未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
私達がヴァージニア州から出撃、というか発射されてから、だいたい25分が経過していた。
ロケットブースターの分離が完了し、私の乗るA3を格納したカプセルは猛烈な速度で大気圏を落下している。地上では少佐が私達を待っているはずだ。欧州組の05も到着しているだろう。急がねばならない。
そんな切迫した状況だというのに、私は自分自身の恐怖を抑えるのに一杯一杯だった。何が怖いかって、この胸糞悪いカプセルが空中分解しそうなくらい振動し続けてるのが怖い。他の連中はこれが平気なんだろうか。
だめだ。ほんとうに怖くなってきた。
そうだ、ダンの事を考えよう。ええと、帰ったら一緒に何をしようか。ああ、まずは荷解きを終わらせないと。キッチンは早めに使えるようにしたい。そういえば試したいレシピがあった。喜んでくれるだろうか。いや、あの人は私の作るものなら何でも喜ぶんだよな⋯⋯それはそれで嬉しいが、失敗作でも喜ばれるのは正直困る。
ちょっとばかり考えただけで効果は抜群だ。冷汗で濡れた頬が緩んでいくのが自分でも分かる。
自分は弱くなってしまった。この世界に来る前の自分は、副脳を一切疑わなかったお陰で戦いに安らぎすら感じていたのだ。
だからって、あの頃の自分にはぜんぜん戻りたくない。ダンに甘える事ができる代償が弱さだと言うのなら、私はいくら弱くなっても構わない。
カプセル分離の警告が表示され、私の取っ散らかった思考は終わりを告げた。カバーが割れて機体が空中に放り出される。センサーを通して大量の情報が五感へと流れ込んできて、私は体を大きく震わせた。対空砲火が一発も飛んでこなくて却って不気味だ。急激に迫ってくる荒野に着地する準備をしながら、私は戦域を素早く見渡した。
「なんだこれ、どういうことだ?!」
攻略目標のセントラルユニットを中心に、広範囲に渡って大量の土煙と黒煙が横たわっている。戦端が開かれているどころか、もはや終盤に差し掛かっているようにしか見えない。
着地と同時にウェポンラックからロングライフルを取り出した私は、それを構える先が見つからずに困惑した。状況に取り残されて戸惑うばかりの私の脳裡に、唐突に脳天気な声が響く。
『おつかれーマリアー』
「05!?これはどういう事だ、説明しろ!」
『ボクに怒んないでよ。こっちだって着いた時には始まっちゃってだったんだからさ』
「じゃあ第一中隊が集合前に開始してしまったってことか?!」
『そういう事だね。おかげでだいぶ慌てたよ』
私は戦場を走査し、XA―213の機影を濃密な黒煙の中に発見した。点々と並ぶ敵機の残骸の中心に、損傷一つなく超然として佇んている。その姿に畏怖を覚えつつ、私は少なからず失望していた。これまでの長い戦いが、私のいない場所で終わってしまった。達成感も何も有ったものではない。大小様々な苦労を思い出して段々とムカついてくる。少佐はともかく、軍曹の野郎にはあとでキッチリと詰める必要がありそうだ。
しかし、わざわざロケットにくくり付けられてアフリカまで飛ばされて来たというのに、私はこの間抜けな状況をどう部下に説明したらいいんだ?連中は私の背後で今も降下中だ。降下完了まであと30秒ほど掛かる。その間に何を話すのか考えておいた方が良いかもしれない。
そんな感じでつらつらと悩んでいる私の頭の中に、大隊回線を通して軍曹の声が響く。
『大隊全機へ。まだ作戦目標は完了していない。第二波の可能性に備えよ。セントラルユニット制圧までくれぐれも気を抜くな。第二中隊は降下完了後に砲撃陣地を構築。第三中隊は第一中隊に合流し、本機の直掩に就け』
イライラと了解のタグを返す。副官は私の仕事だったのに軍曹に取られてしまった。その軍曹とはあれから一切口をきいていない。
それにしても少佐は心配性だ。残骸の数から見積もっても敵は大隊規模だったはずで、それをこうもあっさりと殲滅した上、こうして大隊も揃ったのだから、仮におかわりが来ても問題ないだろう。
その考えが良くなかったのかもしれない。
警告タグが無数に表示され、私は頬を張られたような衝撃を受けた。大量の黄色いマーカーが、セントラルユニットから現実味が無い速度で接近してくる。三十以上のそれらは幾何学模様のような整然とした隊列を作っていた。
第一中隊から情報が共有される。中型機が1機、それに付き従う30機の小型機という構成だ。
