Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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コーラルと神秘で焼かれた脳から存在しない記憶をようやく綴ることが出来ましたので皆様に提供します。
ヘルメット団、便利ですよね。
いつもどこにでも現れてくれる。
登場らしませんが便利屋68の漫画で見てからラブちゃんラブです。
今回も楽しんでいただけると嬉しいです!


第12話 善良な科学者と強者のメイド

ミレニアムサイエンススクール

エンジニア部部室

 

「さて、どうしようか。」

「どうしようか…ではないですよ。」

 

私はアビドス高校1年生、黒羽レイヴン。

今は先生の紹介でミレニアムサイエンススクールのエンジニア部を訪れている。

何の為かというと、私のもう一つの姿、独立傭兵ナイトフォールの素性を隠しつつ、戦果をあげるための武器を作って貰いに来ている。

キヴォトスの中でも最新鋭、最先端の技術を持つサイエンススクール、その中でも特に精鋭でもあるエンジニア部の皆さんは、半日も経たない間に素晴らしい武器を作り上げてくれた。

 

ここまでは良かった。

私は報酬として、ローダー4の整備と調査をしてもらうことと、彼女達の要望に応えるということを了承してしまった。

その結果、試作武器のテスターを頼まれた私は不本意ながらこのサイエンススクールの象徴であるミレニアムタワーを…攻撃してしまった。

 

「ふむ…今回のようなアクシデントは初めてではないが、少々タイミングが悪いな。」

「うん…ここでセミナーの人達やC&Cに捕まったら、しばらく動けなくなってしまう…。」

「それでは、レイヴンさんの人型ロボット…ローダー4を整備、解析する事ができません!急いでここを離れなければ!」

「……はじめてではない……?」

"あー、うん。彼女達の言う通りだからレイヴンは気にしなくて大丈夫だよ。"

 

そうそうに荷物をまとめ、出発の準備を進めるエンジニア部の皆さんに、まずは謝罪をするべきでは?と意見しようとしたが、その瞬間あの屋上で出会った小柄なメイドさんの言葉を思い出す。

 

「今回はこれで終わりだが、次怪しいことしたら問答無用で蜂の巣にするからな。」

 

…自分が言うのもなんだが、あのメイドさん…美甘ネルさんは話し合いが通じるような相手ではないと思う。

あの時退いてくれたのはまだ何もしていなかったことと、私を庇ってくれたもう一人のメイドさん、一ノ瀬アスナさんのおかげであった。

 

では、今は?

ネルさんは私が先生からの紹介でエンジニア部に用があることと、何か「特殊な兵装」を作って貰っていることを知っている。

そしてエンジニア部の本拠地でもある実習センターから、正体不明の「特殊な兵装」による攻撃がされたとなれば、点と点が線で繋がれるのは時間の問題だろう。

 

彼女の答えはきっとこうだ。

先生とエンジニア部を騙し、ミレニアムサイエンススクールを陥れようとした危険因子。

蜂の巣にされるには理由が十分すぎる。

せめて、彼女がヘルメット団やマーケットガードであるか、ここがアビドスであってくれれば迷いなく応戦するのだが、他所の学園でアビドスの学生が問題を起こしたと知られれば、ただでさえ追い詰められているアビドスがさらに追い詰められてしまう。

どうすべきか分からず呆然としていると、肩をポンと叩かれる。

コトリさんだ。

 

「レイヴンさん!逃走の用意ができました!さぁこちらへ!」

「あ、はい…。」

「事がことだ。C&Cが出てくるのも時間の問題だろう。急がなければ。」

「…緊急シェルターを起動。これで、少しは時間が稼げるはず…。」

"全部済んだら、ちゃんと謝ろうね。"

 

手を引かれるまま、私達は道中のシェルターを閉めながら倉庫の奥へ奥へと逃げていく。

この先にあるであろう裏口から逃走するのだろうか?

