Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
ちょーっと時間かかったけどねぇ?
今回も楽しんでいただけると幸いです。
ネルさんのエミュをしていると、レイヴンちゃんを野良犬って呼ばせたくなります。
「……素晴らしい!」
この言葉しか、出なかった。
夢にまで見た、搭乗型二足歩行の人型ロボット!
私の、いや、私達の憧れそのものが、今砂漠の地平からこちらへ向かって『歩いて』来ている!
新たな敵と予測していたネルも、目に入るとポカンとした表情でじっとロボットを、確か、ローダー4という名前だったな。
それに魅入っている。
眼前まで近づいてくると、ローダー4の状況がよく見えると同時に、このロボットの頑丈さに驚嘆する。
左腕が失われているのにも関わらず、バランスを崩さず歩行し、装甲があちこち損傷しているのにも関わらず、問題なく稼働している。
私はローダー4の太ももを見て、さらに驚く。
ブースターが付いている!?ここまで来て、ただの飾りというわけはないだろう。
つまりこのロボットは、飛行することも、あるいは歩行以外の移動もできるのか!?
私の中の情熱は、ここに来るよりもさらに熱く燃え上がっていた。
早くローダー4を修理し、彼の本当の姿を、本来の動きを見てみたい!!
そんな気持ちで、一杯になっていた。
私はアビドス高校1年生、黒羽レイヴン。
今は、老朽化した道路の崩落に巻き込まれ脱輪してしまった大型特殊輸送車両「コウノトリ」を私の愛機、ローダー4で押し上げ車道へ戻そうとしているところだ。
左腕は損失し、装甲は所々剥がれている状態で、一見ジャンクも同然だが、それでもコウノトリを押すくらいのパワーはある。
落ちてしまっている後方の部分を掴み、機体全体を使って押し上げる。
グググググッ……
『"……よし、着いたよ!"』
「いまです!」
『わかった。』
外から状況を確認してくれていた先生の合図でウタハさんがアクセルを踏み、空回りしていたタイヤが地面に着き、前進したことで無事元の車道へ戻すことが出来た。
『やりました!』
『かっけぇなぁ……。』
『"いやぁ、何とかなってよかったよ。"』
砂漠の真ん中で動けなくなってしまったという問題の解決を喜び、皆それぞれハイタッチや抱擁を交わしている。
私もローダー4の残った右腕を操作し、サムズアップを披露する。
『凄いな……マニピュレーターもあそこまで精密に動かせるのか。』
『想像以上の完成度ですね! 機械ではなく、大きな人間が動いているのかと思ってしまいます!』
『なぁ先生、こいつにあたしが探してるチビ助が乗ってるのか?』
『"うん。 このロボットはレイヴンの持ち物だからね。"』
怖いメイドさんがいつの間にか皆さんに紛れている事に気付いた時は、戦闘になることを覚悟したが、相手にその気は無いようだ。
それに、このローダー4のことをカッコいいと評してくれた。
格好や態度から受ける印象と違い、良い人なのかもしれない。
『なるほど……エンジニア部の奴らが謝罪も弁明も無しに飛び出すわけだ。』
『"本当にごめんね。"』
『構わねぇよ。あたしも壊した備品やドアについてお説教されてたところだったしな。』
そう言うと、ネルさんは乗って来たと思わしきバイクに跨り、エンジンを掛ける。
『まだまだ先は長いんだろ? アビドス高校だったっけか?急ごうぜ。』
『その通りだな。 流石にここでは安心して整備は出来ない。』
