Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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頭の中の妄想が止まらなくなり、書き記すことにしました。

ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。


Ab06 生徒名レイヴン第2章 ミレニアムサイエンススクール編
第1話 私たちはあの日、カラスに出会った。


アビドス高校2F レイヴンの部屋

 

『ビジター、シャーレの先生から依頼が来ている。 ブリーフィングを確認してくれ。』

 

依頼の仲介役をしてくれているチャティが先生から届いたメールを開き、それに添付されている動画を再生してくれる。

 

『"やぁ、レイヴ……じゃなくて、ナイトフォール! 調子はどうかな。"』

 

シャーレのロゴが浮かび上がり、よく聞いた大人の声が流れてくる。

 

『"色々話したいことはあるけど、依頼の説明に入るね。 今、私はミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部からの要請を受けて、彼女達を手伝っているんだ。"』

 

シャーレのロゴが消え、ミレニアムサイエンススクールの景色が映る。

その敷地内で1番目立つ建造物、ミレニアムタワーの端の方がズームされおそらくその『ゲーム開発部』の部室が映される。

可愛らしいカーテンや古風なテレビ。

よくわからない機材と、付箋とメモだらけのホワイトボードがある。

 

『"彼女達の部活は今、廃部の危機を迎えている。 それを避けるためにミレニアムプライスに提出して受賞できるゲームを作る必要があるんだ。"』

『"それに必要なアイテム、「G.bible」というものを探しに行くんだけれど……それのあるとされている場所が、元々は連邦生徒会が出入りを制限していたミレニアム近郊の謎の領域なんだ。"』

 

再び画面が切り替わり、私が散歩したことのある範囲から遠く離れた地域がズームされる。

 

『"少し調査したけれど、正体不明の武装したオートマタやドローン達がうろついてる。 ゲーム開発部の子達だけでは心配だ。"』

『"そこで君に、G.bibleを見つけるまでの護衛をお願いしたい。 期待して待ってるよ。"』

 

いくつかのオートマタやドローンの写真が順番に表示されたあと、再びシャーレのロゴが現れて動画は終了した。

……少し時間があるときに、先生の所属している連邦捜査部シャーレについて調べてみた。

あまり気にしたことはなかったが、一種の超法規的機関。

キヴォトスに存在するすべての学園の生徒達を制限なく加入させることができ、各学園の自治区で制約無しに戦闘活動を行うことも可能、とのことだった。

つまり依頼せずとも一声かけるだけで私を連れ出せるのだが、しっかりと依頼をしてくれるところが先生らしい。

 

『ビジター。 シャーレの先生からの依頼だが、報酬額の面でおいてはあまり優先度が高くない。 受けるかどうかはお前が決めてくれ。』

「ちゃてぃ、わたしがどうするか。 わかってるでしょ?」

『了解した。 依頼受託のメールを送信する。』

 

私は、先生からの直々の依頼を嬉しく思いながらナイトフォールの正装へ着替え合流場所へ出発した。

 

 

--------ーー

 

 

ミレニアムサイエンススクール 

廃墟地帯近郊

 

「あと少しだよ、先生。」

"なかなか、徒歩はキツイね……。"

「お姉ちゃん? なんか聞いてたよりずっと嫌な雰囲気がするんだけど……。」

 

私はゲーム開発部、シナリオライターの才羽モモイ!

今は私達の要請を受けて来てくれたシャーレの先生、そして私の可愛い妹ミドリを連れて目的地へ向かっているところ。

 

「お宝が眠ってる場所には恐ろしいモンスターやトラップがあるものでしょ? 多少のリスクは仕方ないよ。」

「それはゲームの話でしょ!? それに、私達はともかく、来てくれた先生に何かあったら……。」

「大丈夫大丈夫!そうならない為に、助っ人がいるんだもん! ねぇ、先生?」

"うん。 とっても頼りになる子だよ。"

 

人の気配が無くなり、建物の劣化が目立つにつれてミドリの歩幅が小さくなっていく。

確かに私たちはインドア派の割にはいろいろ騒動を起こしてしまっているが、戦闘が得意分野という訳じゃない。

そこで、今回は先生が助っ人を呼んできてくれているらしい。

……戦闘が得意ということは、やっぱり身長が高くて、目つきが鋭くて……ちょっと怖い感じの人が来るのかな?