そのような単純な方法であのネルさんとアスナさんから逃げ切れるとは思えないのだが…

そう考えながら、最悪の事態に備え自分のライフルの様子を見るが、いや大人しく撃たれるべきなのでは?という考えが生まれたところで先頭のウタハさんが足を止める。

 

「着いたよ。 さて、起動準備をしようか。」

「ふふ…まさか、本当に動かす時が来るとはね…。」

「燃料の投入、物理ロックの解除、各部動作チェック…やる事は多いですが、時間は有限です!巻きで行きましょう!」

 

エンジニア部の3人は目の前の巨大な乗り物に駆け込み、それぞれ作業を開始する。

その巨大な乗り物は輸送車両のようだが…大きすぎる。

一般的なトレーラーを、そのまま3倍に拡大したようだ。一体、これで何を運ぶつもりなのだろうか?

 

「解説が必要ですか!?」

「わっ。」

"解説して欲しいな…これは一体なんなの?"

 

早くも自分の作業が終わったらしいコトリさんが話しかけてきた。

先生の返答に瞳を輝かせ、興奮気味に話し出す。

 

「それではこの車両と、ついでに逃走計画について解説致しましょう!!この車両は通称『コウノトリ』!!5mから20m前後のロボットの運搬を想定した特殊車両です!!

ロボットの運搬だけでなく、使用目的に合わせたコンテナを搭載することで、どこへでも施設をあっという間に作れる優れものです!

例えば、医療機材やベッドなどを用意したコンテナであれば、あっという間に診療所を作れますし、料理器具などを用意したコンテナであれば、あっという間に食堂が作れます!

現在は整備用に使う想定のコンテナが積まれているので、この車両でアビドス高校まで移動し、レイヴンさんのローダー4の整備と解析を行います!

ご覧の通り桁外れの大きさと馬力を持っていますので、発進さえできればC&Cの追跡も振り切れるはずです!」

 

なるほど、この図体を生かして道中の障害物を全て薙ぎ倒して進むつもりのようだ。

なかなか物騒な計画に少し頭が痛くなる。

先生も同様のようだが、引き返せる地点はとっくに過ぎている。

ふと、一つ疑問が浮かぶ。

 

「…あれ、ひとがたのろぼっとは、まだかんせいしていないのですよね?」

"それを作るためにローダー4を解析するんだよね? どうして輸送車両がもうできてるの?"

 

私達の疑問に、調整を終えて再集合したエンジニア部の3人がニンマリと笑う。

 

「分かってないね、先生…。」

「それはもちろん!」

「輸送車両はロマンだからだよ。」

「ろまん…。」

「それに、ロボットを作る技術はまだなくても車を作る技術はもうあるからね。 作れるから作った。それだけだよ。」

"そっかぁ…。"

「うん…まさか役に立つ時が来るなんてね…。」

「さらにロボットの輸送だけでなく、長距離での移動も見越して車内は快適に過ごせるようにさまざまな工夫を凝らしてあります!

Wi-Fiに空調完備にベッドにバスルーム付き!冷蔵庫もついてます!快適な旅になることを保証しますよ!さぁ早く乗り込んでください!」

 

なるほど、先生は少し理解に苦しんでいるようだが、私にはなんとなく理解できた。

彼女達は本当に人型ロボットを作り上げる気であるからこそ、そのロボットを運用するために必要なものも理解しているのだ。

ルビコン3…というよりも、私のいた世界において運搬手段というものはとても重要だった。

いかにACやMTが強力な兵器だとしても、それを使うのは人間であり果てしない行軍や長距離の移動を単体で行わせては無駄な消耗が生まれる。

だからこそ輸送ヘリによる運搬は時間の短縮やパイロットの消耗を抑える等、ACを運用することにおいて輸送機とは必要不可欠なものだった。

彼女達の冴えた思考に感心していると、背後でシェルターが破られる音がした。

ヒビキさんが手元の端末で倉庫までの経路の状況を確認し、冷や汗を流す。

15枚ほどあった緊急用シェルターも残り2枚とのことだ。

 

「早く乗り込んでくれ!発進するぞ!」

"わかった!…ところで、このトレーラーってどうやって出るの?どう見ても出口より大きいのだけれど…。"

「理論だけが先行して材料だけ持ち込んでこの場で組み立てたからね…。 そう、まるでボトルシップのように。」

 

広々とした、それこそ寮の一室くらいはありそうな運転席で、ウタハさんは楽しそうにニヤリと微笑みながらエンジンを起動させる。

 

「でも、ボトルシップと違うところは、このトレーラーは模型じゃないってことさ。 そして…とても頑丈だ。」

"…えーと、つまり?"

