未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2023
次に目を覚ました時、僕は知らない部屋にいた。
あたりは静かで、電子音だけが定期的に響き続けている。天井を見つめながら呆けた後、僕は痛みに耐えつつ肘で上半身を支えて辺りを見回した。
そこは白を基調とした何とも殺風景な部屋だった。用途不明な装置に囲まれた空の寝台が幾つか並んでいる。どうやら僕はその一つに横たわっているらしい。すぐ傍には液体の入ったパックが金属の支柱に吊るされていて、そこから延びた管が僕の左腕へとつながっている。
俯きながら意味もなく電子音に耳を傾け続けた後、僕は苦痛に耐えかねて再び寝台に上半身を落とした。この部屋、並んでいる装置、腕に刺し込まれている管。見るもの全て何なのか分からない。それがひどく不快だった。
……そうだ。分からない。
体が末端から急速に冷えていく。
思いつく回答は一つしかない。副脳のアシストが行われていないからだ。ぼんやりとしていた頭が衝撃を受けて回り始める。戦いの場面を次々と思い出しながら、僕は自分のA3が失なわれたという可能性に思い至って愕然とした。
視界の隅で部屋の扉が開いた。入室してきた誰かがこちらに声を掛けてくるが、何を言っているのかさっぱり分からない。仮に分かったとしても、今の僕の頭には全く入ってこなかったと思う。
※
夕方になり、06が部屋にやってきた。
寝台の上で顔を向けた僕を見て、安堵の笑みを浮かべている。
「軍曹、気分はどうか」
06が発したのは共通語だった。今の僕には英語が通用しないと理解しているのだろう。ならば余計にその質問は無いなと思う。
「良い訳ないだろ。状況がさっぱり分からんし、身体もひどく痛い」
「ここは病院で、貴方は重傷を負って治療中だ。無理に動くなよ」
まぁそんなところだろう。他にも聞きたいことが山ほどある。06が椅子に座る間すら待ちきれず、僕は畳み掛けるように質問を投げた。
「それで僕のA3はどうなった?」
「安心しろ、大きな損傷は無い」
頭を枕に落とし、僕は長い息を吐いた。
「……じゃあ、なんで副脳が働かないんだ」
「仮死状態に入っているからだ。爆発の衝撃を相殺するために主機が全力運転したらしく、動力を完全に喪失している」
僕は耳を疑った。
止まった主機は廃棄処分にするのが通例だ。封入済みの
「何が安心だ、それじゃガラクタと変わらんだろ!!」
「落ち着け、傷に障るぞ。簡単な事ではないが、この世界の技術でも主機の再起動は可能だ。無論今日明日にという訳にはいかんので、しばらく貴方のA3を預からせて貰う事になる。他に修理すべき箇所も多々あるみたいだし」
口を閉ざした06の眉尻が下がる。どうやら僕はかなり悲壮な表情を浮かべているらしい。それを慰めようと思ったか、なんとまぁ06が僕の手をそっと握るではないか。
「時期を明確にはできんが、できるだけ早く復旧させる。すまんが待っていてほしい」
こいつはこんなに小さくて頼りない手をしてるのに。
僕は自分が情けなくなってくる。
「……部隊の連中は全員無事か?」
「無事だ。貴方が命懸けで敵を引き離してくれたお陰だな。ただ、装備の方の被害は中々に深刻だ。何機か解体する事になるかもしれん。また色々とやり直しだな」
06の指がそっと僕の手から離れた。こちらを見下ろす紅い瞳には不安の色が湛えられている。
「軍曹、あの爆発の直前に一体何があったのか教えてくれ。貴方のライフルが奇跡を起こした訳ではないのだろう?」
「C小隊だよ。連中が遠距離から撃ったんだ。相変わらず良い仕事をする」
06はあまり驚いていない。恐らく答えを予想していたのだろう。僕は言葉を続けた。
「着弾の直前に声を聞いた。危ないから下がれってな。どうせならもっと時間に余裕を持って警告してくれると有難かったんだが」
「そうか……やはり連中もこの世界に転移していたか。それにしても奴ら、よほど私達を吹っ飛ばして遊ぶのが好きと見える」
06がそう言って笑うが、二度も爆風で転がされた身としては全く笑えなかった。この調子では三度目だってありそうじゃないか。僕は憮然としたまま口を開く。
「敵か味方か分からんが、この世界で戦艦クラスの防壁を貫けるのは連中だけだろう」
「……そうだな、私達には不可能だ。これまでの『漂流物』に、あんな高出力の主機を持った奴は無かった。恐らく都市や軍事施設を手っ取り早く破壊するための兵器なんだろうが、今後はああいった物が流れてくる事を覚悟する必要がありそうだ」
「未来じゃダメだったから、過去で派手に暴れようって所か」
本当に迷惑だ。
疲れがドッと押し寄せてきて、僕はため息を吐きながら枕に頭を沈め直す。06の入室と同時に職員が吊るされたパックを交換していたが、何か眠くなる薬品が入っているのだろう。腕に流れ込んでくる液体が睡魔をじわじわと運んで来ているように感じる。
「ちょっと眠らせてくれ、長く喋ってなんだか疲れた」
だが、06は椅子から立ち上がらない。何やら言い辛そうにして身をよじらせている。怪訝に思いながら見上げてみれば、彼女の目が全速力で泳いでいるではないか。
「なんだ、ほかに何かあるのか?」
「…………落ち着いて聞いてくれ。実はな、ここ日本なんだ」
は?
「それとな、あと一時間しない内に『少尉殿』がここに来る」
はああ!?
「少尉殿が来るぅ!?いやちょっと待て、僕はどれくらいの間人事不省だったんだ!?」
「あの戦闘から八十時間近く経過している。眠っていれば治るとはいえ、貴方はそこそこの
「それを早く言え!!お前はなんだ、僕を驚かせて楽しんでるのか!?」
06は心外だと言いたそうな表情になった。
「そんな訳ないだろ、こっちだって困ってるんだ!!そもそも軍曹、携帯端末を持たないとはどういう了見なんだ!?」
「なんだ急に。少尉殿の携帯端末と直通していたんだよ。他に連絡する相手なんて無いし、そもそもあんな原始的な物を持ち歩くなんて面倒だろ」
「その物臭がもっと大きな面倒を引き起こしているんだ!」
06の渋面がさらに深くなる。
「……『少尉殿』はな、貴方と連絡が取れなくて半狂乱になっていたらしい。当てどなく街を探し回っていたそうだ。その報告を受けて慌てて貴方を日本まで運ぶ算段を始めたんだが、生憎と貴方の容体が安定しておらず、すぐには動かせなくてな……彼女はかれこれ四日間は眠っていないと聞いている」
聴き終えると同時に、僕の視界から色彩が失われた。終わった。頭から何かが抜け出ていく。
「冷静に話し合えないだろうから、取り敢えず寝ておいて貰うぞ。いいか、貴方は交通事故で大怪我を負ったんだ。そして記憶が混濁している。これで押し通すんだ。辻褄合わせはこっちで請け負う」
バカ。無茶を言うな。
抗議の叫びが僕の口から出ることは無かった。
※今回、短めです。
※面倒なところを越えたので、次回からもうちょっと投稿速度が上がると思います(どうでもよい情報)
※活力の元になりますので感想是非お願いします( ˘ω˘ )