勝手に今回の助っ人の容姿を妄想していると、いきなり上の方から声がした。

 

「じかんどおり。 さすがですね、せんせい。」

「「わぁあっ!?」」

 

いきなり聞こえた声に驚き思わずミドリに抱きついてしまう。

それはミドリの方も同じだった。

先生は私達のそんな姿を見てクスリと笑った後、上の方に視線をあげて話し始める。

 

"相変わらず、高いところが好きなんだね。"

「ええ。 こうしょからせんじょうをいちぼうするのは、せんじゅつをくみたてるのにじゅうようですから。」

 

ミドリと一緒に私達の頭上を見ると、そこには灰色のパーカーを着て、黒い鳥の羽が生えている女の子が電柱の上に立っていた。

それから一拍置いて、彼女は姿勢を低くしたかと思うと跳躍し、羽を舞い散らしながら私達の目の前に着地した。

……思ってたより、ずっと小さい。

それだけじゃなくて、さっきまで私が頭の中で妄想してた助っ人とは真逆の人だ。

舌足らずな幼い喋り方で、フードの下から見える赤い目は半開きで、柔和な印象を感じる。

けれど、只者ではないことはその装備が物語っていた。

大型のライフルに、2連装の迫撃砲に、明らかに何か仕込まれていそうな妙な形の盾。

1人で軍隊でも相手にするような装備を付けていて、あの身のこなしだ。

……こんなアクションゲームの主人公みたいな人、ホントにいるんだ。

インスピレーションが沸いてきたところで、助っ人さんが話しかけてきた。

 

「はじめまして。 わたしは、どくりつようへい、ないとふぉーるです。」

「は、初めまして!私はゲーム開発部、シナリオライターのモモイ! こっちは私の妹の……ミドリ?どうしたの?」

 

私の次にミドリを紹介しようとそちらを見ると、ミドリは驚いた表情で固まっている。

 

「ナイトフォール……まさか、本物!?」

「あれ? ミドリ、何か知ってるの?」

「? わたしとあなたは、しょたいめんのはずですよ。」

 

ミドリは目の前の少女、ナイトフォールと名乗った傭兵さんについて何か知っているらしい。

……考えてみれば私もどこかで聞いたような……。

 

「ほら! 一時期ネットニュースで話題になった、あの『マーケットガードの落日』事件!!」

「んー? 確か、銀行強盗を追撃したマーケットガードが返り討ちにされて壊滅した事件だっけ?」

「そう!その事件の主犯とされてる人だよ!!」

「……ながうれているようで、なによりです。」

 

少し前、ゲーム制作の息抜きでネットサーフィンをしている時に見つけた記事の事を思い出す。

ブラックマーケットの治安維持部隊が、ライフル1本を携えた少女1人に壊滅させられた事件。

あの時は、私の考えるシナリオより陳腐な作り話だと思ったが……

先生が連れてきたということは、もしかして、本当にあった出来事?

というか、先生ってそんなヤバそうな人と付き合いがあるの?

……さすが、シャーレの先生だなぁ。

そう思いながら、私達は『G.bible』があるとされる座標へ向かい始めた。

 

 

---------

 

 

ミレニアム近郊 

廃墟群

 

「……ひとまず、かたづきましたかね。」

「す、すごい……。」

「あの数のロボット達を一瞬で!?」

"呼んでよかった。 来てくれてありがとう、ナイトフォール。"

「わたしも、よんでもらえてあんしんしてますよ。……そこのおふたがたには、すこしにがおもかったでしょうから。」

 

私は独立傭兵ナイトフォール。

今は、先生からの依頼でゲーム開発部の2人の護衛を頼まれている。

 