「ああ、わかってしまいました。 せんせい、なにかにつかまったほうがいいです。」

 

トレーラーのヘッドライトが光り、倉庫の壁を照らす。

そしてウタハさんは思いっきりアクセルを踏み込む。

猛々しいエンジン音を響かせるとトレーラーは思いっきり倉庫の壁をぶち破り、車道へ躍り出た。

 

「コトリ! アビドス高校へのナビを頼む!」

「了解です!まず次の交差点を左へ!そのまま4時間直進です!ですがこれは法定速度で走った場合での試算です!この通りに走っていては追いつかれます!飛ばしてください!」

「トレーラーもご機嫌だね…。」

 

エンジン音に紛れて、突然学園内に現れたモンスターマシンに生徒達が悲鳴と歓声が混じり合った声を上げているのが聞こえる。

それと、後方ではシェルターが破られ、見覚えのある小柄なメイドさんが突入してくるのが見えた。

気のせいにしたいが、はっきりと目が合ってしまった。

エンジンがかかるのが数秒遅れていたら、どうなっていたことか。

想像するだけで恐ろしい。

特殊車両「コウノトリ」は難なくミレニアムサイエンススクールの境界を突破し、私の故郷アビドス高校へ走り始めた。

 

 

 

 

 

アビドス自治区

アビドス高校まであと40km地点

 

ザザザザザザッ!

 

"うーん…完全に埋まってしまっているね。"

「参ったな…まさか、ここまで砂漠化しているとは想定外だった。」

「道路の整備も…もう随分されてないみたい…。」

「アスファルトの劣化具合から、もう30年は放置されているようですね。まずはこの状況をどうにかしなければなりませんが、抜け出せたとしてもこの先はコウノトリの重さに耐えられるルートをしっかりと選ぶ必要がありますね。」

「…すこしみないあいだに、またすながふえている…。」

 

ミレニアムサイエンススクールを出発した私たちは、コウノトリに備え付けられた快適な室内でくつろぎながらアビドス高校へ向かっていた。しかし、突然道路が崩壊して脱輪してしまい身動きが取れなくなってしまった。

どんなにパワーのあるエンジンでも、タイヤが地面につかなければ意味がない。

常識はずれな見た目に違わず、相応な重量を持つコウノトリは力持ちのレイヴンを含めた5人がかりでもぴくりとも動かなかった。

 

"うーん、まさか2回も遭難する事になるとはね。"

「まずいな…この砂漠の真ん中で、進むことも戻ることもできなくなるとは。」

「インドア派の私たちには…この日差しはきついね…。」

「コウノトリに太陽光パネルとエアコンをつけていなかったら果たしてどうなっていたことか!

おそらく熱中症や脱水症状その他諸々の症状にやられてこの砂漠の一部となっていたでしょう…。」

「…いまおもうと、よくいきていましたね、せんせい。」

 

対策委員会からの救援要請の手紙を受け取り、すぐにアビドスへ出張した時の事を思い出す。

用意した地図はかなり昔のもので一切役に立たず、標識もまばらで当てにならず、どこまでも広がる砂漠を右へ左へ彷徨い力尽きたところでシロコに見つけてもらった。

あの時見つけてもらえなければ、先生としてもシャーレとしても仕事をやり遂げる前に死んでいただろう。

今回は快適な部屋付きの車なので、死んでしまうということはないだろうが、やはりこのアビドスという地は侮れない。

人力ではどうしようもないという結論に行き付いたところで、レイヴンが一つ提案してきた。

 

「…わたしが、ろーだーふぉーでこのくるまをおします。」

「押せるのかい? ローダー4は壊れているんだろう?」

「どうさはもんだいありません。 くれーんのかわりくらいにはなるはずです。」

 

自信たっぷりにレイヴンは答える。

 

"それしかないみたいだね…お願い、レイヴン。"

「まかせてください。」

 

レイヴンにはアビドス高校からローダー4を持ってきてもらう事にした。

冷たい飲み物の詰まったクーラーボックスを託し、砂漠の遥か先にあるアビドス高校へ向かうレイヴンを見送る。

足の速いレイヴンは、あっという間に見えなくなっていった。

 

「…思ったより、早く機会が来たね。」

"そうだね。私も、実際に動くローダー4を見るのは初めてだから楽しみだよ。"

「それもあるが…先生。 レイヴンが居ない間に、聞きたい事がある。」

 

いつもと違い、深刻な問題があると言った口調だ。ミレニアムタワーを攻撃してしまった事よりも、重要なのだろうか?

