Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
今回は、先生がかっこいいです。
ちなみにこの物語の先生はあえて性別とか見た目は隠すように書いてます(そのはず)。
好きな先生を当てはめて楽しんでくれると幸いです。
アビドス市街
中央病院 621号室
「おはようございます、レイヴンちゃん。」
「おはよう、レイヴンちゃん。 その、目は大丈夫?」
「おはようございます。 ののみせんぱい、せりかせんぱい。」
昨日のカイザーPMCの襲撃で病院も被害を受けたと思っていましたが、私達よりもずっと早く市街地にレイヴンちゃんが来てくれたおかげでほとんど被害はなく、快く受け入れてもらえることができました。
「かおはんぶんは、はでにきずがついていましたが、しつめい?のしんぱいはないそうです。」
「……良かったです。」
顔の右半分に巻かれた包帯を撫でながらレイヴンちゃんは答えました。
……けれど、失明の心配はなくても顔に傷が残ってしまったら大変なことです。
レイヴンちゃんは自分の容姿について無頓着ですが、とっても可愛らしい見た目をしています。
そうだ、全ての騒動が片付いたら……
「レイヴンちゃん。 この一件が片付いたら、皆でショッピングに行きましょう。」
「しょっぴんぐ? だんやくのほじゅうなら、ちゃてぃにたのめば」
「違います。 皆で水着とか、アクセサリーとか、化粧品とかを買いに行くんです!」
自分とは今まで無縁だった名称が一気に出され困惑しているレイヴンちゃんの両手を握り、話を続ける。
「……ずっと、ヘルメット団とかカイザーコーポレーションとかに邪魔されてできなかった、普通の学生らしいことを、一緒にしましょう? 約束です。」
「……ふつうの、がくせいらしいこと……。」
普通の学生らしいこと、という言葉に興味を持ってくれたことに嬉しくなってしまいます。
レイヴンちゃんの人生はこれからなんですから。
「ええ、わかりました。 やくそくです。」
「うふふ、楽しみです☆」
「レイヴンちゃん、お小遣いがたくさんあるからってなんでも奢ったり、買い過ぎたりはダメだからね?」
「だいじょうぶです。 うりねとかいねはおなじですから、いらなくなったらうればいいんです。」
「そんなことないわよ!?」
「えっ。」
その後、軽く挨拶を交わして私とセリカちゃんはレイヴンちゃんの病室を離れ、主治医様にも挨拶をして校舎へ戻りました。
数日後
私はアビドス高校1年生、黒羽レイヴン。
今は、退院前日という事で忘れ物がないよう荷物をまとめている。
顔右半分を覆っていた包帯も取れ、念のため一応との事で付けられている眼帯だけになっている。
明日の朝頃、アビドス高校の皆さんと先生がお迎えに来てくれる手筈になっている。
最初は苦手だった消毒液の匂いに満ちた病室だったが、今は少し愛着が湧いている。
別れを惜しむようにこの部屋で最後の眠りに入ろうと電気を消してしばらくした後、病室のドアがノックされる。
もう既に時刻は21:00を過ぎており、今日の検診は既に終わっている。
不審に思い病室の備品のハンドガンを握り備えるが、しばらくすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
(……反応がないわね。)
(というか、電気消えてるしもう寝ちゃってるんじゃないの?)
