Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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あんまり好きじゃないんだぁ、こういうマジなお話ってのは。
嘘です。大好きです。
なんでかというと全部フロムソフトウェアという企業のせいです。
話の区切りが良かったのでいつもより短いですが、お楽しみいただけると幸いです。


第17話 ウォルターの猟犬と、普通の人生

アビドス高校

対策委員会教室

早朝

 

「はぁ、お疲れ様です……。」

 

昨日は大変だった。

ゲヘナの風紀委員長がくれた情報の下、カイザーコーポレーションがアビドス砂漠で何をしているのか調査に行った結果、企業の私有地に無断で侵入し問題を起こした報復として借金の返済の金利をとんでもない額に上げられてしまい、さらに1週間以内に3億円を預託しなければならなくなってしまった。

……正直、どうすればいいのか分からない。

それでも先生が居てくれれば、ホシノ先輩が居てくれればなんとかなる。

そんな結局は他人任せな答えしか出せない自分に辟易しながら教室に入る。

 

「あれ、私が1番乗り……?」

 

いつもなら、ホシノ先輩やレイヴンちゃんがもう待っている教室だが、両名とも居ない。

なんとなく、嫌な予感がして教室内を見渡すと机の上に何かが置かれているのに気付いた。

 

「これは……。 嘘、なんで……!?」

 

机の上には、ホシノ先輩の退部届けと、『アビドス対策委員会の皆へ』『先生へ』と書かれた2つの手紙……そして、少し汚い字で短い伝言が書かれている付箋が貼り付けてある銀色のアタッシュケースが置かれていた。

 

『お仕事が入りました。

 報酬は10億円です。

 期待して待っててください。』

 

 

 

 

 

アビドス砂漠

 

「……。」

『本当に何もないな。……菓子でも食うか?』

「いらない。」

『そうか……。』

 

昨日通ったアビドス砂漠を、カイザーPMCの社用車に乗せられながら通る。

正解とは言えないが、アビドス高校を守るためにはこうするしかなかった。

 

「アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する……その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金のほとんどをこちらで負担しましょう。」

 

カイザーPMCの職員として働く、その見返りとしてアビドスの抱えている借金の大半を肩代わりする……。

ずっと断ってきたスカウトだが、私はそれに応えることにした。

結局はあいつの思惑通りになった事は癪だが、これで対策委員会も少しは楽になるはず。

それに今は先生という頼れる大人と、レイヴンちゃんというとても強い後輩も居てくれる。

もう、私が居なくても大丈夫だ。

あとは、私が彼女達と敵対するような事がなければ良い。

それにしても随分と丁重に扱ってもらっている。

生徒1人を社員として迎えるだけだろうに、今乗っている車の周りを何台もの装甲車が守っている。

……私の後輩達が、連れ戻しに来ることを警戒しているのだろうか?

今は午前6:30ごろ、置き手紙が読まれるのはどんなに早くても今から1時間後だろう。

後輩達が助けに来る可能性は、ゼロだ。

そんなことを考えていると運転席側の2人が騒がしくなる。

 

『人影? こんなところにか?』

『やはり取り戻しにきたか?』

『いや、人数は1人。 遭難者だろ……!?』

 

コンッコンッ!

……ドカァン!!

 

先導していた装甲車が突然爆発する。

私を乗せた社用車は急停車、周りの装甲車もこの車を守るように停車し乗せていた兵員達を降ろし陣形を組む。

 

『敵襲!!』

『一体どこのバカだ!? カイザーPMCに喧嘩を売るとは!』

 

私はこんなことができる子を、1人知っている。

たった1人でマーケットガードを叩き潰し悠々と帰ってきたあの子だ。

あまりにも早過ぎる対応だが……ある意味、あの子らしい。

本当に来たのがあの子だとすれば、彼らでは止められないだろう。

私はショットガンと盾を掴み車外へ出ようとするが、PMC兵に止められる。

 

『どこへ行くつもりだ?』

「……襲ってきた正体不明の人物を撃退する。 私はもうカイザーPMCの職員なんでしょ?私もやるよ。」

『許可できない。 どさくさに紛れて逃げるつもりだろう?』

「……逃げるって、どうやってさ。」

 

大人しくしていろ、と銃を向けられたので言われた通りじっとしていることにした。

……数分後、私とPMC兵は大きく後悔をする事になる。

 