ヒビキとコトリも、険しい顔をしている。

 

"…どうしたの?"

「万一のこともある。 先生、こちらへ。」

「私達は、外で待ってるね…。」

「私でも、解説できないことですからね。 邪魔にならないようにしておきます。」

 

そういうと、運転席の後ろにあったドアに通され、窓のない代わりに、未来的なスクリーンやディスプレイが多数ある密室へ通される。

なんだか連邦生徒会の作戦会議室のようなところだ。

 

「まず先生。 先生は、レイヴンのことに関して、どれほど知っている?」

"レイヴンのこと?…そうだねぇ、色々問題はある子だけど、優しい子だよ。"

「なるほど、質問を変えよう。 先生は、レイヴンの『過去』についてどれほど知っている?」

 

ウタハの目が、鋭い。

やはり世間話がしたいという訳ではないらしい。

 

"…なにか、気になる事があるの?"

「そうか、やはり知らないか。…なら、伝えておこう。」

 

そういうとウタハはディスプレイに映像を流し始める。

エンジニア部の部室で行ったレイヴンの身体能力を測るための戦闘テストの映像が流れ始め、停止される。

ウタハが再びディスプレイを操作すると、レイヴンが段々と透過され、骨格や内臓などが映し出される。

 

"う、ウタハ、これは?"

「今回は完全にレイヴン用の武器の製作だったからね。彼女の事を徹底的に調べる必要があった。重心の偏りとか、利き腕の使い方とかリロードの癖とかそういったことにね。」

「他にも、どこか本人でも知らない傷だとか骨折などがないか色々調べさせてもらった…もちろん、この映像は悪用しないさ。」

 

途中、レイヴンが一糸纏わぬ姿になる瞬間があったのでその言葉に安心する。

だが、わざわざこの話をするということは、深刻な傷があったのだろうか。

 

"…どこか、悪いところがあったの?"

「その方が、よほど良かっただろうね。病院に連れて行けば済む話だ。…これだよ。」

 

レイヴンの頭部が拡大され、再び透過される。レントゲン写真のようなそれには、レイヴンの脳の1番奥に黒い影を写していた。

 

"これは…腫瘍か、なにかなの?"

「違うね。…これは、機械だ。」

"機械…!?レイヴンの頭の中に、機械が埋め込まれてるってこと!?"

「その通りさ。…少し、映像を進めようか。」

 

ゆっくりと、1コマずつ映像が進んでいく。

突然、レイヴンの頭の中の機械から赤い光が発し身体を駆け巡る。

ちょうど、ドローンからの射撃を認識して回避した瞬間だった。

他にも、地面を大きく蹴り跳ねる瞬間に、近づいてきたロボットを蹴り飛ばした瞬間に。

レイヴンの中の機械は禍々しい赤い光を発する。

素人の私でも、これが治療の為に埋められているものではないという事が分かった。

 

"ウタハ…この機械は、一体何なの?"

「推測だが…この機械は、レイヴンの知覚や身体能力を増幅させている。戦闘能力に関しては彼女自身の経験もあるのだろうが、弾丸の発射を正確に認識したり、あの見た目からは考えられないほどの脚力が発生しているのはこの為だろう。」

 

ウタハはディスプレイを操作し、レイヴンの頭の中に埋められている機械が再現された3Dモデルを表示する。

ほんの、小指サイズの小さな機械。

 

「昔、資料で似たようなものを見た事がある。実物はない。 この研究をしようとした人は、理論を提唱した時点で退学させられたらしい。」

「人の脳に特殊な信号を流す機械を埋め込み、知覚や身体機能を強化させ…そして、感情を制御し理想の兵士として『作り直す』」

 

『作り直す』

その単語に、私は青ざめる。

あの幼さであの強さのレイヴンを、私は才能に溢れていると思っていた。

だが、違うのか?

レイヴンは戦闘に類い稀な才をもっているのではなく、そういう風になるように『作り直された』のか?

