マフィア珍道中、リプレイ!   作:スヲウ・シラサト

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何本かに分けます、ご了承ください。


第1話

 

 

____すぐ背後で建物の崩壊する音を聞きながら、稔は自分の命よりも大事な、大事なものをを抱えて死に物狂いで走っている。

 

____両腕と足の筋肉が悲鳴を上げ、足りていない酸素を求める肺に、必死に空気を送り込みながら稔はきっとこう思うことだろう。

 

「……ッ!どうしてこんな事に…!?」

 

______

_____

____

 

俺は佐伯稔。世間一般で言うところの、いわゆるマフィアの一員である。俺の祖父が元々この組織に所属しており、祖父伝いって形で俺も加入させてもらった。組織の名は「禍ゐ組」。日本名ではあるが、イタリアのマフィア組織である。どうやらボスが日本の極道が好きだからこの名前らしい。禍ゐ組はこの辺り一帯でそれなりに顔が効く組だ。今のボスが3代目で、先代からこの土地に根付いていたとか。そして……そんな組の一員の俺は今……

 

ボスの部屋に呼び出されていた。

 

「……いきなり呼び出しって……なんかやらかしたか?」

廊下を歩きながら考えるも、親父が亡くなった時に相続金をちょろまかした程度しか思いつかないし、そもそもこれは組の事には当たらない。

「検討もつかねぇな……?とりあえずいきなり首なんて事はないと願いたいが」

周りから、あいつ何かやらかしたのかな?かわいそうに……などと聞こえてくるが、割と自分の知らぬところでやらかしているのかもしれない……と焦る気持ちが湧いてくる。

 

などと、考えながら歩くうちに、ボスの部屋の前に着いた。警備係に声を掛ける。

 

「ボスに呼ばれた佐伯だ、いいか?」

「あぁ、構わん。通れ」

 

思いの他あっさりと通してもらえた。

 

「佐伯です、失礼します」

……ノックもしたのだが返事がこない。一応警備係に許可は取っているため、そのままボスの部屋に入る事にした。すると

 

「あら、佐伯じゃない。珍しいわねパパの部屋まで来るなんて。」

「む、来たか。」

そこには談笑していたボスと、お嬢……ボスの娘がいた。俺は一応幹部に当たる地位にいるが……その実、俺の仕事はお嬢のお世話係だ。お嬢……いや、この神楽葵という子は、小さな体に見合わぬ凄まじく整った容姿と、12歳とは思えない精神力がある。銃の腕前も、そこらのマフィアと比べても、葵の方が上手いと言える。……が、とんでもなく面倒臭いと言うのが本音だ。目を離せばすぐにどっかに行くのは当たり前、身長が小さいから隠れられると本当に見つからないし、ましてやこの拠点は組の大きさがそれなりなためそれ相応に広く……お嬢が隠れると毎度の如く俺も駆り出される。朝昼夜と関係なく、おてんば娘という表現が近い子だ。

「まぁ、ボスに呼ばれたので。……ボス、何か御用命でしょうか」

「あぁ、まぁ座れ。立ちっぱなしも酷だろう。」

ソファに座る様に促される。失礼します、と座ると、ボスは要件を話し始めた。

「佐伯、お前はここ最近この近くで勢力を拡大してる組を知ってるか?」

「……はい、確か《ナイトゴーント》、ですよね」

近頃勢力を増す謎の組織《ナイトゴーント》。その動向は、この辺りでは最近話題に上がっている。

「あぁそうだ。元々あそこはちいせぇ組でな、特段気にする様なもんでもなかったんだが……近頃【先代】っつう奴が来た時期からガラッと変わっちまった。瞬く間に周囲の小規模組織を吸収、今じゃ大規模な組になった……うちとやり合えば勝ったとしても、確実に大きな損害が出る」

「パパ……」

お嬢も少し不安そうな顔をしている。

 

