ただ庚子様を幸せにしたかっただけのモブ裏鬼道   作:リョウタロス

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ゲゲゲの謎の来場特典第5段も楽しみですね

今回は本編の前日譚というか端場の生い立ちになります

おにぎりこ様評価ありがとうございました


あなたが俺にくれたもの

父からも裏鬼道からも仕える龍賀家からも俺は使える道具と成ることを望まれ育てられていた

 

道具なら何も考えるな、道具なら感情を抱くな、道具なら言われた仕事をただ黙々とこなせ、道具なら道具なら道具ならと俺はそれだけを言われて虐待のような修行を叩き込まれてきた

そうやって育てられてきた俺は生まれ持ってきた筈の感情も思考も忘れ、いや、あったとしても諦念のみに支配された状態でひたすらに教えこまれた物事を、技術を知識として詰めこみ実践するだけの日々を過ごしていた

 

俺は母の顔を知らない

産まれた子への祝福というのもわからない

愛という感情もわからない

 

母は俺を産んだあと金を持って逃げ出そうとし始末されたと聞いている

愛についても知識としてそういうものがあることは知っている

だが感情も心も持つなと躾けられてきた俺にはそれがどういうものなのか実感する機会も目にする機会もなかったのだ

もしくは目にしても理解できていなかったか。裏であれだけの事をしているこんな村の連中が宣うそんなことが酷く薄っぺらな物に感じていたからかもしれない

 

「お前に術を扱う才がもっとあればより使えたろうに」

 

俺には霊力はあっても術師としての才はなかったらしく裏鬼道に伝わる術も使えない物のが多かった

代わりに父は俺に薬学の知識を教えこみ薬、毒薬、霊薬、そういった文字通り薬にも毒にもなるものの知識、製法を身につかせることで俺を裏鬼道の中での薬師の役割に就かせることにした

 

採取から調合、簡単な物から一歩間違えば死に至るものまで材料を一から集め間違えずに薬としなければならない日々では死にかけることもよくあった。禁域のおおむかでの毒をはじめ妖怪相手の素材採取は修行中とはいえ子供にやらせるあれも一種の虐待かなにかだったな

 

 

 

俺が彼女と出会えたのはそんな薬の材料を採取していた時だった

 

 

あれは俺の齢が10になった頃、その日の俺は薬の材料としてよもぎなど一般的にも使われる野草を村で採取していた

 

屋敷からそれなりに離れた川辺の一本道、野草の繁るその土手で無心で目当ての草花を探す俺の前をあの三姉妹が通ったのだ

 

裏鬼道が仕えるこの哭倉村の絶対権力者 龍賀の一族、その三姉妹

龍賀 乙米、丙江、庚子

 

未だ幼いながらも将来は有望とわかる美しさのある少女達。楽しそうに話し歩いている彼女らに辺りで作業をしていた者は老若男女関係なく頭を下げそれが当然であると彼女らも平然と話を続けている

 

だがこの時の俺はただ1つのものに目を奪われ立ちつくしてしまっていた

龍賀 庚子様、あの人の微笑んで笑う姿に俺は目を離せないでいたのだ

 

可憐、儚げ、あどけない、そういった語彙を教えられていなかった当時の俺はそんな表現も知らない故に思いつかずただ美しいと感じたその笑みに見惚れてしまっていた

 

そんな俺の視線に気づいたのだろう立ちつくしたままの俺に乙米様はそれまでの楽しそうな微笑みを消し不機嫌そうに俺を睨む

 

「そんな不躾な視線を送って、私達になにか言いたいことでもあるのかしら?」

「い、いえ!申し訳ありませんでした!」

 

 

俺は慌てて地面に膝をついて頭を下げ彼女らが過ぎ去るのを待つ

長女である乙米様は普段修行で表に出ない長男の時麿様に代わり兄妹のなかでも最年長となる方だ。それ故に責任感が強く今も"別にいいじゃないあのくらいの子くらい"と宥める次女 丙江様に"そうやって無礼をいくらでも許していたら嘗められ付け入れられる隙を生むのよ"とお叱りしながら歩いていく

けれどその時の俺の内心は乙米様達の様子を気にかける余裕もなかった

 

(なんだ、これ……?)

 

はじめての感覚だった

限界まで動いた時のようにばくばくと高鳴る心臓

熱があるかのように火照る顔

そして頭から離れない庚子様の微笑んだ顔

 

抑えようとしても心臓の音も顔の熱さもなかなか元には戻らずこの感情はなんなのか、この症例はなんなのかと頭を混乱させ続け、三姉妹がとっくに去った後も頭を下げ続ける俺を他の村人達が奇異の目で見る中俺はしばらくそこで頭を下げ続けていたのだった

 

 

その後、父の元に戻っても俺のこの症状は戻らず俺のことを知ってる奴らは父も裏鬼道も村人も、皆が皆俺の顔を見てぎょっとしていた

まぁ、それもそうだろう。今までずっと無表情、人形のような顔でいた奴が戻ってきたら色惚けた顔で上の空になってるガキになって帰ってきたんだからな

 

そして当然この症状がわからない俺は父にこの症状が出た時のことまで説明し原因と病名を聞くわけで

あんなにも頭抱えて唸る面白い姿の父を見たのは後にも先にもあの期間だけだったよ

 

そこからは一旦薬関係の教育は一時中止し大半を滝行や座禅といった精神修行と肉体を限界までいじめ抜くしごきに費やされた

その修行の最中にお目付け役にされてた長田様にはお前もかって顔されてたけどあの人も同じ修行させられてたのかねぇ

 