ウタハの拳が、強く握り締められ、少しずつ語気が強くなっていく。

 

「様々な研究者が集まるミレニアムにも、超えては行けない領域というものはある。 深刻な環境汚染を引き起こす危険のある研究や、大量破壊のみを目的とした兵器の研究…他にも色々あるが、その中の一つに、人間の改造がある。」

「技術とは、人の暮らしを豊かにするためのものだ。その過程で生まれたものが、悪用されることがあるのは、仕方ない。」

「…だが、最初からその人の人生を奪い、ただの『便利な道具』にするための研究など、出来たとしても許されるものじゃない!!」

 

バン!!とウタハは強く机を叩く。

私も、大きな怒りの感情が湧いてくる。

レイヴンの、あんな小さな子の人生を、弄んだ誰かがいる。

ホシノはレイヴンを高校1年生、つまり15歳としているが、あの身長では10歳に届いているかどうかも微妙なところだ。

つまり、レイヴンはこの機械を埋め込まれた時から肉体は成長していないのかもしれない。

 

「だから、あの時、レイヴンが机をひっくり返して怒った時は…少し安心したんだ。

ああ、ちゃんと人間なんだな、とね。」

"そうだね…それに、ラーメンも、たい焼きも、とても美味しそうに食べるよ。"

 

レイヴンが柴関ラーメンを食べた時の姿を思い出す。

一口食べて、涙を流し、そのまま泣きながら一気に食べ尽くしていた。

食べ終えた後も、その美味しさに感動して泣き続けていた。

あの時は、表現が少々オーバーな子だと思っていたが、違う。

本当に、初めてだったのだ。

美味しいものを食べる。そんな当たり前の、普通の出来事が、彼女にとってあの時が、初めてだったのだ。

 

「…この機械を作った人物が、どんな崇高な思想を持っていたとしても、私は軽蔑する。 けれど…」

 

ウタハは怒りのこもった瞳で、話を続ける。

 

「逆に言えば、レイヴンのいた所は、これがまかり通るところだったんだ。…きっと、私達では想像も出来ないほどの、地獄だったんだろう。」

"…つまり、いまレイヴンが生きてここにいるのは…。"

「…この機械のお陰だろうね。皮肉なものだ。レイヴンの人生を奪ったのがこの機械なら、生き延びさせてきたのも、この機械なんだ。」

 

ウタハは一度深呼吸して、私に語る。

 

「先生、ただの一生徒で、知り合って間もない私が言える事では無いのだろうが…レイヴンには、優しくしてあげてくれ。」

"…もちろんだよ。彼女の過去がどんなものであろうと、今は私の大事な生徒だからね。"

 

しかし、私はレイヴンのことをもっと知らなければならないと思った。

特に、彼女と関わりが深い人物であろう「ウォルター」について知らなければならない。

そして、このキヴォトスで1番レイヴンと関わりが深いホシノにも、この事を伝えておくべきだろう。

 

ウタハ達が知ってしまったレイヴンの秘密は、もちろん本人には秘密にしておく。

レイヴンの頭部の写真をいくつか携帯に移し、密室を出る。

気を取り直して、レイヴンの帰りを待つ。

音楽を流したり、コトリからこの車の作成時の思い出話を聞いていると、突然アラートがなる。

 

「むっ!?広域レーダーに反応…こ、これは!?ヘルメット団!?こんなところにも…。」

「まずいな…数が多い。 そもそも私たちの中で前線を張れるのはコトリだけだ。この暑さの中では雷くんの性能低下も免れないだろう。」

「…砲撃でも、焼石に水にしかならないだろうね…。」

"…話し合いでなんとかならないかな?"

