未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
真夜中、午前一時。
少尉殿がグースカと寝息を立て始めたのを確認した僕は、アパートを抜け出して近くの公園へと向かった。手には黒い携帯端末が収まっている。退院時に怪しい医師から押し付けられた物だ。ご丁寧にも『相談窓口』という名の連絡先が登録されている。
公園にたどり着くと、街灯に照らされたいつものベンチへと座る。一つ息を吐いた僕は、あたりに人がいない事を確認してから相談窓口への通話を開始した。
『どうした、軍曹』
数度の呼び出し音の後で06が応答してくれた。
「夜中にすまん。昼間は少尉殿の監視の目が厳しくてな……」
『いや、こっちは昼だぞ。今は休憩に入ったところだ』
……時差を忘れていた。
「そうか、安心した。少し相談したいことがあるんだが、聞いてくれるか」
『構わん。その為に携帯を渡したんだ』
「少尉殿が子供を作りたいと言っているんだが」
06は電話の向こうで絶句している様子だ。しばらく無言が続いた。
『……なんでそう、いきなり出力全開なんだ。色々とすっ飛ばし過ぎだろう』
「そうか?そうだよな……」
『しかし、『少尉殿』がそれを望んでいるのなら叶えて差し上げればいいんじゃないか?貴方にとっても光栄な話だろう。私達が子供を作れるとは思えんが、作るための努力と行為はして差し上げるべきだ』
くそ、言いづらい。だが言わねばなるまい。
「……そもそも子供を作る方法が分からん。この世界には工場もないし」
『は?本気で?』
「え?いや、そうだが?」
携帯端末の向こうから、何やら黒い感情が伝わって来る。
『呆れた。英文は読めるか?』
「共通語と似ているから何となく読めるが、正直頼りないな」
『ならば動画か……いいか、その携帯端末はインターネットに接続することができる。メールでいくつかURLを送るので、リンク先を閲覧するように。それが終わりそうな頃にまたこちらから連絡する』
僕が何か言う前に、通話がバッサリと打ち切られた。
しばらく待つと端末に通知が表示される。表示に従いながら不慣れな手つきで操作を繰り返すと、何やら文字列が並ぶ画面に行き着く。
「……?」
僕は青色になっている文字列を叩いた。
※
5分ほどが経過し、06からの着信が入る。
動画の再生が中断されたことに安堵しながら、僕は緑色の通話ボタンを強打した。
「おい06!」
電話口に怒鳴りつける僕に、06は涼しい声で応える。
『観たか』
「観たかじゃないぞ!なんだこれは!」
『人の生殖行為を記録した動画だよ。私のせいでもあるから言うのを我慢してたが、軍曹、いくら何でも物を知らなすぎるだろ』
痛いところを突かれた僕は、ムキになって反論する。
「いやいや、副脳が使えないとなったらお前だってこうなるだろ!」
『私はプライベートでは副脳との接続を切断しているぞ。言わなかったか』
「……は?」
『副脳に頼り切りだからそうなるんだ。……まぁ、同僚に指摘されなかったら、私も副脳を使わない生活なんて試さなかっただろうけどな』
僕は横面を殴られたような衝撃を受けていた。怒りは急速に勢いを失い、打ちのめされて黙り込んでしまう。そんな僕に06はお構いなしだった。
『では、観てもらった動画について解説するぞ』
そこからは06による教育の始まりだ。15分くらいは続いただろうか。聞き終えた僕は真っ白な灰になった気分だった。
「理解したが……冗談じゃないぞ。こんな事を少尉殿にできる訳がない」
『やらないと何も始まらんぞ』
僕は押し黙った。
子供の製造方法がこんなにも危険なものだったとは。そりゃ工場による製造に切り替わるのも当然である。女性側の負担や苦痛があまりに大きく、最終局面では命を落とす可能性まである。
『『少尉殿』自身が望んでいるのだろう?だったら一度押し倒してしまってはどうだ』
「適当な事を言うな。こっちは真剣に少尉殿の体を心配してるんだ」
通話越しに06の溜息が聞こえる。
『私があの方に関して適当な事を言うと本気で思ってるのか?これでも『少尉殿』とは同性だから、色々と分かるんだ。それに私達は元は兵器なんだから作りは頑丈だぞ?やってしまえば意外と何とかなる』
僕は一つの可能性に思い当たって目を丸くした。
「お前まさか」
『ノーコメントだ。軍曹、なんで『少尉殿』が急に子供を欲しがってきたのか、その気持ちを真剣に考えてみろ。考えて分からなかったら押し倒せ。私が言えるのは以上だ。そろそろ仕事に戻らんとだから切るぞ』
かぶせた上に一方的にまくし立てた後、06はまたも唐突に通話を終了させた。
そして再び、端末から女性の奇っ怪な叫び声が響き始めるのだった。