Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
本来ならもう少し先まで書きたかったのですが生存報告も兼ねて投稿する事にしました。
8月は予定と仕事が山盛りなので涼しくなるまでまた待っていただけると幸いです。
いつもより少し短いですが、楽しんでいただけると幸いです。
アビドス砂漠
捨てられた街
「行くよ、レイヴンちゃん。」
『行くぞ、戦友。』
「あっ……。」
ホシノ先輩の言葉に、懐かしい戦友の声が重なり体が動かなくなる。
私が果たすべき使命の為に、捨てたものの1つ。
お世話になったミシガン総長を討ってでも守りたかった、私の大切な人。
彼との対決は、どうしようもなかった。
彼は自分の故郷を守る為になんでもやってきた人で、私は彼の故郷を焼く為になんでもやった。
お互いに絶対に譲れないものがあり、その果ての殺し合いだった。
あの時の私はまだ感情が万全ではなかったけれど、今の私なら思える。
あんな目には、2度とあいたくない。
大切な人を、もう手にかけたくない。
けれどホシノ先輩は盾を構え、銃を撃ちながらこちらへ向かってくる。
『621、まずは生き残れ。 それがお前の、今すべき仕事だ。』
「……っ!!」
頭に響いた飼い主の言葉で、すくんで動かなくなっていた足が動くようになる。
ホシノ先輩の射撃タイミングに合わせて右へ、左へステップして弾丸をかわしながら距離を取る。
「どうしたのレイヴンちゃん。 逃げてるだけじゃ勝てないよ?」
ホシノ先輩はいつもの優しげな目つきではなく、鋭い目でこちらを睨みながら攻撃の手を緩めない。
パーカーの袖を散弾が滑るのを感じる。
初めは避けられていた攻撃が段々当たるようになってきて、弾丸越しにホシノ先輩の決意の強さを感じられる。
私はこの強さを、技量だけでは出せない強さを知っている。
何かを選び背負った、あるいは捨てなければ得られない圧力。
そしてこの強さを持つ者に……話し合いは通じないということも、知っている。
ルビコンを守る事を背負ったラスティと、コーラルとルビコンに生きる生命全てを背負ったエア。
ルビコンごとコーラルを焼き尽くす使命を背負ったオーバーシアー。
そして、ウォルターが死んでいった友人達から受け継いできたものを託され、背負った私。
言葉が通じるのに、相手のことを理解しているのに……私の事を思ってくれている人達を、私は捨ててきた。
そうしなければ、使命は果たせなかったから。
だがここは私の居た場所とは違う、銃で撃たれた程度では死なない優しい世界だ。
今の私のやりたい事は『アビドス高校を守ること』……いや、ようやく見つけられた『普通の人生』を送ることだ。
それにはシロコ先輩が、ノノミ先輩が、アヤネ先輩が、セリカ先輩が……ホシノ先輩が、必要だ。
もう仕事などどうでもいい。
そもそも情報通りにカイザー理事が居なかった時点で完遂できなくても不可抗力だ。
だが、ここで引き下がってしまったらホシノ先輩が居なくなってしまう。
「もうこんなしごとはうけないからいっしょにかえってください。」
と言ってもホシノ先輩は間違いなく拒否するだろう。
アビドスの借金を無くす為なら、私は『その選択(人殺し)』をすると証明してしまったのだから。
もう話し合いで解決できる問題ではない。
ここでホシノ先輩を止められなければ、先輩はもう手の届かないどこかへ行ってしまう。
企業に捕まり、どこかへ消えてしまった私の飼い主の様に。
……ヘイローを、砕かなければ良いんだろう。
やれるはずだ。ヘルメット団も風紀委員会の子達も怪我で済ませてきた。
私はようやくライフルの引き金に指をかける。
「……せんぱいには、さいごまでつきあってもらいますよ。 わたしののぞむ、ふつうのじんせいに。」
「……さらっと恥ずかしいこと言うね。」
どこが恥ずかしいことなのか疑問を持ちながら、私は引き金を引いた。
ダァン! ドォン!!