『レイヴンさん!気にせずコンテナに乗っかってしまってください!本来なら寝かせた姿勢で運ぶことを想定していますが、またアクシデントが起きて、ローダー4が動けなくなってしまったら今度こそ終わりですからね!』
「りょうかいしました。」
コウノトリのコンテナ部分へ片足ずつ乗っかり、ちょうど掴みやすそうな出っ張りを見つけたので右手で掴み、膝立ちの姿勢で固定する。
横転してしまった時に備え、私はローダー4に搭乗したまま残りの道を揺られた。
アビドス高校 1F教室
ブンッというマナーモード特有の振動で、昼寝が中断される。
目を瞑ったまま、近くにあったはずなのにいつの間にか離れていたスマホを探りあて、通知を確認する。
内容は、遠出すると連絡をしてきたレイヴンちゃんからで、
『そろそろ戻ります。急になりましたが新しい友人が出来ました。 驚かないでください。』
と書かれていた。
「……お客さんか。変な人じゃないと良いけど。」
今日は自由登校日。
なので家でのんびりしたりパトロールをして過ごそうと考えていたら、レイヴンちゃんが遠出すると伝えてきたので、入れ替わりに学校で留守番をしていた。
一度、レイヴンちゃんが帰って来た気配がしたが、急がなければならない用事があったのか昼寝している私をそのままにローダー4を起動させまた出ていってしまった。
思ったよりも静かに歩けるらしい。
眠気覚ましに良い飲み物はないかといつの間にか置かれていたクーラーボックスの中身を物色するが、あまり好きではないエナジードリンクの類しか入ってなかったので客人の分も併せてお茶でも入れる事にする。
お茶の準備をしながらレイヴンちゃんとローダー4の帰りを待っていると、付近一帯が揺れているような地響きが起こる。
すぐにコンロの火を止め、ショットガンと盾を持ち表へ駆け出す。
ゴゴゴゴゴゴゴッ
と激しい音を上げながら、尋常でない大きさのトレーラーと、それに乗っかっている巨人……ローダー4の姿が見えた。
このままだと校門を壊しながら入ってくるかもしれないので、手を振りながらトレーラーへ近づき、早めに停車してもらう。
「……うへぇ、随分と大きな車だねぇ。」
『ただいまもどりました、ほしのせんぱい。』
膝立ちの姿勢で乗っていたローダー4がコンテナから降りてきて会釈をする。
運転席からも先生と、見慣れない3人組が降りてくる。それから少し遅れてバイクに乗っている、私と同じくらいの背丈の子がやって来てトレーラーの近くへバイクを停める。
「初めまして。私達はミレニアムサイエンススクールのエンジニア部だ。」
「こんにちは!本日はこちらのレイヴンさんの人型ロボット、ローダー4の修理をさせてもらいに来ました!このトレーラーはその為の機材です!どうかお気になさらず!」
「暑いね……。」
「んで、あたしはこいつらの子守りを任されてる。」
随分と、元気そうな人達だな。
それはそれとして、
「うへ〜、よろしく。 でもさぁ、ロボットの整備なら、そっちの方でやったほうが良かったんじゃないの?」
なんで、わざわざここに来た?
「こんな砂まみれ埃まみれの片田舎まで来るなんて、ちょっと怪しくない? なんか別の目的でもあるの?」
私の悪い癖だ。
何でもかんでもまず疑ってしまう。
でも、疑うということをしなかったから、今のこのアビドスがある。
"うーん……色々、あってね。"
「色々?」
「うむ、色々あったんだ。」
『いろいろありました、ほんとうに。』
「ふ〜ん……。」
先生も、レイヴンちゃんも、はっきりしない。
何か隠し事?