(はぁ……お見舞いの品が買えるまで稼いでたら退院ギリギリのタイミングになっちゃうとはね。)
(あわわわ……こんな時間に病室を訪れるなんて迷惑ですよね……すみません、すみません……。)
便利屋68の皆さんだ。
小さな声で喋っており、よく聞き取れないが不審者の正体が友人であることに安堵しハンドガンを置き、電気をつける。
「……いま、かぎをあけますね。」
ガチャリ、と簡素な鍵を開け病室の扉を開ける。
そこには何やらいくつかの袋を持っている便利屋68さん達が立っていました。
「こんばんはレイヴン!!……うんうん、すっかり元気そうね!!」
「社長、面会していい時間帯はとっくに過ぎてるんだからバレないように声を抑えて。」
「ごめんね〜。 社長とハルカちゃんがお見舞いに持ってくお土産をなかなか決めれなくってさ。」
「レイヴンさん、お久しぶりです。 ああ、すみませんこんな夜遅くに……。」
「おみやげ……おくりものですか? すてきです。」
いつも通り元気なアル社長と、それを眉間にシワを寄せながら抑えるカヨコさん。
相変わらず飄々としているムツキさんに、すぐ謝りだし目がぐるぐるし始めるハルカさん。
懐かしい顔ぶれに少し頬が緩む。
「せっかくですから、どうぞなかへ。」
カヨコさんの言う通り、本来ならもう患者と医者以外は院内に居てはいけない時間になってしまっている。
少しでもバレる可能性を低くするべく病室内に入ってもらう。
入ってもらってから椅子の数が足りないことに気づき焦るがハルカさんとムツキさんは私のベッドの隙間に腰掛けてくれた。
「ふふふ、なんとかレイヴンが退院する前にお見舞いに来ることが出来たわね。」
「本当はアウトだけどね。」
「い、良いのよ! それに普通の面会時間だとアビドスの子達や先生とも会っちゃうじゃない!!」
「? なんか問題あるのアルちゃん。」
「……なんか、恥ずかしいじゃない。」
「ごめんなさい、本当はもっと早く来るつもりだったんですが……依頼がなかなか上手くこなせなかったり事務所が2度ほど吹き飛んだりで出費が重なって……。」
「きてくれただけで、うれしいですよ。」
相変わらず、彼女達は楽しくやれているらしい。
お土産としてムツキさんとカヨコさんからは有名店のスイーツを、ハルカさんからは花束を、そしてアル社長からは便利屋68のエンブレムがあしらわれた変わった形の布を手渡される。
「……これは、なんですか?」
「ふふふ、かっこいい眼帯でしょう!! 戦場でそんな『怪我してます』と言っているような眼帯じゃ舐められちゃうわ!!」
「特注した1点ものだから、無くさないでね〜。」
「とくちゅうひん……すてきですね。」
「あああ、すみません、花なんてどこにでもあるような物をお土産にして……」
「そんなことありませんよ、はるかさん。 とても、きれいでいいにおいがします。」
お花……というより植物はこのアビドスにはほとんど生えていないし、ルビコンでも飾り気のない樹木しか生えていなかった。
あとはエアに勧められて調べたネペンテスくらいしか見たことが無いので、慎ましくも豊かな色彩を持つこの花束はとても嬉しい。
「……さて。 お見舞いの品も渡せたし、帰ろうか。」
「ええ。 またどこかで会いましょう、レイヴン。」
「今度もし敵対することがあったら、お手柔らかにね〜。」
「あ、あの、お花、邪魔でしたら捨ててもらって構いませんから。 それでは……。」
「はい。 おげんきで。」
便利屋68の皆さんを部屋の外まで見送り、病室のドアを閉め鍵をかける。
騒がしく楽しい時間であったが、それよりも私の動揺が伝わっていなかったようで安心する。
『今度もし敵対することがあったら。』
……私は、彼女達を殺さないようにできるだろうか。
「いやー、喜んでもらえてよかったね。 アルちゃん。」
「ええ! 高い金を払っておしゃれに作ってもらった甲斐があったわ!」
「いつものレイヴンさんに戻ってくれたようで、良かったです。」
「うん……ところで社長。 なんでうちの会社のロゴを付けたの?」
「友好の証よ! それに、レイヴンは一応うちの社員でもあるんだから便利屋68のロゴが付いたものを持っていても不思議じゃないでしょう?」
「そう……。」
「? カヨコ、何が言いたいの?」
「いや……うちのロゴを付けたレイヴンがどっかで派手に暴れたら、私達の仕事も忙しくなるかなって思ってね。」
「……せ、宣伝になって良いわね!!」
キヴォトス
某所
アビドスを思わせる、廃墟のような市街。
そこにポツリと一室だけ明かりがついているビルがある。
そのビルが、私に当てられて届けられたやけに凝った真っ黒な封筒に入れられた手紙の主が居る場所だった。
内容は
『ホシノの容体が安定しました。
今後の方針についてお話したいのでどうかいらっしゃってください。
お待ちしています。』
というものだった。
まだ動いているのが不気味なほど古ぼけたエレベーターに乗り込み、指定された階へ上がる。
エレベーターが着いた先は変わらず真っ暗だったが、ひとつだけ光が漏れ出ているドアがあった。
そのままノックをせずドアを開ける。
「……お待ちしておりました、先生。」
殺風景の部屋にひとつだけ置かれたデスク。
そこに、ホシノが『黒服』と呼んでいた大人が座っていた。
「あなたとは一度こうして、顔を合わせてお話ししてみたかったのですよ。」
その後、人かどうかも分からないその男は自分のことを語り始めた。
私が連邦生徒会長によって呼び出されたキヴォトスの外から来た者だと知っていること。
敵対するつもりはなく、むしろ協力したいと考えており敵対することは避けたいということ。
そして『ゲマトリア』と呼ばれる組織の一員であり観察者であり、探求者であり、研究者であること。
一通り話し終えた後、黒服は私へ質問をしてきた。
「一応お聞きしますが、私たちと協力するつもりはありませんか?」
"断る。 私はただ、ホシノを返してもらいにきただけ。"
「……左様ですか。 いいでしょう。小鳥遊ホシノはお返し致しましょう。」
まさかの快諾に少し驚く。
"……何故?"