 

運が悪いことに、カタカタヘルメット団の残党に見つかってしまったようだ。

本拠地をアビドス高校の皆によって破壊されたカタカタヘルメット団は方々に散ったとされているが、今回は数が揃っている。

優秀なリーダーがいるのだろう。

話せば見逃してくれるかもしれない。

そんな藁に縋るような希望論は、聞こえ始めた銃声によってかき消される。

 

「まずいですよ!奴ら発砲しながら近づいてきます!既に勝った気でいますね!文句の付けようがありません!私一人では圧倒的不利!そもそも防衛戦においては攻める側よりも3倍の戦力を用意する必要があるというのが定説であり…なんて言ってる場合じゃありません!どうしましょう!」

「ふむ…籠城するしかないが、この高温の砂漠で、雷くんとMK-2達がどこまでやれるか…。」

「…なにか、使えそうなものがないかコンテナを見てくる…。」

"う〜ん…流石に白旗かなぁ…。"

 

諦めかけたその時、再び広域レーダーが接近する反応を捉える。

 

「増援!?もう十分でしょう…いえ、この反応は…!?」

 

 

 

 

 

 

「隊長!なんか転がってます!」

「だからなんかってなんだ!」

「…なんかです!」

「もういい!!」

 

随分前、アビドス高校への最後の襲撃を仕掛けた私たちは奇襲を受けあっさりと敗北。

作戦失敗の責任を取り、仕事を降りた私は僅かについてきた仲間達と、道中で共鳴してくれた新入り達をまとめてこのアビドス砂漠を放浪していた。

空き家から食料や金品を探したり、まだ通っている水道から水を拝借したり、ブラックマーケットまで出稼ぎに行ったり…

安定している、とは言い難いがなかなか楽しく過ごせている。

 

そんな時、古株の部下の1人が遥か前方を指差して声を上げた。

相変わらず具体的な説明力が欠けていると思いながら確認すると、確かに表現が難しいものが前方にあった。

輸送車両というのはわかるが、デカすぎる。

一般的なトレーラーの3倍はありそうだ。

一体あれで何を運ぶつもりなのだろうか?

どうやら車道が崩れて身動きが取れなくなっているらしい。

 

警戒しながら近づいていくと、その車両には特徴的なマークが刻まれていた。

ミレニアム・サイエンススクールの校章だ。

こんな片田舎まで何をしにきたかは知らないが、ミレニアム製の製品は、高値で売れる。

荷台に詰まっているであろう製品に、エンジンに、タイヤに、装甲に…丸々売れば、しばらく遊んで暮らせる大金が手に入るかもしれない。

 

「でかしたぞ! あの車を売れば、しばらく金には困らない!」

「えっ!じゃ、じゃあ焼肉とか行ってもいいんすか!?」

「ミレニアムってことはほっそい理系の学校でしょ? アビドスの連中に比べれば赤子だね!」

「とっととやっちまいましょう!」

 

思わぬ落とし物に、皆が声を上げ、喜びのあまり発砲する者まで現れる。

相手がアビドスじゃないなら、怖いものはない。

軽く捻って、解体して、売却する。

美味しい仕事だ。

足取り軽く、ネギを背負ったまま動けなくなっているカモを迎えに行くと、後ろから唐突にエンジン音が聞こえた。

暴走族のようにやかましい破裂音が、後方から聞こえてきたと思えば、突然後列の仲間が悲鳴をあげて倒れる。

 

「な、何事だ!」

「敵襲! 人数は…1人!なにやら厳ついバイクに乗ってます!」

「また不意打ち!? でも、隊長がやられてないならなんとかなる!」

「よし!各員、散開! 功を焦るな!数を生かせ!」

 

散開した私達の真ん中を見せつけるように一台のバイクが土煙を上げながら通り過ぎ、停止する。

オレンジ色の髪をした、鋭い目つきをした小柄なメイドだ。

 

「奇襲とは…何者だ!名を名乗れ!」

「あん?いきなり撃ってこないってことは、まだ話がわかる方か?」

 

そのメイドはバイクのスタンドを乱暴に立て、腰のサブマシンガンを2丁とも取り出し構える。

 

「あたしはミレニアムサイエンススクール3年、美甘ネル。 オメーらが目をつけてるあの車の世話を頼まれてる。今すぐ消えるってんなら見逃してやるよ。」

 

圧倒的な人数差に加え、既に包囲されているのにも関わらず、そのメイドは一切怖気つかず、むしろ私たちに手を引くように提案してきた。

 

「…どうします? なんかヤバい雰囲気っすよ?」

「ミレニアムサイエンススクールって理系の学校でしょ!?なんでこんなガチの奴がいるのさ!?ずるいよ!!」

「…思い出した、隊長、こいつC&Cだ。」

「C&C?…確か、ミレニアムの特殊部隊の?」

 