あの時、私達の前に現れたのは私の知っているあの子じゃなかった。

少し過激なところがあるけど、可愛げのあるアビドス高校1年生のレイヴンちゃんではなかった。

本物の地獄から来た、死神だった。

 

 

 

 

 

今回の仕事は、少し懐かしさを感じる。

企業同士の抗争……ルビコンで散々関わってきた事だ。

アーキバスの依頼で大豊(ダーフォン)の部隊をグリッド135から一掃したり、レッドガンに届けられる予定のACを候補生ごと始末したり……散々お世話になったミシガン総長率いるレッドガンを、壊滅させたり。

今思い返すと、アーキバスはやり方が賢かった。

ベイラムは常にルビコン解放戦線を始末することしか考えていなかったが、アーキバスはベイラムのおこぼれを狙い続けていた。

その結果としてベイラムが無茶な作戦で消耗させた『壁』を最小の労力でやり遂げ、アイスワームという化け物退治をベイラム主導でやらせている裏で封鎖機構の最新兵器を鹵獲して戦力にし、最終的にはベイラムをルビコンから撤退させた。

 

今回依頼人が私に直接依頼をしてきたのはきっと、チャティが拒否していたからだ。

チャティはきっと私に『普通の人生』を送れるようサポートする事をカーラから頼まれている。

だから今までの戦争ごっことは違う、明確な『暗殺依頼(人殺し)』であるこの仕事を伏せていたのだ。

……チャティを出し抜ける存在がいる事に、やはり世間は広いと感じる。

時刻は6:30。

依頼主の情報通りならそろそろ……と思っていたところに、何台もの車の走行音が聞こえてくる。

このアビドス砂漠を、砂埃を巻き上げながら勇ましく進んでいる。

もう少し大人しく進んでいれば、もしかしたら見逃してしまっていたかもしれないだろうに。

私はエンジニア部製の装備を、『独立傭兵ナイトフォール』の正装を整える。

肩に掛けていた囀り砲を、先頭を走る装甲車に向けてトリガーを引く。

 

コンッコンッ! と2つ並んだ砲門から少し時間差を置いて砲弾が2発発射され、装甲車を吹き飛ばす。

順番は関係ない、全部ボーナス対象だ。

頭の中に、飼い主の声が響く。

 

『殲滅しろ、621。』

「りょうかいです。 はんどらー・うぉるたー。」

 

 

 

 

 

簡単な仕事になったと思っていた。

アビドス高校の借金を返す為、うちに入社する事になった小鳥遊ホシノを基地まで安全に送り届ける。

アビドス高校の生徒達は手練れ揃いで覚悟を決めていたが、小鳥遊ホシノは自分の身を売る事を仲間達に秘密にしたまま契約書にサインしたらしい。

念には念を……と用意された装甲車部隊がただの燃料の無駄遣いと狭い兵員輸送車で窮屈な思いをしただけとなり運転手と乗っていた兵士達……つまり、俺たちはげんなりしていた。

 

ところが、問題が起きた。

突然先頭を走っていた装甲車が爆発に飲まれ横転し、無線にいくつもの怒鳴り声が飛んでくる。

 

『敵襲!!各部隊、応戦しろ!!』

『小鳥遊ホシノの護衛が最優先だ!! 中央の社用車を死守しろ!!』

『敵は!?』

『独立傭兵か? 可哀想にな。誰に喧嘩を売ったかも分かってないだろうよ!!』

 

自分の乗っていた装甲車の扉が開き、訓練通り迅速に展開する。

他の兵士たちは、アクシデントが起きた事に乗り気だ。

 

『へへっ、1発も撃たずに帰る事にならなくて良かったぜ。』

『俺は揺られてるだけで給料貰えるんなら文句はねぇけどな。』

『私語は慎め、仕事中だぞ。』

『つってもよ、たった1人で突っ込んできた身の程知らずだろ? とっとと終わらせ』

 

バチュン!! 目の前で同僚の頭が吹き飛ぶ。

俺達オートマタはその程度で死にはしないが、そもそもそんな欠損が起こる事そのものが異例だ。

 

『油断するな! こいつ、ただの生徒なんかじゃない!』

『A班が、全滅……? 20秒足らずでか!?』

 

同僚の尊い犠牲のおかげで、残された俺たちの意識が変わる。

適当にやって片付けられる相手ではない。

俺達は急いで前線へ向かい配置へ着き、フードを被った小柄な少女とようやく接敵する。

左手に変わった形状の盾、右手にはアンバランスなデザインのライフル、肩にぶら下げている2連装タイプの迫撃砲と思われるもの……そして、左胸にある夕暮れの空を飛ぶカラスがデザインされたマークが、見せつけるように輝いていた。