「状況が変わった、というところですかね。」
私の疑問に対して黒服は淡々と答えを続ける。
「元々私はホシノを実験体として『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。 それを生きている生徒に適用することができるか、そんな実験を行おうとしていました。」
「……しかし、それを行う前に答えが出ました。」
そういうと黒服はタブレットの画面をこちらへ向けてきた。
そこにはホシノとレイヴンの凄まじい戦闘の様子が映されていた。
どちらも普段の雰囲気からは想像もつかないほどの激しい応酬を繰り返しており、最後はレイヴンのパイルバンカーがホシノの腹部を貫き、倒れかかるところで動画は終了した。
レイヴンが「ほしのせんぱいはいきているはず」と自分にも言い聞かせるように言っていた理由がわかった。
"……これがどうかしたの。"
「元々興味があったのですよ。 ある日突然アビドスに現れた、生徒らしからぬ生徒。」
黒服は再びその映像を流し、レイヴンの全身が映っているところで停止させる。
「先生もご存知でしょうが、このキヴォトスの生徒の肉体は神秘によって守られています。 銃という簡単に命を奪える道具で撃ち合っているのにも関わらず、精々あざになる程度で済むのもそのおかげです。」
「しかし、レイヴンはホシノを倒してみせた。 それもホシノの生命を脅かすほどの傷を負わせて、です。」
「これは彼女が『神秘の裏側、恐怖が適用されている状態である』から起きた事例です。」
「つまりホシノを用いて調べようとしたことの結果が出てきたので、実験をする必要が無くなったということです。」
子どもである彼女達を、私の生徒を実験動物のように扱うその姿勢に腹を立てるが、それを言ったところでこの男にはなんの効果もないだろう。
とにかく話を進めなければ。
"じゃあ、ホシノは返してもらうよ。 ホシノを治療してくれたことに関しては、感謝してる。"
「とんでもございません。 彼女に施した治療もまた一つの実験でした。」
「強力な神秘は、時として事象すらも上書きする。 ホシノが一命を取り留めることが出来たのは彼女自身の神秘のおかげです。 まず……」
"もういい。 早くホシノを返して。"
黒服がホシノに施した『治療』について語ろうとしたのを遮る。
過程がどうあれ、大事なのは結果だ。
ホシノが無事で、レイヴンも無事。
あとは、あるべき場所へ戻るだけだ。
「……なにやらお急ぎの様子。 では率直に申しましょう。」
デスクチェアに座り直し、手を組み、黒服は口を開く。
「小鳥遊ホシノを返す代わりに、黒羽レイヴンを頂きたい。 それが、私からの条件です。」
「先生も、ご存知でしょう? レイヴンの持つ神秘は『自分自身』の物ではなく、何者かによって『植え付けられた』物です。」
"……レイヴンの頭の中にある機械のこと?"
何故、私とエンジニア部とホシノしか知らないはずの秘密を知っている?
