Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
過去から未来まで、変わらない事実だ。
というわけで自己意識をコーラルの流れに散逸させながら書いたものがこちらになります。
お楽しみいただければ幸いです。
アビドス高校
対策委員会教室
ドォ………ン……
"? いま、なにか聞こえなかった?"
「ん、確かに聞こえた。爆発音?」
「お祭り? そんなわけないか。」
レイヴンが遅めの朝食を食べに柴関ラーメンへ出かけ、ホシノが野暮用を片付けてくると言って出て行ったあと、残ったメンバーたちと雑談していると何か遠くで爆発する様な音が聞こえた。
続いて廊下を走る音が聞こえ、血相を変えたアヤネが教室に飛び込んでくる。
何事かと聞く前にアヤネに抱えられた端末からチャティが話しだす。
『前方、10km以内に爆発の反応を検知した。』
「10kmってことは……市街地?まさか、襲撃!?」
「はっ、はっ……しょ、衝撃波の形状から砲撃や爆撃ではなくC4爆弾の連鎖反応と思われます。」
"方法は問題じゃない。 アヤネ、チャティ、正確な位置は?"
即座に2人(?)はマップを開き、爆発地点の確認に入る。
『……特定した。なんということだ……。』
「正確な位置は、市街地の……柴関ラーメン!?」
私も含めた全員が耳を疑う。
柴関ラーメンは戦略拠点でも重要な交通網でも無い。
狙われる理由は無いはずだ。
「はぁ!? どういうこと!?なんであの店が……まさか、私を狙って……?」
「いや、このタイミング。 個人を狙ったのだとしたら、今回の標的は……。」
「……レイヴンちゃん!? 確か、朝ご飯を食べ損ねて柴関ラーメンに……。」
"間違いないね。 皆、急いで救援に向かおう!"
「そうですね! 向かいましょう!」
「ホシノ先輩には私から連絡します、出動を!!」
「大将……レイヴンちゃん……無事でいて……!」
アヤネとチャティを除く全員で急いで柴関ラーメンへ向かう。
セリカは自分が誘拐された時と今の状況を重ねているのか、いつも以上に焦っている。
"大丈夫、レイヴンはとっても強い子だから。 持ち堪えてくれるはずだよ。"
「だと、良いんだけど……なんか、嫌な予感がするのよ……!」
「ん……急ごう。」
爆心地の柴関ラーメンへ近づいた頃、アヤネから連絡が入る。
『大将の無事が確認できました! レイヴンちゃんが庇ってくれたおかげで怪我はないようです……が……。』
「大将……無事でよかった!!」
「アヤネちゃん、何か問題が?」
『はい。その後、レイヴンちゃんは居合わせていた便利屋68と交戦に入ったそうです!』
謎の爆発の犯人が明確になったことで、セリカに気合が入る。
「店を吹っ飛ばした犯人は、便利屋68ってこと!? 絶対に許さない!!」
「まずいね。 手練れ4人が相手じゃ、流石のレイヴンでも……。」
"急ごう!!"
ドカ……ン!
ドゴ…ン!
大将の無事と、レイヴンが危機に晒されている事を知らされ更に私達は足を早めるが、それと同時に再度爆発音が響く。
柴関ラーメンのあった方角からだ。
「また爆発!? 一体どれだけ仕掛けてあるの!?」
『いえ、これは……砲撃です!! 4kmの距離に多数の擲弾兵を確認!』
『ビジターの反応があるところへ砲撃されている。……便利屋68と交戦しているとすれば、彼女達も巻き込まれているだろうな。』
"ということは……便利屋68への支援砲撃ではないね。 アヤネ、擲弾兵の所属は確認できる?"
『了解です!少々お待ちを……』
レイヴンが砲撃されたことを知らされ、私達はさらに足を速める。
爆撃地点が近づくと、銃声が聞こえてきた。
タタタタタタ!!
ズキューン!ズキューン!
タァン!タァン!
いくつもの銃声が聞こえ、その中にレイヴンの愛銃も混じっているのを認識しまだ持ち堪えてくれていることに安堵する。
しかし、奇妙なところがある。
銃声の数が多すぎる。
本来なら便利屋68の4人とレイヴンを合わせた5人分の銃声のはずだがそこの曲がり角の先からは10人…‥いや、20人程度の銃声が聞こえる。
「ど、どういうこと?」
「レイヴン!!無事…‥!?」
曲がり角を曲がるとそこには遮蔽物に隠れながら応戦している……
「まちわびましたよ!! せんぱい!」
「あ、先生! また会ったね〜♪」
「死んでください!死んでください!!死んで……!!!」
「いいところに来たわ! 貴方達も手を貸して!!」
「いや、社長。 もしかするとこれまずいんじゃ……。」
便利屋68とレイヴンが手を組み謎の部隊と戦闘を行なっていた。
大将の情報ではレイヴンと便利屋68は敵対し交戦に入ったと聞いていたが……。
"ど、どういう状況?"
「かんたんです! このばをきりぬけるために、いちじてをかしてます!」
「レイヴン! 私達が貸してるのよ!」
「アルちゃんどっちでもいいよ〜。そんなことよりあそこから狙撃しようとしてるスナイパーどうにかして〜。」
「アル様と、私のお友達に手を出す人は、みんな消します!!」
「……レイヴンを仕留めるいい機会だったんだけどね。 漁夫の利を狙った奴らが出てきて協力してもらってる。」
"漁夫の利?"
