Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
今回も楽しんでいただけると幸いです。
ミレニアムサイエンススクール
エンジニア部部室
タタタタタタタタッ!
「あだだだっ!? 痛いよぉ!」
「お姉ちゃん! しっかり隠れて!」
「速すぎます! 捉えきれません!」
私はゲーム開発部、シナリオライターのモモイ!
今は私達の新しい仲間、アリスの武器をもらう為の試練を受けているところ!
それで初めはちっちゃいロボットとかドローンだったのに、いきなり独立傭兵ナイトフォールと戦えとかいう無理ゲーをやらされてるの!
酷くない!?
「どうしました? こんなものではないでしょう?」
「もー! 渡す気が無いなら無いって言ってよ!」
「身体のどこかに当たってください!」
私もミドリもアリスも、なんとか隙を見つけて撃つけど全部避けられる。
せっかく狙いを付けても、まるでこっちがボタンを押したら反応する意地悪な敵NPCみたいに引き金を引くと同時に動かれてる。
……もうこうなったらアリスには悪いけど別の武器を……と考えてたら、私達用のインカムに無線が入ってきたのか雑音が響く。
「もう!こんな時に誰から」
『"3人とも、大丈夫?"』
「せ、先生!?」
遠く離れたところから、こちらに手を振っていて、もう片方の手で無線機を持ってる先生が確認できた。
私は縋るように先生の無線に答える。
「先生お願い! ナイトフォールを止めて!なんか物で釣って!!」
「……きこえていますよ? ももいさん。」
『"まぁ、それもいいんだけど……"』
私の提案を先生はあっさり流し、びっくりするようなことを言った。
『"私が指揮をするから、みんなでナイトフォールに一泡吹かせてみない?"』
「……ええっ!?」
「無理です!相手は上位ランカーです! レベルが足りてません!」
「相手は、百戦錬磨の本物の傭兵ですよ!」
弱気な私たちを諭すように、先生は優しく話を続ける。
『"落ち着いて。 今のナイトフォールは全然本気じゃない。"』
『"武器も違うし、彼女の得意とする戦闘スタイルでもない。 本気でやってるなら、とっくに格闘戦に持ち込まれているはずだよ。"』
先生の意見を聞いて、廃墟でのナイトフォールの戦い方を思い出す。
確かに、あそこのオートマタ達にはもっと殴る蹴るパイルバンカーを打ち込む等の暴行を加えていた気がする。
「……つまり、舐めプということですか! アリス、不甲斐ないです!」
『"まぁ、そうなるね。 だからこそ、付け入る隙があるはず。"』
確かに、どんなに優れたプレイヤーでも、やりこんだステージだからって気を抜いてたら凡ミスはする。
……ネタ系のRTA動画の見どころってそこな気もするし。
ナイトフォールがどんなに手馴れているとしても、この戦いがゲーム感覚なら私達にも付け入る隙があるかもしれない。
ゲームなら、私たちの方が経験値は上のはずだもん。
『"どうかな。 やってみない?"』
遮蔽物に身を隠している私達3人は、互いの顔を見合わせる。
きっと私もだろうけど、ミドリもアリスも少し顔つきが変わってる。
「……よし、やろう! 先生、指揮をお願い!!」
「仕切り直しです。 行きます!」
「先生、指示を!」
先生の言葉にはなんだか「きっとできる」と、そう思わせてくれる力がある。
私達は根拠の無い自信に溢れながら遮蔽物から飛び出した。
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ミレニアムサイエンススクール
エンジニア部部室
『な、ナイトフォールさん!? わかってると思いますが一応何度でも説明しますよ! 相手はまともな実戦経験なんてあるわけないゲーム開発部です! 手加減してあげてくださいね!!』
「……そんなにいっぽうてきにみえますか?」
『……まぁ、光の剣の射撃データは取れてるけど、一方的ではあると思う……。』
『おかしいな、いつものモモイの無鉄砲さが見れない。 けしかけるには君の名は売れすぎていたかな?』
私に付けられた無線機にエンジニア部の皆さんからのクレームが飛んでくる。
明らかに有効射程範囲外の距離から見た目は派手なサブマシンガンを適当にばら撒いているだけなのだが、それでも攻めすぎているように映ってしまうらしい。