「ええ、神秘を持たぬ者に神秘を与える。 それも小鳥遊ホシノを上回りかねない強い神秘を。」
「それは、私たちゲマトリアが追い求めるものの一つでもあります。」
目を思わせる渦が大きく開かれる。
「私は彼女を研究したい。 特に、彼女の持つ特別な神秘と頭の中の機械について。」
"断る。"
黒服は顔の線を歪めながら話を続ける。
「何故です? レイヴンは小鳥遊ホシノを殺しかけた危険な人物です。」
「彼女は、貴方達が生きてきた世界とは別の住人です。 殺さなければ殺される、殺されるくらいならば殺す、その様な世界で生きてきた存在です。」
「表面上は協調できていたとしても、本質的に貴方達とレイヴンは相容れない存在です。 貴方達から離れることは、きっとレイヴンも望んでいることでしょう。」
彼の言うことはもっともらしい。
レイヴンの言葉の端々から感じ取れる物騒な経験や目的を達するためならば命を奪うことも厭わない価値観を持っているのは確かだ。
それでも私は、彼女と相容れないとは思わない。
柴関ラーメンや鯛焼きを一緒に食べた時、自分の愛機であるローダー4を褒められて照れている時、自信満々の変装がまるで効果が無かったことを明かされ落ち込んだ時。
彼女の反応や行動が表面上取り繕った物だとは思えない。
「レイヴンさえ頂ければ、あの学校については守ってさしあげましょう。」
「借金も、カイザーPMCのことについても私たちの方で解決いたします。 いかがですか?」
"断る。"
「……どうして? どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか?」
黒服はさらに顔を歪め立ち上がる。
「あなたは無力です、戦う手段などないでしょうに!」
"戦う手段なら、あるよ。"
私は胸のポケットから、一枚のカードを取り出す。
『大人のカード』と呼ばれている、私の唯一の武器だ。
それを見た黒服は一瞬身を震わせたあと、口を開く。
「……確かに、それはあなただけの武器です。 しかし、私はそのリスクもうっすらとですが知っています。」
「使えば使うほど削られていくはずです、あなたの生が、時間が。……そうでしょう?」
"そうだね。 で、それが何か問題?"
レイヴンもアビドスの子達も、自分たちの人生を他者に奪われて、邪魔されて生きてきた。
それを取り返すにはそれに見合った対価が必要で、それが私の人生を削って払えるなら、本望だ。
「そのカードはしまっておいてください、先生。 あなたにもあなたの生活があるはずです。」
「食事をし、電車に乗り、家賃を払う。 そういった無意味でくだらないことを、きちんと解決しなくてはいけないでしょう?」
まるで親友とでも話しているかの様な口ぶりで、私にカードをしまうように要求してくる。
少なくとも彼の中では、私は友人なのだろう。
「先生、あの子よりも、もっと大事なことに使ってください。」
「放っておいても良いではありませんか。 元々、ここに居るべき人物ではないのですから。」
"断る。"
頑なな私に今まで平静だった黒服は声を荒げ始める。
「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ? 理解できません、なぜ断るのですか?」
「どうして?先生、それは一体なんのためなのですか?」
"……あの子の苦しみに対して、責任を取れる大人はもう私しかいないから。"
やはり訳がわからない、といった様に黒服は首をかしげ、言葉を続ける。
「だから、あなたが責任をとるとでも? あなたはレイヴンの保護者でも、家族でもありません。」
「あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子と出会っただけの他人です。 なぜ、とる必要のない責任を取ろうとするのですか?」
"それが、大人のやるべきことだから。"
「……ああ、そうですか。 大人とは『責任を負う者』そう言いたいのですね。」
黒服は納得がいった様に顎に手を当て、しかし首を振り否定する意思を示す。
「先生、その考えは間違っています。 レイヴンは既にその様に庇われる様な存在ではありません。」