ドォン!! ダァン!
ガァン! ガキン!!
もう私達2人しか残っていない砂漠の真ん中で様々な音が響く。
レイヴンちゃんの新しいライフルの音と私の愛銃の音。
私が盾で防いだ音と、レイヴンちゃんのパーカーが弾丸を弾いた音。
あの柔らかくて暖かそうな服からどうやったらそんな音が出るのか疑問に思う。
撃って、回避されて、装填して、また撃って、防いで、装填して……そんな一進一退の攻防が続いているが、段々とレイヴンちゃんの動きにも慣れてきた。
確かに素早い動きだが直線的だし、次の動きに入るまで硬直している瞬間がある。
だからその時を狙って撃てば当たるが、当てたところでパーカーと奇妙な形の盾に防がれてしまい有効打にはならない。
だが、私を力づくで止める事を決意したレイヴンちゃんにはまだ迷いがある。
なるべく私にダメージを与えず無力化しようとしているのか、腕や足ばかりを狙ってきている。
だからほんの少し身を捩れば当たらないし、盾で防ぐのも簡単だ。
だから、仕留めるなら今のうちだ。
私は盾を構え大きく踏み込み、シールドバッシュを繰り出す。
盾で隠れて見えなくなる寸前のレイヴンちゃんは 「まってました!」 と言わんばかりの自信満々の表情をしていた。
レイヴンちゃんなら間違いなくシールドバッシュに対して回り込み肉薄してくる。
私はショットガンを肩に吊るして備え、予想通りの位置に飛んできた鋭い蹴りを体全体で受け止める。
「えっ!?」
「捕まえた。」
そんな勢いで蹴って折れないことが不思議なほど細い足をしっかりと掴み、そのまま押し倒す。
レイヴンちゃんは完全に自分の動きが読まれていた事に混乱しつつ必死に抜け出そうとする。
体の下でジタバタと暴れるレイヴンちゃんの感触に一緒にお昼寝していた時のことを思い出す。
あの時は、楽しかったな。
私は溢れ出す懐かしい思い出と暴れるレイヴンちゃんを押さえつけながら、パーカーの襟の方から内側にショットガンをねじ込む。
何をされるのか理解したレイヴンちゃんの表情が青ざめた。
「ごめんね。」
謝ったところで許されるわけがないと思いながら引き金を引いた。
ドォン!!
「ぎっ……!!」
「……レイヴンちゃんは強い子だからね。 悪いけど、容赦はしない。」
レイヴンちゃんの全身がビクンッと跳ね、苦しそうな呼吸になる。
1発で気絶してくれれば良かったが、残念ながらそうはいかなかった。
2発目、3発目と叩き込んだところで、レイヴンちゃんの右手が奇妙な形の迫撃砲を掴むと即座に地面に向けて撃つ。
あまりに迷いのない自爆行動に反応が遅れて吹き飛ばされる。
「うわっ!!」
なんとか盾を構え爆風に飲み込まれるのを防ぐのは間に合ったが、レイヴンちゃんを見失ってしまった。
もうシールドバッシュで誘って捕まえる方法は無理だろう、次の策を考えていると目の前を黒い影が飛んだ。
反射的に盾を上に構えると同時に ガァン!! という凄まじい音がして、衝撃が左腕に走る。
レイヴンちゃんが奇妙な形の盾で、上から重力を味方につけ殴りつけて来たのだ。
お互いに盾で鍔迫り合いをするような形になりガリッガリッ……と盾同士が擦り合わされ削られる音が響く。
私と違って爆風に飲まれたらしいレイヴンちゃんは煤だらけになって汚れている。
……それだけで済むとは、やはりそのパーカーはとんでもなく頑丈だ。
「さっきのは驚いたよ。 もう少し、自分の身体を大切にして欲しいな。」
「あのままうたれつづけるよりはましです。……いままでで、いちばんいたかったですよ。」
「ごめんね。手加減したらこっちが負けちゃうからさ……!?」
ガァン!! と盾が蹴り付けられ、その後間髪入れずライフルが斉射される。
「ですが、このていどでわたしは……うぉるたーのりょうけんは、とまりませんよ!!」
先程までの消極的な動きではなく、盾で殴りつけ、ライフルを撃ち、リロードしながら蹴り付けて、私の攻撃は当たっても構わないパーカーが守ってくれている場所で受けてひたすら攻撃の手を緩めず攻め続けてくる。
ならばここからは、純粋な殴り合いだ。
私も守りをある程度捨て攻撃へ転じる。
「貴方はもう、ウォルターの猟犬じゃない! 私の後輩として、止まってもらうよ!!」
そのまま第2ラウンドに突入したが、不気味な違和感を感じる。
本当に目の前にいるレイヴンちゃんはレイヴンちゃんなのか?