「よし!じゃあ行こう!」

「よし!じゃない!!」

 

ピンク色の耳飾りが特徴の子、モモイさんが先へ進もうとして歩き出したのを、緑色の耳飾りが特徴の子、ミドリさんが止める。

……耳飾りで色分けしてくれなければ、私には見分けがつかないほどそっくりな、変わった姉妹だ。

 

「いったいここは何!? あんな謎のロボットが、数え切れないぐらい動き回ってたし!」

 

半分泣きながら訴えるミドリさんに、モモイさんは少し呆れた顔で答える。

 

「何って……もう何回も言ってるじゃん。 『廃墟』だよ。」

「出入り禁止の区域っていうからまあ、ある程度の危険は覚悟してたけど。 いやあ、ナイトフォールがいなかったらどうなってたことか……。」

「きれいないめーじのある、みれにあむさいえんすに、こんなところがあるとは、おどろきですね。」

 

モモイさんが言った通りに廃墟と呼ぶにふさわしく、アビドス自治区ではよく見かける人が居なくなり捨てられた建築物だらけだ。

アビドスと違って生徒達が大勢いるのにも関わらずこのような地区ができるというのは不可解だ。

 

「あのロボット、いったい何だったんだろ……ううん、それより、あんなのが幾つも徘徊してるこの『廃墟』って……一体何なの?」

「うーん、私もヴェリタスからちょっと聞いただけだから、わからないことだらけだけど……」

 

モモイさんが先生とミドリさんにしている説明を聞きながら、周囲の警戒を続ける。

現在行方不明になってしまった連邦生徒会長が、かつてここへの出入りを制限し、存在自体をできるだけ隠そうとしていたこと。

しかし行方不明になると同時に、連邦生徒会の兵力は撤収しそのまま放置されたこと。

連邦生徒会の警備が無くなり、ヴェリタス(ミレニアムサイエンススクールに所属しているハッカー集団)の助けも得てようやく侵入できていること。

ヴェリタス所属のヒマリさん(なにやらとても賢い人らしい)によると「キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所」らしい。

……この廃墟を私は、ルビコン技研都市と重ねてしまう。

あそこへ行かせまいとしていた封鎖機構の勢力を打ち倒したのは他でもない私達だったが、ここにもやはり隠しておきたい何かがあるのではないだろうか。

だが、今回の目的は『G.bible』

よくわからないが、要はゲーム制作についての指南書のようなものらしい。

それがコーラルのような危険性を持つものであることはないだろう。

早く見つけて、さっさと退散するとしよう。

 

「そのG.bibleを読めば、最高のゲーム……『テイルズ・サガ・クロニクル2』が作れるはず! ヴェリタスから貰ったこの座標に向かっていけばそこにきっとG.bibleが……」

「あ、ももいさん。」

 

興奮したモモイさんが座標を表示しているスマホの画面を見ながら飛び出し、方向を変えて去ろうとしていたロボットと衝突する。

即座に攻撃して破壊するが、すでに連絡されてしまったようだ。

どこにそんなに潜んでいたのか、先ほど片付けた量の倍程度のロボット達がわらわらと現れる。

 

「こ、このままじゃ包囲されちゃう!」

「うわわわ、ど、どうしよう!?」

「いいでしょう、そのためのないとふぉーるです。」

"それでも、ここに留まるのはまずいよ。 ひとまず、あの工場みたいなところまで逃げよう!"

 

確かに、先生と彼女達を守りながらこの数を相手にするのは骨が折れそうだ。

RaDの大型ミサイルやザイレムのコントロールタワーを防衛した時のように、時間まで守り切れば良いという状況でもない。

工場までの道を塞ぎ始めたロボットの集団に囀り砲を撃ち込み隊列に穴を開け、走り出す。

モモイさんとミドリさんに正面を任せ、私は後ろでどんどん数を増していくロボット達の注意を引く。

 

"モモイ!ミドリ! お願い!"