少し長くなるのか黒服は再びデスクチェアに腰掛け、いつの間にか私側にも置かれていた椅子に座るよう促すが拒否して立ったまま聞く。
「…‥権力によって権力の無い者を、知識によって知識の無い者を、力によって力の無い者を支配する、それが大人です。」
「そしてレイヴンは、その圧倒的な力によって全てを黙らせて生きてきた人物です。 それもここに来るずっと前から。」
「そんなことは無い、なんてことは言わせません。 マーケットガードも、カイザーPMCも、ホシノも。 全て力で黙らせてきたのは、知っているでしょう?」
「彼女は既に庇護されるべき『子供』ではなく、あなたが言う責任を負う者である『大人』なのです。」
"それでも、レイヴンは私の『生徒』で、私が『顧問』であるかぎり、彼女の責任は私が取るよ。"
私の絶対にレイヴンは渡さない、という意見に黒服は何度も顔を歪める。
「……理解できません、その選択に何の意味があるのですか? 生徒を殺すことのできる、キヴォトスにおける危険因子である彼女を何故庇うのですか!?」
"……言ってもきっと、理解できないと思うよ。"
確かに、レイヴンの力は危険なものだ。
けれどそれ以上に彼女は既にアビドス高校の一員で、決して欠けてはいけないメンバーの1人なのだ。
そして、誰かに利用され続けてた彼女の人生を、これ以上他人の思い通りにはさせない。
黒服は残念そうにうなだれ、立ち上がる。
「良いでしょう。交渉は決裂です、先生。 あなたのことを気に入っていたのですが……仕方ありませんね。」
そういうと黒服はデスクの引き出しを開け、簡素な地図を手渡してきた。
「ホシノはアビドス砂漠のPMC基地の中央にある実験室……を改装した病室にいます。 あまりにも暴れるものでしてね、そこにしか拘束できなかったのですよ。」
私はひったくるように地図を受け取り、部屋を出ようとする。
「先生、ゲマトリアはあなたのことをずっと見ていますよ。」
"……帰る。"
不気味な視線を背中に受けながら、私はアビドスへ向かった。
「……カイザーコーポレーションの対立企業に偽の情報を流しホシノにレイヴンを倒させることで貴重な実験体を2つ入手する計画も、」
「必要無くなった小鳥遊ホシノの身柄と交換させることでレイヴンを手に入れる計画も失敗しましたね。」
「私の建てた計画が次から次へと頓挫していく。……クククッ、先生。」
「貴方も、『イレギュラー』なのかもしれませんね。」
アビドス自治区
中央駅
"……すっかり、遅くなっちゃったな。"
終電ギリギリの電車でなんとかアビドス自治区に戻ってこれた。
ホシノ救出の手がかりも掴み、ゲヘナの風紀委員会に助っ人のお願いもしてきた。
あとは明日の朝、万全な状態でホシノを取り返しに向かうだけだ。
その為にも指揮を取る私が寝不足になってはいけない。
早くアビドス高校へ戻り保健室で睡眠を取ろうと早足で歩き始めた時、後ろから声をかけられた。
「こんなじかんまでおしごととは、あいかわらずですね。 しゃーれのせんせい。」
"君は……レイヴンか。"
この時間帯にいきなり背後から声をかけられ心臓が飛び出そうになるが、聞き覚えのある声だったのでなんとか平静を装い振り向く。
独立傭兵ナイトフォールの姿ではなく、通常のアサルトライフルとパルスブレードを装備しており、右目には便利屋68のアル社長からプレゼントされたという眼帯を付けている。
「こんばんは、レイヴン。 右目の調子はどう?」
「こんばんは。 そうですね、いたみはないのですが、まだしっかりととじないみたいで、がんたいをしてないとすながはいってきてきもちわるいです。」
眼帯越しに右目を撫でながらレイヴンは答えた。
どうやらまだ本調子では無いようだが、明日のホシノ奪還作戦には参加してもらうしかない。
「そっか。 ならパトロールは早めに切り上げて少しでも休もう。」
「? まぁ、ちょうどかえるところでしたが、なにかあるのですか?」
"……ホシノの居場所がわかった。 明日の朝、救出作戦を決行する。君にも、参加してもらうよ。"
「……りょうかい、です。」
"どうしたの? 何か不安?"