「一番まずいのはな、そこの先代ってのがどんな人間なのかまるっきり分からねぇ今の状態だ。もし今抗争が起きれば、両方の組織で大量の血が流れる事になり、勝ったとしても厄介ごとや後始末に追われる日々が続くだろう。……私はそんなことに手を掛けたくない、そんな事をするくらいなら葵ちゃんと遊んでいたい!」

 

「ぱ、パパ……気持ちは嬉しいけどそれはボスとしてどうなの……?」

 

いや、ボスが親バカってのは知っていたが……ここまではっきり言われると流石に引いてしまう。……現にお嬢もボスの様子に引き気味だ。……だが言っている事自体は最もだ。

 

「そして要件ってのは、ナイトゴーントについてだ。佐伯、お前の腕を見込んでナイトゴーントに潜入して、やつらの異常な勢力拡大の裏に何があるか探ってもらいたい。」

 

潜入調査……まぁそうだろうとは思った。ナイトゴーントの近頃の勢力増加速度は、はっきりと言って異常だ。2ヶ月経たないうちにウチの組と並ぶ大規模組織を作り上げるなど普通は不可能だ。

 

「……パパ、ちょっと佐伯一人には荷が重すぎない……?相手はそんな速度で大きくなってる組織なんでしょ?監視や警備も厳重だろうし、いくら佐伯が優秀でも一人で行かせるのはやり過ぎな気がするんだけど……」

「それは分かっている。だが、あの組の警備が厚いと言う事は、人手をかける分、相手にバレる確率も上がってしまう。それが発端になってやつらと抗争になってはお終いだからな。だから一人でも活動でき、優秀な佐伯に頼んだんだ。」

「お嬢、心配ありませんよ。」

「……さて、そうと決まれば作戦開始は明日の深夜だ、なるべく早い方が良い。私は君の任務終了までに溜まっている仕事を全て終わらせる。そして!キミが戻ってきた暁には褒美と休息のために長めの休暇を用意しよう、世話役のキミが休んでいる間、葵の面倒を見るという任務は私が身を粉にして全力で遂行しよう」

 

((ボス/パパはお嬢/私と遊びたいだけでは……?))

 

「まぁ、久々の親子団欒でしょうし、楽しんでください。では俺は情報を集めに行ってきます」

「あぁ、頼んだ」

そうしてボスの部屋を出た。

 

「…………♪」

楽しそうな顔をしたお嬢に気づく事なく。

 

 

任務決行に向けて、時間はあまりないがとりあえず情報を集める事にした。

すると、

「ハロー佐伯、手伝いにきたよ?」

「ん、お嬢ですか。それは助かります」

「ま、佐伯なら要らなそうだけどね」

どこからともなくお嬢が近くにやってきた。どうやら一緒に調べてくれるらしい。正直一人で集まるのは大変だから、人手があった方がありがたい。

 

その後2人でパソコンやスマホを使って調べる事にした。しかし、そもそもマフィア関連の記事だ。ネットに野晒しになっていれば、SNSの本社などが不適切な情報として消去してしまう可能性が高い。

(んー……しばらくネットを漁ってはいるものの……そこまで有益なものは……って)

その時、ふと気になる記事を見つけた。以前ナイトゴーントの抗争現場を見たという人のSNS投稿の切り取りだ。……その記事の内容によると、どうやらナイトゴーントは何か「捜し物」をしているらしい。……他にも見たかったが、どうやらこのアカウントは既に削除されており、その他の投稿は見れなくなっていた。

「これ以外にもあるか……?」

「こっちはないわね」

 

……結局、これ以外にあまり有益な情報は得られなかった。

 

「んー……あんま役に立たなかったわね私。」

「別に構いませんよ、人手が多いに越した事はありませんし、今回たまたま俺が見つけられましたけど、お嬢がいなきゃ情報の量が多くてあの記事に辿り着けなかった可能性もありますから。」

「まぁ、それなら良かったわ」

 

しかし、任務中で俺がいない間……か、

「……お嬢、俺がいない間大人しくしてて下さいね」

「ん〜?わかってるわよそんな事。……まぁ、私を止められるドキドキがあったら大人しくしてるし」

注意しても聞いてるのか聞いてないのかわからない態度で受け流される。まぁ今に始まった事ではないが……

「はぁ……あまりボスを困らせない様にしてくださいよ?」

「もー、佐伯は心配性だねぇ」

 