「私の、怒りの弾丸をくらえー!」

「……ドットを打つように緻密に……!」

「……ほう、やるじゃないですか。 ずぶのしろうと、というわけではなさそうですね。」

 

正直言って彼女達を戦力としては見ていなかったのだが、ロボット達への正確な射撃を見て感心する。

身体の動きからして戦闘員としての訓練を受けているような印象はないので、上手く育てれば優れた兵士になるかもしれない。

そのように勝手に格付けをしながら移動し、工場内へ到達した。

ミドリさんがもっと奥へ逃げ込もうとして正面の扉に手を当てるが、びくともしない。

 

「……嘘っ!?扉が開かない!!」

"まずいね……。 もしかして、袋の鼠になっちゃったかな。"

「そのしんぱいは……なさそうです。」

 

十字砲火を受ける心配がなくなり、私とモモイさんで入口を封鎖しようと構えるが、先ほどまで恐ろしい勢いで向かってきていたロボット達はゆっくりと退散していっている。

 

「何でか分かんないけど、とにかくラッキ〜、で良いのかな?」

「まだわかりませんよ。 おうひつようがなくなった、ということかもしれません。」

 

ひとまず危機が去って安心した様子だったミドリさんが、再び表情をこわばらせて質問してくる。

 

「追う必要が無いって、どういうことですか?」

「おわなくても、かってにかたがつくなにかが、ここにはある。 というかんじですかね。」

「こ、怖いこと言わないでよ!!」

 

モモイさんが少し泣きながら私にそう言うが、私は正直な感想を述べているだけだ。

ルビコン3にて手を組んだ2大企業、ベイラムとアーキバスの反撃によって惑星封鎖機構はアイスワームと主要艦隊の過半を喪失したことで星外への撤退を余儀なくされた。

それでも彼らが大人しく退いたのは、集積コーラルに辿り着くまでの唯一の道、『ウォッチポイントα』の防衛機構が完璧に近いものだったからだろう。

実際に、突入したベイラム部隊のおよそ半数は入り口の縦穴区画に設置されていた複合エネルギー砲台『ネペンテス』によって消され、そのほかにも様々なトラップや無人兵器が潜む長い道のりは、ベイラムがルビコンから手を引く一因となった。

私も、エアの導きが無ければあの探査はやり遂げられなかっただろう。

 

「ナイトフォール、大丈夫?」

 

また物思いに耽ってしまっていた私を、モモイさんが揺り起こす。

 

「ああ、すみません。 だいじょうぶですよ。」

"ひとまず脅威は去ったし、ひと休みしようか。 それから探索を再開しよう。"

 

私たちは現在いる場所にトラップなどがないことを確認し、床や良い感じの瓦礫に腰掛ける。

 

「連邦生徒会は、あのロボット達がいるから出入りを制限してたのかな?」

 

持ってきた水筒のお茶を飲みながら、ミドリさんが発言する。

 

「あのロボットたち、実は連邦生徒会が非常時に使うための秘密兵器で……とかは考えてみたけど。」

「みためもせいのうも、とくひつすることのない、ふつうのせんとうようおーとまたでした。 きりふだとは、おもえませんね。」

 

モモイさんは考え込むポーズのまま立ち上がり、周囲を歩き始める。

 

「うーん、何か引っ掛かってるんだよね……大事なことを見落としているっていうか、それに……」

『ピピピッ』

 

突如響いた何かが起動したような音に先生と私は身構え、ミドリさんは自分の姉がまた何かしたのかと声を荒げながら掴みかかっている。

 

「お姉ちゃん!!何したの!?」

「し、してない!!ほんとに何もしてないって!!」

 

ミドリさんの様子からして、どうやらモモイさんは普段から何かしら問題を起こしがちらしい事を察する。

微笑ましい姉妹の衝突に少し羨ましさを感じながら周囲を警戒する。

防衛設備の起動音や警備ロボットやドローンが接近するような音はしない。

代わりに、惑星封鎖機構を統制していたシステムAIによく似た抑揚の合成音声が部屋全体に響く。

 