いや、少なくともレイヴンちゃんは、もう信頼していい。その筈だ。
そんな私の警戒心を察したのか、目つきの鋭いメイド服の子が呆れたように口を開く。
「そんな曖昧な答えじゃ納得できねぇだろ。」
「お、説明してくれるのかな?」
「こいつらエンジニア部がミレニアムの重要施設に試験兵器を1発叩き込んで、このロボットの整備を頼みに来てたチビ助と先生を巻き込んでここまで逃げてきた。 そんで私はそれを追いかけてきた。」
「うん!?」
説明してくれたが、一回では理解できなかった。
メイドさんの発言に続いて、全員が順番に事情を話し始めた。
「それもあるが、このローダー4はミレニアムの技術と比べても、オーパーツだ。 あちらでは見物人が多すぎて安心して整備できなさそうでね。」
「実際レイヴンさんのパルスブレードを巡って一悶着ありましたからね!まるでリゾートへお忍びで行こうとして発見されてしまったアイドルみたいな人だかりで大変でした!」
「それに……このトレーラーを活用できる機会が来たって思ったら、もう止まれなかった……。」
「……うへ〜。なるほどね〜。」
どうやら、邪な考えはなさそうだ。
多分、そんな事を考える思考回路をしていないのだろう。
とりあえずお茶でも出そうかと校内へ案内しようとするが、客人はここで大丈夫というと、トレーラーの運転席にいくつかあるレバーのうち一つを引いた。
するとトレーラーの荷台が動き出し、積んであったコンテナが垂直に立てられる。
垂直に立てられると、大きさを改めて認識させられる。
ローダー4よりちょっと高めで、横幅はローダー4が余裕を持って入れるほどだった。
コンテナが開くと、その中には多数の足場と作業用のロボットアームが上、中、下の段にそれぞれ2対ずつ設置されていた。
「どうだいレイヴン。 これが整備コンテナさ。」
「この整備コンテナがあれば、たとえ雨の中雪の中砂の中どこでも安心安全な作業ができます!さぁ!早速中に入ってください!」
『りょうかいしました。……すこし、なつかしいですね。』
「このコンテナは、動く工場……。ロボットアームに、スキャン装置に、3Dプリンター……。何でも揃ってる。」
「なぁおい、あたしも近くで見ていいか?」
「構わないよ、ネル。 興味本位で変なレバーやスイッチを押さないならね。」
「分かってるよ……。おおかた自爆装置か何かでも付いてるんだろ?」
「よく分かってるじゃないか。」
「うへ〜、おじさんには最新の技術はわっかんないな〜。 とりあえず、お茶でも入れてくるね。」
"私も手伝うよ、ホシノ。"
「うへ、じゃ、頼んじゃおうかな〜。」
噂に聞くミレニアムサイエンススクール、そこでも特に精鋭と名高いエンジニア部ならば機械のメンテナンスについては信用できる……というより、彼女達に任せるしかない。
それに、レイヴンちゃんがあのローダー4に触ることを許しているということは、それなりに信頼できる人達なのだろう。
自分が助けになれないことには、関わるべきではない。
とりあえず客人を迎える側として失礼にならないよう適当に茶を出したらまた昼寝に戻るとしよう。
消したコンロを再度点火し、水が沸騰するのを待っていると、先生が話し出した。
"ホシノ、少し時間大丈夫?"
「おじさんはいつも暇だよ〜?」
"そっか。なら、二人きりで話したいことがあるんだ。"
「……へ?やだなぁ先生。いったい何の話をする気なの?」
先生にしては、珍しいお誘いだ。
セリカちゃんをストーカーしたり、レイヴンちゃんと真夜中に接触したりなど、この大人はやや自分の立場というのを忘れているのではないのかと思う時がある。
私にもなにか訴えられたら負けるような事をしようとしているのなら、ここではっきりと注意しようと思ったが、
"『ウォルター』という人物について、ホシノは何か知ってる?"
「……へぇ。」
どうやら、そういう事じゃないらしい。
先生だものね。
私と同じ理由で、自分の生徒の事は知っておきたいはずだ。
それも、謎が多いレイヴンちゃんのことなら尚更だ。
だが、レイヴンちゃんの過去はそう簡単に教えていいものではないし、私が聞く前に止めた『ウォルターからの仕事』について、大体の予想はついているが……正解は知らないし、
私はこの『最悪な予想』が外れてくれている事を願っているくらいだ。
答え合わせなんか、したくない。
「……さぁ、知らないなぁ。 乙女の秘密を暴くなんて、そんな酷いこと考えちゃダメだよ〜。」
"……私は、その『ウォルター』という人物について、知らなくちゃいけない。"
「何で?」
先生は暗い顔をして、レントゲン写真のようなものを見せてくる。
誰の頭だろうか?脳の奥の方に、黒い何かが写っている。
"レイヴンの頭の中に、機械があったんだ。 エンジニア部の子達が発見してね。この事は、レイヴンにはまだ伝えてない。……これからも、伝える事はないだろうね。"
「……へ?」
頭の中に、機械?