そう思ってしまうほど攻撃が苛烈になっている。
容赦がないだとか、手加減をやめたとかそういう話ではない。
自分の身体が傷つくことも厭わない……いや、死ぬことも、殺すことも恐れていない。
そんな動きだ。
何度目か分からないぶつかり合いの時、ついにパーカーが限界を迎えたのかフードの部分がちぎれ飛びレイヴンちゃんの顔が良く見えるが、思わず怯んでしまった。
不自然に赤く発光し大きく見開かれている両目に、緩んで涎が垂れている口元を見て確信する。
戦い方が変わったのは覚悟が決まったからだと思っていたが、違う。
先生が私に教えてくれたレイヴンちゃんの秘密を思い出す。
『"人の脳に特殊な信号を流すことによって、知覚、身体機能……そして、感情を制御して理想の兵士として「作り直す」"』
自分の身体への痛みも、相手への慈悲も、人として持つべき恐怖も苦悩も矜持も誇りも全て『捨てさせる』
道具として与えられた『戦闘に勝利する』という目的を果たさせるために。
私は、取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
罪悪感に囚われ生まれてしまった隙を逃さずレイヴンちゃんはゼロ距離で迫撃砲を放った。
私は咄嗟に盾で受けるが衝撃で体勢を崩してしまう。
まだ残っている爆炎の中から左手の盾を腰だめに構えたレイヴンちゃんが飛び出してきて、その異常な殺気に思わず反射的に急所に狙いをつけ撃ってしまい、レイヴンちゃんの右目に当ててしまう。
しかし、レイヴンちゃんは止まらず
ガコン!!
という音がして、身体がふわりと浮き上がる感覚と腹部に違和感が生まれ、その違和感は段々と痛みに変わっていく。
恐る恐る自分のお腹に目をやると、レイヴンちゃんの盾から飛び出た杭が突き刺さっていた。
ホシノ先輩のショットガンを押し付けられながら撃たれた胸がずきんずきんと痛む。
でもそれ以上に、久しく忘れていた感覚に私の心臓が高鳴っているのを感じる。
壁越えで自分より何倍も大きく、背部しか攻撃を受け付けないほどの重装甲を施されたジャガーノートと対峙した時。
ウォッチポイントで私よりもずっと前に強化人間になり、50年以上前からAC乗りとして傭兵を続けているスッラと対峙した時。
海越えで技研が残した遺産の一つ、大型であるにもかかわらず凄まじい機動力を持ったシースパイダーと遭遇した時……。
上げていけば切りがないほどにルビコンで何度も味わった、自分よりも格上の存在に相対した時の感覚だ。
身体中が『死ぬかもしれない』という恐怖に囚われるが、その後に決まって闘志が湧いてくる。
頭の中が熱くなり、視界がいつもより明瞭になり、身体が考えるよりも速く動く。
この状態なら、やれる。
ホシノ先輩の守りは硬い。
やけに硬くて鬱陶しい盾もそうだが本人もタフだ。
けれど、無敵ではない。
蹴りを入れれば怯み、ライフルを当てれば傷が付く。
あの空崎ヒナと違って、しっかりとダメージが蓄積しているのが見て取れる。
攻撃が通用するのなら、倒せる。
ショットガンを当てられた時の衝撃と痛みにも慣れてきた。
激しい高速戦闘が続き、着実にダメージが蓄積されている小鳥遊ホシノを見て少しずつ近づいてくる勝利を感じ口元が緩んでしまう。
ローダー4の部品だった頃の私でも、口の部分が動いたのなら緩めてしまっていたのだろうか?