『接近を確認。 対象の身元を確認します。』

『才羽モモイ、資格がありません。』

「え、え!?何で私のこと知ってるの?」

 

モモイさんが激しく動揺する。

だがその疑問が解決する前に、アナウンスが続く。

 

『才羽ミドリ、資格がありません。』

「私のことも……一体どういう……?」

 

ミドリさんは真剣な表情でこの不可思議な事態を思案している。

……あれ、もしかしてこのパターンだと

 

『該当なし。……暫定処理として、無資格とします。』

「……ふぅ。」

 

私の実名が読み上げられるかとハラハラしたが、そうならなくてよかった。

 

『対象の身元を確認します……シャーレの先生。』

『……資格を確認しました。 入室権限を付与します。』

 

私たちと比べて返答に時間がかかった後、まさかの返答に先生も含めた全員が動揺する。

 

"どうして……?"

「ええっ!?」

「え、どういう事!? 先生はいつこの建物と仲良しになったの!?」

「……ふしぎなことも、あるものですね。」

 

先生がなぜこの建造物に入ることのできる資格があるのか。

疑問は尽きないが、合成音声によるアナウンスは続く。

 

『才羽モモイ、才羽ミドリ、詳細不明の3名を先生の「生徒」として認定。』

『同行者である「生徒」にも資格を与えます。承認しました。』

 

どうやらこの先を、先生だけに進んでもらうことになるのは避けられたようだ。

 

『下部の扉を開放します。』

「……下部?この目の前の扉じゃなくて?」

 

ミドリさんが疑問に思い、正面の扉を再び触り開かないことを確認する。

 

「いいまちがえでは、ないようですね。」

「ねぇ、下部ってもしかして……。」

 

モモイさんが目を凝らしながら私達の立っている床を見る。

 

「流石に違うでしょ。 どこからどう見てもただの床だよ。」

「それに、わたしたちはいまはしんにゅうしゃではなく、きゃくじんでしょう? あるとしたらりふとのようなもので……!?」

 

私の床ごとリフトになっているのではという推測は裏切られ、 ガチャン!! という音と共に私達の立っている床が開いて落下を始める。

 

「床が無くなっ……落ちる!?」

「うわわわ!!」

"モモイ!! ミドリ!!"

「っ! せんせい!!」

 

咄嗟にモモイさんとミドリさんを抱え2人のクッションになろうとしている先生を3人ごと引き寄せる。

先生の生徒に対する献身ぶりには惚れ惚れするが、限度がある。

この中で1番落下で取り返しのつかない怪我を負うとしたら、先生だ。

決して軽くは無い装備に加えて3人を抱えた私は重量過多な状態で着地し、足がもたず呻き声を漏らし仰向けに倒れる。

そのまま3人に下敷きにされてしまい、身動きが取れなくなった。

先生は先生で顔のあたりを2人の体で押し潰されているのか、変な発音での礼が聞こえる。

 

"……ふぁすふぁったよ(助かったよ)、ないとふぉーる。"

「……どういたしまして、せんせい。」

 

突然の落下で気絶してしまったモモイさんとミドリさんの意識が戻るまで、私と先生は動けなくなっていた。

 

 

----------

 

 

ミレニアム廃墟 

地下施設

 

「うーん……。」

 

私のお腹の上で気を失っているミドリが声を上げる。

その声を聞いて私の顔を踏んづけているモモイの足も動き始める。

どうやら2人とも意識が戻ったようだ。

 

「あれっ、お姉ちゃん?先生!?」

「いやー、流石に死ぬかと思った……。」

「お姉ちゃん大丈夫? あれ、先生と傭兵さんは一体どこに……。」

 

まだ気が動転しているのか、私のお腹の上で辺りをキョロキョロと私たちを探し始めたミドリに答える。

測らずもレイヴンとタイミングが重なってしまった。

 

「「ふぉふぉ(ここ)に……。」」

「ひゃあっ!?」

 