改めて今交戦している相手を見てみる。
ヘルメット団でも傭兵部隊でもないが、見覚えがある。
あの制服は、確か……
『先生!お待たせしました! 敵勢力はゲヘナ風紀委員会です!!』
『敵戦力を解析、一個中隊クラスの兵力を確認。 これほどの戦力を用意されるとは、便利屋68は随分と人気者だな。』
そうだ。シャーレに初めてきた時にサンスクトゥムタワーまでの道中を護衛してくれた子の1人、火宮チナツの所属している風紀委員会だ。
まさかこんな形で遭遇することになるとは。
「風紀委員会が便利屋を捕まえにきたってこと!? 冗談じゃないわ!便利屋は私たちの獲物なんだから!!」
「ですが、風紀委員会は他校の公認武力集団や便利屋のような部活とは性質が異なります! 一歩間違えれば政治的な紛争の火種に……」
ノノミの政治的な問題になってしまうという話を聞いたレイヴンがビクッとする。
「えっ、もうはじめちゃってますけど。」
「そうなんですよね……。」
久々にレイヴンの先走りしてしまう癖が出てしまったが……まぁ今回は仕方ないだろう。
ノノミは頭を抱え悩むが、シロコは覚悟を決めたのか銃を握る。
「ん、既に結論は出ている。 私たちの自治区で暴れる風紀委員会を阻止する。」
「覚えておきなさい便利屋! あいつらをやっつけたら、次はあんた達よ!!」
"よーし、じゃあみんな。思いっきり暴れておいで。 責任は私が取るよ。"
『了解です! 私とチャティさんがサポートします!!』
アビドスの協力の申し出により後方支援の手が増えた事を認識したレイヴンとハルカは見つめ合い、にやりと笑うと遮蔽物から飛び出した。
「いきますよはるかさん!! たのしいたのしいえんそくのはじまりです!!」
「はい!!皆メチャクチャにしてやります!!」
そう叫ぶとアビドスと便利屋68の無鉄砲枠の2人は陣形を組んで射撃している風紀委員達へ正面から向かっていった。
「あれ!? 逃げるんじゃなかったの!?」
「何言ってんの!! あんた達が呼び寄せたんでしょ!!前に出なさい前に!!」
そういうとセリカはアルを引っ張り前線へ連れて行く。
アルは
「私はスナイパーなのよーー!!?」
と叫んでいるがやる気になったセリカには何も聞こえていない。
風紀委員会は突然向かってきた2人をやぶれかぶれの策と判断したのか余裕な表情で一斉射撃を浴びせるが、援軍の到着によってエンジンの入ったレイヴンは最低限の回避で掃射を掻い潜り見事敵陣へ入り込み暴れ始め、恐らくレイヴンのスピードの乗った蹴りを食らったであろう風紀委員の子が宙を舞うのが見えた。
連携を乱された隙にハルカも到着し、レイヴンに気を取られた子達を後ろから容赦なく撃ち抜き、まさに阿鼻叫喚と言った地獄が出来上がっていた。
「す、すごいわ2人とも! 流石私の社員ね!」
「ちょっと! いつレイヴンが貴方達の社員になったのよ!?」
「ついさっきよ!!役職は『派遣社員』で決まりね!!」
「派遣社員……なら、後で派遣料は払ってくださいね☆」
「も、もちろんよ!」
「……先生、指揮は……。」
"……いらないんじゃないかなぁ、あれ。 えーと、とりあえずレイヴンとハルカを狙ってる子達を撃って。"
「了解です!」
「りょうか〜い♪」
前に出てきたレイヴン達を包囲しようと動き出した風紀委員達をノノミのガトリングとムツキの爆弾がまとめて仕留める。
前線で暴れ回る二人組に集中すると後方のメンバーに撃たれ、少しでも目を離すとレイヴンとハルカの二人組が目の前に来ているという状況にどちらを攻撃すれば良いのか判断できず、数の差を活かせないまま風紀委員達は数を減らしていく。
順調に敵陣の中を切り込んで行き、指揮官であろう銀髪の子と、面識のあるメガネとリボンが特徴の子……チナツの姿を見つける。
2人はどうやら意見の食い違いで揉めている様子だ。
今なら話し合うことができるかもしれない。
"レイヴン!ハルカ! もう十分だよ!止まって!"