……流石にちょっと腹が立った

 

「だ れ の せ い で こうなったと思ってるんですか??」

 

誰のせいで、を強調して聞いてみる。しかしお嬢は涼しい顔をして

 

「それなら〜、佐伯が退屈を凌いでくれたってい い ん だ よ ?」

 

と、満面の笑みで返された。俺、仮にもマフィアの幹部なんだけど……お嬢の胆力は一体どうなってるんだか。

 

「お嬢、聞いてました?今から任務なんですよ。に・ん・む、わかります?」

「バッチリ聞いてたし、わざわざ佐伯の心配をしてあげたのは私なんだぞ?」

「心配してくれるのはありがたいですが……」

「はいはい、そうやって怒ると精神擦り減るよ〜。これから任務ならリラックスしてちょっとでも休みな?」

そう言うと、お嬢は持っていた小柄な鞄からジュースを手渡してくる。ほれのめ、と言わんばかりのドヤ顔に若干腹は立ったが、貰ったからには頂こう。

「ありがとうございます」

「ま、任務頑張ってよ。もし佐伯が帰って来なかったら……私がそっちまでお迎えに行くかもしれないよ?」

「ぜっっっったいに来ないでください」

「流石に傷つくなぁ!」

そんなこんなで、俺とお嬢は別れた。

 

「さーて、私も準備しますかね。ふふっ」

 

______任務決行時刻

 

「さて……行くか」

 

俺は車に荷物を詰め、そのまま相手の拠点までの道のりを高速道路に乗って進む。久しぶりに一人の任務、しかもお嬢の子守りもない。正直、かなり楽しみだ。

 

「〜〜〜♪」

鼻歌だって歌いたくなるし、お嬢が居ない今ならタバコを久々に吸ってもいい。まぁタバコをふかしながら深夜のドライブも悪くない

 

______はずだった

 

なんだかトランクからガタガタと音が聴こえる。……トランクから音がした?いや、トランクの中の荷物は奥のワイヤーで固定してある、音がするはずはない。しかし……明らかに物音がする。ネズミとかが入ったにしては音が大きい、明らかに大型……旅行ケースとかの擦れる音だった。……凄く嫌な予感がする。

 

ガタガタッ

 

「…………、…………」

 

トランクから、聞き馴染みのある人の声がした。…………一番想定したくなかった、最悪の可能性が思い当たる。悲しい事に、先ほどサービスエリアを通り過ぎてしまったため、ここしばらくサービスエリアはない。

 

「…………はぁ、もう!」

仕方なく、路肩に寄せて車を停める。車を出てトランクを開ければ、そこには自分が荷物を詰めた時には入っていなかった旅行ケースが入っていた。迷わずケースを開け、中を確認すると、

 

「あら、存外早かったわね。これでもバレないタイミングを狙って入ったのだけど。ハロー佐伯、遊びに来たわ」

「…………何やってんだよ!このクソガ…いや、お嬢!!」

 

思わずブチギレそうになってクソガキと叫びそうになった……って、当たり前だろ!なんで葵がここにいるんだよ!本当に危険な任務なのはボスからの依頼の話で十分分かってるはずなのに……!

 

「あら〜?私にクソガキなんて言っていいの?」

「ぐ……今のは言い切ってないんでセーフでお願いします。って、それよりなんでここにいるんですか!」

「……まぁ、佐伯との付き合いは長いからクソガキ呼びは特別に見逃してあげるわ。それとなんでって……私に聞く?こんな楽しそうな匂いに乗らないわけないでしょう。それに、人手が増えるのになーんのデメリットもないでしょうに。情報を得るのに手が足りないなんてのは論外、そうは思わない?」

 

