未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
軍曹が死んだと知らされたのは、私がいつものようにオフィスで書類仕事と格闘していた時だった。携帯端末をデスクに置いた私は、ぼんやりと何もない空間を見つめ続けた。
XA―213に搭載されている副脳は、脳神経マップの複写が行える特殊な物だ。ただしどんな脳でも無難に複写できる訳では無い。適合しない者が複写を試みれば、高確率で脳に致命的な損傷を受ける。
そんな自殺装置を使いたいと軍曹が持ちかけてきた時、私はそれほど驚かなかった。こうなると予感していたからだ。
私は奴を止めなかった。あの男は死ぬ決意を固めていたのだ。縛り上げて監禁でもするか?無意味だ。そんな事をしたってあの男の意思を曲げることは不可能だ。何より、このままでは少佐の精神がもたないと言われては何も反論できない。
確かに少佐の精神状態は限界だった。
表面上は気丈に振る舞ってはいても、データ上では精神崩壊の兆候が明らかに現れ始めていた。
だから奴が複写を実行し、挙句の果てに死んだと聞いた今も、私はそれほど動揺していない。これが当然の結果だと思っている。だって奴にとっては『少尉殿』が全てであり、『春野ハナ』こそが生きる理由だったんだから。
そうだ。私も。05も。
奴にとっては置き去りにしても良い程度の存在でしかなかった。
パタパタという音で、私は我に返った。
書類に水滴の跡が次々と出来ていく。
慌てて目許を拭い、私はやりたくも無い仕事に再び向き合う。視界が滲んで文字が読みづらい。また余計な仕事を増やしやがって、あいつには振り回されてばかりだ。
※
あれから半月が過ぎた。
あと数分で、最後の漂流物がこの世界に流れ着く。
誇張でもなんでもなく、私にとってこの数ヶ月の体感時間は一瞬だった。気が付けばXデー当日になっていて、いつの間にかコクピットに押し込められていた。そんな気分だ。
我ら第二中隊は、これから漂流物の出現地点へと弾道ロケットで運ばれる。既に機体を格納したカプセルがロケットブースターに固定されていて、あとは発射される時を待つのみだった。
日本での大惨事以降、米国とその協力国は漂流物に関する事実を世界に向けて公表せざるを得なくなった。その激震の余波が末端である私のデスクにも届いていたわけだが、大量の書類仕事を差し引いても各国の協力が得られるようになった利点は大きい。お陰で東側諸国に向けて弾頭ロケットを飛ばすなどという無茶が出来るようになった。
カウントダウンが進行していく。いつもながら嫌な時間だ。
ゼロ。
警報と共に出現地点が表示された。私は中隊に向けて回線を開く。
「貴様ら起きてるか?事前の予想通り、次の旅行先はアフリカに決まった。我々はこれから、既に現地で展開中の第一中隊と合流する。今回は大っぴらに動けるからな、半分は仕事が終わっているようなものだ。お気楽に行け」
『ロケットの先端に縛り付けられて、どうやって気楽になれってんです?』
『バカげたカートゥーンの悪役みたいな扱いだよな』
『特別手当てもない』
『大尉、こんなのやめて輸送機でゆっくりいきません?』
隊員の声が一斉に返ってくる。
私は最後までこいつらの教育に失敗したままだった。
「黙れ。無料で宇宙に行けるんだから有り難く思え」
発射台が直立していく。それが静止した時、個別回線から大好きな声が聞こえてきた。
『帰ったら、一緒に荷ほどきの続きをしような』
胸が温かくなる。
「うん」
私は温もりの上に掌を置いた。
軍曹の気持ちが痛いほど分かる。
だから、私には奴を責める資格がない。