驚いたミドリが跳ねて私たちの上からようやく動いてくれた。

跳ねる時に強く踏み込まれたお腹をさすりながら立ち上がり、レイヴンに手を貸して起こす。

 

「な、なんで!? どうして私達の下にいたんですか!!?」

「どうしてもなにも、あなたたちがおちるときにとっさにせんせいがかばったんですよ。」

「そしてさらに、そんな先生をナイトフォールが庇ってくれてたんだよ。」

 

2人の解説と冷静な態度にミドリも落ち着きを取り戻す。

 

「あっ、ご、ごめんなさい……。 てっきり先生に『そういう趣味』があるのかと……。」

「いや、今の発言に対しても、もう一度謝った方がいいと思うけど……。」

「そういうしゅみ? どういうしゅみでしょうか?」

「えっ! ええっと……。」

 

レイヴンが好奇を帯びた目でミドリに質問するがミドリは答えに詰まってしまい、見かねたモモイが急いで話題を変える。

 

「と、とにかくナイトフォールと先生、大丈夫?」

「まぁ、すこしあしがしびれたくらいです。」

"もちろん、2人が無事で良かった。"

 

ミドリの『そういう趣味』とはどのような誤解なのか気になるが、ミドリの表情を見るに答えてはくれないだろう。

体勢を整えた私たちは脱出路を目指して探索を再開した。

 

「けいかいをゆるめないように。 あのおとしあなからして、らっどりゅうのかんげいのかのうせいもでてきています。」

「ら、ラッド流って……?」

「かんげいのはなび……えっと、こういりょくのばくだんとか、まちぶせですね。」

「全然歓迎じゃないじゃん!!」

 

どうやらレイヴンとチャティが前にいたRaDという組織は比喩表現が好きなようだ。

レイヴンの忠告通り中に入る資格を得られたと言っても油断せず、慎重に地下施設を進む。

 

「まるで、めいろですね。」

「そんなに深いところまで落ちたわけじゃ無いみたいだけど……ん?」

 

モモイが自分たちの現在地を推察しながら進んでいると、ひらけた場所へ出た。

レイヴンが不意に足を止め、不審がったモモイが駆け寄り何かを見つけ動揺する。

 

「……ここ……は……。」

「ナイトフォール?……えっ!?」

「ん……?どうしたの、お姉ちゃん……?」

"何かあったの……うわっ!?"

 

そこの開けた部屋の真ん中で、大きくも質素な椅子が灯りに照らされている。

そしてそこに、何も着ていない裸の女の子が座っていた。

レイヴンは何か嫌な記憶を思い出してしまっているのか動けなくなってしまったので、モモイとミドリに確認を頼みレイヴンの震える背中をさすりながら声をかける。

 

"大丈夫? ナイトフォール?"

「……はい。だいじょうぶ、です。……うぉるたーとであったところににていて、どうようしてしまいました。」

 

レイヴンの乱れた呼吸が落ち着くのを確認する。

その後、レイヴンと一緒にモモイとミドリに合流して少女を調べる。

 

「この子、眠っているのかな。」

「……返事がない。 ただの死体のようだ。」

「やすらかなかおですね。……せめて、らくにしねたのでしょうか。」

「2人とも不謹慎なネタ言わないで! それに死体っていうか……ねぇ見て。」

 

ミドリが周囲に散らばっているケーブルや人が座るのに向いているように思えない硬質な椅子からの推論を述べる。

 

「この子、怪我とかじゃなくて……『電源が入ってない』みたいな感じがしない?」

「そう?確かに言われてみれば、なんだかマネキンっぽいね。どれどれ……。」

「まさか、わたしとおなじ……。 むっ。」

 

モモイとレイヴンが少女に近づき調べる。

モモイが肌に触れて感想を述べたりレイヴンが身体を、特に頭部と腹部を重点的に見ていると何かを見つけたようだ。

隣にいるモモイに声をかけ、服を着れば隠れる位置を指差す。

 