レイヴンちゃんが言っていた『頭を開かれて、脳を焼かれた』『ACの操縦に必要なもの以外、全てを捨てさせられた』という言葉が蘇る。
先生は動揺する私を見て、やはり知らなかったのかという表情をして、さらに続ける。
"ウタハによるとこの機械はミレニアムでも禁忌とされる研究の一つ『人間を便利な道具にする』類の物らしいんだ。"
"人の脳に特殊な信号を流すことによって、知覚、身体機能……そして、感情を制御して理想の兵士として『作り直す』"
いつも温和な表情のはずの先生が、今は眉間に皺を寄せ、凄まじい気迫を放っている。
先生は気付いてしまったのだ。
レイヴンちゃんが、『大人に利用されていた』という事を。
いや、利用なんて生やさしい表現じゃない。
『便利な道具』『消耗品』
人を人とも思わない、そんな使われ方をされてきたことに気づいてしまったのだ。
"もし、ウォルターについて知っていたら、教えてほしい。 私はその大人と対話しなければならない。そして、この技術を封印する事を約束させなければならないんだ。"
なるほど、これはどうやら知らぬ存ぜぬで通すわけにはいかない。
ここで私が答えなければ、先生は間違いなく今度はレイヴンちゃんに聞きに行く。
初めは言わないだろうが、レイヴンちゃんは押しに弱い。
必ず、先生が知るべきでない部分まで話してしまうだろう。
「……わかった。私が知ってる事は教えてあげる。」
"ありがとう。"
「ただ、約束して。 私の証言で全ての謎が解けなくても、絶対にレイヴンちゃんに確認しにいかないで。」
「レイヴンちゃんはもう、過去に決着をつけて『現在』を生きてる。……それで、良いんだよ。もうこれ以上の良いゴールなんてない。」
「レイヴンちゃんから切り出さない限り、もうこれ以上レイヴンちゃんの過去を知ろうとしないで。」
"……わかった。約束する。"
私の珍しい真面目な喋り方に、先生も真摯に答えてくれた。
じゃあ、話すとしよう。
「ありがとう。ああ、それからもう一つ。今からする話は、レイヴンちゃんから聞いた話と、私の推測が混ざってる。だから正否は分からない。それも踏まえて私の話を聞いて。」
"うん。お願い。"
「じゃあまず、レイヴンちゃんの頭に機械を埋め込んだ犯人は……ウォルターじゃない。」
"えっ?"
「嫌な話だけどね……レイヴンちゃんは両親が溜め込んだ借金が原因で、その機械を埋め込まれた。」
「レイヴンちゃんが言うには『強化人間』って言うんだってさ。戦闘に必要な物以外全部捨てられた、ACを動かす為の便利な『部品』。 その上レイヴンちゃんは不良品としてずっと倉庫に置かれてたんだって。」
"なに、それ。 そんな、人を、物のように?"
「私も、最初は訳がわからなかったよ。 でも、レイヴンちゃんの話し方からして、それがただの思い出話っていうのが、解っちゃった。」
先生は、頭を抱える。
当然だろう。このキヴォトスと、命の価値が違いすぎる。
私だって、理解はしているが納得なんてできない。
「それで売れ残っちゃって、廃棄処分されそうなところをウォルターに買い取って貰えたんだって。」
"買い取るって……"
「その後は、ウォルターからお仕事を貰ってたんだって。 どんな内容なお仕事なのかは、聞く前にもう私がギブアップしちゃった。」
"…………。"
先生は喋れなくなってしまった。
それもそうだろう。
信じられない内容ばかりだ。
人の人生を奪って道具にした挙句、『不良品』扱いで廃棄処分。
何度聞いたって、胸が締め付けられる内容だ。
だが、
「それで先生は……ウォルターについて知りたいんだってね。」
"うん。……レイヴンを道具にしたのは別の人だとしても、使っていたのはウォルターの筈だ。"
「多分ウォルターは『悪い大人』だけれど、まだマシな方だと思うよ。」
"ホシノがそう言うってことは、根拠があるんだね?"
「うん。それも、推測に過ぎないけれどね。」
私はレイヴンちゃんと初めて会話を交わした後の出来事を思い出す。
保健室で、レイヴンちゃんの持っていた鞄を確認し今はチャティの住処となっている端末に残されていたメッセージだ。
「ウォルターから、レイヴンちゃんにメッセージがあったんだよ。」
"メッセージ?"