きっとそうだろう。
涎を垂らして獲物に噛み付く事しか出来ない猟犬だったのだから。
そんなことを考えていると、突然ホシノの動きが鈍った。
長期戦による疲労だろうか?何でもいい。
ようやくチャンスが来た。
攻め続けることでACSに負荷を与え、限界を迎えスタッガーを引き起こし体勢を崩した機体に、致命的な一撃を叩き込む。
どんな相手にだって、有効な戦術だ。
私は生まれた隙に囀り砲を構え発砲し、着弾を確認する前から踏み込み前に出る。
砲弾が盾にぶつかり爆発が起こり、その爆炎の中をパイルバンカーを構えながら突っ切る。
その先には読み通り体勢を崩した標的がいたが、相手はよろけながらショットガンを撃つ。
かわす必要はない。
だってこれで終わりなのだから。
視界の右半分が急に暗くなるが、それに構わず思い切りパイルバンカーを打ち込む。
ガコン!!
仕留めた、という手応えが左手に感じられ心地よくなる。
ああ、今回も何とか勝てた。
これで……これで。
これで?
あれ?私は何のために勝とうと
「レイヴンちゃん……。」
「……! ほしの、せんぱい。」
目の前から、ホシノ先輩の声がした。
ああそうだ、カイザーPMCに雇われたホシノ先輩を取り戻すために私は先輩と……
そんな回想は、私が起こした事態を把握すると同時に吹っ飛ぶ。
私の放ったパイルバンカーが、ホシノ先輩のお腹を貫いている。
冷却を終えた杭が自動的に引き抜かれ、支えを失った先輩の身体が私に倒れ込む。
お昼寝の時とは違う力の抜け方をして寄りかかってきた身体から、どんどん温かさが失われていくのを感じる。
頭の中に、自分の手で殺してきた大切な人達の声が一斉に響く。
『ミシガンは転んで死んだ!! 伝記にはそう書いておけ!!』
『届かなかったか……。 戦友……。』
『それでも私は……人と、コーラル、の……。』
そして、彼等を覚えておくことしかできない私に、覚えておかなければならない人が1人増えた。
「止めて、あげられないかぁ……。」
「ユメ先輩……。」
「……ああ。」
大怪我をした生身の人を見るのは初めてだが、それでもわかる。
私がホシノ先輩に開けた穴からは向こう側の景色が見えている。
致命傷だ。
興奮状態が解け少しずつ身体中に痛みが帰ってくるが、それ以上に胸が苦しくなる。
ルビコンの頃の私から、変われたと思っていた。
笑うことが、悲しむことが、怒ることが、恥ずかしがることができるようになって。
自分の足で歩けるようになって。
自分の頭で考えて行動できるようになって。
それが何だ。
何が殺さなければ良いだ。
何も変われていないじゃないか、結局。
目の奥から涙がこぼれてくるが、それをすぐに拭う。
私に泣く権利などない。
ホシノ先輩を殺したのは、他でもない私なのだから。
ホシノ先輩の身体をぎゅっと抱きしめる。
せめて、人の身体の温かさを感じられるようになったのだから、ミシガン総長やラスティには出来なかった、ホシノ先輩を最後の瞬間まで感じたかった。
墜落したローダー4を取りに行った先で一緒にお昼寝をした時のことを思い出し、ホシノ先輩の頭に手を添えゆっくりと撫でる。
「ほしのせんぱい……ゆっくり、やすんでください。」
「……あなたのこと、ずっとおぼえておきます。 わたしには、それしかできませんから。」
ホシノ先輩の呼吸が少しずつゆっくりになって、ヒビの入ったヘイローが消える。
せめて、安らかに眠ってくれると良い。
先輩を看取ったら、もう普通の生活に憧れるのは止めよう。
ホシノ先輩の分まで、アビドスの為に戦おう。
既に血塗られた手だ、後ろ暗いことをして、汚れるのは私だけで良い。
どんな手段を使ってもセリカ先輩を、ノノミ先輩を、アヤネ先輩を、シロコ先輩を、そして先生を守ろう。
そう思いながらホシノ先輩の心音を感じていると、唐突に後ろから拍手が聞こえてきた。
