未来から転移してきた最強兵士、アイドルになった元上官と渋谷駅前にて再会す 作:オムライス2000
『ほぉらみろ!やっぱりラスボスが出てきた!!』
怒ってるんだか、予想が当たって喜んでるんだか分からない声で少尉殿が叫んだ。
少尉殿が『ラスボス』と呼んだその敵は、何の因果か僕らのXA―213にそっくりな外形をしていた。見たところ違いは機体色が白であるという事だけで、複製したかのように細部まで同じである。
コイツはヤバい。確かにラスボスと呼ぶに相応しい脅威である。なにせ僕らの大隊は、こいつとその随伴機に会敵してわずか10秒のうちに半壊してしまったのだから。
そこで疑問に思う。だったら最初からコイツを出せと。防衛部隊が全滅してからこんな強力なユニットを出してくるのは明らかにおかしい。
まぁ、これに限らず敵である
だが少尉殿と05に言わせれば、そんなのは考え過ぎらしい。この戦いは情報生命体が用意したデスゲームであり、僕らはそのゲームに強制参加させられているプレイヤーである。そう二人は確信していた。
仮にそれが正しい推測であるなら、敵の行動に違和感は一切無くなる。まさに今こそラスボスを出すべき場面だろう。
『こいつ、舐めプしやがって!!』
これもゲームのシナリオの一環なのかもしれないが、ラスボスは僕らと一対一という随分と舐めた戦い方をしてくれている。もし30機もの小型機を一気にけしかけられたら、僕らは数秒と持たなかっただろう。こうして手を抜いて頂いている状況ですら押される一方なのだ。敵の攻撃を受け止めた脚部は無残に変形し、防戦する事すら難しい状況になりつつあった。
『05、部隊を取りまとめてくれ!回避を優先して後退しろ!』
済まないと思いつつ、僕は05に仕事を丸投げする。コイツの相手で手一杯だ。鋭い脚が白い残像となって無数に振り下ろされ、僕らの機体の装甲を剥がし取っていく。激しい衝撃と共に、途切れなく破損のシグナルが流れ込んでくる。
『なんだよ、もう!!』
少尉殿のボヤきをよそに、僕は損傷箇所の処理に集中する。何度も攻撃を受け止めた左側第一脚の第一節は完全に破損し、第二脚も半壊状態だ。死んだ駆動系をバイパスし、残りの脚の出力配分を変更する。そんな小手先の技で何とか機体のバランスを保っているが、これではジリ貧である。
『速すぎるだろコイツ!!』
しかし結構独り言が多いな少尉殿は。ずっとこんな感じで戦ってたのかと思うと、危機的な状況だというのに可笑しさが込み上げてくる。
『なに笑ってんだ軍曹!何とかしろ!!』
僕は敢えてとぼけてそれに答える。
『おや少尉殿、どうしたんです?僕とは口をききたくないんだと思ってましたけど』
この機体の中に引っ越して以来、僕がいくら話しかけても少尉殿は無視を決め込み続けた。そりゃまぁ、僕のやった事に怒るのも分からんでもない。
しかし残念なことに、肉体という境界を持たない僕らは互いに対する感情を隠すことができない。彼女が僕の事をどう思っているのか丸わかりだったのである。
そんな訳で少尉殿の無視には何の効果も無かったのだが、さすがに半月あまりもダンマリされれば報復もしたくなる。
『いや、空耳か。少尉殿が僕に口をきいてくれる訳がない』
『軍曹、貴様やっぱり性格が悪いぞ!!』
『この件に関してはお互い様であります』
僕は胴体にマウントされているアサルトライフルを取り外し、両腕に一丁ずつ構えさせた。この機体が火器を実戦使用するのはこれが初めてである。戦闘記録に使用歴が一切残っていない。それを知った時は無いはずの腰を抜かしたものだ。