返答に少しの動揺が感じられ、何か心配事があるのかと聞いてみる。
すると、レイヴンは泣き出してしまった。
「よかった……ほんとうに……いきて、くれてたんですね……。」
"……うん、ホシノは無事だよ。 明日、皆で助けにいこう。"
うずくまりながら泣くレイヴンの背中を落ち着くまで撫で続ける。
3分ほどレイヴンはひたすらに安堵の言葉を喋り続けた後、泣き止んでくれた。
そして、大きな決意が感じられる目で。
……自分の事などどうなってもいいと感じられる目で私を見る。
「……せんせい。 ほしのせんぱいのきゅうしゅつさくせん。わたしのこと、ぞんぶんにつかってください。」
「どんなきけんなさくせんでも、むちゃなめいれいでも、なしとげてみせます。 だから、わたしを」
"ダメ。"
「えっ。」
予想だにしない拒否だったのか、キリッとしていた目つきが一転してキョトンとやや間の抜けた表情になる。
"レイヴン。 君は確かに強くて頼りになるけど、君だけに無茶はさせない。"
"良い? 皆で、ホシノを助けにいくんだ。 レイヴンも、仲直りをしてもらうからね。"
「なか、なおり? とは、なんですか?」
"また前みたいに、仲良しの関係に戻るんだよ。"
私の答えに、レイヴンは視線を落とす。
「……むり、です。 わたしは、ほしのせんぱいを、ころそうと……いえ、ころしたんです。」
"……うん。 見たよ。君と、ホシノの戦いを。"
「!?……くろふくのしわざですか?」
やはり、レイヴンも黒服と接触したことがあったようだ。
「……みたなら、わかるでしょう? わたしは、ほしのせんぱいを、すてたんです!」
「あんなによくしてくれたひとを、たいせつなひとを、わたしはすてたんですよ! もとのかんけいになんて、もどれるわけがないです!!」
再び目尻に涙を浮かべながら、レイヴンは叫んだ。
"……大丈夫。 ホシノはきっと、レイヴンの事を許してくれるよ。"
「ゆるして、くれる?……せんせい、すこしむかしばなしにつきあってくれませんか?」
やや自嘲気味な笑みを浮かべるレイヴンに誘われて、アビドス高校への帰り道の途中にある公園のベンチに座る。
近くの自動販売機でコーヒーを二つ買い、レイヴンの話を聞く事にする。
「せんせいには、わたしのかこ、おはなししたことありませんでしたよね。」
"うん。 でも、大体の予想はついてるよ。 とても過酷な場所で生きてきたんだよね。"
「ふふっ、やっぱりばれてました? 『ほんものはきたいごしでもにおいたつ』そうですからね。」
その後、レイヴンからはホシノから聞いたことのある過去が話された。
両親の借金が原因で強化手術を受けさせられ、ACを動かすための部品にされたものの、不良品扱いでそのまま廃棄処分されるところをウォルターに買い取られた事。
その後、ウォルターから仕事を貰っていたこと。
それを聞かされてもあまり動揺しない私にレイヴンは少し奇妙な表情をしながらスマートフォンを操作し、ひとつの画像を見せてきた。
複数の大人の人たちと、車椅子に乗せられたミイラのような子供が写っている。
"……これが、前の場所で撮った写真?"
「はい。……せんじょういがいでとったものは、これしかありません。」
レイヴンは1人1人指差しながら教えてくれた。
「このくるまいすをささえてくれているひとが、わたしのかいぬし、はんどらー・うぉるたーです。」
「そのよこでわらっているめがねのじょせいが、かーら。 ちゃてぃのうみのおやです。」
「みぎがわでくびをつかまれているのが、いぐあす。 つかんでいるひとが、みしがんそうちょうです。」
「ひだりにいるきんぱつはすねいるです。 やなやつです。」
「……そして、わたしにかおをよせて、わらってくれているひとが、らすてぃです。」
"……色んな人と、関わりがあったんだね。"
「ええ。 すねいるといぐあすはべつですが、みんなたいせつなひとでした。」
スネイルの名前が出るたびに若干不機嫌になるのを感じ取り、よほど因縁があった人物なのだと想像できる。
しばらく一緒に写真を眺めていたが、レイヴンの視線がラスティと呼んでいた男性に向けられている事に気づく。
"レイヴンは、ラスティのことが好きだったの?"
「すき?……ええ。 あのころはこのきもちがなんだったのかわかりませんが、いまならわかります。」
「……はつこい、だったとおもいます。 このひとといっしょになれたら、どんなにすてきかって。」
少し頬を染めてレイヴンは答える。
けれど、その悲しそうに見る視線からはその恋がどうなったかは察しがつく。
"……亡くなったの?"