「はぁ、はぁ、はぁ……なぜ、とめるんです! あとすこしですよ!」
「もう私達の勝ちです。 レイヴンさん、今は、先生の指示に従いましょう。」
「……はるかさんがいうなら、そうしましょう。 うんがよかったですね、ふーきいいんかい。」
不服そうなレイヴンをハルカが宥めて止めてくれる。
相手の方も観念してくれたのか、代表としてチナツがこちらへ歩み寄ってくる。
"久しぶり、チナツ。"
「先生……こんな形で再びお会いすることになるとは……。」
"そうだね。 できればもっと良い形で会いたかったよ。"
「先生がそちらへいらっしゃることを知った時点で後退するべきでした……私たちの失策です。」
そのままもう少し雑談を続けようと思ったが、私の付けているインカムに雑音が入る。
どうやらチャティが風紀委員会と私達の使っている回線を強引に繋いだようだ。
『アビドス対策委員会の奥空アヤネです。 説明をお願いします。』
「それは……。」
銀髪の子がなんと答えるべきか迷っているうちに、再び回線へ何者かが強引に割り込んで来たことを知らせるノイズが走り、新しい人物の声が聞こえる。
『それは私から答えさせていただきます。』
『……まさか俺の回線に割り込んで来るとはな。』
『通信……?』
落ち着き払った、そして上辺だけは取り繕ったような丁寧な口振りの通信に対して風紀委員会の2人が反応する。
「アコちゃん……?」
「アコ行政官……?」
突然、私達の前に立体映像が表示され、青い髪の、かなり思い切った服装をした子が現れる。
『こんにちは、アビドスの皆様。 私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。』
「ぎょーせいかん?……なんですか、それ。」
"行政官というのは……まぁ、ゲヘナの風紀委員会で2番目に偉い人かな。"
「なるほど、どおりでいらつくしゃべりかたをするわけです。」
"えっ?"
戦闘の興奮も残っているのだろうか?
いつもと違う攻撃的なレイヴンの話し方に少し驚き彼女の方を見ると、なぜか目を鋭く尖らせ立体映像のアコを睨みつけていた。
『あら……流石に、そのような言われ方をされると傷ついてしまいますね。』
悪態をついたレイヴンを一瞥すると、肩をすくめるようなジェスチャーをした後アコは話し出す。
『実際は大したものではありません。 あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』
「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない。」
「だ、誰が緊張してるって!?」
シロコの指摘に銀髪の風紀委員の子が反論するが、アコにじとりと睨まれるとまた静かになった。
『なるほど、素晴らしい洞察力です。確か……砂狼シロコさん、でしたか。……アビドスには生徒会の面々だけが残ってると聞きましたが、皆さんのことのようですね。』
アコはこちらのことを調べ尽くしているとでも言うように、手元にある資料をわざとらしくめくりながら話す。
『アビドスの生徒会は5名と聞いています。 委員長はどの方で?』
『今はおりません。そして私達は生徒会ではなく対策委員会で人数は6名です。 行政官。』
「わたしをないものとしてあつかってはこまりますよ。 なんばーつー。」
『奥空さんと……あら、資料には載っていませんね。これはあとで反省文ものですね……まぁ、いいでしょう。』
どうやら最近入ったばかりのレイヴンの資料は無かったらしい。
『それでは、生徒会の方はいらっしゃらないという事でしょうか? 私は、生徒会の方と話がしたいのですが。』
「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの! 事実上私達が生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私らに言いなさい!」
「……むだですよ。 はなしなんて。」
「レイヴンちゃん? 落ち着いてください。今銃を向けたらせっかくの話し合いの場が……。」
立体映像ではあるがレイヴンはアコへ銃を向けようとし、それをノノミが制止させる。
……もしかして、レイヴンの過去に何か関わりがあるのだろうか?
『どうやら私はよほど嫌われている様ですね……先程までの愚行は、私の方からしっかりと謝罪させていただきます。』
レイヴンからの謎の嫌悪に残念そうにしながらアコは恭しく頭を下げるが、『愚行』という単語に反応し指揮官である銀髪のツインテールの子が反発する。
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」
『命令に、「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?』
「い、いや……状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りに……っていうか! そこのちんまいのは実質私達に助けられたも同然じゃないか!!なんで私達に味方しないんだ!!」
『そうなのだとしても、他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
何も言い返せなくなった指揮官の子はそのまま黙ってしまった。
改めてアコはこちらに向き直り話し始める。
『私達ゲヘナの風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。』
『そのまま便利屋68と手を組むのであれば貴方達アビドスも排除対象となります。 風紀委員会としての活動に、ご協力をお願いできませんか?もちろん、報奨金も……』
『そうはいきません!!』
アコの便利屋68を引き渡せという要求に対し、アヤネは力強く反発する。
『他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて自治権の観点からして明確な違反です!!』
「それに、便利屋68はレイヴンちゃんのお友達でもある。それはつまり私達にとっても友達という事。」
「えっ、私友達になったつもりないんだけど!?」
「セリカちゃん、ここはお話を合わせましょう?」
「貴方達……その優しさ、とってもハードボイルドね!!」
「アルちゃん、友達ってことは否定しないんだ。」
「お、お、お友達……私なんかに、こんなにたくさんいていいんでしょうか……?」
「はぁ……社長が『こんな店いっそなければ』なんて言わなければここまで拗れなかったのに。」
"……というわけで、便利屋68は引き渡せないね。"
私達の選択にアコは心底意外そうな顔をして驚くが、正直私も驚いている。
便利屋68とアビドス高校はつい先日までは襲撃する側とされる側であり、手を結ぶ方向になるとは思っていなかったが……アルの人の良さとレイヴンの行ってきた事の結果だろう。
『ふぅ、この兵力を前にしても怯まないだなんて……やはり、信頼できる大人の方がいるからでしょうか?ねぇ、先生?』
"どうかなぁ……アビドスの子達は数だけは揃ってるって相手をずっと相手にしてきてるのもあるかもね。"
「数だけって……私達のことを馬鹿にしてるのか!?」
「じじつをのべてるだけです。 わたしたちはあなたたちのにじゅうばいはつよいです。」
「なんだとぉ!!」
『うーん……本当は穏便に済ませたかったのですが……。』
アコはわざとらしく困ったような顔をして呟く。
『……ヤるしかなさそうですね?』
「そのしゃべりかただよ。 わたしがきにいらないのは。」
"レイヴン?"