「…なんでこんなところでもバレてんだよ。」

 

一触即発の空気が流れる。

隊長として、引くか引かないか決めなければならない。

ここ最近の経験で、学んだことがある。

小さいからといって、油断をしてはいけない。

あのアビドスの新入りに戦車をめちゃくちゃにされた時から、私の不幸は始まったのだ。

万全の作戦はたった1人のチビにめちゃくちゃにされたり、3両の戦車部隊は大きなロボットにめちゃくちゃにされたり、弾薬が尽きたところを狙って襲撃したはずなのに弾薬の補充がされていてボコボコにされたり…

だからこそ、この目の前のチビが只者ではないことを知れたのは幸運だ。

舐めてかからなければ、大丈夫だ。

この不運を、ここで断ち切ってやる。

私達だって、伊達にこの砂漠で生きているわけじゃない。

綺麗な空気しか吸ったことがないであろうこのチビに、アビドスの恐ろしさを教えてやる!

 

 

「やるぞ! C&Cといえど、相手は1人だ!

今こそ見せるのだ!この砂漠の中で生きてきた、私達の不屈を!」

「行くぞ!隊長に続け!」

「うぉおおおお!!」

 

周囲を取り囲んでいた部下達と共に、一斉に攻撃を開始する。

 

「…そうこなくっちゃなぁ!!」

 

3分後……

 

「な、なんでぇ…。」

「私たちをゴミか何かみたいに…不公平だろ…。」

「話が…違うっすよ…。」

「こんなの…何かの間違いよ…私のヘルメット…。」

 

惨敗。

作戦は良かった。

人数も足りていた。

けれど、惨敗。

 

「ふぅ…結構歯ごたえある奴らだったな。3分もかかっちまった。」

「ぐぅっ…!」

 

最後に倒れた私のお腹を、メイドが踏みつける。

 

「なかなか楽しかったぜ? ま、今回は諦めてくれ。てめーが引けば、こいつらはみんな着いてくだろ?返事は?」

 

顔面に銃口を突きつけられたまま、返答を促される。

屈辱だが、選択肢はない。

しっかりとこのメイドの顔は覚えておこう。

 

「わ、わかった…あの車は諦めるよ…。」

「オッケー。話が早くて助かるぜ。 じゃーな。」

 

C&Cの美甘ネルは、そう言うと銃をしまい、バイクに跨りあの大きな車の方へ走り去っていった。

 

「く、くそぉ…。」

「隊長…立てますか?」

「気にしないで隊長…私たちは、まだ生きてる。少し休んで、また頑張ろう?」

「うぅ…すまない、お前ら…。」

 

こんなダメな隊長に着いてきてくれる仲間達に肩を貸してもらいながら、私たちは再びアビドスの砂漠を放浪し始めた。

 

 

 

 

 

「流石は、C&Cのリーダーだな。助かった。」

「うん…絶対に敵に回したくないね…。」

「はい!そしてたった今、救世主たるネル先輩は、脅威に変わりました!どうしましょう!勝手に銃をチャバスコ噴射機に変えた時以来の大ピンチです!」

"そんなことがあったんだ。 まぁ、誠心誠意、謝るしかないんじゃないかな。"

 

間一髪、ミレニアムサイエンススクールから追ってきてくれたネルがカタカタヘルメット団の残党を撃退してくれた。

そのお礼とミレニアムタワーの件に対しての謝罪をする為に、コウノトリから降りて近づいてくるネルを待つ。

ザザザザッと砂がかからない距離でバイクを止め、ネルが近づいてくる。

 

「よぉ、先生とエンジニア部。元気そうで何より。 さて、まずは言うことがあるよな?」

「すいませんでしたぁ!!」

「本当に申し訳ない…。」

「迷惑をかけたね。悪かった。」

"助けてくれてありがとう、ネル。"

「当然だな。 倉庫に置いてあったバイク、借りたぞ。どっか壊れてても怒るなよ。」

 

思ったよりも穏やかに済みそうだ。

 

「その様子だと、あのチビ助に脅されてやったって訳でもなさそうだな。…ん?あのチビ助はどこだ?」

「レイヴンのことかい? レイヴンなら、少し特別な物を取りに行ってもらっている。そのうち…」

 