「うん。それも、いろいろな感情が混ぜられたね。 ウォルターがもし、レイヴンちゃんをただの使い捨ての道具として扱うような悪い大人なら……。」
あの時聞いた、渋い男の声のメッセージ。
労いと、深い感謝の言葉の後の伝言を思い出す。
「『お前を縛るものは、もう何もない。』」
「『お前のこれからの選択が、お前自身の可能性を広げる事を祈る』なんて、言えるかな?」
先生の眉間に集まった皺が、少しずつ薄くなっていく。
"……なるほど、ね。 レイヴンが『先生の嫌いなタイプの大人』と言って教えてくれない訳だ。"
「きっと、ウォルターには選択肢がなかったんだ。自分の使命を果たす為には、レイヴンちゃんを利用することしか。」
きっと、ウォルターはその使命を放棄して逃げ出すということは、選ばなかったんだろう。
今の私のように。
「だからウォルターは、常にレイヴンちゃんのことを気にかけていたんだと思う。 ただの便利な道具ではなく、自分の使命に巻き込んでしまった一人の『人間』として。」
「そして、レイヴンちゃんはそんな自分を気にかけてくれた……もうただの部品でしかなかった自分を、人間扱いしてくれたウォルターの事が、大好きなんだと思う。」
先生はしばらく押し黙った後、礼を言って喋り始めた。
"ありがとう、ホシノ。 教えてくれなかったら、きっと私はレイヴンの恩人を悪く言って……取り返しがつかないことになってたかもしれない。"
「うへ、そうなりそうな感じがしたから話したんだよ。 約束、覚えてるよね?全部秘密だよ。」
"うん、秘密だ。……さて、ちょうどお茶も入ったね。届けに行こうか。"
「りょーかーい。」
お湯が沸いて、お茶っ葉から茶が染み出すわずかな時間。
けれど、とても濃密な会話ができたし先生が生徒のことを思って行動できる人物であると言うことも知れた。
……この先生なら、この大人なら、今度こそ信じても良いのかも知れない。
そう思いながら、私と先生は入れた茶に砂が混じらないようラップをして表に止められた整備用のコンテナへ向かった。
アビドス高校外周
整備用コンテナ内
「どうですか、なおせそうですか?」
『……データは、提供したとおりだ。的確な仕事をお願いする。』
ミレニアムサイエンススクールから大きく離れ、ようやく喋り出してくれたチャティに端末内に残っていたACパーツのデータを用意してもらった。
ウォルターが用意してくれた『LOADER4』に加えて、レッドガンにG13として加えられた時に貸与された『TENDERFOOT』
カーラ達RaDの協力により海越えを果たした後シュナイダー社員のかなり強引なセールスによって買わされた『LAMMERGEIER』
そして、アーキバスに囚われた私を助けるためにウォルターとRaDの技術者が用意してくれた命の恩人と言って差し支えない機体『JAILBREAK』、ひいてはその完品の『BASHO』の機体データを武器情報を隠蔽した状態で提供してもらった。
「ふふ……ここまでして貰って直せませんとは、とても言えないな。」
「ローダー4だけでなく、他の機体のデータまであるとは凄いですね!特にこのラマーガイア?でよろしいんですかね?大変興味深い!四つ足な上に、変形して空を飛ぶための形態になるとは!ここまでするならなぜ上半身が人の形をしているのかは疑問ですが、きっとロマンですね!とにかく貴重なデータありがとうございます!レイヴンさん!チャティさん!」
「特に、ローダー4のデータ、興味深いね……。まるで『教材』だよ。使い古された枯れた技術と、私たちの技術の半歩先を行く、追いつける技術を組み合わせて作られている……。」
チャティが用意してくれたデータを整備用コンテナに設置されたPCへアップロードする。
エンジニア部と、ネルさんは画面に表示された機体データを食い入るように見ている。
