未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す   作:オムライス2000

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夜歩き

 

 

 

「へんな時間に、おきちゃったな⋯⋯」

 

横たわったままの少尉殿が目をこすっている。

やがて身体を起こした彼女は、大きく伸びをしてからこちらに身体を向けた。

 

薄闇のなかで、銀色の瞳がこれ以上なく美しく輝いている。

 

「ジローも目が覚めちゃったのか?」

 

小さくあくびをした後、少尉殿はタオルケットをはね除けて立ち上がった。

 

「なんか調子がいいな。こんなの久しぶりだ」

 

体の動きを確かめる彼女を見上げながら、止まっていた僕の頭がようやく回り始める。

 

 

なんだ。

 

 

少尉殿は疲れて寝ていただけじゃないか。

何が耐用年数切れだ。

あいつ。絶対に許さんからな。

 

少尉殿は窓辺まで歩き、カーテンを静かに開いた。月の明かりが部屋の中を青く染めていく。しばらく外を眺めていた彼女は、光を背負ったまま振り返った。

 

「⋯⋯なぁジロー、ちょっと散歩してみないか?夜に出歩くなんて面白そうじゃないか」

 

僕は何度もうなずいた。

ゆったりと着替える少尉殿から目を離さぬようにしながら、僕はいそいそと押し入れから服を取り出していく。その手が小さな小箱を探り当てた。

 

僕はそれを一瞥したあと、ジーンズのポケットに押し込んだ。

 

 

 

 

なぜだろう。

 

何も言わないのに、僕らはいつものように川へと向かっている。

 

少尉殿は、この世界で再会した時にも着ていた白いワンピース姿で僕の前を歩いていた。跳ねるように、踊るように。時折振り返っては僕に笑いかける。

 

まるで夢の中で見る光景のようだ。

 

やがて土手に上がった僕らは、二人並んでその向こうの景色を眺めた。  

 

銀色の月が雲を照らしている。

寝静まった街が対岸に佇み、風もなく、音も無い。

ただ月光を受けて輝く川面だけが、ざわめくように揺れつづけているだけだった。

 

「きれいだな」

 

少尉殿が呟く。

僕は隣に立つ彼女へと視線を向けた。

 

少尉殿は銀色に輝いていた。

まるで空の星の輝きを全て集めたみたいに。

美しいとは何かを、僕は今になってようやく理解できた。

 

僕はジーンズのポケットに手を差し込んで、中に納められていた小箱を取り出す。そしてその場で跪いた。

 

「ハナさん。僕と結婚してください」

 

何の気負いもなく、言葉が自然に出た。

 

差し出された小箱に視線を注ぎながら、少尉殿は口を半開きにして固まっている。

 

 

静かだ。

まるでこの世界に僕らしか存在しないみたいに。

 

 

「⋯⋯もう結婚してると思い込んでた」

 

照れるような笑い声を上げて、少尉殿が小箱から指輪をそっと抜き取る。

 

「付けてくれないのか?」

 

僕は立ち上がり、差し出された少尉殿の手を取った。そして銀色の指輪を少尉殿の薬指にはめていく。すこし大きかったか。僕は本当に間抜けだ。

 

だが少尉殿はそれを気にもせず、指輪をはめた手を胸元に置いて本当に幸せそうに笑った。彼女は僕に一歩近づき、表情を真剣なものに変えて口を開いた。

 

「私、春野ハナは、あなたを夫とし、病める時も健やかなる時も、あなたを愛し、敬い、共に歩むことを誓います」

 

僕も彼女へと一歩踏み出す。 

 

「私、春野ジローは、あなたを妻とし、ええと、永遠にあなたを愛し、どこまでも共に歩む事を誓います」

 

僕らは口づけた。

 

ほんの一瞬だけ触れる口づけだった。

 

唇を離して見つめ合った僕らは、どちらからともなく抱き合ってから笑い始めた。少尉殿が僕の肩に顔を埋めながら言う。

 

「なにも変わらんな」

 

少尉殿の温かさを感じながら、僕も自分たちが何も変えられていない事を確かめる。

 

本当に。何も変わらない。

少尉殿の髪を撫でつけながら、僕も呟いた。

 

「ほんとですね」

 

 

 

 

それから僕らは、土手に座って色々な言葉を交わした。

 

僕の足の間に納まった少尉殿を、後ろから抱きかかえる。

少尉殿は僕に体を預けて寛いでいた。

 

話す事はどうでもいい事ばかりだった。

 

アパートの階段が錆びていて少し不安だとか、

いいかげん部屋にエアコンを付けようだとか、

そんないつもと変わらない会話が延々と続く。

 

それでも。

本当にたのしかった。

 

やがて、遠く朝日が地平線の向こうの空を赤く染め始めた。

 

「やっと眠くなってきたな⋯⋯」

 

少尉殿が、独り言のようにつぶやく。

僕は彼女の身体をきつく抱きしめた。絶対に彼女がここから去らないように。

 

眩しい光が、僕らを包み込む。

朝露が一斉に輝き、まるで凪いだ光の海のようだ。

 

「ぐんそう、おきたら、きょうは、なにを⋯⋯しようか⋯⋯」

 

 

僕は肩を震わせながら、溢れ出る涙で少尉殿のワンピースを濡らしていた。それを咎める声は無い。

 

 

 

永遠に。

 

 

 

 

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