と、悪びれる様子もなく言ってのける。いやいやいやいや、楽しそうだからって乗るなよ!下手すりゃほんとに死ぬんだぞ!?それに……

「人手が増えるにしたって、大人が一人増えるのと子供が一人増えるのとじゃ大違いでしょ!」

「そう?そこらのぺーぺーよりはよっぽど使えると自負してるけど。佐伯の身長じゃ入れないダクトとかにも入れるし」

「そりゃお嬢の腕前はそこらの新人なんかよりよっぽど頼れますけど……これ、ボスに知られたら俺間違いなく死ぬんじゃないかな……」

今から葵を突き返しに行こうかと考えたが……

 

「ま、今更ウチに帰ろうってのはナシよね?潜入のタイミング的にこの時間を逃せばまた警備が頑丈になるし、それでタイミングを逃して潜入できませんでしたー、じゃ話にならないわよ?」

「うぅ……行くしかないのか……?」

「帰るなんて選択肢は、車が発進した時点でないのよ。文字通りのタイムオーバーで任務失敗になるよりいいでしょうに」

 

よ く ね ぇ よ !

仮に成功しても下手すれば俺の首が飛ぶんだよ!そこで考え始めた時、ふと気づいた。

 

俺は今、車のトランクに入っている120cmくらいの女児と会話している。道路の路肩で、それも明らかにそういう雰囲気を纏った大の男が、だ。

 

(やばい通報される!!)

 

「足手纏いにはならないわよ多分……って、気づいたわね。ま、さっさと座席に乗せなさい。誘拐容疑で捕まってもゲームオーバーよ。」

 

俺は渋々、お嬢を隣の助手席に乗せて走り出す。……この数分でものすっごいストレスと心労が掛かった気がする。対してこのおてんばお嬢はしてやったりとでも言わんばかりのドヤ顔を決めているので、俺は初めてお嬢を心底殴りたいと思った。

 

「ん〜、夜のドライブも良いわね。なんか唆られるわ」

「俺は憂鬱ですよ……」

 

……そして再び走り出して20分を過ぎた頃だろうか。

 

(距離はあるが、そろそろ相手のシマに入るな……)

なんて考えた直後、

 

パァンッ!

 

「!?」

「わぉ」

 

突如乾いた銃声が響き渡り、俺の車のサイドミラーがパリンッ!と音を立てて撃ち抜かれた。

 

「お嬢伏せて!!」

「伏せなくても大丈夫よ。……小さいからね」

 

サイドミラーを確認すれば、銃弾がめり込んでおり、左右と後ろを走行する車が、自分たちに銃を向けていた。

 

「クソッ!既に勘付かれてたか!」

「んー、これはいきなり大ピンチね」

 

相手のシマに入った時から勝負は始まっていた。

 

___今から始まるのは命のやり取り、日常は今終わりを迎えた。

 

「ひりついてきたじゃない……!」

「言ってる場合か!!」

お嬢は懐から拳銃を取り出す。囲まれていては、逃げられるなんて甘い考えは捨てるべきか……

 

「切り抜けますよ、お嬢」

「もちろん。サポートは任せなさい」

 

すると右側を走っていた車が、俺の車に衝突しようと突っ込んでくる。

 

「ッ!なんのっ!」

幸い、左の車が被害を避けるために下がったため、そこに合わせる様に避け、速度が落ちた車に焦点が定められる。

 

「狙い撃ちよ」

 

パンと、またもや銃声が響く。しかし今度はお嬢の発砲であり……

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!」「馬鹿野郎!なにし……うわぁぁ!!」

 

その弾丸は相手の車のタイヤを正確無比に打ち抜いて走行不能にし、そこに後ろにいたもう一台が突っ込んで衝突。そのまま2台まとめて止める事に成功した。

 

「片手でも命中させられるわ!巻き込み連鎖まで完璧ね!」

「無茶しないでくださいよ……でも感謝します」

(銃の腕はほんと良いんだよな……お嬢)

残る車は一台……だが油断は出来ない。

 

パンパンッ!