「なぁ、この『テンダーフット』って機体、作れねーのか?あたしの好みなんだが……。」
「この『バショウ』っていうのも……、四角くて可愛いね……。」
「これだけ精巧なデータがあれば、修理は簡単だな。」
バショウの強みを完全に理解していたベテランAC乗り、ルビコン解放戦線総司令サム・ドルマヤンとの交戦経験がある私からすると、可愛いという意見にはやや賛同しかねるが、どうやら修理は順調に行きそうだ。
「こんかいていきょうしたでーたは、すきにつかってもらってかまいません。」
「ありがたいね。……やれやれ、戻ったらセミナーに追加の予算申請しなければな。」
「レールガンの製作に7割使ってしまいましたものね……。ネルさん!完成したら優先的に乗せてあげるのでネルさんからもお願いできませんか!?」
「……しょうがねぇな……。」
「ところで、ローダー4にはどんな機能をつけようか?」
「やっぱり、リミッター解除や自爆機能は必須……。」
「なにもつけないでください!!」
『やはり、正気ではないな。』
元々ここまで逃げてくる原因になった、試作パイルバンカーと同じ機能をつけようとしていたので、思わず声をあげてしまった。
エンジニア部の皆さんは非常に残念そうな表情をしているがローダー4は、私の体も同然の存在だ。
自分の体に爆弾が埋め込まれるなんて、許容できる人間の方が少ない筈だ。
その後、ACSやアサルトブースト、クイックブーストにエキスパンションの機能の説明をチャティとの二人がかりで受け答えしていると、お茶を入れてきてくれたホシノ先輩と先生が来てくれたので休憩に入る。
「なぁチビ助……じゃなくてレイヴン。 修理が終わったら、ローダー4に乗せてもらえねぇか?」
「ちびすけでかまいませんよ。 かるいさんぽならかまいませんが……のぞんでるのは、それじゃないですよね?」
「たりめぇよ!クイックブーストにアサルトブースト……かっけぇじゃねぇか!」
実際に体験した事のあるホシノ先輩と、提示された機体スペックを見ていたウタハさんが苦笑しながら話しだす。
「うへ、やめといた方がいいよ〜。」
「二人乗りして良い物なのか? シミュレートしてみると人体の限界に正面から喧嘩を売るような機動をするようだが……。」
当然だろう。よほど才能に恵まれなければ、少年時代から血の滲むような訓練を行なって青年期でようやく2流のAC乗りになれれば良くやった方と言われるくらい、ACの操縦は複雑で難解で無茶だ。
企業や封鎖機構などの集団組織において、ACが大規模に使用されないのは、凡人では操縦してもMT未満の戦力にしかならないという問題を抱えているからだ。
……その問題を解決できる、強化人間という技術が重宝されるくらいには。
「構わねぇさ! こんな片田舎まで来ちまったんだ、土産話の一つでもないとメイド部の奴らも寂しがるだろ。」
"レイヴン、私も見てみたいな。 ローダー4の本当の動きを。"
「……わかりました。しかたないですね。」
「ありがとよ。 へへ、こんなに何かを楽しみにするなんて、久々だぜ。」
ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、楽しそうにその場を離れようとした後に何か思い出したように少し気まずいような表情をして振り向く。
「……なぁ、チビ助で良いって、ほんとにいいのか?」
「かまいませんよ。 あたらしいなまえがふえて、うれしいです。」
「……やっぱり変なやつだな……。」
その後、私と先生はローダー4の修理が終わるまで見守り、ホシノ先輩は昼寝する為校舎に戻り、ネルさんは再びPCの画面に映っているAC達を眺めていた。
数時間後……
「レイヴン、終わったよ。早速動作チェックを頼めるかな。」
「りょうかいです。」
"いやぁ、随分と見違えたね。"
「コックピットは結構狭いんだな……。」
