未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2023

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尾張のらねこ様、誤字報告ありがとうございます!
大変ありがたいです。感謝いたします。

読んで下さっている方へ。
書くのが遅くてすみません。
ほんと色々と自分の能力が残念です。


06がウザい

 

 

『……とまぁ万事そんな感じでな、ダンの奴は私を壊れ物みたいに扱うんだ。大切にされて悪い気はしないんだが、どうやったら一人前の女として見てもらえるんだろうなぁ。はぁ、困った困った』

 

06。お前、全く困ってないだろ。

僕は煩くて本当に困ってる。

今喋ったら、自分でもびっくりするくらい冷たい声だろうよ。

 

少し前に輸送機から投下された僕らは、南米の密林へ向けて高高度を滑空している最中だ。無論、生身でではない。翼がついたコンテナにA3ごと格納された状態でだ。そんな緊張感に満ちた状況だと言うのに、06の奴はこんな調子で僕に意味の分からん繰り言を垂れ流してきやがるのだ。

 

『……でもな、ダンの奴は私を子ども扱いするくせに甘えん坊でなぁ、はぁ、本当に困ったものだ。昨日なんて膝枕してくれって強請られたんだぞ?私の膝じゃ乗るわけ無いのになぁ』

 

一体どこの誰が知りたがるんだ?よく知らん男のそんな情報。

 

目元が痙攣し始めるのを感じながら、僕は06に起きた変化に改めて戦慄していた。精密機械のごとく冷静沈着だった06が、こんな阿保に成り下がってしまうとは。春野社長から僕に与えられている課題には『恋愛感情』とやらを理解する事も含まれているのだが、かように精神を破壊され尽くした06を目の当たりにしては忌避感を覚えずにいられない。万が一影響を受けてこんな風になってしまったらどうする。死んだ方がマシである。

 

眼前に警告が表示されると同時に、僕のA3を梱包していたコンテナの外板が一気に剥離した。狭い檻の中から解放された先には雄大な雲海が広がっている。共に降下している中隊全機も、コンテナを一斉に脱ぎ捨てて外装を夜空にバラ撒いている。真っ黒な夜空の中で、それらは無数の星のように煌めきを放つ。

 

しかし、まさかこの時代で降下を行うことになるとは思わなかった。僕ら海兵にとって、この降下中が最も緊張する時間だ。ある程度の回避運動が可能とはいえ、対空砲火に対して非常に脆弱な状態になるからだ。前回の降下がまさにそんな状況だった。

 

今のところ懸念していた対空砲火は確認できておらず、極めて順調な降下である。06曰く、この世界に出現した直後の『漂流物』は、おおよそ三時間ほどセンサー類が機能不全に陥るらしい。そういえば僕のA3も、この世界に転移した直後は全センサーが死んでまったく使い物にならなかった。敵があんな状態になっているなら楽な仕事だ。

 

だがそれは、裏を返せば時間経過に応じて敵の攻撃に正確さが増していくという事でもある。貴重な時間だ。それを僕らはすでに二時間近く消費している。

 

さすがの06も降下の最終段階に入ると口を閉ざした。歩行戦車組がパラシュートとロケットブースターで減速を開始するのを尻目に、僕と06は自由落下を継続する。A3は慣性減衰器を備えているため、墜落まがいの着地が可能だ。これが出来ない歩行戦車の降下は本来ならば無謀とも言えるが、敵が盲目状態であるお陰で何とか強襲降下が成立している。

 

雲間から見えた降下地点は典型的な密林だった。着地と同時に機体が樹木をなぎ倒していく。僕は植物を犠牲にする罪悪感に蓋をしながら敵の施設へ向けて移動を開始した。この施設は僕のデータベースにも登録されている。種別は規模判定C+の兵器工廠、この規模に標準的な防衛部隊は一個中隊。普通に戦えば確実に負ける。

 

時間が惜しい。僕と06は危険を承知で跳躍し、敵の施設へと肉薄していく。僕らの後方では、十一機の歩行戦車が次々と降下を完了して移動を開始している。

 

不意に、一条の熱線が密林を焼きながら走り抜けた。闇に沈んでいた森が燃え上がり、一気に視界が明るくなる。

 

『さすがにこの距離だと当てに来るな。1ー1より全機へ、マトになるから跳ぶなよ。私と軍曹が前に出る』

 

僕だってマトになりたくないんだが。

跳躍した06を追って地面を蹴った僕は、注がれる砲火を空中でかい潜りながら敵の位置情報を収集していく。密林の中での戦闘など無論初めての事だ。可視光と弾道以外に敵の位置を把握する手段が無い状況で、視界を塞ぐようにぎっしりと生えている植物は厄介極まりない。特定できた敵の数は二十機、恐らく見落としは無いはずだ。そのうちの二機が、後続の歩行戦車部隊によって早くも仕留められている。陣形を強固に維持しながら火力を集中する彼らの手際は、三百年先の一般的な兵士と比べても遜色無さそうだ。

 

「やるな」

『当たり前だ。軍歴は私達よりも長いんだぞ』

 

得意げな06に苦笑しながら砲弾をばら撒き続ける。期待していた通り、寝起きの敵の射撃にはいつもの正確さが欠けていた。お陰で二十機相手の無謀な撹乱が成立している訳だが、時間経過と共に際どい攻撃が増え始めている事は無視できない。

 

