力防壁を攻撃に転用しているようだ。奴を中心に僕らも敵も木々も煙も、あらゆる物が吹き飛ばされて、直径数百メートルの綺麗な更地が密林のど真ん中に出来上がっている。

 

今度は転倒を免れた僕は、貴重な弾薬を惜しみなく敵に注ぎ始める。だが、子供が玩具で立ち向かうようなもので効いている気配が無い。跳弾があちこちに飛び散るばかりだ。

 

「だめだ、全く通らん!!06、長物で撃ち抜けないか?!」

『やってるが、こいつ戦艦レベルの防壁だ!!』

「じゃあ逃げるしかないだろ!!お前だけでも下がれって!!」

 

再び空中に舞い上がった僕の視界の端に、06のA3が構えるライフルが映り込んだ。そのチャンバーはオーバーロードによる熱で白く輝いている。

 

『嫌だ!!』

 

彼女の叫びと共に、ライフルが爆ぜた。

同時に敵の装甲に大輪の火花が飛び散り、鐘が打ち鳴らされるような音が夜空に響き渡る。衝撃波に機体を揺すられながらも、僕は固唾を飲んで火花が消えていくのを待った。

 

奥歯を強く噛み締めながら、僕は喉の奥で唸り声を上げた。敵が受けた損傷は、06の渾身の一撃に対してあまりに僅かだった。対峙する06のA3は半ば転倒する形で擱坐している。

 

終わった。

僕は中隊全機に向けて伝達する。

 

「1ー2より各機へ、今すぐ機体を捨てて逃げろ!!私がこいつを引き離す!!」

 

僕はためらいなく死ぬ覚悟を決めた。危険を顧みずに敵へと接近し、不必要なほど近い距離からライフルを撃ち続ける。通らないと分かっている弾をばら撒くのは虚しい限りだったが、脚部の関節をしつこく狙われて煩かったのだろう。敵はのそりと巨体を廻らせてこちらへと向き直った。

 

炎に照らされるその姿はまるで山脈だ。こんなにデカい多脚砲台になど遭遇した事がない。全長は三十メートル超、六本の脚はそれぞれがA3を綺麗に踏み潰せるほどの逞しさだ。その背部にはこれまたバカみたいに長大な砲台が鎮座している。無論、搭載されている兵装はそれだけでは無い。自衛用の火器が山盛りに積まれていて、さっきから豪雨のごとく砲弾を浴びせてくる。

 

ああ。

最後に見た少尉殿の顔が寝顔だなんて。

 

出来るだけ敵を味方から引き離すように動きつつ、僕はいよいよ無理を悟る。もうすぐ攻撃を避けきれなくなる。それは予測ではなくて予定だ。中隊の皆が脱出した事を何者かに祈りながら、僕は全てを諦めようとした。その時だった。

 

『そこのフレッシュ。吹き飛ばされたくなければ急いで後退しろ』

 

冷たい声が頭の中に響き、僕は反射的に全速で機体を後退させる。その直後、澄んだ金属音と共に何かが敵の巨体を貫いた。06が付けた傷が大きく広がって眩しい火花を噴き出させている。

 

黒い山が傾き、そして崩れ落ちる。その直後に真っ白な爆炎が土砂を、瓦礫を、破片を巻き込みながら押し寄せ、僕を一瞬で飲み込んだ。

 

 

 

 

 

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