未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2023
※作者はシューティングゲームに詳しくありません。
ネットで調べて書いてるだけのニワカです。
どうも初めまして、篠原
俺がそう自己紹介すると、大抵の奴は自分の耳が信じられずにもう一度お願いしますと返してくる。ハーフですかと聞いてくる奴もたまにいるな。
まぁこんなのは親に押し付けられた名前の効果のごく一部でしかない。ほかにどんな効果があったのかは敢えて詳しく語らないが、子供の身には酷な事ばっかりだったよ。十八になる今まで苦労の連続だった。
当然改名も考えた。でも俺は、敢えてこの名前のままで生きていく事を選んでいる。こいつで損した分を取り返さないと気が済まないからだ。
この名前にも利点はある。
抜群に覚えて貰いやすい。これはデカい。事務所もそのあたりをメリットだと思ったんだろうな。この名前で行けと後押ししている。お陰様とは思いたくないが、若手の俳優として仕事の方はそこそこ順調だ。
そんな中、「僕は変声期」っていう単発ドラマに出演予定だった奴が不祥事で降ろされて、代わりに俺が呼ばれる事になった。その顔合わせの時も、また面倒な自己紹介でのやり取りが繰り返されるんだろうなと思ってたんだが。
「……素晴らしい名前だな」
ジローと名乗ったそいつは、俺の名前を聞いてごく自然にそう言った。こっちに向いてる目にも他意がある気配はまるでない。もし演技なら大したもんだ、さすが主役に選ばれるだけの事はある。
だが、どうやらこいつはマジで俺の名前がイイと思ってるらしかった。
「シューティングゲーム史上でも屈指の名作を名前の由来にするとはな。今から四十年近く前の作品であるにも関わらず、最新作にも見劣りしないゲーム性、グラフィック、そして音楽。ゲーム黎明期に時空を超えて出現したオーパーツであり特異点。どんな美辞麗句を並べても賞賛しきれない、まさしく金字塔と呼ぶに相応しい作品だ。しかし失礼ながら、なぜビックバイパーではないのだ?ビッグコアもあの作品のシンボルではあるが、やはり自機の存在感が大きいと思うのだが」
物静かな印象だったこいつが急にやたらと喋るもんで、俺は思わず後ずさってしまった。期待してた反応じゃない。それに早口で詰め寄ってくるのもなんかキモい。
「……俺の兄貴が
俺がそう言ったとたん、ジローは何故か残念そうな顔になった。こいつまさかだが、大蛇になれなかった俺に同情の目を向けてやがるのか?
「そうか……。まぁ、こればかりは早い者勝ちだからな。ビッグコアでも上出来だろう」
良かったな。奴はそう言って全く邪気のない笑みを浮かべた。
俺は何とも言えない顔をするしか無かった。
※
出会いからしてそんなだったが、春野ジローはとにかくまぁ変な奴だった。
戦災孤児とのことで、年齢は不詳らしい。多分俺と同じ十八か、それより下だろう。身長は百六十センチ。銀色の髪と瞳、そして真っ白な肌をした、どっからどう見ても生粋の西洋人だ。その割に完璧な日本語を話すので、会話しているとだんだんと頭がバグってくる。
頭がバグる理由は他にもある。奴はまるっきり女にしか見えず、しかも見た瞬間に土下座したくなるくらいの美形だった。声にもあやしい中毒性がある。俺はそいつと会話しながら、性別って何だろうって今まで考えた事もない疑問に悩まされ続けた。
その会話の中身もまた微妙だった。奴から出てくる話題は少ない。姉である春野ハナの事と、シューティングゲームの事。特に後者の話がマジでメンドくさい。携帯ゲーム機の画面を見せながら捲し立ててくるんだ。