 

今度はお相手さんが発砲してきたが、流石に拳銃の球までは避けられない。だが……

「車体が撃たれたけど大丈夫?」

「アクセルとかに不調なしです!」

生きて走るならヨシ!その次の瞬間、後ろから発砲してきた車が猛スピードで迫るが、

 

「もう突っ込んでくるのは見てんだよっと!」

車線をもう一度右に戻す事で突進を回避し、

 

「ナイス回避よ佐伯、あとは任せなさい」

そう言ったお嬢は少し怒っている様に見えた。

 

そして、お嬢の放った銃弾は、最後の車の脚を破壊した。

 

「ふぅ……って、なんとかなりましたけど、後でボーナス弾むようボスに頼んでくださいね!」

「保証はしかねるけど別に良いわよ?じゃあ私は佐伯からちょっとお小遣いでも貰おっかな」

「お嬢は俺より金持ちでしょ!」

 

そしてカーチェイスは終わり、そのまま緩やかに目的地に……なんて、そうは問屋が下さない。

 

「まずいわね」

「!?」

後ろから新たに6台ほどの車が、明らかに殺意を持ったスピードで俺らを取り囲もうと猛追してくる。

 

「くそっ!またかよ!」

「銃弾だけじゃ……流石に処理が追いつきそうにないわね」

 

そのままジリジリと距離を詰められ、追いつかれそうになったとき、

 

"…ま…か…。聞こ…す…か…。聞こえますか…。"

 

不意に、何処からか頭の中に声が響いた。

 

イヤホンを通しているわけでも、無線を介しているわけでもないのに、頭の中に言葉が流れ込んでくる謎の感覚に襲われた。

 

「な、なんだ……?これ」

「聞こえてるよ、オーバー」

 

どうやらお嬢にも聞こえているらしい。

 

"あぁ、良かったです。私は……そうですね、ハナ。ハナとお呼びください。"

 

またも脳内に声が響く。この声の主はハナと言うらしい。だが、そんな事はどうでもいい。

「……で、何の用だ。悪いけど俺らは今呑気に交信してる余裕はないんだよねっ!と!」

 

徐々に追いついてきた車が、何度も追突しようとやってくる。このままだと確実に追い詰められて死ぬ!

 

するとハナは、

"今は説明する時間も惜しいんです。…どうか私を信じて、そのままフルスピードで直進して下さい。"

 

「直進……?」

 

前方を確認しても、そこにはただの一直線の道路が続いている。この声は幻覚や幻の類なのか……?

 

「やろーよ佐伯。」

そう切り出したのはお嬢だった。

「どのみちこのままカーチェイスを続ければ、そのうち私の弾もなくなる。最終的にそのまま詰められてお陀仏なんだし、死ぬよかマシだよ。多分」

 

「……ははっ……やるしかない、か。お嬢、しっかり捕まっててくださいよ!」

「オッケー!頼むよ!」

 

覚悟を決めてアクセルを踏み込む。すると、直感的に理解した。明らかにスピードメーターの表示より速い、と。俺の車は後ろの追跡者たちをグングン引き離す。

 

“信じてくれてありがとうございます”

 

「助けてくれた……のか?感謝する。それよりここからどうするんだ?」

 

"そのままアクセルを全開で進んでください。そして、荒っぽい手段ですがすみません!舌を噛まないように、あと、気絶しないようにだけお願いします!"

 

すると俺たちの数百m先の地面が隆起し、見事にジャンプ台の様に変化した。

 

「クソッ!追えーーーッ!やつらを逃すなぁぁぁ!!」

後ろから叫び声が聞こえ、追跡者からの銃撃も一段と激しくなる。

 

"そのまま突っ込んで!"

 

「お嬢!口閉じて!」

 

「ん!」

 

そして、俺たちはふわりとした一瞬の感覚と共に、宙に舞う。

 

"今です!"

 

示し合わせたかのように、ヘリコプターが接近した。

 

"早くこちらにっ!"

 

おそらくハナの仕業だろう。ヘリコプターからは縄梯子が降りている。この距離なら、届くはず……!