 

『装いはちがうが……まさか、「夕暮れ時」か!?』

『はぁ!? あの、マーケットガードを1人で壊滅させたとかいう……。』

『あれは銀行強盗に出し抜かれたあいつらが作ったデマ話だろ?』

『……そうだと思ってたんだがな……。』

 

装甲車の台数は合計6台、それぞれに10人乗っていて厳密には運転手と銃座についている者もいるが総数は約60名。

わざわざ言うまでもないが、60対1。

本来なら戦闘にもならない戦力差だが、現実は違った。

「ナイトフォール」と呼ばれた少女は戦場を獣のように駆け巡る。

機銃の掃射をくぐり抜け装甲車に取り付くと、彼女は盾を正面装甲に押し付けた。

一体何をするつもりだ? そう考えた次の瞬間に ガコンッ!! と重い音がして、正面装甲が大きく歪み貫かれる。

あれは盾であって、盾ではないことを理解した。

理解したところでどうすればいい?

遮蔽物として利用していた装甲車があっさりと破壊された次の瞬間には、目の前にあの少女がいた。

 

『ッ!!』

 

即座に銃を構え発砲するが、弾丸は彼女の着ているパーカーの上を滑り逸らされていく。

見た目からは想像もつかない防弾性能に驚いていると再び ガコンッ!! と大きな音が鳴り、俺の右腕の感覚が無くなる。

銃を握ったままの俺の腕が、宙を舞っている。

 

俺の生命(メインコンピュータ)を守るためセーフティーモードに強制移行され、意識が途切れる寸前に彼女と目が合う。

爛々と赤く燃えるように光っているのに、とても冷たい眼光。

このキヴォトスではまず見ることはない、本物の人殺しの目。

死んでしまうかもしれない一手を、一切の躊躇なく打てる目。

今理解した。

ここは、戦場なんかじゃない。

ここは狩場で、俺たちは羊かなにかで彼女は……俺たちを狩る、猟犬だ。

 

 

 

 

 

バンッ!!バシャッ!!

と社用車の窓に何かがぶつかった音と、何かがかけられた音がした。

 

『こっちに何か飛んできたぞ!気をつけろ!』

『……おい!返事くらいしたらどうだ!おい!?』

 

護衛対象であるこの車に何か重たいものが飛んできた事に対して抗議する無線を出すが、前線からは冗談も空返事も何も返ってこない。

……銃声が止み、戦闘は終わったというのに。

 

『無線機の故障か? 確かに激しい戦闘だったものな……少し、見てくる。 いいか、逃げようなんて考えるなよ。』

 

そう言って運転席側のPMC兵士がドアを開け身を乗り出した瞬間、銃声が3回。

 

ダァン! ダァン! ダァン!

 

PMC兵の……まずは左腕が、次に右足が、最後に顔の左半分が吹き飛んだ。

 

『がっ……。』

『おい!!』

 

その光景を見た助手席の兵士が飛び出しそうになったのを止め車外へ出る。

 

「……貴方は今すぐ離脱して救援を呼んできて。 ここは私が抑える。」

『ッ!? だが、お前を基地まで送り届けるのが我々の』

「分からないの?とっくに任務は失敗してるの。」

 

防弾装甲が施され外への視界が悪かった車内から外へ出てみて、今の状況を理解する。

……さっき車にぶつかったのは、別のPMC兵の右腕とそれに流れていたオイルだ。

前線の光景は、地獄だった。

装甲車は1台残らず破壊され、倒れている兵士達からは呻き声一つ聞こえない。

信じられないほどの静寂の中、パチパチと装甲車から漏れた燃料に火がつき燃える音だけが聞こえる。

そして、その炎の影の中に見覚えがあって、けれどまるで初対面のような感覚に陥ってしまうほど変わり果てたあの子が立っていた。

いつの間に、そんなものを用意したのだろう。

ああ、ローダー4をミレニアムの子達が見に来た時かな?