突然レイヴンが前に出て話し始める。
戦闘後の興奮で乱暴になっているだけかと思ったが、何か違う。
まるで、親の仇でも相手にしているかの様な態度だ。
「いかにも、うらがありますってしゃべりかた。 わたしの、だいっきらいなやつそっくりのしゃべりかた。」
「どうせ、べんりやたちをつかまえにきたというのはたてまえなんでしょう。」
「なにかべつのもくてきがあって、たまたまこじつけられるりゆうがあったからここにきたんだ。」
『……何を言い出すのかと思えば、なんともくだらない。 私達風紀委員が貴方達に危害を加えてしまったのは単なる偶然であり……』
「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ったのはこの状況だった。」
前に出たレイヴンの横にカヨコが並び、続いて話し出す。
カヨコの登場で、アコの余裕そうな表情が少し崩れた気がした。
それを取り繕う様に彼女はわざとらしく咳払いをし、またにこやかな笑顔になる。
『随分と、面白い話をしますね、カヨコさん?』
「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。 風紀委員会が他の自治区まで、それも私たちを追って?」
カヨコの主張は核心に触れているのか、アコは笑顔のままだが、目が笑っていないことが感じられる。
「こんな非効率的な運用、風紀委員長のやり方じゃない。 だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない。」
「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。 他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。」
「とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても6人しかいない。 つまりアコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまできたんだ。」
"えっ、私?"
急に私に話題が飛んできて驚くが、周りの皆はそれ以上に驚いていた。
「!?」
「な、何ですって!?」
「先生を、ですか……!?」
「……ふくざつすぎて、よくわかんないです。」
「な、なんで先生が狙われるのよ!? 私達みたいに悪いことしてないでしょ!?」
「くふふ、先生、モテモテだねぇ。」
「せ、先生。 安心してください。何があっても守りますから。」
アコはカヨコが語り終えると煽るように拍手をした後、話し始める。
『流石、カヨコさんですね。先ほどのお話は正解……いえ、正確には半分正解といったところでしょうか。』
その後アコは開き直った様に何故ここに来たのかを話し始めた。
きっかけはゲヘナ学園と敵対関係にあるトリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』
そこがシャーレに関する情報を入手したということからチナツが書いた報告書を確認し、それがトリニティとの条約にどの様な影響を及ぼすか分からない不確定要素だと判断したこと。
その為、条約が無事締結されるまで私が何か行動を起こされない様に風紀委員会でじっとしていてもらいたいということを説明してくれた。
『ついでに居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で。』
「……むだにながいはなしでしたね。」
「ん、ようやく状況が分かりやすくなった。」
「……先生を連れて行くって?私達がそれで『はいそうですか』って言うとでも思った?」
『……ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。では仕方ありませんね、奥空アヤネさん?』
『……? 一体何を……』
『ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。 私達は一度その判断をすれば、一切の遠慮をしません。』
アコが指をパチン!!と鳴らすと、
ザッザッザッ……と周囲から大量の、揃った足音が聞こえ始めた。
『敵の増援を確認。方向は……四方からか。』
『まだいただなんて……それに、こんなにも数が!』
「……。」
"……なるほど、手厳しいね。"
『確か……レイヴン、さんと言いましたね。』
「なに。」
『貴方は先ほど私達風紀委員会に対して、「私達は貴方達の20倍は強い」と言っていましたね。』
『確かに、私達個人個人は貴方達には到底敵わないでしょう。 それは認めてさしあげます。ですが……。』
アコが話している間にも、周囲の風紀委員の数は増え続ける。
『「大は小を兼ねる」と言います。 足し算で勝てば良いんですよ。』
彼女の言う通り、周囲は私達を遥かに上回る大人数で包囲されてしまった。
カタカタヘルメット団とは桁が違う人数に流石のアビドス高校の皆も表情に焦りが見える。
『それでは、風紀委員会。 攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください。……ああ、先生はキヴォトスの外部の人なので、怪我をさせない様に十分注意を。』
「よくも私達の事を侮ってくれたな……覚悟しろ!!」
周囲の風紀委員会が一斉に声を上げて襲ってくる。
まずはこの包囲を突破しなくてはならない。
チャティとアヤネに包囲網が比較的薄いところを探査して貰うが、持ち堪えられるかは分からない。
相変わらずレイヴンとハルカの士気は高いが、突撃させたところで2人が残るだけだろう。
それに私を守る為に全員が私の側を離れようとしない。
気持ちはありがたいし、実際そうしてもらわなければとっくに私は攫われているだろう。
だがこのままでは数の暴力で潰されるのも時間の問題だ。
そんな時、便利屋68の課長と社長が話あっているのが聞こえた。
「社長、この状況を切り抜けるには、あれしかない。 けどこの手段を使えばもうアビドスを襲撃することはできなくなる。」
「……ふふっ。カヨコ。 貴方はもうとっくに私の考えていること、わかってるんじゃなくて?」
「……まぁね。 あとは社長の許可だけだよ。」
「ふふふっ。『背に腹』と言うやつね。 やっておしまい!」
「了解。……先生、これで私達にも余裕ができるはず。指揮をお願い。」
"余裕?どういうこと?"