オールマインドの高等傭兵検定の最後の相手を務めてくれたトレーナーACよりよほど手を抜いているつもりなのだが、手加減とはなんとも難しい。
急に頭の中で、ややしわがれた老人の声が響く。
『可哀想に。 お前もたまには、弱者の気持ちを慮ってやるんだな。』
「……なるほど、こういうことですか。」
ウォッチポイントαの深度2の探査中に現れた独立傭兵、コールドコール。
私を自分の手で倒す事を諦めたG5イグアスに雇われたであろう殺害代行人が戦闘中に言っていた言葉を思い出す。
ルビコンでは弱者は淘汰されても仕方のないことだが、ここはキヴォトス。
ここでは負けた後でも、人生は続く。
ウタハさんの依頼は戦闘時間の引き伸ばし。
指定された時間まであと2分半といったところだ。
遮蔽物に隠れた3人をどう引きずり出そうか考えていたが、無理に攻めて恐怖を植え付ける必要はない。
「……今だ!」
「む?」
攻撃の手を緩めて様子見をしていると、物陰で亀になっていたモモイさんとミドリさんが突然それぞれ2方向へ飛び出す。
どうやら狙いを分散させようとしているようだ。
似た姿の2人による連携の姿がルビコンでの記憶と被り、今度はウォルターの声が聞こえてきた。
『まずは片方を潰せ。 連携を阻止するんだ、621。』
「……そこまではしませんよ、うぉるたー。」
惑星封鎖機構の制圧艦隊の足止めをする為、ヨルゲン燃料基地のエネルギー生成プラントを破壊する依頼を受けた時に遭遇した特務機体『エクドロモイ』
特定目標の排除を任務とする高機動機で、並の練度では無いパイロット同士の近接型と射撃型の2機による連携は脅威だった。
撃破したあとにウォルターとエアは
『……連中にとっては体のいい宣材だ。』
『他の傭兵たちも、あなたに続いてアーキバスの依頼を受け始めるでしょう。』
と言っていたが、果たして私と同じように依頼を受けて、封鎖機構の基地や特務機体を相手にできた独立傭兵は何人いたのだろうか?
頭の中に響くウォルターの提案を退け、変わらず一定の距離を保ちながらサブマシンガンを撃ち続ける。
私の普段使っているライフルとは違って弾をばら撒く為の武器なので特に狙いを付けず引き金を引き続けるのはなかなか癖になりそうだが、遊んでいられる時間は終わったようだ。
モモイさんとミドリさんは先ほどまでとは違い、前後から挟み込む位置取りからタイミングをずらして撃ってきている。
目の向いている真正面からなら何発撃たれても身体を通せる隙間があるならかわせるが、流石に見えない方向から撃たれるのはまずい。
実際反応が遅れてかわしきれず、数発当てられてしまった。
「! 当たった!」
「……せんせいがつくだけで、これほどかわりますか。 なるほど。」
さっきまで白旗を上げる寸前だったとは思えない自信に満ちた動きだ。
先生の指揮の優秀さは身をもって知っているが、指揮が得意というだけではあの動きは成り立たない。
先生の強みは、優れた観察眼と人を信じさせる魅力だ。
私の戦い方から付けいる隙を見出し、戦闘行為自体は素人のはずのゲーム開発部の背中を押してそこをつかせる。
……だが、その程度であっさりとやられては流石に戦うことを生業としている傭兵の誇りが傷つく。
勝つつもりはないが、楽に勝たせてやるつもりもない。
「げーむかいはつぶ。 すーぱーのゔぁをかえせとはいいません。」
「ただ、そのしかくがあるか。……みきわめさせてもらいます。」
「……もしかして、ナイトフォールさんもゲームが好きだったりするんですか?」
ウタハさんの要望にあった、相手を測る審判者らしい言動をなんとなくでしてみる。
上手く演じれているか分からないが、どうやらミドリさんの表情からして出来ているようだ。
バリッ……
突然、レーザーキャノンのチャージが終わったような音がした。
だがその音を確かめる前にモモイさんとミドリさんの弾を避けないといけない。
地面を蹴り横に跳ね、再び地面に足をつけた瞬間だった。
「……光よ!!」
「なにっ……!!?」
身を潜めていたらしいアリスさんの声が聞こえ、青い光の奔流が射線上にある障害物を溶解させながら私へ飛んできていた。
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ドガァァァァァァアアン!!