「ももいさん、ここに。」

「おお、文字が書かれてる。……AL-IS。えーえるあいえす?どう読むのか分からないけど、この子の名前?」

「どちらにせよ、やはりふつうのおんなのこでは、なさそうですね。」

 

顎に手を当て、モモイが名前の読み方を考え閃く。

 

「……アリス?」

「すてきな、よみかたですね。 えーえるいちえすより、よびやすいです。」

「え?……あ、ホントだ。 lじゃなくて1じゃん。」

 

その後、この子がいったい何者なのか。

そしてこの場所が何のための場所なのか。

疑問は尽きないが、ミドリがこのままでは可哀想と持ってきていた予備の服を4人で協力して着せる。

 

「予備の服なんて持ってきてたんだ……ってそれ私のパンツじゃん!」

「違うよ、これは私の。 猫ちゃんの表情が違うでしょ。」

「せんせい、これでよいでしょうか?」

"うーん、ネクタイの向きが逆かな。"

 

見た目の割には少し重い少女の身体を動かしながら服を着せ終える。

一旦距離を取り、着付けにおかしい部分がないか確認していると ピピピッ と電子音が響いた。

警報音のような音は、どうやら今服を着せ終えた少女からしたようだ。

 

『状態の変化、および接触許可対象を感知。 休眠状態を解除します。』

 

パチリ、と少女の目が開かれる。

機械らしい駆動音もなく、首を回して周囲を確認している。

 

「め、目を覚ました……?」

「……きゅうみんじょうたい。 やはり、ふつうのにんげんではないのですね。」

「……状況把握、難航。」

 

目覚めた少女は抑揚の無い話し方で喋り、無表情のまま椅子から降りると視線をモモイとミドリに定め口を開く。

 

「会話を試みます……説明をお願いできますか?」

「え、えっ? 説明?なんのこと?」

「説明が欲しいのはこっちの方! 貴方は何者で、ここは一体何なの?」

 

少女はモモイとミドリの質問に対し、少し間を空けて返す。

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。 データがありません。」

「ふむ。……てっきりにんげんをいじくったものとおもっていましたが、それもちがうようですね。」

「発想が鬱ゲーすぎるよ!!」

 

少女は質問に答えると動きを止める。

どうやらこちらからの質問を待っているようだ。

 

「……てきたいのいしはない、ということですね。」

「肯定。 接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません。」

 

電子音らしさの無い、しかし抑揚の無い無機質な話し方は彼女が人間ではなくロボットであることを証明する。

あまりの精巧さに私達は感心してしまう。

 

「ロボットの市民ならキヴォトスによくいるけど、こんなに私達に似ているロボットなんて初めて。」

「わざわざ、がいけんをにせるということは、あいがんようでしょうか? しかし、それをこんなところにおいておくりゆうがわかりません。」

 

その後も一応彼女とこの場所について質問してみたが、やはり一切のことは分からなかった。

しかし、モモイはそのことを再確認するとなにやら閃いたような表情を浮かべる。

 

「工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失……ふふっ、良いこと思いついちゃった。」

「いや……今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど……。」

「……なんだか、わたしのせんぱいとおなじようなことをかんがえているきがします。」

「???」

 

モモイが何を考えているのかは分からないが、とりあえず彼女を放っておくわけにはいかないので私達に同行させ脱出経路の探索を再開した。

 

 

----------

 

 

ミレニアムサイエンススクール 

廃墟地帯近郊

 

「……出れたー!!」

「ずいぶんと、あっさりでれましたね。」

「良かった……ほんとに良かった……。」

"皆、お疲れ様。"

「目的達成と認識。 該当する言葉を検索……完了。 お疲れ様でした。」

 

私達は地下で出会った謎の少女を連れて脱出路の探索を再開したが、そこから少し進んだところで地上へ直通しているリフトを発見できた。

……まるでアリスを見つけさせるのが目的だったような構造だったが、それは考えすぎだろう。

私は本来の仕事を再開させようとモモイさんへ指示を求める。

 