「何よ!?援軍でも来てくれるってわけ!?」
遮蔽物から牽制射撃をしているセリカが怒鳴りながら聞いてくるがそれに対してカヨコははっきりと答える。
「その通りだよ。……貴方達アビドスにぶつける予定だった傭兵達。」
「えっ!?」
「あはは!アルちゃんほんとにアビドスの子達気に入ったんだね!」
突然、包囲網の一角で爆発が起き、数人の影が走ってくるのが見えた。
皆それぞれ特徴的な風貌をしているが……。
「ぎゃぁあっ!!」
「なんだこいつら!!」
「後ろから撃ってくるなんて、卑怯だぞ!!」
「よく言う。 数百人がかりで潰す気満々の癖によ!」
「撃たせずして撃つ!!斬らせずして斬ぃる!!卑怯など、所詮弱者の戯言ぉ!!」
「リスクなくやるのが私の主義でね。 つまらない戦いになるだろうけど、ま、勘弁してね♪」
「最低限の労力で私が勝つ。 せいぜい飛び跳ねろ、低脳が。」
「ああめんどくせー。 たのむから避けんな。って言ってもダメだよなぁあははははは!!」
「あたしゃ小細工ってのが苦手なんだよぉ。真っ正面から行くからさ、すぐに終わんないでよ?つまんないから!!」
「……ぶす……潰す…‥。 潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰すぅ!!」
「「世に平穏のあらん事を。」」
……なんというか、一癖も二癖もありそうな傭兵達が手当たり次第に風紀委員へ襲い掛かっている。
「独立傭兵集団『トールハンマーズ』 前回の反省を活かして雇った腕利きで、筋金入りの傭兵集団だよ。」
「どくりつようへい……。」
「1人につき600万円、全額前払いで渡してる。……いつぞやの時みたいに倍の報酬で裏切るなんて事も無いよ。」
腹を空かせた獣のように思える傭兵達は瞬く間に戦況を拮抗状態に押し上げた。
リーダーと思わしきハンマーが握られた手のワッペンをした子が私達に合流する。
なんとも自信に満ち溢れ、活発そうな子だ。
依頼主の無事と、護衛対象であるシャーレの先生を確認しにきたのか目が合うと大きな声で話しかけてきた。
「あんたが最近噂の先生か? あんたはそこで見てればいい、傭兵と生徒の差を教えてやる!」
「傭兵エイリ、急な依頼変更を受けてくれてありがとう。」
「上等だぁ、傭兵が相手を選べる立場かよ! ハハハハハ!!」
カヨコの感謝の言葉を受け取るとすぐさまエイリと呼ばれた傭兵も前線へ駆け出していった。
まるで死に場所を探しているかの様な傭兵達の戦いぶりに私とレイヴンを除いたアビドスの皆は呆然とする。
「……傭兵って皆こうなのでしょうか?」
「みんなではないとおもいますが、りそうのようへいとはああいうものだとおもいます。」
「ん、レイヴンはもっと自分を大切にすべき。」
「高いお金を払ってるからね。 あれくらいやって貰わなくちゃ困るよ。」
「待って!! 本来のプランだとあんな死にたがりの馬鹿の集まりみたいな奴らと戦う羽目になってたの!?」
"……味方でよかったね。"
増援のおかげで包囲網から抜け出すことに成功し、ここから反撃へ転じる。
戦況は拮抗しているが、長期戦になると数で優っている風紀委員会の方が有利だ。
だが数を揃えてる方にも、それゆえの弱点がある。
"アヤネ、チャティ。 これだけの人数がいるなら、周囲に風紀委員の補給ポイントがあるはず。探してくれる?"
『補給ポイント……なるほど、了解です!!』
「ん……これほどの大部隊、攻勢を続けるには補給が不可欠。」
「弾が尽きちゃえばこっちのものね!」
この大規模な攻勢を維持するには人力で運べる程度の物資では不可能なはずだ。
どこかに弾薬を載せたトラックの溜まり場があるに違いない。
あとは、誰にそれを壊してもらうかだが……
既に私の中では決まっていた。
どうやら彼女も声をかけられることを予想していた様で、猟犬のような耳を既にこちらに向けていた。
"レイヴン、まだ動ける?"
「よゆうですよ。 みつけたほきゅうぽいんとをつぶして、ふうきいいんかいをたたかえなくしてやればいいんですね?」
"うん。 かなり無茶な作戦だけど、やり遂げられるとすれば君だけだよ。"
「りょうかいです!!」とすぐに返事が返って来ると思ったが、レイヴンは虚を突かれたような顔をしたまま硬直していた。
"かなり無茶な作戦だけど"
『生きて帰る保証もない、深い探査になるだろう。……だが』
"やり遂げられるとすれば、君だけだよ。"
『やり遂げられるとすれば、お前だけだ。』
もう聞くことは叶わない、ウォルターの声と先生の言葉が重なり思わず思考が停止してしまう。
……私は、何を考えているのだろう。
先生は、ただの人。とっても良い大人。
まだ若くて、声も、背丈も違う。
ウォルターには少しも似てない。
私はウォルターの代わりなんて欲しがってない。
返答がない私を見て心配そうに先生は話しかけてくれる。
"レイヴン、大丈夫?"