ズン…ズン…

やや遠くから、何かの足音が聞こえる。

事情を知らないネルは即座に銃を抜き、周囲を見渡す。

 

"ネル、落ち着いて。 敵じゃないよ。"

「この重厚な足音は、まさか!」

「本当に、歩いてる…。」

「…素晴らしい!!」

 

道の向こうから、10m程の片腕の巨人が、スムーズな動作で走ってくる。

レイヴンの愛機であり、半身でもあるローダー4だ。

このまま突っ込んでくるかもしれないと思うほどスピードを出している。

所々装甲が剥がれ、痛々しい見た目ではあるが、全く問題がないかのようにこの砂漠の中を走行している。

ローダー4は私達の前でピタリっと止まると、頭部をこちらに向けてきた。

なんとも人間らしい、有機的な動きだった。

 

『おまたせしました、みなさん…あれ、そこにいるのは…!?』

 

外部用のスピーカーから、レイヴンの声が聞こえる。

本当に乗り込んで、動かしているのだ。

改めて思う。

 

"かっこいい…。"

「かっけぇ…。」

 

集音性能も高いのか、私とネルの呟きに対して、レイヴンが返答する。

 

『そ、そうですか?なんだかてれちゃいます。 ね?ろーだーふぉー。』

 

Ab06、生徒名レイヴン。普通に照れる。

 

 

 

 

おまけ:情報ログ 

 

ミレニアムサイエンススクール3年生

部活:火薬研究部

渋谷(しぶたに)メリ

 

基本情報

ミレニアムサイエンススクール所属、火薬研究部(通称花火師)の部長。

3度の飯より火薬の調合が好きだと言う根っからの火薬マニアであり、暇さえあれば新しい火薬の配合を試している。

彼女達花火師の提供する砲弾や爆弾は全て手作りであり、合法、非合法問わずあらゆる市場でプレミア価格で取引されている。

興奮すると独特な語尾が付くようになり、この事を本人は恥ずかしがっている。

 

年齢:17歳

誕生日:8月18日

身長:160cm

趣味:火薬の調合、爆発。

 

「やぁ先生!私をお呼びするとはお目が高い!見惚れるような爆発をお見せするメリ…します!」

 

 

 

ミレニアムサイエンススクール2年生

部活:火薬研究部

隆見(たかみ)アリサ

 

基本情報

ミレニアムサイエンススクール所属、火薬研究部の副部長。

元は百鬼夜行連合学院所属の花火職人であったが、祭りを見にきて感動した火薬研究部の部長に半ば強引にスカウトされミレニアムに転入した過去を持つ。

絵に描いたような大艦巨砲主義者であり、火力の追求に余念がなく、他の学生達の銃を見て、細すぎると常に思っている。

 

年齢:16歳

誕生日:3月19日

身長:178cm

趣味:大砲の製作、爆発。

 

「火薬研究部所属、隆見アリサだ。 正面から行かせてもらおう。それしか能がない…。」

 

 

 

ミレニアムサイエンススクール2年生

部活:なし

松戸(まつど)ラミィ

 

基本情報

ミレニアムサイエンススクール所属の孤独な研究者。

エンジニア部と同じく様々な発明品を作っているが、彼女達とは違い完全な自己満足と閃きによるその場の勢いによる発明のため、それが功績として周りに提供されることはない。

資材や資金を求めて度々問題行動を起こし、その度にC&Cからの鎮圧を食らっているが研究のことしか頭になく、明日にはそれ以外のことは忘れてしまっているので周りからは「無敵のラミィ」と呼ばれている。

 

年齢:16歳

誕生日:8月25日

身長:142cm

趣味:発明、製造、自慢。

 

「なんだあ?見ない顔だな…って、先生か!

見ててくださいよお、この私が、客人をもてなしてやりますんで!」




最後まで読んでいただき、大変光栄です。
さて、コメントへのgoodが1日5個しか出来ないことに不満を感じている今日この頃、お気に入り数3446件(2024/4/21現在)ありがとうございます!!
様々なキャラクターを取り込んでいくと、だんだん私が侵食されていきます。日常生活で「うへっ」って言いかけて焦りました。
この先の幻覚も結構強めに見えているので、期待していただけると嬉しいです!
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