そんな修行の甲斐もあり俺は再び"道具"と成ったが空っぽの心に注がれ一度染みこんでしまったものはそう簡単に元には戻せないようで──

 

「また元に戻っただと!?」

「へ、へい。どうにも遠目から庚子様の姿を見ちまったらしくそれで……」

「またかよもおおおお!!」

 

そんな風に俺は庚子様を見る度に心を奪われ、そうなる度に父は俺の心を失くそうとするいたちごっこが続けられることとなった

 

だが正直俺としてもこんなことを続けさせられるのは不本意だった

なにせこの精神修行をさせられる間は薬、知識方面への修行が出来ないのだ。それは非効率が過ぎるしそれに、このいくら消しても湧きあがる想いを何度も何度も消されるのは不愉快だと、そう感じた俺は()()()()()()読んだ本を参考にする事とした

 

面従腹背をする逆臣のように、いつも通りを装い情報を盗む間者のように、"仮面"を被ってしまえば良かったのだ

心無い道具であれと望むならそう成っているかのように振る舞えばいい。父が望む人形のような表情(仮面)を被り続けてしまえばわざわざあんな修行をしなくとも、庚子様への想いも消さずとも済むのだから

 

こうして俺は晴れて父が望む"道具"を演じることとなった

裏鬼道の般若の面を被るのも、この表情の(つら)を被るのも変わらない。庚子様の前でだけ我慢すればそれで十分。それ以外は今までと何も変わらないのだから

 

そんな俺の姿に父もようやく自分の思い通りの姿に成ってくれたのだと騙され修行内容も元のものへと戻されていき──その数年後、俺は父の首を切ることを命ぜられた

 

 

罪状は裏鬼道に伝わる術の書かれた書物の紛失

これにより多くの術が受け継がれる機会を永遠に失くしたと龍賀家当主である時貞様はこの件を重く見られ紛失した張本人である父に切腹を命じたというのが村人達にも知らせられた表向きの内容

 

本当は時貞様による口封じなのだろうということは裏鬼道の全員が察しがついていた

父は時貞様への術の指南も行っていたのだ。そして本来する筈もない秘伝とも言える術書の紛失、明らかに秘密裏になにかするための術を会得した後の口封じとしか考えようの無かった

 

そしてその切腹の介錯役に息子の俺を選ぶのも相変わらず趣味が悪いとも思ったがこれは時貞様ではなく父の要望だったそうだ

実の親を斬れば俺が"道具"として完成するとでも思ったのだろうか、それとも介錯を求めるのなら実の息子が良かったのか、その真意はわからない。けれどわざわざ腹をかっさばいて俺に斬られた首は随分と満足そうな顔をしていやがった

 

 

最期まで自己満足が好きな父だったが、父の思い通りだったとでも言えばいいのか実の父親の首をはねても俺の心に波打つものは無くただ凪いでいた

 

(妖怪や他人を殺すのも父を殺すのも変わらなかったな)

 

そんな風にしか感じなかった俺はやはり外道であり人でなしなのだろう

今までの殺しと違う点があるとするならばもう庚子様の前で仮面を被る(表情を我慢する)事を必要とさせる者がいなくなったということだけだ

ただその一点を考えると心が晴れ晴れしくなるのを感じた

 

他の奴らの前では無関心でいられても庚子様の事を考えるだけで感情が湧きだしあの人の前では俺は普通の人間に成ってしまえた

俺にとって彼女だけがこの世界で唯一の存在だからこそそれを邪魔する父の束縛が消えた解放感、この時はそれを感じていたのだろう

 

けれど父がいなくなろうと俺の立場は変わらない

裏鬼道という組織の中で使われる道具、この身は所詮龍賀家の道具でしかないのだ

けれどこの感情も欲望も、俺の心の全ては彼女にもらったものだから

 

──ああ、叶うなら身も心も貴女に全てを捧げ貴女だけの道具(もの)となりたい──

 

 

そんな分不相応な願いを抱いたまま俺は今日も道具として仕事をこなす。自分が想い慕うあの人がどんな目に合うのかも知らずに




この数ヶ月後に庚子の初体験の現場に行かされ脳を壊される端場くん

・端場父
息子である薬人を裏鬼道に忠実な道具として育てあげようとした毒親。途中まで上手くいってたのに息子が知らん所で一目惚れしてきて頭抱える羽目になりその感情も忘れさせる為に精神修行の他にも眠ってる最中に一部の記憶を消す暗示や催眠系の術も施してた。けど何回やっても何回やっても恋心を思い出しちゃう息子に半ばキレてた。息子の演技に騙されやっと元に戻ったと思った時は一人で泣いてた
時貞に裏鬼道に伝わる術の指南もしており最後に時貞にマブイ移しの術を教え、術と時貞の企みの秘匿の為にも処刑を受け入れる。自分を殺せばきっと息子は完成すると考え自己満足のまま首をはねられた

・端場薬人
透明な水の入った器に色付きの水を垂らせば瞬く間に染まるように一目惚れで感情を取り戻した少年時代。1度染まった水を元に戻すなど出来ずに何度でも同じ女性に恋をした
恋心がどんどん重くなったのは催眠や暗示が解ける度にその想いが濃く強くなっていった為。色の原料だけを別の場所に押し止めていたがその敷居を壊され原料がまた水に戻ったようなものである

・マブイ移しの術
他人の魂を押し出し身体を乗っとる外道転生技
裏鬼道の術だがそれを秘密裏に時貞が使えていたならば指南役、もしくは協力者が裏鬼道にいたのではと考え長田達より上の世代の実力者、端場父をその役に据え秘密にするため適当なでっち上げで処刑されてもらいました
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