フードの下では、なにやら信じられないものを見たという表情をしているが、私から言わせればこっちこそ信じられないものを見せられている。

 

『ヒィッ……』

 

と後ろで情けない声が聞こえる。

レイヴンちゃんの目つきが鋭くなり即座に銃を構えるのを認識し、私は兵士を守るように盾を構える。

 

「さっさと行きなよ。 言っとくけど、私もどこまで抑えられるかわからないんだからさ。」

『ぐっ……すまない……!!』

 

謝ることなんて、他にもっと沢山あるでしょ。

レイヴンちゃんは逃げ出す社用車を追いかけることよりも私と2人きりの状況になれる事を選んだのか、引き金に指をかけないまま私に銃を向けて待機する。

基地へ救援を求めに行った車が視界の外へ消えるのを確認し、私が盾を下ろすとレイヴンちゃんも銃を下ろした。

 

「うへ〜、おはようレイヴンちゃん……ちょっと、やりすぎだよ。」

「そうですか? かれらはがんじょうすぎて、どこまでこわすとまずいのかわかりません。」

 

レイヴンちゃんの目つきが、いつもの少しふにゃっとした風に戻る。

 

「それにしても、なぜほしのせんぱいがいるのですか? てっきりかいざーりじがのっているかとおもっていました。」

 

この様子だと、私が書いた手紙は読んでいないようだ。

ならなぜ私が乗せられていた車を襲撃して助けに来てくれたのだろうか?

疑問に思いつつも、私は私の事情を話す事にした。

 

「そっか、知らないんだね…‥。 私、アビドス高校を辞める事にしたんだ。」

「えっ……。どうしてですか? まだそつぎょうのきせつではないでしょう?」

「……実は私、昔からずっとカイザーPMCからスカウトを受けてたんだ。」

「カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりするっていう条件でね。」

 

私の決断を、レイヴンちゃんは静かに聞いている。

 

「うへ、中々良い条件でしょ?……借金のことは、私がどうにかする。だからレイヴンちゃんは戻って、学校を守って?」

「そのひつようは、ありません。」

 

少し興奮気味に、レイヴンちゃんは答えた。

必要が無いって……もう、決めたことなのに。

 

「引き止めたって無駄だよ。もう……。」

「だって、これからかいざーぴーえむしーはなくなるんですから。」

「……えっ?」

 

レイヴンちゃんの意味不明な発言に私がキョトンとしていると、レイヴンちゃんは今までで1番上手な笑顔を作って、まるで褒めてくれることを期待している子供のような口調で話しだした。

 

「かいざーにきえてほしいとおもっているところから、いらいがきたんです。 たしか、せいんと・ねふてぃすとかいいましたかね。」

 

レイヴンちゃんは独立傭兵になることを決めた時から企業を利用する、という事を主張していた。

なるほど、こういうことだったのかとようやく理解した。

確かに、カイザーのやり口に不満を持つ対立企業は山ほどいるだろう。

彼女の賢いやり方に感心できたのは、ほんの一瞬だけだった。

 

「かいざーりじをころして、きちもつぶせばじゅうおくえんもらえます。 しゃっきんをかえしても、おつりがきますね!」

「えっ。」

 

今、彼女はなんと言った?

カイザー理事を『殺して』と言ったのか?

驚いた私を見てレイヴンちゃんは、気味が悪くなるほど、なんでいままでその表情が出来なかったのかと思うほど優しい表情で語りかける。

 

「だいじょうぶです。 みんな、ほしのせんぱいのことをきっとまってます。」

「……このしごとがおわったら、またみんなでいっしょにしばせきらーめんに」

「悪いけど、そうはさせない。」

 

優しく語りかけるレイヴンちゃんに、私は銃を向ける。

 

「……ほしのせんぱい? どうして、わたしにじゅうをむけるんですか?」

 

私はもうアビドスの生徒ではないけれど、私はレイヴンちゃんの先輩で……勝手だけれど、この子の前の飼い主から、彼女を託されたつもりでいる。

私はともかく、彼女が道を踏み外すのを黙って見ているわけにはいかない。

 

「ウォルターは貴方に、『これからのお前の選択が、お前自身の可能性を広げることを祈る』って言ってたよね。」

「……よく、おぼえてますね。」

「カイザー理事を殺す……その選択が、貴方の可能性を広げることなんてない!! 貴方を預かったものとして、それを選ばせるわけにはいかない!!」

 

私の意見にレイヴンちゃんは一拍置いて、少し目を潤ませながら話し始めた。

 

「ほしのせんぱい。 ここはせんじょうで、かれらはへいしです。」

「……ころされるのは、ふつうのことですよ。」

 