「なるほど、そちらが残りましたか。 大変興味深い結果になりましたね。」
「……だれ。 いまのわたしは、おかねがもらえなくてもころすよ。」
私とホシノ先輩の最後の時間を邪魔するとは、よほど殺されたいらしい。
抱きしめた姿勢のまま首を回して声のした方を睨みつける。
「初めまして。黄昏のカラス……いえ、黒羽レイヴン。」
やけにカッコつけた二つ名で呼ばれたことに少し驚くが、それ以上にその声の主の異様な姿に驚く。
真っ黒なスーツに、真っ黒な手袋に……真っ黒な渦を巻いた顔面。
初めて見る『人ではない何か』に私の警戒心は高まる。
それでも私の邪魔をするものなら、人であろうが何だろうが関係ない。
消えなければ殺すという意志を込めて睨みつけると、口と思われる白い線がニンマリと歪み喋り始める。
「まずはっきりさせておきましょう。 私は、あなたと敵対するつもりはありません。」
「いきなり、そんなはなしをしんじろと?」
「私にとっても、ホシノという存在を失うのは痛手なのですよ。」
ざく、ざくと砂を踏みしめながら黒い男が近づいてくる。
「お気に入りの映画の台詞がありましてね。 今回もそれを引用してみましょう。」
不気味な顔面の渦がぎょろりと動いて大きくなり私の目を見つめてくる。
「あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。 興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください。」
クックックックッ……という不気味な笑いに気圧され、身構える。
「私にホシノを預けてください。 そうすれば、彼女の命を救うことができます。」
「ふざけるな!! ほしのせんぱいはもう、わたしの、せいで……。」
あまりにも突拍子もない提案に声を荒げ反論するが、黒い男は動揺することなく淡々と話し続ける。
「貴方がホシノに与えた傷は致命傷です。 仮にアビドス市内の病院へ運び込めたとしても、寂れてしまったあの施設ではどうすることもできないでしょう。」
「しかし、私の研究所であれば救えるかもしれないのです。 私はあなた達生徒という存在を研究している者でしてね。」
「彼女を救う手立てももう思いついています。 どうか、私の提案を受け入れていただけませんか?……強化人間、C4-621。」
「なっ!?」
口を滑らせてしまったアビドス高校の皆以外に知りようがないはずの、私の前の名前を言われ動揺する。
「……私達はあなたたちの事をずっと見ているのですよ。」
「……あくしゅみですね。」
「クククッ、まぁその通りですね。 さて、返答をいただけますか?」
「……ほしのせんぱいに、ちりょういがいのこともするつもりでしょう?」
もうこのまま終わってしまうと思っていたホシノ先輩との関係を、続けられるかもしれない。
まったく信用ならない不気味な男だが、ホシノ先輩を救うには、きっと頼るしかない、
先輩の亡骸をアビドス高校の皆に持ち帰るか、僅かな可能性にかけてこの男に任せるのか。
……私は、賭け事に向いていない。
けれど、ホシノ先輩と、もっと一緒にいられる可能性があるならば……。
どちらか選べず迷っている間にも、ホシノ先輩の心音はゆっくりになっていく。
焦りと諦観で、ますますどうすれば良いか分からなくなってしまう。
そんな私の姿を見かねたのか、黒い男は更に提案を重ねる。
「あなたはまだ子供のようですが、他の生徒達と比べてあなたは大人の世界への理解があるでしょう?」
「あなたは私を、ホシノの生命が保証されるまで利用すれば良いのですよ。 私も彼女を治療し新たな知見を得たいのです。」
「あなたは私を利用し、私はホシノを利用する。 上手くやれば、あなたには得しかありません。」
