Q1.凡人が天才に打ち勝つことは可能ですか? 作:ヨゾラテントウ
校舎の一角である図書館にて。
俺は手に持っていた本をパタンと閉じる。
そして、椅子の背もたれへと思いっきりもたれ、読み終わった興奮を吐き出すように息を大きく吐いた。
「あー、面白かった! やっぱこの本最高だわ! 主人公カッコいいし、ヒロイン可愛いし! さてさてじゃあ……って」
思わず溢れる笑みを抑えきれず、次巻を取りに席を立とうとして気付く。
既に夕方、窓からは赤みがかった光が差し込んでいて……ってやべ。
「ヘネル君。本を沢山読むのは感心だけど、もう少し時間を考えて行動してくれるとお姉さん嬉しいなぁ?」
「あー、その、えーっと……あの、ですね」
気付けば俺の背後に立っていた自称お姉さんこと、図書館の司書のセレナさん。
おそらく鬼の如きオーラを以て
もしかしたらその赤い髪も逆立っているかもしれない。
そんなしょうもないことを考えている暇もなく、俺はすばやく言い訳の構築を始めた。
「……この、本が面白くて、時間忘れてました」
「知ってる? もう閉館時間は1時間前に過ぎてるんだよ?」
「すみませんでしたァ!!」
「よろしい」
依然として怖い笑みを浮かべるセレナさんに全力で謝りながら、即座に本を返しに全力小走りダッシュ。
そんでもって本を元の場所に差し込んだ。
「もう、そんなに急がなくてもいいのに」
「いや、でも遅くなっちゃいますし」
「もうだいぶ遅くなってるから1、2分くらい誤差よ」
「いやほんとすみません……」
「いいわよもう、終わったことだし」
微笑を浮かべながら隣で話すセレナさんに戦々恐々としつつ、一旦心を落ち着かせる。
そんな俺を温かい目で見つめていたセレナさんは、ふと俺が返した本を見て「あら?」と声を漏らした。
「……へネル君、キミってこういう……ライトノベルの類って嫌いなんじゃなかったの?」
「いやぁそれが、ちょっと前までは嫌いでしたけど、手出してみたらめっちゃくちゃ面白くって」
「そう、良かったじゃない! あ、じゃあこれで、読む本がまた増えたわね?」
「まぁそうっすね。食わず嫌いってよくないなぁ」
「そうね。 ……あ、じゃあ約束通りお願いね」
「ハイ、了解です」
苦笑いしながら答えつつ、前々から決まっている『1分でも閉館時間より遅く出たら、俺が閉館作業をやる』という約束に従って閉館作業をしていく。
何度も何度も俺が閉館時間を過ぎてまで本を読み続けるから、そんなルールまで出来てしまった。
伊達に図書館で暮らしてるんじゃとか言われていないのだ。
……いや、胸張って言う事じゃないけど。
「あんまりにも遅かったから閉館作業はあらかたやっておいたけど、一応魔力灯のチェックとかカーテンとかお願いねー」
「わかりました。じゃお疲れ様です」
「ええ、へネル君もお疲れ」
そうしてセレナさんが帰った後。
何度もやっているせいで、最早手馴れてしまった閉館作業をやりながら、俺は先程読んでいた本のことを思い出していた。
「……『凡人でも努力すれば、天才を超えられる』……か」
巷で大人気の新ジャンル小説“ライトノベル”。
その中でも常に上位の人気を保っている小説の一文……というか、台詞。
正直、天才のライバルを超えるために努力しまくって……って流れはすっごく熱かったし感動したと言っていいだろう。
……けど。
読んでて思ってしまった、心の隅にあった違和感。
「努力できる時点で天才だ、なんて思っちゃうのは俺だけなのかね」
Q1.凡人が天才に打ち勝つことは可能ですか?
A.不可能だろ。
面白かったのは間違いない。
けど、現実の俺と重ね合わせた時に感じてしまった無力感。
そして同時に、いい作品を読んだ後の満足感。
その二つを抱えながら、俺は図書館を出て鍵を閉めた。