「さて、ほんらいのしごとにもどりましょうか。 ももいさん。」

「あー……。 そのことなんだけどさ、今日は引き返そうと思うんだ。」

「……いらいのちゅうだん、ということですか?」

"そうなるね。 大丈夫、報酬はちゃんと払うから。"

「もう陽が傾いて来てるし、この子を連れたままの探索は危険すぎます。」

 

ミドリさんに言われて空を見ると、夕焼けに紅く染まり始めていた。

確かにこれ以上探索すればミレニアムへの帰還に支障が出てしまうだろう。

暗闇の中でロボットだけでなく荒れ果てた通路や放置された残骸に足を取られては危険だ。

 

「さぁ、急いで帰ろう! 戻ったらやらなきゃいけないことがたっくさんあるからね!」

「お姉ちゃん、走ると危ないよ!」

"……若いっていいね……。"

「いえにかえるまでが、えんそくですよ。 きをぬくにははやいです。」

「了解しました。 警戒を維持しつつ、移動を開始します。」

 

 

----------

 

ミレニアムサイエンススクール

ミレニアムタワー入り口

 

「じゃあ、お疲れ様!! 今日はほんとにありがとう、ナイトフォール!!」

「傭兵さん、ありがとうございました。 またよろしくお願いします。」

「的確な援護と先導、感謝します。」

"ありがとう。 とりあえず撃破してくれた分の報酬はいつもの口座に振り込んでおくよ。"

「ええ、それではまた。」

 

モモイさん、ミドリさん、アリスさん、そして先生に挨拶をして別れる。

当初の目的は果たせなかったが、イレギュラーな出来事が起きたので仕方がない。

G.bibleの捜索は落ち着くまで延期ということだったが、撃破報酬は貰えたし放棄したわけではないから経歴の傷にもならない。

あとはアビドスへ帰るだけ……だが、私はアリスさんの事が気になってしまった。

おそらくモモイさんは、ホシノ先輩が私にしたように、アリスさんを部員として加入させるつもりだ。

この世界に来てからの自分に、どうしてもアリスさんを重ねてしまう。

彼女はこの先、上手くやっていけるのか。

先生に頼めば近況報告ぐらいはしてくれるだろうが……私は、自分自身の目で見てみたくなった。

周囲に誰もいない事を確認し、通信を開く。

 

「ちゃてぃ、きこえている?」

『聞こえている、ビジター。 シャーレの先生からの報酬の振り込みを確認したが、依頼自体は中断になったようだな。』

「うん。 けれど、すこしきになることがあってね。」

『アリスの事だな。 モニターしていたが、あれほど精巧な自動人形は見た事がない。』

「うん。……すこし、みれにあむにのこっていいかな?」

『……了解した。 アビドス高校のメンバーには俺から伝えておこう。』

『ついでだ、装備品のメンテナンスをエンジニア部にしてもらうと良い。』

「そうだね。 ありがとう、ちゃてぃ。」

 

Ab06、生徒名レイヴン。

普通ではないもの同士に、共感を覚える。

 

 

----------

 

 

通信を切り、売店でパンと飲み物を購入した後、私は明日の朝までどう過ごすか思案する。

適当なベンチで横になり夜を明かそうと考えたが、ここはセキュリティがしっかりしているミレニアムサイエンススクール。

所属で無いものがベンチで横になっているとなれば、間違いなく退去させられるだろう。

浮浪者とも間違えられたく無いのでベンチで寝るのは却下するが、部外者が寝泊まりできるような施設もないだろう。

迷った末、良い感じに茂っている木に登って寝ることにした。

ここならパトロールに目をつけられることもないだろう。

前にも買った菓子パンとただのリンゴジュースで食事を済ませ、目を瞑る。

……案外、快適だった。




読んでいただき、ありがとうございました。
我ながら綺麗に終わらせることができたと思っていたので続けるかどうか迷いながら思いついた事を書いていたら最後まで幻視できたので再び書き記すことにしました。

ゆっくりな投稿にはなると思いますが、楽しみにしていただけると幸いです。

それでは、また。
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