まぁこの敵相手じゃ、どれだけシステムに経験値があろうと当たりはしないだろう。無いよりマシという適当さで僕はライフルを乱射させ始めた。とはいえそこは完璧に意思疎通が可能な僕らだ。牽制射で出来た僅かな隙を狙い、少尉殿が敵との距離を取る。
稼いだ距離、約80メートル。
一瞬で消されてしまう距離だ。しかし敵は静止したままで追ってこない。次の僕らの出方を待ってくれているかのように。
『⋯⋯遊ばれてますね』
『だから、そう言ってるだろ!このままあっさり我らを撃破してはつまらんからな、ラストバトルにふさわしい盛り上がりが欲しい所だろうさ』
『それじゃ期待に応えないと』
僕らの考えは一つだ。
このままでは負ける。
ならば捨て身になるしかない。
僕は主機の制御から次々と制限を解除していく。全力運転を超えた出力を得るために。
慣性制御器は、注がれたエネルギーに比例した加速度を発生させる。そこに主機の限界を超えた大出力を瞬間的に注げば、この機体の性能を遥かに超えた機動力が得られるだろう。絶対に避けられない一撃になるはずだ。
当然ながら代償がある。機体は致命的な損傷を受けるだろうし、主機に至っては再起動不能になるだろう。
そして、それらは少尉殿と僕の消滅をも意味している。 今の僕らが存在できているのは、主機が僕らの宿る副脳に安定したエネルギーを供給し続けているからだ。それが途絶えてしまえば、あとに遺るのは空になった仮死状態の副脳だけだ。
もともと、僕らの先はそんなに長くなかった。この機体の脳マップ複写システムは、長期間コピーを保持するために作られている訳ではないのだ。僕らは機体のちょっとした故障で消えてしまう、まるで陽炎のような存在でしかなかった。
『⋯⋯軍曹』
『なんでありますか?』
『すまなかった。こんな事なら半月の間、貴様とイチャイチャしまくるべきだった』
僕は笑ってしまった。
『そんな事しなくても僕は幸せでした』
『⋯⋯そうか』
『はい』
じんわりと心が温かくなる。肉眼を失った僕の視界に、少尉殿の笑顔がはっきりと映って見えた。
『なぁ軍曹、これが最後の攻撃になるんだ。どうせなら必殺技っぽい名前を付けようじゃないか』
この期に及んでまた変なことを言い出した。
『はぁ』
『破れかぶれタックルとかどうだ?』
『⋯⋯カッコよくないですね』
『しょうがないだろ、やろうとしてる事が実際カッコよくないんだから』
僕は少しだけ考えて、一つの案を思いついた。
『道連れアタックはどうでしょうか』
敵を道連れに。
そして、僕らがずっと道連れであるように。
少尉殿はゲラゲラと笑い出した。
『いいな!それで行こう!』
少尉殿の号令を合図に、僕は主機に対して破壊的な操作を開始する。異常を示す信号が大量に流れ込み始めた。まるでこの機体が上げる断末魔の叫びのようだ。
僕らの狙いを察知したのだろう。ラスボスが重心を落とした。
『やっちまって下さい!少尉殿!!』
『おう!!』
主機と慣性制御器が直結し、莫大なエネルギーが一気に流入する。重要な機器が次々と融解し、発生したプラズマが稲妻のように周囲の空間を焦がしていく。
『『喰らえ!!みちづれええええェェェ!!!アタアアアアアアァァァック!!!』』
完璧に重なり合った叫び声と同時に、全てが光に包まれた。あらゆる物が輝きながら背後へと流れ去り、僕らは真っ白な空間に向けて無限の速度で突き進んでいく。
その光を通り抜けた時。僕は機体を通して確かに感じた。願いを掴み取ろうとするかのように差し伸ばしたXA―213の右脚が、ラスボスの胸部を突き破っていく感触を。
そして、僕らは消えていく。
『ありがとう軍曹、わたしの所に来てくれて』
『愛してます少尉殿、誰よりも』
『初めて言ったな?もっと早く言えバカ』