私はライフルを構えて目標を補足するが、小型機は小さい上に弾丸のような速さだ。いくら弾薬の設定を誘導性能に振ったところで当たりそうにない。ならば中型機だと狙いを定めれば、こちらも図体の割にとんでもない速さでランダムに軌道を変えている。
私が撃ち続けているうちに、敵の第一波が第一中隊へと覆い被さっていく。味方のマーカーの色が次々と緑から紫色に変わり始めた。紫色はその機体が重大な損傷を受けた事を示している。
『2—2より2−1へ、全機降下完了』
私は慌てて叫んだ。
『マニング、貴様の仕切りで支援砲撃の準備に入れ!その場で始めて構わん!敵は恐ろしい速さだ、当たらなくてもいいから牽制射のつもりで撃ちまくれ!』
長物が役に立たないなら近づいて撃つほかない。私はロングライフルを捨てると、アサルトライフルをラックから取り出しつつ最大出力で前進を開始した。その時だった。
『来るな、06!!』
「軍曹か?!詳細をくれ!!」
直後に軍曹から思考パッケージが送られてくる。白いXA―213が脳裡に浮かび上がった。同型機?!八本脚で歩行戦車を踏み砕きながら、恐ろしい速さで戦場を這い回っている。戦い方まで少佐の操るXA―213とそっくりだ。その周囲を、くさびのように尖った装甲を持つ小型機が無数の軌跡を描き出していた。まるで突風のように地表を疾駆するそれらが、歩行戦車を次々と鋭利な装甲で切裂き、擱座させていく。
『速すぎてお前のA3じゃ無理だ!!牽制射を続けてくれ!!』
接続が切れた。
ここで当たりもしない弾を無駄遣いしていて何の意味があるんだと歯噛みするが、そんな心配ができるような状況でもなさそうだ。第一中隊の歩行戦車を食い尽くした小型機のうち数機が、明らかにこちらへとその軌道を変えている。
「中隊各機、接近中の敵⋯⋯」
次の瞬間には、私のA3は宙を舞っていた。スローモーションのようにゆっくりと時間が流れる中、地平線が目の前で何度も回転し続けている。
速すぎるだろ。
機体がバウンドする衝撃で時間の流れが戻り、私は顔をしかめながら損傷箇所の確認を開始した。左腕が胸部の一部ごと吹き飛ばされている。さっきから耳鳴りがうるさくて仕方ない。どうやら慣性制御が衝撃を相殺しきれなかったようだ。
『ミミ!!』
朦朧とする意識の向こうから、ダンの叫び声が聞こえる。その愛称はやめろと答えようとした時、コクピットが大きく揺れた。一台の歩行戦車が抱き起こすように私のA3を支えている。
『ミミ、ケガはないか!?』
くそ、みっともない所を見せてしまった。
「いいから戦闘に集中しろ」
目眩と格闘しながら何とか機体を立ち上がらせると、私を轢き逃げした敵を確認する。3機の敵が私の中隊に甚大な被害を与えたあと、長大な軌道を描きながら再びこちらへと向きを変えつつあった。
私の脳裡に、隊員一人一人の顔が浮かぶ。
こいつらをこのまま死なせるのか?嫌だ。絶対に嫌だ。今すぐ機体を放棄して⋯⋯逃げ⋯⋯
逃げられるのか?
私たちが負けたら、誰が
ウンザリすることに、追い込まれたら死ぬ覚悟を決めるように私は作られている。
私は右腕のアサルトライフルを構え直した。
戦う。1秒でも長く。
その1秒ごとに、私達の誰かが死ぬのだとしても。
私はすぐ後ろに立つ歩行戦車に意識を向けた。
ダン。
あなたと短い夢を見た。
本当に楽しい、そして甘い夢だった。
私は微笑みを浮かべながら、中隊に迎撃を命じようと息を吸い込む。
その時だった。
私は随分と懐かしい声を聞いた。
『例外小隊、援護する』
直後、ダークグレーで塗り上げられた6機のA3が、私たちのすぐ真横を弾丸のように通り過ぎていった。それらは一切の射撃を行う事なく灰色の小型機に肉薄すると、ウェポンラックから重厚なブレードを抜きはらった。
見間違えようがない。あれはC小隊が装備していたA-40Aだ。この近距離で私の情報戦仕様機が一切探知できなかった事実が、あの機体がいかに優れているのかを示している。
私が三百年先で見たA―40は、C小隊による試験運用中だった。そのため後方で支援砲撃のみを行っていたのだが、実際のところあの機体は純粋な攻撃機である。こうした至近距離での戦闘にこそ使われるべき機体だった。
「⋯⋯ずるい」
あんな機体が使えれば。
『大尉』
マニングの声だ。さっきの独り言を聞かれていないだろうな。
私は慌てて片腕を失った機体を立ち上がらせる。
私だって。
「全機、正体不明機に続け」
歯を食いしばり、私は再び前進を開始した。
少し修整したいため、次回の投稿を
17日(月)12時26分
に変更します。あと3回で終わります。