 

しかし、焦っていた俺とお嬢はシートベルトを外すのに手間取り、車の落下に合わせて梯子が遠ざかる。

 

「……!」

「さえ……っ」

 

お嬢は俺に抱きつき、俺はそのままの勢いで梯子まで全力で飛んだ。……しかし、高度が……!このままだとお嬢ごと地面に落ちて死ぬ!死なせて、死んでたまるかよ!

 

どうか……届けッ!

 

…………恐怖で閉じてしまった目を開けると、一番下の梯子に、俺の服が引っかかっていた。

「ぐっ……!い……ける!」

その時、追手の銃弾が足を掠めたが、そんなこと知った事ではない。動かせ、稔、根性でもなんでも良い、生き残ることだけを考えろ!

 

「ぜぇ……はぁ……ゲホッゲホッ」

半ば強引だったが、なんとか登り切れた。……この世界に来て、今が一番命を実感している気がする。

「……コヒュー……コヒュゲホッゲホッ……!さえ……い……いき……てる?」

「お嬢……!」

お嬢は好奇心旺盛ではあるが、母方の遺伝で身体が弱い。ましてや、文字通りの死の淵を見たショックは俺よりも大き……

 

「ゲホッゲホッ……すーはー……あ"ー!ヨシ、生きてる!」

なんだその逞しい精神は。心配した分の俺の心を返してくれ。

 

「本当にギリギリでしたね……見ていてこっちがドキドキしましたよ、大丈夫ですか?」

 

声の方を向けば、肩ほどに揃えた銀髪に、青い目の女性がこちらを伺っていた。……随分と綺麗な容姿だ。お嬢と同格と呼べる容姿の人間を見たのは、多分この人が初めてだと思う。そして、声からして、彼女がハナだろう。

 

「あんたがハナか。助かった、礼を言う」

「同じく、礼を言うわ」

「ええ、私がハナです。それと、礼なら構いませんよ。私の目的のためにも、貴方たちに生きてもらわないと困りますから。」

「……それは良いが、俺たちを生かさなければ困るって、一体何が目的だ?」

「目的……と言われましても。あまり詳しくは答えられませんが、強いて言うなら、貴方たちの生存は私の利益になる。貴方たちはあの状況を生き残れた、私は貴方たちを生かすことで利益を得た。それだけの話ですよ」

彼女はそういうとニコッと微笑む。話の内容が見えて来ないが、命が助かった分儲け物か。

「利益の一致……とでも考えれば良いのかしら」

「その認識で構いませんよ」

……しかし、やむを得ずヘリコプターに乗り込んだが……

「……このまま、どこへいく?」

 

車はおじゃん、ヘリコプターなんかで敵のアジトに行けば、まず間違いなく迎撃されてお終いだ。

「必要だったとはいえ、貴方たちの車を破壊してしまいましたし……お詫びも兼ねて目的地までお連れしますよ」

 

なんだか、頭が回らないな……

「あぁ、頼む」

「お願いするわ」

するとお嬢が振り返り、

「佐伯。足怪我したでしょ出しなさ___」

と言い終える前に、突然ヘリコプターがガタリと大きく揺れた。

「ぐっ……!?何が起こった!」

「きゃっ!?」

再び、全身に嫌な予感がする。

「……!すみません、先ほどの追っ手の銃弾が原因でプロペラの根本が故障しました!」

「はぁ!?」

「嘘でしょ!?」

 

つまり……

 

「「墜落するってこと/ことか!?」」

「そうなります!」

落ち着け、焦れば命が消えるぞ、稔。

「パラシュートはないの____」

そして立ち上がった時、グワンとまたヘリコプターが大きく揺れ、怪我をした足では踏ん張りが効かずそのままヘリに頭を強く打ち付ける。

 

「ぐぁっ……!」

 

「なにやっ……の………ば…!」

お嬢の言葉が途切れ途切れに聞こえたのを最後に、俺の意識は消えていった。

 

 

______!!

 

___ぇき!!

 

誰だ……?うるさ……

 

