未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
目が覚めると、僕は白い壁の部屋に居た。
殺風景で、僕が横たわっていたシンプルなベッド以外にぽつぽつと家具がいくつか。まぁ部屋はいい。それよりも驚きなのは僕の体が拘束具で固定されている事である。どういう事だこれは。紛れもない監禁ではないか。
致し方なく、僕はベッドの上で自分の記憶を手繰り寄せ始めた。
荒川の河川敷に複数のヘリが降りてくる映像が脳裏に浮かんできた。多脚砲台が破壊された後で米軍らしき連中がやって来て、僕らはヘリに押し込められた。どうやらその時に薬でも打たれたらしい。スッパリとそこから先の記憶がない。
どうせここに拉致したのは06とそのお仲間だろう。この拘束は僕が暴れるとでも思ってるのか?イライラしながら僕は天井を見上げて口を開いた。
「おい06、聞こえてるんだろ。どういうつもりか分からんが、さっさとここから出せ」
※
渋られるかと思ったが、僕はあっさりと部屋から解放された。
そのまま診察室へ。しばらくの問答のあと医者による説明が始まる。どうやら僕は健康体らしい。だったら病室に押し込むのはどうなんだ?イライラしながら僕が拘束されていた理由を聞いてみたが、自傷する可能性があるとの事で念のため、だそうだ。バカバカしい。
その後病院を出ると、ゴツい男達に囲まれながら別の建物へと護送された。そこでも色々と待たされたが、ようやくゴタゴタが一段落したようだ。今は06の仕事場とおぼしき部屋に通されている。
書類が積まれたデスクの向こうに、06が座っていた。疲れた顔をしている。僕も多分、似たような顔をしている事だろう。
「少尉殿の身体はどこに?」
開口一番でそう切り出した僕に、06が驚いた顔をした。
「⋯⋯ああ、大丈夫だ。考えうる最高の環境で保護してある」
「街の人たちはどうなった。マサは生きてるのか?」
「街には死傷者、行方不明者が多数出ている。貴方たちのアパートも完全に破壊された。マサは確か君等の友人だったな。調べさせよう」
なぜだろう。
自分から聞いておいて何も感じなかった。僕は宙にふわふわと浮いているような心地で椅子に体を預けた。さっきから目眩が酷い。ぐるぐると回る天井を見上げながら、せり上がってくる吐き気に耐え続ける必要があった。そんな僕を、06が無言で待ってくれている。
だいぶ待たせたと思う。僕はようやく視線を下ろす事ができた。何とか笑顔を作ると、どうでもいい話題を選ぶ事にする。
「⋯⋯しかしまぁ、本当に偉くなったんだな。こんな立派な部屋まで貰っちまって」
06は僕の変化に戸惑った様子だったが、気を取り直すように腕を組みながら話し始めた。
「ここは少尉の執務室で、私の部屋じゃない。残念ながらデスクに積まれた書類は私の仕事だがな」
はぁ?ここが?
僕は想像して半笑いになってしまった。
「どうやったらあの機体がこんな狭い所に入るんだよ」
06が固まった。
「⋯⋯色々と説明する必要がある。まずはXA―213についてだ。貴方が察している通り、あの機体には少尉が搭乗しておられる」
だろうな。
寝起きのように鈍っていた僕の心に、恐怖に似た感情が湧き上がってくる。服の下で体が震え始めていた。
「正確には、少尉の脳が複写された十五基の副脳のうち、生き残った一基があの機体を支配している」
僕が絶対に口にしたくない事を06が言ってくれた。あの禍々しい機体に少尉殿の精神が宿っている。その先は考えたくない。僕は震えを06に悟られまいと耐えながら、またも別の話題へと逃げた。
「あの機体、荒川に沈んでなかったんだな。僕がどれだけ心配させられたと思ってるんだ?」
「すまんな。機体はすぐに我々が回収した」
そうするのが当然だ。
何で僕はあの機体が川底にあると思い込んでいたんだ。
⋯⋯たぶん、そうあってほしいと願ったんだろうな。
「⋯⋯機体が無事だったんなら、なんで少尉殿に連絡しなかった。部隊に戻って貰えば良かっただろ」
「私達に最初にコンタクトしてきたのが、XA―213の副脳に宿る少尉だった。彼女が願ったんだ。自分一人で戦える。だから『もう一人の少尉殿』には平穏な暮らしを送らせてやってくれと」
僕はため息を吐いた。
あの人の考えそうな事だ。
やっと震えがおさまってきた。僕は壁に掛けられた写真を指差す。そこにはXA―213のコクピットに座って指を二本立てる05の姿が写し取られていた。
「少尉殿に会わせてくれるんだろうな。ついでに05にも」
06が苦笑する。
「ついでは酷いな。あいつはいつも軍曹の事を気にしていたんだぞ」
※
気にしていたという割には、再会した05の態度は素っ気なかった。
彼女は少尉殿や僕のような士官型、そして06のような情報戦型とも違う設計を持つ、純粋な攻撃型だ。背は僕よりも低く、06よりは高い。髪と瞳は漆黒で、色味は日本人に近いかもしれない。
コイツは本当に血の気が多く、手綱を握るのが大変だった。こちらに来て何年も経過しているのだから、そのあたりが多少丸くなっていればいいが。そういえば短かかった髪が肩あたりで綺麗に切り揃えられていて、まるで別人に見える。少しだけ吊り上がった目は相変わらず生意気な印象だけども。
「よ。大変だったな」
それだけ言って去っていった。
やはり僕を心配していたという話はかなり疑わしい。
05と別れて格納庫に向かう道すがら、僕は高まっていく緊張や不安、そのほか判別不能な感情に圧倒されていた。その場で背を向けて逃げ出したいくらいに。だが、少尉殿に会わなければという焼けるような焦りが背中を強く押してくる。
格納庫に着くと、立ち並ぶ歩行戦車に交じってXA―213が佇んでいた。あまりに場違いで異質に見える。
異質なのは機体だけではない。
それを取り囲む空間もまた奇妙だった。まるで子供部屋のように、様々な本や玩具などが機体のコックピットハッチ周辺に並んでいるのだ。ソファーやカウチ、ゲーム機が乗ったテーブルまで置かれている。さらに色の着いた紙などによる手作りの飾り付けも。この基地は一体どうなってるんだ?
置かれている物を縫うように歩きながら、僕は機体の前に立った。心臓が壊れそうな勢いで鼓動している。気が遠くなりそうだ。
「コックピットのハッチは開放しないぞ。そこのゲーム機が置かれたテーブルの椅子に座れ。カメラとスピーカーがあるから」
⋯⋯は?
呆然とした顔で振り返ると、06が無表情でテーブルを指さしていた。不満と不安が胸の中で急速に膨れ上がっていく。
パイプ椅子に座った僕は、テーブルの真ん中に置かれたモニターを凝視する。苛立っている自分の顔が映り込んでいて、思わず目を逸らしてしまった。
その時だった。
『久しぶりだな、軍曹。元気だったか?』