今なら分かる。分かってしまった。

……いや、本当は分かってた。

レイヴンちゃんが、ウォルターから与えられていた『仕事』について。

だからこそ、ウォルターは仕事をやり遂げたレイヴンちゃんにはもう『普通の人生』を生きて欲しいと願っていたはずだ。

 

「普通じゃない!……どんな理由があったって、人が死ぬのは普通じゃないんだよ!!レイヴンちゃん!!」

 

『普通じゃない』

その言葉に、レイヴンちゃんはピクリと反応する。

けれどそれは、私の期待した効果を起こしはしなかった。

レイヴンちゃんの目つきが、少しずつ冷たくなっていき、そして口を開く。

 

「……もし、おとなのひとにだまされて、もてあそばれて、たいせつなものをうばわれることが、ふつうのじんせいだというのなら。」

「わたしは、そんなもの、いりません。……わたしは、ふつうじゃなくていいです。」

 

少しずつ、声が低くなり殺気が込められていく。

 

「かいざーりじをころして、きちをこわして、ぴーえむしーをつぶして……」

「わたしたちのじゃまをするものを、みんなけして、それでほしのせんぱいが、かえってきてくれるなら……。」

 

レイヴンちゃんの目が、怖くなる。

今言っていることは、全部本気だ。

私の訴えかける目を見て、悲しそうにしながら最後の一言を言う。

 

「わたしは、なんにんだって、ころします。」

 

そっか。それが、レイヴンちゃんの答えなんだ。

じゃあ、私も答えてあげないとね。

レイヴンちゃんは読んでいないけれど、アビドスの皆に残した手紙に書いたのと同じように。

今の私は、レイヴンちゃんの敵だから。

私は愛銃の引き金を引いて、レイヴンちゃんを撃つ。

レイヴンちゃんはすぐに反応して、散弾が当たらないように大きくステップして避ける。

 

「……どうしても、カイザー理事を殺しに行くというのなら……。」

「私のヘイローを……私を、殺してからにして。」

 

レイヴンちゃんは大きく目を見開いて、動揺する。

……ああ、本当は、優しい子だろうに。

なんで、そんな選択をできるようになっちゃったんだろうね。

レイヴンちゃんが初めからこの世界の住人だったら、もっと普通に生きていけただろうに。

 

「やめて、ください。」

「……ならさ、その仕事は諦めて。 私がいなくなった後のアビドスを支えてあげて。もちろん、悪いことは無しでね?」

「かえりましょう? せんぱい?」

 

レイヴンちゃんの両目から、大粒の涙が溢れる。

 

「これいじょうわたしに、やさしくしてくれたひとを、たいせつにしてくれたひとを! うしなわせないでください!!」

 

悲痛な叫びと共に、レイヴンちゃんも銃を構える。

ああ、また一つ、分かってしまった。

レイヴンちゃんはここに来るまでに、たくさんのものを捨ててきたんだ。

私よりずっと大きくて、大切なものを。

だからこそ、選ばせるわけにはいかない。

ようやく手に入れた『普通の人生』までも、捨てさせるわけにはいかない。

 

「行くよ。 レイヴンちゃん。」

 

Ab06、生徒名レイヴン。 普通の先輩と後輩の関係が、終わる。

 

 

 

 

 

 

アビドス高校2F

レイヴンの部屋

 

「チャティさん!!」

『奥空アヤネ。 良いところに来てくれた。ビジターを知らないか。』

「……チャティさんも、ですか。」

『すまない。 どうやら期待に応えられなかったようだな。』

 

彼なら何か知っているかもしれない。

そんな淡い期待は、あっという間に裏切られた。

チャティさんも知らないと言うことは、やはりレイヴンちゃんが受けた仕事というのは只事ではない。

私は教室に置かれていた3億円の現金が入っているアタッシュケースと、10億円の仕事を受けたとしか書かれていない付箋を見せる。

 

「教室に来たら、こんなものが置かれてあったんです……。 何か、心当たりはありませんか?」

『……………………。』

 

いつも人間らしく返答してくれるチャティさんから、珍しくカチャ、カチャと演算するような音が聞こえる。

 

『……心当たりならある。 物騒な仕事だったので拒否し続けた依頼がある。』

「物騒?……わりと、いつも物騒な仕事だと思いますが。」

『今までの仕事とは比べ物にならない。……恐らく、ビジターのスマートフォンに何か残されているはずだ。』

 

そう言われて初めて、レイヴンちゃんがいつも寝ているベッドのそばの机に備品のスマートフォンが置きっぱなしになっている事に気づいた。

これでは、連絡を取り合うこともできない。

……ホシノ先輩も、レイヴンちゃんも、勝手に事を進めすぎだ。

私達のことを、もっと信頼してくれても良いじゃないですか。

不満を抱きながら、レイヴンちゃんのスマートフォンのホームボタンを押す。

レイヴンちゃんの考えそうなパスワード……621621?それとも別の何か好きな文字列があっただろうか?