「なあ、こいつを見てくれ。不勉強な事に昨日初めてプレイしたんだが、体が震えるほど感動した。なんと自機に敵の弾をかすらせるとパワーアップしていくんだ。完全に天才の発想だと思わないか?弾とは避けるべきモノであるという固定観念を打ち砕くパラダイムシフトだぞコレは。それに危険に敢えて飛び込む事で成長し、強くなっていくというゲーム体験もまた素晴らしい。人生論めいたものすら感じる。改訂版以降は続編が出てなくてな、それを知って私は悔しさのあまり泣いてしまった。何故、これほどまでに革新的な作品がたった一作で消えていかねばならんのか!この世界は間違っている!!そう思わんか!?なぁ、思うよな!!」
こんな感じだ。
俺は遠い目をしながら聞いているふりをするしか無かった。お前ぇみたいな見た目なら、もっとそれっぽい話があるだろ?服とか流行りとか。とにかく
※
「兄貴、ジローくんにマジになったらダメだかんね」
リビングのソファの上で台本を読み直していると、隣でテレビを観ている妹の
俺らの親はバカだが、見た目だけはいい。その遺伝子を受け継いで、こいつも見た目が売りのアイドルを仕事にしている。子ネコみたいだと言われるルックスと、気まぐれで掴みどころのないキャラ作りでそこそこ人気があるようだ。俺にはおかっぱ頭のバケ猫にしか見えないんだが。
「……は?なんの話だ」
「だから、ジローくんにマジで惚れたらダメだって言ってんの。アタシが狙ってんだから手出ししないでほしいわけ」
こいつはバカだバカだと思ってたが、ついにイカレたか。
「ジローは男だろ。何で俺が出てくる」
俺の呆れ声を核裸が笑い飛ばす。
「そんなん関係ある?本気でそう思ってんの?」
「本気も何も当たり前だろうが、何言ってんだ」
テレビ画面では番組が終わりに向かっていて、核裸はため息を吐きながら立ち上がった。
「自覚なしかよ……一番やべぇヤツじゃん」
ボソっと言って立ち去っていく。なんなんだコイツは。
妹に言われたからじゃないが、俺は奴との日々を思い返してみる。まぁ確かにあいつは、隙あらば俺にベッタリと言っていい。距離感が狂ってて、休憩時には携帯ゲーム機の画面を見せながら密着してくる事もしばしばだ。でもそれは男同士の触れ合いってやつだろうし、珍しい事でもないだろ。
話をする時は、ゲームの事以外では姉に関する自慢が多いな。他の奴らの前では一切口を開かないけど。
昼時になると必ず俺の隣に来る。そんで仕出し弁当の蓋を開けて死にそうな顔になったあと、涙目で食い始めるんだ。偏食が激しいのか?まぁ、あんなに苦しそうに食っときながら何も残さないのは美点だな。
美点といえば、こういうのもある。
まず、あいつは誰にでも親切だ。よく居残ってスタッフの片付けなんかを手伝っている姿を見掛ける。お陰で今じゃスタッフ全員が漏れなく奴の信奉者だ。
それにあいつは自分の美貌を全く鼻にかけない。それに価値が存在するとすら思っていない節がある。そんな変わった物差しを持っているからだろうな。奴は相手によって対応を使い分けるなんて事とは無縁だ。相手が大企業の社長だろうが有名プロデューサーだろうが、取り入ろうとする気配がカケラも無かった。塩対応過ぎないか側から見ててハラハラした位だ。相手の地位も見た目も経歴なんかも、視界に入れてすらないんだろう。
そんな誰にも懐かない野生動物みたいな奴の中に、なぜか俺の居場所が用意されている。
俺は頬を叩いて表情を平常に戻すと、気を取り直して台本に向かった。明日から難しいシーンの撮影になる。ジローの奴は腰が抜けるほど大根なんだ、相手役の俺が支えてやらないと。
目があいつのセリフに差し掛かったとたん、俺の脳裏にその横顔がはっきりと浮かんでくる。長い銀色の睫毛が光の中で輝いていた。
こっちを向いて欲しい。
……何考えてんだバカか。
俺は頭を振ってから、目にありったけの力を込めて再び文字を追い始めた。