「佐伯!起きて!」

「……お嬢?こ、ここは……?それにハナとか言う女は……ヘリはあの後どうなっ___」

「全部わからんからとりあえず起きろ!」

お嬢に言われて、半ば強引に起こされる。そして視界に入ったのは、辺り一面に花が咲き乱れる花畑だった。あまりの美しさに、思わず目を奪われた。かつて読んだことのある絵本の世界、そう呼ぶのがしっくりくる。そして、自分の傍にはお嬢が居た。

「お嬢にお怪我は……無さそうですね、良かったです」

と微笑むと、

「馬鹿!お前は足怪我してるだろサッサと出せ!」

とキレながら言われてしまった。

仕方ないと思いつつ、足を出すと。そこには怪我がなかった。痛みどころか傷跡すらない。

「……傷が……」

「……怪我して……ない??」

 

謎めいた現象に戸惑っていると、突然お嬢が抱きついてきた。

「お嬢、そういうのは嬉しいですけど、ボスとかにした方が……」

しかし帰ってきたのは、予想していない言葉だった。

「ごめんね……さえき……!グスッ……あしで、まとい……ならないって……いったのに……!」

「……!」

……お嬢が泣いたのを見たのは、長い付き合いでこれが初めてかもしれない。

俺の知ってる神楽葵という《お嬢》は、いつも余裕の笑みを浮かべて、俺を揶揄って、問題を起こすおてんばなお嬢だ。

……ただ、それは《お嬢》であって、神楽葵としての彼女の姿を、俺はあまり知らない。顔を埋めて、声を殺して泣く姿は、禍ゐ組のお嬢としてではなく、ただの神楽葵の心なんだろう。12歳の女の子、お嬢の心がいくら強くてもこれは変わらない事実なんだ。

俺は葵の頭に手を置いて、

「お嬢のおかげで、カーチェイスの時助かったんです。……お互い、無事に帰りましょう」

なるべく優しく、そう言った。

 

「…………グスッ……う"ん!」

 

少し落ち着く時間を設けて……

「……さて……任務終わらないと帰れませんが……それにしてもここは一体どこなんですかね」

「……わからない。私もヘリコプターにいたのに気づいたらここに居たんだ。」

「なるほど……」

さっきからお嬢は自分のほっぺたを引っ張っている。なんかいかつねった後に、

「原始的な確認だけど、多分夢の中……なんじゃないかな」

「まぁ……俺の足の傷も消えてますしね」

「佐伯もむにむにしてやる」

「こら…やめてくにゃしゃいよ。……まぁ、その方がお嬢らしくていいですけど」

「ふん!さっき泣き顔見られたもの、これで不問にしてあげる!」

「それはありがとうございます」

お嬢も、多少は元気が出たらしい。

 

そして目覚めてから10分ほど経っただろうか。

 

"聞こ…すか……もうこの流れ…2回目ですが…聞こえますか…"

「こ、この声は!」

「聞こえてませーん……なーんて嘘嘘、聞こえてるよ」

 

"良かった、届いてる様ですね"

 

多分ハナだろう。

 

"こちらの不手際で少しの間眠ってもらうことにしたのですが……思いの外時間がかかってしまいました"

 

「……不思議展開すぎてどこから突っ込めば良いのやら」

 

"こちらの準備が終わったので大丈夫ですよ。……では、おはようございます"

 

「ふぁっ!?」

 

そのお嬢の言葉を最後に、俺の意識は沈んでいった

 

______

 

俺は目を覚ました。傍には、俺にもたれかかって気持ちよさそうに眠ったお嬢がいた。とりあえず一安心だ。そう思って辺りを見渡すと、大分景色が高いことがわかる。下にある模様からして、どこかの高層ビルのヘリポートだろう。そして自分たちの近くには、雰囲気に似合わない可愛いハンドバッグが落ちていた。

 

「んにゃ……さえき……きょうのあさごはん……ちゅくれ……zz」

「寝言か……?」

なんで俺が朝ごはん作るんだか。まぁ良いや。

「にへへ〜…………」

「お嬢、そろそろ起きてください。お嬢」

「おひるはまっくで……ふぇ?」

 