「はい。」
その質問を待っていたかのようにレイヴンの表情は儚げな笑顔を浮かべ答える。
「ころしたんです。 わたしが。」
"……そう、なんだ。"
「みしがんそうちょうも、わたしがころしました。 うぉるたーはわたしをたすけようとして、ころされました。 かーらはしめいをはたすために、きっとしにました。 すねいるといぐあすはどうだかしりませんが、きっとしんだでしょう。」
レイヴンの声は平静を装うとしているが、少しずつ震えてきている。
「わたし、ほしのせんぱいとたたかってるとき、らすてぃのことをおもいだしてたんです。」
「かれとせんぱい、にてるんです。 らすてぃも、こきょうをまもるためにたたかってた、かっこいいひとだったんですよ。」
「いっしょにせなかをあずけてたたかったこともあって、えーしーのぱーつでしかないわたしのことを『せんゆう』なんてよんでくれて。」
「……だから、わたし、あのときとはちがって、ほしのせんぱいのこと、とめられるとおもってたんです。」
「このやさしいせかいなら、やさしいみなさんとふれあえたわたしならば、と。 でも、わたしはなにひとつかわれていなかったんです。」
改めて、レイヴンは私の目を見て言う。
「せんせい。 わたしはかわれませんでした。 たいせつなひとを、かんたんにすててしまえるひとでなしのままなんです。」
「ののみせんぱいは、このいっけんがおわったらいっしょにがくせいらしいことをしよう、といってくれましたが……。」
「わたしには、きっとむりです。 ふつうのじんせいなんて、おくれないんです。」
諦観に満ちた瞳と、悔しさの混じった笑顔でレイヴンは話し終えた。
……レイヴンの過去は壮絶で、黒服の言う通りレイヴンは私達とは相容れないと思っている。
でも、私はそうは思わない。
確かにレイヴンは過ちを犯してきたかも知れないが、過去は過去だ。
そして、キヴォトスでは銃撃戦が日常であるように、レイヴンがいた場所とキヴォトスでの常識が違うだけだ。
"大丈夫、レイヴンは変われるよ。"
「こんきょのないこと、いわないでください。 わたしはずっとまえからひとでなしで」
"本当に人でなしなら、そんな風に思い悩んだりなんてしないよ。"
「……えっ?」
"確かにレイヴンは生きる為にたくさんの物を捨ててきたかもしれない。 けれど、全部捨ててなんていない。"
"そうでしょ? 本当に全部捨ててしまったなら、ラスティのことなんて忘れてしまってるはずだよ。"
「……。」
レイヴンは自分に関わってくれた人を覚えている。
綺麗さっぱり忘れてしまえば楽になれるのに、決してそうはしない。
それは、レイヴンが優しいからだ。
そして過去はもうどうしようもできないが、ここでなら、今からなら!
"レイヴン。 君が前いた場所で捨ててしまった物はどうにもできないけれど。"
"ここで捨ててしまったものなら、私が探して、拾ってきてあげる。"
"私は先生で、君は生徒だから。 私が助けてあげる。"
「……ひろって、くる?」
レイヴンの表情に、だんだんと希望が現れているのを感じる。
"うん。一緒に捨ててしまったものを探して、拾いにいこう。 大丈夫、君は私の生徒だから。"
「……わかりました。」
レイヴンはすっかり振り切れたらしく、勢いよく立ち上がり空のコーヒー缶をゴミ箱へ投げる。
かなりの距離があったが カコン!! と良い音を鳴らしながら正確にカゴの中へ入った。
「せんせい。 わたしはまだじぶんをしんじきれていませんが……。」
「あなたがしんじてくれるわたしを、しんじようとおもいます。」
"うん、絶対大丈夫だよ。 信じてる。"
「……それと、ひとつやくそくしてくれませんか? ほしのせんぱいとしたやくそくとにたようなのを。」
"ん? えっと確か……。"
久しぶりに見せる晴れやかな笑顔でレイヴンは宣言した。
「だれかをころすときは、せんせいがしんでからにします!!」
"……死ねなくなっちゃったなぁ。"
この後、レイヴンと一緒にアビドス高校まで戻った。
Ab06、生徒名レイヴン。 普通に元気になる。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
さて、ようやく明るいレイヴンに帰ってきてもらえて安心している今日この頃。
本当はもう少し曇ったままのつもりでしたが大人の戦いパートを書いている内に頭の中の先生が勝手に動き出して救ってくれたので良かったです。
やはりブルーアーカイブの物語の最後はハッピーエンドで無いといけませんね。
フロムのゲームじゃ無いんですから。
誤字脱字、感想、ここすき毎回楽しませていただいております。
また次回、楽しみにしていただけると幸いです。