優しい大人だから?それだけでウォルターを重ねてしまうのか?
……そんな情けない思考を大きく頭を振って払い、返答する。
「……はい、すみません。 だいじょうぶです。」
"ごめん。 これが終わったら、美味しいものを……そっか、柴関ラーメンはもう無いんだったね。 とにかく何か奢ってあげる。"
「たのしみにしておきます。」
『先生!! 西方1.5kmに輸送トラック、および補給施設を確認!!風紀委員会のものと見て間違いありません!!』
"全員、派手に暴れてレイヴンが前線から抜けたことを気づかせないで。 レイヴン、頼んだよ。"
「了解!!」
「りょ〜かい!」
「了解です☆」
シロコさんがドローンを目立つように飛ばし、ムツキさんが爆弾を放り投げ煙を上げ、ノノミさんのガトリングが派手に前線を襲い、トールハンマーズも無秩序な動きで風紀委員会を撹乱し続けている。
私は静かに走り出し、予期せぬ遭遇を避けるため市街地を大回りで移動する。
『ビジター、目標地点までのデータを送信した。 ルートに沿って進んでくれ。』
『当然護衛の部隊はいるでしょうが、目的はトラックやコンテナです。 目標を達成したら速やかに離脱してください!』
「りょうかいです、あやねさん。」
チャティの示してくれたルート通りに進行する。
道中、まだ後方待機している部隊に遭遇しつい襲撃をかけようとしたがそれを察したアヤネ先輩に少し怒られてしまった。
アコからの指示待ちで全く周囲を警戒していなかったので勿体ないと思ったが、確かに今は1分1秒を惜しむ状況だ。
数分後、目的の補給基地が見えた。
中型のトラックが5台、弾薬の入っているであろうコンテナが山積みになっているテントが3つ。
護衛は少数だが今回は関係ない。
物資を台無しにしてとっとと逃げる。
私は物陰から飛び出しトラックへ駆け寄る。
「アビドスの生徒を確認!!」
「狙いは補給所か! やらせるな!」
「前衛は何をやっている? 対処するぞ!」
流石に発見されてしまい攻撃を受けるが、関係ない。
トラックに近づいてブレードで……
「貴様の相手は私だ。 レイヴン!」
ガァン!!
とトラックへ向かう私を盾で捕らえてくる風紀委員が現れた。
見た目はあまり変わらないが、私には分かる。
便利屋68やアビドスの皆ほどの強さではないが、実戦でしか得られない経験を積んできた手練れだ。
「部隊長!援護します!」
「援護するな! こいつの狙いは補給物資だ! トラックの移動を急げ!!」
「りょ、了解!!」
部隊長と呼ばれた彼女の指示で残りの風紀委員達はトラックへ乗り込み、発進させようとする。
ここで逃げられれば補給を断つことが出来なくなる。
部隊長と戦うのは楽しそうだが、先生からの仕事を失敗するわけにはいかない。
部隊長は進路を妨害しようと盾を構え私に向かってくるが、それなら相手が防げない進路を取ればいい。
「あなたとは、あとであそんであげます。」
「そうはいかな……あっ!?」
大きく踏み込みジャンプし、部隊長を飛び越える。
実戦経験が豊富そうな彼女でも、3次元な動きを相手にするのは初めてだったのだろう。
私の予想外の動きに対応できず、反応が遅れるがその一瞬で十分だ。
走り始めたトラックに後ろから追いつき、パルスブレードを起動し溶断する。
「う、うわぁ!部隊ちょ……」
「だめだ!振り切れない……」
1台、2台、3台……カーマンラインの内側で、アーキバスの艦隊を落とした時を思い出す。
あの時と同じように、全てのトラックを大破させた。
補給物資が燃えて使い物にならなくなったのを確認し振り向く。
部隊長はあっという間にトラックが全て破壊されてしまったことに呆然としていたが、私が見ていることに気づくと盾を構え直した。
「さて……あとはあなただけですね。」
「……強い。 貴様のような奴が居てくれれば、ヒナ委員長も少しは……。」
ヒナ委員長? 確か、カヨコさんがそんな名前を
「そうね。 貴方のような子がいると、私も少しは楽ができそう。」
「……えっ?」
突然、異様な雰囲気を纏った生徒が現れた。
白い長髪に、禍々しい角。
紫の瞳に……風紀委員の腕帯!!
私は即座にライフルを構え発砲したが、弾丸は ガァン と鈍い音を立てて弾かれ、その生徒は弾丸が当たったところを軽く撫でている。
「痛いわね。……いきなり撃たれるなんて、アコの奴、一体どんなふうにちょっかいをかけたのかしら。」
「えっ……。」
この至近距離で、私のライフルを食らって平然としている。
今まで幾たびも死線をくぐり抜け色々な兵器に対してきたが、どの時よりも絶望感が襲ってくる。
バルテウスはパルスアーマーを削れば攻撃が通用したし、ジャガーノートもカタフラクトも装甲が薄い部分をつけば攻撃が通った。
ハルカさんも弾丸が効かないのではなく、持ち前のタフさで持ち堪えているだけだ。
だが今の目の前の少女は、至近距離で、弾丸を逸らしたとかそういうものではなく、単純な硬さで弾丸を防いだのだ。
つまり、現時点で彼女を倒す術はない。
だが、こんな人を前線へ行かせるわけにはいかない。
倒せないのなら、せめて引き付けて時間を稼ぐ。
私がまだ戦う意思を見せていることに対して彼女はため息を1つつき、続ける。
「私はこの戦いを止めに来た。 前線まで連れて行ってくれないかしら。」
「だ、だめです!いかせません!」
「そう、なら……」
おそらく、彼女がヒナ委員長。
カヨコさんが言っていた、風紀委員会の最大戦力。
「力づくで、案内してもらうわ。」
"……レイヴンから、連絡は?"