「おはようございますお嬢」

 

するとお嬢は3テンポ遅れで顔を赤くして俯き、

「…………私寝言で何か変なこと言ってなかったか?」

と聞いてきた。

「……全部終わったら、2人でマック食べに行きましょう」

まぁ、このくらいなら構わない。

「ほんと!?佐伯大好き!!」

やっぱりちょっとまだ寝ぼけてるのかな?大好きなんて、これまた初めて言われたぞ。

「……ん?あのバックなんだ?」

「お嬢起こしたら見ようと思って。なんか置いてあったんです」

「ふーん……って、お前、今度こそ足出せ!怪我してるだろ!」

「ははは、お願いしますね」

そういうと、お嬢は俺の足を治そうとするが……

「…………微妙になっちゃったな。痛いの痛いのとんでけー、とでも言ってあげようか?」

「あー……それはボスなら効果覿面だと思いますよ。……痛みは良くなりましたし、ありがとうございます」

「ちっ、佐伯に効くようになるにはもうちょっと大きくならないと対象外かっ!」

……えぇ……?いやまぁ、確かにお嬢はめっちゃ美人というか可愛いけどさ……

「う〜ん……俺、上下5歳以内が恋愛対象なので」

「へーん、そう言っていられるのも今のうちだ!私が20歳くらいになったら、スタイル良くなって佐伯なんかイチコロだもんね!」

「はいはい、そうなりたいなら好き嫌いしないで食べてくださいね。」

「うっさいわ!!」

 

痴話喧嘩もほどほどに、バッグの中身を調べることにした。ハンドバッグには

 

「愛を込めて、Hana」と記されたメモと、持ち運べるタイプの簡易お茶会セット、そして押し花の栞が2枚入っていた。

 

「押し花の栞?……これは……カランコエとモッコウバラか。花言葉はえーと確か……【貴方を守る】と、【幼い頃の幸せな時間】だったか?うろ覚えだけどね」

 

「それとこれはお茶会セット??なんで??」

「アフタヌーンティーでも開けと……?」

 

「……まぁ、せっかくですし、持っていきましょう」

「まぁ、貰うのは賛成だね。悪いものではないし。……にしてもあの銀髪め」

 

すると、バックの横の地面が、月明かりを反射して光った様に見えた。

 

「ん……?」

手で触って確認すると、手動開閉出来る扉だった。

 

「お嬢、この辺扉ですよ」

「え!?隠し扉か!?」

お嬢は目を輝かせながら聞いてくる。

「そうですね……多分手動式です」

思ったより簡単に開いたので、一旦閉めておく。勝手に入られたらたまったものではない。

 

「お嬢、敵地でお嬢って呼ぶのも変ですし、呼び方変えませんか?」

「んぁ?別に良いけど……葵、とでも呼び捨てにする?大の大人がこんな子供に敬語使うのも変じゃない?」

「…………いや、それがボスに知られると怖いんで葵ちゃんで」

「……んふふ、ビビりさんめ♪なら私は……お父さんとでも呼ぶか?この身長差だし、さん呼びしてると怪しまれるかもしれんしな。親子って意味で、関係ある人ですよってのをアピールしてた方が怪しまれにくいと思うし」

 

いやまぁ誘拐してきた不審者って思われるよりは良いけど……

「……若い頃にできたんなら……いける……かぁ??無理がない?」

「ま、その辺は頑張ろうよお父さん。」

いや、お嬢にお父さんって呼ばれんの違和感すごいな……?

 

「それなら……葵ちゃんよりあおちゃん呼びの方が良いか?」

「りょーかい!」

なんかニヤニヤしてんなぁお嬢。ま、いっか。

 

「よろしく、あおちゃん」

「こっちこそ。お父さん!」

 

俺たちは改めて隠し扉を開けると、その先へと進んでいった。

 




ちなみに、こんだけ書いておいて、佐伯さんは私のPCではありません()
私のPCは葵の方です。
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