修理が完了したローダー4に早速乗り込み、システムを立ち上げる。
先生の言う通り、随分と見違えた。
長い間欠損していた左腕は見事なまでに復元され、焼け焦げたり銃痕が出来ていた装甲は新品同様にまで修復され光沢を放っている。
ローダー4のCOMが各部のチェックを開始する。
初めから無いとわかっている武装チェックの項目を読み飛ばし、ブースターの欄の異常状態が直っているのを確認する。
リペアキットとエキスパンションも発動可能状態になっている。
間違っても校舎でアサルトアーマーを発動させるようなことは無いようにしなければ。
動作チェックを済ませ、うずうずしているネルさんをコックピットに招き入れる。
相変わらず、小柄な体型だからこそ成り立つ二人乗りだ。
かつてホシノ先輩を乗せた時と同じように、お姫様抱っこのような姿勢で私の視界を確保してもらう。
「なぁ、シートベルトとかは?」
「ないですね。 ほんらいひとりのりなので。」
「そうか……。」
少し既視感のある会話をした後、コックピットハッチを閉める。
『メインシステム 戦闘モード起動』
聞き慣れた、しかし以前よりノイズが多少減ったCOM音声が響き、コックピット内のディスプレイに頭部のカメラが認識したコンテナ内の景色が表示される。
ちょうど目の前に、上手くいったかドキドキしているエンジニア部の3人と、目をキラキラさせながらこちらのカメラを覗き込んでいる先生が見えた。
「うたはさん、すこしひろいところでうごかしたいです。」
『了解した。 ハッチオープン!!』
『了解!!』
『出撃シーンだね……録画しなきゃ……!』
ローダー4を抱えるように伸びていたロボットアームと足場が折り畳まれ、前面のコンテナの扉がゆっくりと開く。
少しずつ、太陽の光が入り込んでくる。
扉が開き切ったのを確認し、ゆっくりと歩き出し表へ出る。
「おお!すげぇ!」
「このていどでおどろいてもらっては、こまりますよ。」
キラキラした表情で外の景色を見るネルさんに少し気分を良くしながら、ブースターを起動させる。
まずは、ACの基本的な移動手段、ブーストダッシュだ。
ゆっくりした歩行から、瞬間的に高速移動へ移行する。
グンッとGが体を襲うが、すぐに馴染む。
ネルさんものっそりとした動きから一転、30km/hから348km/h前後に瞬時に移行した加速に興奮している。
「どうですか?ねるさん。」
「すげぇーな!!もっと速く動けねぇのか!?」
「ふふ、これくらいはまだしょほのしょほですよ。 かくごしてくださいね。」
いよいよネルさんが気になっていた機能、まずはアサルトブーストを披露する事にする。
レバーのスイッチを押し込むと、ローダー4の背部が展開され更に加速し、空へ飛び立つ。
「う、おお、おお!!?!?」
「……やっぱり、このながめはいいですね。」
時間帯は、ちょうど夕暮れ。
ミレニアムタワーで見損ねた、高いところから見る夕焼けを見ることができた。
ネルさんも、景色にご満悦のようで声が出ないようだ。
エネルギーが切れるまで上昇を続け、切れると同時に各部の減速用の補助ブースターが起動しゆっくりと下降しコンテナの前に着地する。
各部の排気口から空気が排出され、ローダー4は次の動きへ備える。
完全に元通りだ。
足元で感動しているエンジニア部の皆さんに感謝を告げる。
「ありがとうございます、うたはさん、ことりさん、ひびきさん。それから、せんせい。」
『こちらこそ、良いものを見せてもらったよ。』
『ええ!この感動、解説不能ですね!』
『いい画が撮れたね……。』
『"そんな動きができたんだね…‥ところで、ネルは?大丈夫?"』
景色に見惚れたり、エンジニア部の皆さんの見事な仕事ぶりに感嘆していて忘れていた。
私の膝の上のネルさんを確認すると、ややぐったりとしていた。やはり、彼女もこの激しい動きには耐えられなかったのだろうか?