『輸送トラックの撃破と、補給物資の破壊は確認しました。 ですが、レイヴンちゃんからはまだ何もありません……。』
『ビジターの反応は、こちらへ向かってきている。 無線機の故障か?』
目標を達成した後は速やかに離脱、そのはずだったが何かアクシデントでも起きたのだろうか?
安否の確認をしたいが、風紀委員会の増援がそれをさせてくれない。
独立傭兵部隊トールハンマーズも健闘してくれたが、先程最後の1人が倒され全滅した。
『ッ!!風紀委員会、第3陣を展開してきました!』
「はあ、はあ、まだいるの!?」
「この状況でさらに投入……!?」
「た、大したことないわよ!まだまだ戦えるんだから!」
補給施設が破壊された以上、これが最後の増援になるはず、これを持ち堪えられれば私達の勝ちだ。
だが、この増援に対してカヨコは考え込んでいる。
「……これはもう、アコの権限で動かせる兵力を超えてる。 ということはこの襲撃、まさか……。」
「……風紀委員長の指示?」
「えっ!?ヒナが来るの!?無理無理無理!!逃げるわよ早く!!!」
「いや、そうは言ってない……落ち着いて、」
アルが突然混乱して尻尾を巻いて逃げようとするのをカヨコが宥めようとした瞬間、
ドゴーーン!!
と向かいのビルが音をたてて崩れ、私達も、風紀委員会も、全員がそちらの方へ注意を向ける。
『……老朽化でしょうか? まぁ良いです。風紀委員会、攻撃を』
アコ以外の全員がそんなことないだろうという気持ちになった瞬間に、無線が強引に割り込んできた。
『アコ。』
『え?……ひ、ひ、ヒナ委員長!?』
激しい銃声に混じり一言、行政官の名前を呼ぶ声が聞こえ、その声に今まで飄々としていたアコは大きく動揺する。
『この子、ただものじゃない。 アコ、一体何にちょっかいをかけたの?』
『い、委員長!? 出張中だったのでは?』
『さっき帰ってきた……そこ。』
『しまっ……』
激しい銃撃戦をしながらの無線のようで、最後に聞き覚えのある声が聞こえた。
「えっ!?今のレイヴンちゃんの声じゃない!?」
『……レイヴンちゃん!!応答してください!!レイヴンちゃん!!』
"……レイヴン!!"
必死にレイヴンへ呼びかけるが、返ってくるのは相変わらずノイズだけだ。
しばらくして再び無線が聞こえる。
『……ああ、見つけた。 アコ。この状況、きちんと説明してもらう。』
『せ、説明とは?』
『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用して、こんな余計な仕事を増やしたことに対する説明よ。』
また別のビルが倒壊し、二つの影が飛び交っているのが見えた。
そのうち一つは風紀委員会の陣営の真ん中へ、もう一つはこちらへ飛んできた。
ズシャアッ!!と音を立ててボロボロのレイヴンが着地する。
「はぁ、はぁ、はぁ……すみません、おさえられませんでした。」
"レイヴン!!……無事、ではなさそうだね。"
「ん、なんとなく察しはついてるけど、まさかレイヴンが相手してたのは……。」
『ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。 この状況で、そんな人物まで……。』
"でも、無線の内容的には増援ではなさそうだね。"
ヒナとレイヴンが戦闘になったのはおそらく不可抗力だ。
風紀委員の方に落ち度があるとしても、目の前で部下をやられていては何もしないわけにはいかないだろう。
思った通り、風紀委員会は動きをピタリと止め待機する。
しばらくしてヒナが1人でこちらへ歩いてきた。
こちらも警戒はしたまま、銃を構えていないヒナを出迎える。
……ここになって、便利屋68の面々が居なくなっていることに気づいた。
「……じゃあ、あらためてやろうか。」
『まっ、待ってください!ゲヘナの風紀委員長と言ったら、キヴォトスでも匹敵する人物を見つけるのが難しいほどの、強者中の強者で』
「レイヴンをボロボロにされて、黙ってられない。」
「そうよ!!可愛い後輩をここまでズタボロにされたら、タダで帰すわけには行かないわ!」
「……勝てるかどうかわかりませんけど、レイヴンちゃんは戦ったんです。 私達が逃げるわけには行きません。」
「すみません、こんなことに、つきあわせて。」
「……そっちはまだやる気なのね。 どうするの?シャーレの先生。」
ヒナは面倒臭そうに、自分の銃に手を掛ける。
アビドスの皆の気持ちは分かるが、ヒナが消極的な態度であることと、私を連れ去ろうとしていたアコの思惑が絡んでいない以上、この戦いには何の意味もない。
"……皆、一旦落ちついて。"
『み、皆さん落ち着いて……ああもうこういう時にホシノ先輩がいたら……!』
「……ホシノ? もしかして、小鳥遊……」
「うへ〜、こいつはまた何があったんだが。 すごいことになってるじゃ〜ん。」
突然、この場にそぐわないゆったりとした雰囲気の声が通る。
「えっ!?」