口が上手い大人だ。もし見た目が金髪で眼鏡でもう少し陰険な喋り方をしていたら問答無用で殴り倒しているところだ。
……良いだろう。乗せられてやろうじゃないか。
ルビコンの時のように、目的を達したら出し抜いてやれば良い。
……スネイルにやられたようなことにまた引っかからないように注意しなければ。
脅しも含めた忠告をする為、私は口を開く。
「……もし、ほしのせんぱいをしなせたりしたら。」
「おまえだけじゃない。 おまえにかんれんするじんぶつ、みんなころしてやる。」
「……なんと恐ろしい目でしょうか。 勿論、小鳥遊ホシノは貴重な生体です。殺してしまうような事は決してしませんよ。」
ぐったりとしたホシノ先輩を、黒い男に預ける。
ホシノ先輩の傷を興味深そうにまじまじと見る姿に嫌悪感を覚えるが、
しばらくすると満足したのか立ち去るようだ。
……どうやって?先ほどのPMCの生き残りが連れてくるであろう増援に守られて戻るのではないのか?
そう疑問に思っていると、黒い男の周りを更に黒い霧が包み始める。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。 私のことはどうぞ『黒服』とお呼びください。C4-621。」
「……もう、そのなまえでよぶな。 そうよんでいいのは」
「貴方の飼い主……ハンドラー・ウォルターだけ、ですね?」
「わかってるなら、はじめからいわないで。」
「クックックックッ……あなたは本当に面白く、興味深い存在です。」
絵本や漫画でしか見たことがない、『ワープ』というものでもするのだろうか?
私の世界ですらまだ確立されていない移動方法だが、それができるなら私とホシノ先輩が戦っていたこの場所に突然現れたことにも説明がつく。
抱えられながら黒い霧に包まれていくホシノ先輩を見ているとまた黒服が話しかけてきた。
「そうそう、お伝えしておかなければ。 カイザーPMCの部隊が、最後のアビドス委員会である小鳥遊ホシノがいなくなったあなたの学校を襲撃するという情報があります。」
「貴方もホシノもいないアビドスは窮地に陥ってしまう事でしょう。 早く救援に向かってあげなくてはならないのでは?」
「そこには、貴方が狙っているカイザー理事もいることでしょう。」
なぜ、そんなことを知っている?
いや、この不気味な男にはもう常識は通用しないのだろう。
まともに取り合うだけ無駄だ。
この男の言うように、素直に利用させてもらうとしよう。
「……わかってる。」
「ククククッ……それでは、また。」
ホシノ先輩を抱えた黒服の姿は、黒い霧が晴れると共に消え、後には私と、ホシノ先輩の装備と、カイザーPMC部隊の残骸だけが残った。
黒服の言った通り、アビドスの守りは今はとても不安だ。
下手をするとこの依頼そのものがアビドスの守りを崩す為のものだったのかもしれない。
私は砂漠に無造作に転がっているホシノ先輩の盾とショットガンを拾いアビドス市街へ向かって走る。
ホシノ先輩の帰ってくる場所を、私の守りたいものを、守らなければ。
Ab06、生徒名レイヴン。 普通ではない覚悟を決める。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
さて、前書きでも書きましたが夏の尋常ではない暑さで文が全く進まず大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。
それはそれとして、レイヴンちゃんに合う曲というのは妄想したことはありますでしょうか?
私はいろいろありますがPENGIUIN RESEARCHの『HATENA』という曲が合うと思います。
「何のために泣いたんだ? 何のために捨てたんだ?」という歌詞がぴったりだと思います。
それでは、またいつか。