しかしレイヴンちゃんのスマートフォンはあっさりとホーム画面を開いた。

……今度、パスワードの設定について説明しよう。

だが今は何か手がかりを掴まなければならない、そして何かあるとすれば、メールフォルダだ。

レイヴンちゃんのメールフォルダを開くと、真っ先にその依頼が見えた。

届いたのは、昨日の夜。

文面には

 

『緊急依頼:カイザーPMC基地襲撃

・COMBAT ZONE

 アビドス砂漠

・OBJECTIVE

 基地襲撃及び要人(カイザーコーポレーション理事)の暗殺……』

 

ここまで読んで私は悲鳴をあげてしまった。

暗殺。人殺しの依頼。創作の中でしか見たことがない文面が書かれていた。

 

「ちゃ、チャティさん……これって……。」

『……やはり、その依頼だったか。 俺が出し抜かれるとは、全くもって不愉快だな。』

 

もっと何かないかとそのメールを開いてみると、動画ファイルも添付されていた。

チャティさんが『恐らく作戦の説明だろう。』と言ったので急いで再生する。

ほんの数分に満たない動画だが、一体どのような内容だろうか。

読み込みが終わり、男の人の声が聞こえてきた。

 

『独立傭兵ナイトフォール。まずは依頼の完遂、ご苦労だった。

お偉いさん、あんたのことが痛く気に入ったようだ。

なんとしてもこの依頼を受託させろと言われてな。

悪いが友人のツテであんたの連絡先を突き止めさせてもらった。』

『つまり、俺はあんたがどこの誰だか知っちまった。

示すべき誠意として、この一連の依頼主である俺たちについて伝えよう。』

『依頼主は、「セイント・ネフティス社」……なんてことはない、カイザーコーポレーションのライバル企業というだけさ。』

 

セイント・ネフティス社?

どこかで聞いた覚えがある気がする。

そう思いながら頭の中の引き出しを一斉に開けようとするが、動画は着々と流れ続けているのでまずはそちらへ集中する。

 

『さて、話が長くなったが本題に入ろう。

仕事内容はメールの通りだが、偉いさんから具体的な計画が提示されている。

要はセイント・ネフティス社らしさってやつだが……まぁ聞いてくれ。』

 

そう言うと画面が切り替わり、地図や装甲車部隊の写真。

その部隊の進行予測ルートなどが説明に応じて順番に表示される。

 

『現在、カイザー理事はアビドス市街へ出向いているらしい。

一切基地から出てくることのなかったこいつを仕留めるには、絶好の機会だ。

うちの諜報部隊がカイザー理事の護衛に使われると思われる部隊を確認している。

あんたはアビドス砂漠でその護衛部隊の進行ルート上で待機、確認出来次第叩いてくれ。

カイザー理事を排除した後は、余力が残っていれば見つけてくれた基地も叩いてほしい。

補足として、燃料貯蔵タンクや物資保管庫の破壊には特にボーナスがついてる。

全部破壊すれば……まぁ、一生は遊んで暮らせるんじゃないか?』

 

少し馴れ馴れしい喋り方のまま、あっさりと『カイザー理事を排除』と言った。

……これが、大人の世界なのか。

レイヴンちゃんはもしかして、そんな世界を生きてきたのだろうか。

もしそうだとしたら、レイヴンちゃんの『慣れている』仕草や行動に説明がついてしまう事に気づき、急いで忘れる。

最後に元の何も映っていない真っ白な画面が映り、締めの一言で動画は終了した。

 

『こんなところか。 危険な仕事だが……あんたなら、やるだろ?

連絡を待ってる。』




最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
沢山の感想、ここ好き、怒涛の誤字報告大変ありがたいです。
さて、夏ということもあって水着を着た生徒たちが沢山拝見されますが、レイヴンちゃんが水着を着るとしたらどんな水着になるでしょうか?
それははっきりとは見えませんが、絶対に普通の浮き輪に加えて二の腕にも浮き輪をつけてもらいます。
また満足のいく出来のお話ができたら投稿させていただきます。
それでは、また。
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