「06、こっちは任せて歩行戦車の隊列に加われ」

 

鈍重な情報戦仕様のA3が敵の砲火の中を跳ね回るなんて光景は、とてもでは無いが見ていられない。このままではいずれ直撃を貰うだろう。

 

『まだいける』

「いいから下がってくれ!連中の指揮を頼む!」

 

強めに言えば、渋々ながら06が後退を開始する。

圧力が倍になり、僕は味方への移動指示を中断して回避に専念し始めた。少尉殿の下で戦っていた時もギリギリの状況ばかりだったが、少なくとも彼我の兵器の質は拮抗していた。敵が盲目であるというハンデを貰っていてなお、この戦力差は中々に厳しいものがある。僕は改めて06とそのお仲間に対する畏敬の念を覚える。こんな戦いを繰り返してよく今まで生き延びてきたものだ。

 

どれくらい時間が経過しただろうか。夢中になって跳ね回っているうちに敵からの圧力が消えていた。着地して状況を確認してみれば、こちらが一機も欠ける事なく健在であるのに対して敵は残りわずかだ。張り詰め続けていた気が抜けていく。辺りには濃厚な煙が立ち込め、燃え盛る木々が散乱している。この後始末はどうつけるのだろう。僕が戦いからその後の事へと関心を移し始めたその時だった。

 

視界が真っ白になった。

 

吹き飛ばされた僕の機体は激しく横転し、木々に受け止められてようやく止まった。霞む視界をなんとか上げれば、燃え盛る炎の向こうに巨大な機影が黒々とそびえ立っている。

 

僕は慌てて機体を立ち上がらせた。同時に中隊各機の状況を確認する。シグナルはあるものの、06を含む全員の動きが止まっている。

 

『建造物が吹き飛んで、中から敵が出てきた!!見た事の無い奴だ、バカでかい!!』

「立て直しが必要だ!!動ける奴らを連れて下がれ!!」

『ダメだ!!残された連中はどうなる!!』

 

悲痛な06の叫びと同時に、再び同じ攻撃がくり返される。敵はどうやら強大な出力の主機から生み出される斥力防壁を攻撃に転用しているようだ。奴を中心に僕らも敵も木々も煙も、あらゆる物が吹き飛ばされて、直径数百メートルの綺麗な更地が密林のど真ん中に出来上がっている。

 

今度は転倒を免れた僕は、貴重な弾薬を惜しみなく敵に注ぎ始める。だが、子供が玩具で立ち向かうようなもので効いている気配が無い。跳弾があちこちに飛び散るばかりだ。

 

「だめだ、全く通らん!!06、長物で撃ち抜けないか?!」

『やってるが、こいつ戦艦レベルの防壁だ!!』

「じゃあ逃げるしかないだろ!!僕が抑えてる間に下がれって!!」

 

再び空中に舞い上がった僕の視界の端に、06のA3が構えるライフルが映り込んだ。そのチャンバーはオーバーロードによる熱で白く輝いている。

 

『嫌だ!!』

 

彼女の叫びと共に、ライフルが爆ぜた。

同時に敵の装甲に大輪の火花が飛び散り、鐘が打ち鳴らされるような音が夜空に響き渡る。衝撃波に機体を揺すられながらも、僕は固唾を飲んで火花が消えていくのを待った。

 

奥歯を強く噛み締めながら、僕は喉の奥で唸り声を上げた。敵は06の渾身の一撃に対してほぼ無傷だった。対峙する06のA3はオーバーヒートしたのか膝をついて擱坐している。

 

終わった。

 

「3ー1より各機へ、機体を捨てて逃げろ!!私が時間を稼ぐ!!」

 

僕は死ぬ覚悟を決めた。もうどうにでもなれだ。危険を顧みずに敵へと接近し、不必要なほど近い距離からライフルを撃ち続ける。通らないと分かっている弾をばら撒くのは虚しい限りだったが、脚部の関節をしつこく狙われて煩かったのだろう。敵はやおらに巨体を廻らせてこちらへと向き直った。

 

炎に照らされるその姿はまるで山脈だ。こんなにデカい多脚砲台になど遭遇した事がない。全長は五十メートル超、六本の脚はそれぞれがA3を綺麗に踏み潰せるほどの逞しさだ。その背部にはこれまたバカみたいに長大な砲台が鎮座している。無論、搭載されている兵装はそれだけでは無い。自衛用の火器が山盛りに積まれていて、さっきから豪雨のごとく砲弾を浴びせてくる。

 

ああ。

少尉殿とケンカ別れしたままだ。

でもあんなに怒らせるような事をしたんだ、目の前から消えればスッキリして貰えるかもしれないな。そう思わないと死にきれない。

 

もうすぐ攻撃を避けきれなくなる。それは予測ではなくて予定だ。中隊の皆が脱出した事を何者かに祈りながら、僕は全てを諦めようとした。その時だった。

 

『そこのフレッシュ。吹き飛ばされたくなければ急いで後退しろ』

 

冷たい声が頭の中に響き、僕は反射的に全速で機体を後退させる。その直後、澄んだ金属音と共に何かが敵の巨体を貫いた。

 

黒い山が傾き、そして崩れ落ちる。その直後に真っ白な爆炎が土砂を、瓦礫を、破片を巻き込みながら押し寄せ、僕を一瞬で飲み込んだ。

 

 

 

 

 

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