『ほ、ホシノ先輩!?』
「ほしのせんぱい、いままでどちらに?」
「ごめんごめん、ちょっと昼寝しててね〜……随分手ひどくやられてるね。こりゃ寝てる場合じゃなかったかな。」
ボロボロのレイヴンを確認すると、ホシノはショットガンに弾を込めヒナへ向き直る。
「これで対策委員会は勢揃いだよ。 どうする?続ける?私はどっちでも構わないけど。」
「……あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど……随分変わった、人違いじゃないかと思うくらいに。」
「ん?私のこと知ってるの?」
「……まぁいい。戦うためにここに来たわけじゃない。 イオリ、チナツ。帰るよ。」
ヒナは風紀委員達に撤収を促し、今回の騒動に関して謝罪し頭を下げた。
徹底抗戦の構えをとっていたアビドスの皆はヒナの行動に驚いたが、最後に私へカイザーコーポレーションがアビドスの捨てられた砂漠で何かを企んでいることを伝えて風紀委員会の全兵力はアビドスの郊外へと消えていった。
『あれほど大規模な兵力を、一糸乱れずに……風紀委員長、すごい方ですね。』
「うへ〜、結局おじさんは状況が全然わかってないんだけど、何があったの?」
「説明したいのですが……分からないことばかりで……!?」
ドサッ……とレイヴンが倒れる。
あの風紀委員長と戦ったのだ。緊張の糸が切れて、とうに迎えていた体の限界を堪え切れなくなったのだろう。
皆急いでレイヴンを抱き起こし意識の確認をするが、ぐぅうううう、とレイヴンの腹の虫がなる。
「お、おなかが、すきました……。」
「……もしかして、ラーメン食べる前に爆破されちゃってた?」
「はい……。」
「……とりあえず、皆で何か食べて、今日は解散にしましょうか。」
「……うん、そうだね〜、柴関ラーメンは……」
ガラガラガラ……と何かを転がす音がする。
そちらの方を向くと、寸胴鍋を荷車に乗せた大将がいた。
「よう、間に合ったか。……レイヴンちゃんの注文の品、まだ提供できてなかったからな……。」
「跡地から、なんとか一食分は用意できたよ。 トッピングは無理だが、食っていかないか?」
"大将……。"
「すまないが、器がこれしか残ってなくてな……箸はあるから、みんなで分け合ってくれ。」
「いただきます!!」
「レイヴンちゃん、ちょっと待って!!」
『私が着くまで待ってください!!』
大将が出してくれた特盛の醤油ラーメンを、皆で分けあって食べた後、明日に備えて解散した。
Ab06、生徒名レイヴン。 は普通に食べ過ぎて後悔していた。
アビドス自治区
郊外廃墟郡
「よっ……と。 これで全部です!積み終わりました!」
「おもってたよりおおかったですね。」
「ありがとう、助かったわ。」
「じゃあどこに行く?」
「まぁ、特に当てもなさそうだし、またゲヘナに戻る?」
"みんな、気をつけてね。"
あの戦いの後、便利屋の皆さんはアビドス高校生徒の排除という依頼を下りてくれた。
「背中を合わせて戦った人達を今になって狙うなんて……できるわけないじゃない!」
ということらしい。
……アル社長には、その考え方を、ずっと大事にしていてほしい。
私は、そうすることができなかったから。
それから、傭兵達を雇うのに使った金は私達が闇銀行から盗んで置きっぱにした1億円だったらしく、残金は全て柴関ラーメンの大将に贈ったらしい。
……出どころは最悪だが、これでまた柴関ラーメンをいつでも食べれるようになるだろう。
「いくあてがないなら、もうあびどすのせいとになりませんか? げへなのばすをじゃっくするけいかくもありましたし……。」
「誘いは嬉しいけど、私達は自由な便利屋なのよ。 どこかに属す事はないわ。」
「まあたまに遊びに来るよ。 ここ、良いところだったからね。」
「……それはそうだね。」
「はい、本当に。 私、レイヴンさんとお友達になれて、アビドスの皆さんとお友達になれて良かったです。」
「じゃあ、またね! 派遣社員レイヴン!頼みたいことが出来たらあなたにお願いするわ!……格安で!」
「……とくべつ、ですよ?」
そして、便利屋68の荷物を積んだトラックは、路地の向こうへと消えていった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
さて、スネイルといえばユウカですが、今回書いてて割とアコさんもスネイル力があるのでは?と思った今日この頃。
お気に入り数4008件(2024/6/7現在)ありがとうございます!
これからも自分で読みなおして面白い!と思えるものができたら投稿していきます。
個人的にはアビドス2章で完結と思っていますが、妄想だけはリオ会長の選択を正しいと思ってしまうレイヴンちゃんを書きたいし、3章でアズサとラスティを重ねるレイヴンも書きたいし、今回アビドスのイベントストーリーが常設とのことなので面白い話が書けそうになったら書きたいと思います。
それでは、また。