「は、はは!すげーぜレイヴン!」
「よろこんでもらえて、なによりです。 けっこう、よゆうそうですね。」
「あ、当たり前だ!あたしを誰だと思ってやがる!」
思ったより、元気そうだ。
もしかしたら、彼女にはACを操縦する才能があるのかもしれない。
「じゃあ、もうわんせっと、いきましょうか。」
「えっ……あ、ああ!どんとこい!!」
その後、アサルトブーストとクイックブーストを混ぜ合わせた回避マニューバを披露したり、クイックターンやブーストキックを披露したところで、ネルさんがもう満足したと言って来たので、改めてコンテナの中へローダー4を格納する。
「うぉえ……。」
「だいじょうぶですか?」
"駄目そうだね……。"
「うむ……典型的な乗り物酔いの症状だな。」
「うへ、だからやめときなって言ったのに〜。」
その後、ネルさんはコウノトリに備え付けられた仮眠室のベッドに横になってもう起きて来なかった。
ローダー4の修理と解析を終えたエンジニア部も、そろそろ帰宅するようだ。
「今日は本当にありがとう。楽しかったよ。」
「ふふふ、ローダー4だけでなく、多数の機体データまでいただけるなんて想定外でした!また何かあったら、いつでも呼んでください!整備用のコンテナは置いていきますので、是非ご活用ください!具体的には塗装用のツールなどが備え付けられております!」
「ミレニアム製のACが出来たら、見にきて欲しいな……。」
「こちらこそ、ありがとうございました。 ねるさんがおきたら、またいつでもきてくださいとつたえてください。」
"帰り道、気を付けて。 また脱輪しちゃったら助けに行くからね。"
「へぇ、そんなことがあったんだ。 どこもかしこもボロっちぃからね〜。ルート選びは気をつけなよ〜?」
握手を交わし、砂漠の向こうへ消えていくコウノトリを見送る。
信じられないくらい、濃密な1日だった。
すっかり日は沈み、先生とホシノ先輩も帰宅する。
私は、整備用のコンテナの中でローダー4の塗装を行ない胸部に私達の学校、アビドス高等学校の校章を付けようとしていた。
のだが……
「うーん……あと、すこし……すこしだけみぎに……やっぱひだり……。」
『ビジター、もう就寝時間を過ぎている。今日はここまでにして…‥。』
「ごめんちゃてぃ。 これをやりきらないと、ねむれない……。」
結局満足のいく位置に校章を貼れた時には、朝日がすでに登っており、私は気絶するようにその場に倒れた。
Ab06、生徒名レイヴン。 普通にエンブレムの配置に拘る。
「おはよー。」
「おはよう……。」
「うわ、アルちゃん、徹夜でもした?」
「ううん、ちゃんと寝たわ……。」
ブラックマーケットの闇銀行から融資を受けることはできなかったが、銀行強盗を行った覆面水着団……あの後、ムツキ達からアビドスの子達だったと伝えられたが、ともかくその人達が置いて行った1億円を元手に、改めてアビドスへ襲撃をかける計画を立てた。
信用できる傭兵達を高額な報酬で雇い、独立傭兵でもある黒羽レイヴンには偽の依頼を出し辺境に行ってもらい少しでも戦力を削ぎ、ハルカの仕掛けた爆弾だらけの有利な戦場にアビドスを誘き出し一気に叩く。
完璧な計画だが……
「はぁ……。」
とにかく、気が乗らない。
私の目指す理想のアウトローに近しい存在である覆面水着団に、独立傭兵ナイトフォール。
彼女達と、交流が出来てしまった。その上、ここまで準備ができたのは彼女達が何故か残していった大金のおかげだ。
もしかしたら、このお金はプレゼントだったのかもしれない。だとしたら、私は恩のある相手にまたも銃を向けようとしているのだ。
仕事、と割り切るには相手のことを知り過ぎた。
それにナイトフォールは、レイヴンは私達のことを「戦友」とまで呼んでくれている。
そんな彼女の、大切な仲間達を討とうとしているのだ。
こんなに気分が乗らない仕事は、初めてだ。
一向にテンションが上がらない私にムツキが私の手を引く。
「わかったわかった。アルちゃん、柴関ラーメン行こうよ。お腹空いたし。」
「はぁ……また?」
「気にしない気にしない。バイトちゃんは午後から入るみたいだし、鉢合わせなきゃ問題ないじゃん?」
「まぁ……美味しかったしね。とにかく、社長を元気づけないと…‥。」
「じゃあ決まりー。行こ行こ!」
「こ、こ、今度は、人数分のラーメンをた、た、頼めそうですね…‥。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
さて、レイヴンちゃんの身長を短くし過ぎた(126cm)と後悔していましたが、チェリノさんの身長が128cmで安心した今日この頃。
ほぼオリジナルの話が続いたローダー4修復編でしたがなんとか終わらせることができました。
この後の展開をずっと妄想してきたので、時間はかかるかもしれませんが失踪はするつもりはないので、お待ちいただけたら、とても嬉しいです。