其の勇者は元戦闘メイド   作:蒼猫まろん

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02. 転入生は無表情少女

 

 

「家の事情で此処に転入する事になりました。和泉玲華です。たったの一年ですが、仲良くして頂けると嬉しいです。」

 

 

 満開に咲き誇る桜がそよ風に靡いて弁を散らす、爽やかな春の季節。此処、神樹館六年一組に新たなクラスメイトが転入して来た。

 (ども)る事無く、スラスラと淡々に自己紹介をして行く彼女は不思議な雰囲気を漂わせて後一年で卒業と言うこの時期に“転入生”と言うだけで注目されるのに、その雰囲気が更にクラスメイトの注目を集めた。

 

 

(あの子が……和泉玲華さん)

 

 

 彼女―――鷲尾(わしお)須美(すみ)にとって、転入生は同じ勇者の役目を担う仲間で、唯一初対面だと言うのに苦手意識を感じさせない少女だった。

 

 

 

 

 

 

 其の勇者は元戦闘メイド

    鷲尾須美の章 -刻まれた魂-

 

 02. 転入生は無表情少女

 

 

 

 

 

 

「……鷲尾さん、おはようございます。今日も相変わらずお早いんですね。」

 

「お、おはよう……和泉さん」

 

 

 神世紀二九八年、四月二十五日。

 転入生の和泉玲華が転入して来て早二週間程。最高学年で転入して来た彼女は級友から数え切れない沢山の質問を戸惑う事無く、淡々と順番に答えた事が功を成したのか、今ではずっと前から通っていた様に馴染んでいる。

 

 そんな彼女を生真面目な性格の須美は苦手意識どころか、好印象を持てた。然し、須美よりも時折大人びた行動や言動からどうも小学生とは思えない場面があったがそれだけ育ちが良いのだろう、と自分を言い聞かせる程に。

 真面目で男女とも分け隔て無く話している優等生の須美でさえ、苦手意識を持っている人が少なからず居ると言うのに玲華はそんな様子を一度も見した事が無かった。

 

 

(………和泉さんにも苦手な人は居るのかしら)

 

 

 ふと、視線を隣の席へと移した。

 そよ風が心地よく、小鳥が囀る爽やかな朝。だと言うのに隣の席に居る人は机に突っ伏して寝ている。この少女が、須美が苦手意識を持っている人物である。

 毎朝五時に起床し、誰よりも早く学校に登校している彼女に言わせれば隣の少女は惰眠(だみん)を貪っているとしか思えないのだ。

 

 睡眠なんて人それぞれ。そんなのは分かりきっている。

 ただ、隣の少女は朝が苦手なだけなのかも知れない、と言う事も分かっている。分かっているからこそ、細かい事を気にしてしまう自分に恥じらいがあるし、自分をこんな気持ちにさせる彼女が苦手だった。

 

 

「あわわっ、お母さんごめんなさ〜い!!」

 

 

 隣の少女はガタッ、と飛び起きる様にそんな事を叫んでは席を立ち上がった。良くある“ジャーキング”と言う現象で所謂、脳の誤作動である。

 

 

「あれぇ………家じゃない〜………」

 

「此処は教室で朝の学活前よ、乃木さん………」

 

 

 完全に寝ぼけながらの独り言に、須美は冷静に答える。静まり返った教室も須美の冷静なツッコミにドッ、と笑いの渦が巻き起こった。

「あははは〜………」と隣の少女は恥ずかしさからか、顔を赤く染めあげて再び席に着く。

 

 上品な顔立ちに似合わぬ見事なドジっぷりを見せた彼女は乃木(のぎ)園子(そのこ)。須美や玲華と同じく勇者の役目を担う仲間であり、この世界を支える大赦の中でも最も大きな発言力を持つ家柄の娘とは思えない程マイペースな少女だった。

 

 

「いやぁ〜、やっちゃいましたなぁ〜。えへへ………おはよ〜、すみすけ」

 

「お、おはよう。乃木さん」

 

「いずみんもおはよ〜」

 

「……おはようございます。乃木さん、随分と幸せそうな夢を見ていたようですね」

 

「わひゃぁ〜! 恥ずかしいから言わないでぇ〜」

 

 

 変なあだ名。

 それは園子が善意100%で着けてくる物で、だからこそ須美は扱いに困った。玲華の様にスルー出来るような性格では無いし、やめて欲しいと頼んでも別のあだ名が提案されるだけ。最終的には須美の方が折れてしまった。

 

 世界の存亡が掛かっている勇者のお役目。乃木家の娘として厳しい鍛錬を受けているだろうが、彼女の様な天然系の呑気な性格で本当に大丈夫なのかなんて不安が募る。

 モヤモヤと心の中で考えている須美を他所に、担任の先生が教室に入ってくる。二十代半ばの凛とした見た目の女性教師で普段は厳しく生徒からは恐れられているが、生徒想いの良い先生だ。

 

 朝の学活を知らせるチャイムが鳴り響き、今日の日直が号令を掛けようとしたその時。ガラガラ、と勢い良く教室の扉が開き、一人の少女が駆け込んできた。

 

 

「はざーす!! 間に合った!」

 

三ノ輪(みのわ)さん、間に合ってません」

 

「ア、イッテ」

 

 

 三ノ輪と呼ばれた少女は担任から出席簿で軽く頭を叩かれた。時代が時代なら体罰として問題になりかねないが、今の時代は軽めならば許されている。故に学級の一部となりまたクラスメイトの笑いの渦が教室を包み込む。

 

 

(本当に大丈夫なのかしら………)

 

 

 はにかみながら平謝りをする彼女に須美は呆れながら、今日もいつもの一日が始まろうとしていた。

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