「空を飛べる気がする」と明里が言った。僕は無理に決まっていると何度も言ったが彼女は聞く耳を持たなかった。だから僕もついていくことにした。彼女が飛んだから僕も飛んだ。
明里は生まれつき足が悪く毎日車椅子で生活をしていた。何をするにも誰かの助けが必要で、学校では幼馴染の僕が面倒を見ることになっていた。最初はそんなことはしたくなくて放っておこうと思っていたが明里はクラスに馴染めなくて友達を作ることができなかった。移動授業に遅れたり箸を落としてなかなかそれを拾えなかったりして、しまいには壁にぶつかり車椅子ごと転んで立ち上がることができなくなり、見ていられなくなって一緒に行動するようにしたのだ。
明里が変なことを言い出したのは六月になってからだった。その日明里は朝からうわの空な感じで、いつも以上にボーっとしていた。宿題を忘れ、水筒の中身をまき散らし、車椅子のブレーキを押し忘れ壁に衝突して、これは明らかにおかしいと思って下校中に明里になんかあったのかと聞いたのだ。
「ねえユウ君、もしかしたら驚くかもそれないんだけどね、というか絶対に驚くと思うんだけどね、えっとね、私ね」
要領を得ないしゃべり方で焦らさないで欲しい。
「長い。はっきりと」
「あ、うん。ごめんね。驚かないでね。あのね、私ね」
そうやって明里は長い長い前置きを経てから真剣そうな面持ちで言った。
「魔法を使えるようになったの」
「ねえユウ君、待ってよ!私嘘言ってないもん!」
「んなわけあるか!もし本気でそう思ってるなら頭おかしくなっちまったんじゃないかお前」
「嘘じゃないし、頭もおかしくなっていなもん!」
「ならみせてみろよ、その魔法とやらを。そんだけ言うんならなんかできるんだろ?」
「んんう……今はできないの。なんかね、力が足りてないっていうか、電波が届いていないというか…んんんとにかくできないの!」
「ほらやっぱり嘘じゃないか。つくならもっと楽しい嘘つけってのに」
「だから嘘じゃないんだって!でもそんなこと言うなら楽しい嘘ついてみてよ」
立ち止まって明里の顔を真剣な眼差しで見つめる。
「な、なによ」
「…………お前今日の国語の時間スカートめくれてパンツ丸見えだったぞ」
「やだエッチ!そんなの騙されないもん!」
「……」
「……本当に嘘だよね?」
「……」
「ねえ嘘なんでしょ?本当に嘘なのよね?」
「……」ニマニマが抑えきれなくなって横を向くと、明里はなにか勘違いしたのか、顔を真っ赤にして、太もものスカートを強く抑えて、肩を震わせながらまくし立ててきた。
「え、ちょっと本当なの?なんで教えてくれなかったのよ!エッチ!変態!スケベ!腐って死んじゃえ!」
「アッハッハ!嘘に決まってんじゃん。やっぱ明里はバカだなあ。笑いとまんねぇ」
「んーーーもう!ユウ君のバカーーー!!」
その日は明里をからかって笑って、心配する必要なかったなーとか思って、いつもと変わらない楽しい日常だったのだ。でもこの日からだんだんと明里はおかしくなっていった。