未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
101降下強襲装甲連隊 第1装甲大隊 第1中隊 C小隊所属
個体番号10−0045からの報告。
現在地0A00
エチオピア、オガデン砂漠
漂流物の出現を確認、観察中。
※
視覚センサーを通じて、私は目の前の景色を眺めていた。乾燥しきった空の向こうまで、荒れた大地が果てなく続いている。その更に向こうに、漂流物の巨大な尖塔が蜃気楼のように立っていた。
最後の漂流物は、やはり情報生命体の本体だった。十重二十重の防衛施設に守られ、人類が百年かけても攻略しきれなかった本丸が、こうして無防備に姿を晒している。
間もなく例外小隊率いる歩行戦車大隊の全戦力がここに集結する。無論セントラルユニットを制圧するためだ。XA―213を含む極東部隊は先乗りして近場に陣取っているのが確認されている。残りの部隊は他の地域への出撃に備えて待機状態だったが、今頃はこの地に向けて打ち上げ準備に入っていることだろう。
防衛施設が無いとは言え、彼らを待ち受ける敵の戦力は二個大隊を下らないはずだ。倍以上の数と戦う困難に加えて、背後から我らC小隊よる砲撃を受けるのだ。いくら彼らが歴戦の兵とはいえ、その命運はもはや決したと言ってもいい。
不快さが急激にこみ上げてきた。私は私に与えられている命令について改めて考える。なぜ例外小隊を抹殺する必要があるのか。命令の理由や目的を知りもしないのに。
私は捨て駒で兵器なのだから、『オリジナル』の命令には盲目に従わねばならない。そういう事なのか?だとしたら、私と同じく道具として作られたはずのあいつらは何だと言うのだ。
マリア・ブラッドベリ大尉は、この戦いを終えたら現地人と婚姻を結ぶ。
リリ・クローゼ大尉は、この戦いを最後に除隊してこの世界を見分すると公言している。
そしてあの小隊軍曹は、適性のない精神複写を行った結果死亡している。遺された彼のコピーは、XA―213に搭載されている副脳に存在していると聞く。
これらが道具の振る舞いだと?……冗談ではない、やりたい放題ではないか。こんな勝手な行動をする道具があってたまるか。
「小隊各員へ。これは私的な発言である。それでも、どうか聞いてほしい」
咎める者はいなかった。
意外に思いながら言葉を続ける。
「東京で発生した漂流物による大規模な被害は、我らが三百年先の未来で行った砲撃に原因があると私は考えている。我々の砲撃によるエネルギーが、漂流物の転移プロセスに何等かの影響を与えた事が我らの戦闘記録にも残っている」
漂流物の出現位置は、それらが未来で存在していた位置と同一になるはずである。本来あの施設は東京ではなく富士の樹海に出現するはずだった。その出現位置を、我らの砲撃が大きく変えてしまった。
そして恐らく、あの施設は一番最初にこの世界に出現する予定だったのだと思われる。なぜなら、唯一あの施設にだけ例外小隊に向けたと思われるメッセージが記録されていたからだ。
《生存せよ》
あまりに短いメッセージである。それでも、その意図は凡そ推測できる。情報生命体は例外小隊の面々の中に、何らかの希望を見つけたのだろう。彼らという因子が、人類の破滅的な未来を変えるのではないかと。
その希望に全てを託すのか、それともやはり
私の勝手な解釈かもしれない。だがもしこれが正解だとしたら、あの人工知能は不器用であると評価せざるを得ない。あまりにも不器用で、あまりにも純粋である。
その純粋な願いを、我々はこの手で再び壊そうとしている。
「あの漂流物により、844人が死亡または行方不明となり、三千人以上が負傷した。結果的に我々が殺し、傷付けた人々の数だ。そして今もまた、我々は理由すら分からない命令に盲目的に従い、人類に対して取り返しのつかない事を行おうとしている。私にはそう思えてならない」
生理現象など知らぬはずの体が、いつの間にか激しく震えていた。私は製造されて以来初めて、自分が生きている事を実感している。
「諸君、我々は期せずして過去に転移した。そして今、目の前には無限の選択肢が提示されている』
祈るという言葉の意味が今は分かる。
私は私の全てを込めて言葉を押し出した。
「これを機会として、選んでほしい。誰に命じられたからではない。自らの意思で選び取ってくれ。諸君が進むべき道がどれなのかを」