「やったか!?」
「モモイ! それはやれていない時のセリフです!」
「……でも、見た感じでは確かに当たってたはず……。」
『"油断はしないでね。"』
先生が教えてくれたナイトフォールさんの弱点。
それは、攻撃されれば必ず避けようとすること。
もちろん実戦であれば多少の被弾は気にせず戦い続けるので、今回しか通用しない手だった。
けれど、こちらのボタン入力や特定の行動に反応してくる敵キャラには総じて『ハメ技』が効くものだ。
実際にナイトフォールさんは前後から挟み込むように続けられるお姉ちゃんと私の攻撃に避けるのに集中するようになり、明らかに反撃の頻度が減っていた。
そして先生の立てた作戦とは、必ず避けようとするナイトフォールさんを私達の攻撃でアリスちゃんの射線へ誘導し、回避行動が終わったタイミングで最大出力のスーパーノヴァを置き撃ちする事だった。
『"当てようと考えなくて良い。 ただ、ナイトフォールが避けるように派手に撃って。"』
「りょーかい!」
「了解しました!」
『"アリス、チャージが完了したら教えて。 それと私が合図するまで見られないようにしてね。"』
「了解です。 アリス、芋虫になります!」
そしてその作戦は上手くいき、アリスちゃんのスーパーノヴァの光はナイトフォールさんを飲み込んで進んでいった。
激しい閃光に私達は目を瞑ってしまい、光が収まり目を開けた後もまだ粉塵が舞っていて視界が晴れない。
……漫画やゲームで散々見てきたシチュエーションで、嫌な予感がする。
パチパチパチパチ!
「げっ!?」
「……このシチュエーションはわかります! 攻撃目標は健在!やれていません!」
「……本当にゲームのキャラみたいな人……。」
拍手の音が響いて、煙の中に黒いシルエットが浮かび上がりこちらへ歩いてくる。
「やるじゃないですか、げーむかいはつぶ。」
「せんせいのしきがあったとはいえ、おもしろいよきょうをみせてもらいました。」
声がはっきりと聞こえて、白い煙の中からフードを被った……あれ?
「おれいをしなくては、いけませんね。 せっかくです、ここからはほんきで……?」
私達の怪訝な視線に気づき、ナイトフォールさんが首を傾げる。
そしてこちらへ疑問を投げかける前に、アリスちゃんが答えた。
「アリス、分かりました! これは第2形態です!」
「だいにけいたい……? えっ、あっ!?」
どうやらスーパーノヴァの直撃は避けられたようだが、本当にギリギリだったようで着ていたパーカーの左半身と頭の部位が吹き飛んでいる。
今の私達の前にはフードを深く被り正体不明でミステリアスな雰囲気から一転した、飢えた獣のような圧力を秘めた瞳と、それに相応しい猟犬のような尖った耳を晒したナイトフォールさんがいた。
……あの大きな耳が、フードに入りきるものなのかな。
「まぁチラチラ見えてはいたけどさ、フードの下は美少女って普通すぎない? もっと左右で別の顔とかさ。」
「でもアリスは、可愛い顔の方が良いです。 倒された時に寄ってきて画面にアップされるなら可愛い方が良いです!」
「お姉ちゃんは意外性を求め過ぎてるんだよ。」
軽口で自分達を鼓舞しながら銃を構え直すが、ナイトフォールさんはフリーズしたように動かなくなっていた。
何かの策なのかと思い動けないままでいると、ほとんど布の切れ端となったパーカーを頭部に巻き付けて顔を隠しながら言い放った。
「……これでかったと、おもわないでください!!」
布が口まで覆っているせいでやや聞き取りづらかったが、三下な悪党の負け惜しみそのものなセリフを放つと凄まじいスピードで上に跳び上がり、私達の前からいなくなった。
「……あれ、終わり?」
「顔を見られたら撤退……まるで、星のポポポのテツナイトみたいです!」
「ナイトフォールみたいな強い人でも、あんなセリフ言うんだ。」
『"……何はともあれ、お疲れ様。 よく頑張ったね。"』
先生の労いの言葉を聞いて、私達はようやく勝ったことを認識して喜んだ。
アリスとお姉ちゃんに手を取られて3人で跳ねているとエンジニア部の人達が近づいてきた。
「……素晴らしい。」
「なるほど、力は見せてもらいました。 今この瞬間から、その光の剣はアリスの物です!」
「「「やったー!!」」」
私達は無事に光の剣を扱える資格があることを示すことができた。
これで、見た目でアリスちゃんをミレニアムの生徒か怪しむ人は居なくなる……のかな?
心配性の私は不安を拭いきれないまま、上機嫌なお姉ちゃんとアリスちゃんに引っ張られて部室へ戻りました。
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ミレニアムサイエンススクール
エンジニア部部室
「お疲れ様、ナイトフォール。 悪いことをしたね。」
「いえ、しけんとはいえ、ゆだんしたわたしがわるかったです。」
「まさかスーパーノヴァの火力があそこまで高かったとは……まともな試射をしたことがなかったので想定しきれませんでした。」
「……結構、耐熱防御にも自信あったんだけどね。 まだまだだね……。」
ゲーム開発部の皆さんが帰ったあと、直したばかりなのに吹き飛んでしまったパーカーを予備に変え戻ってきた。
アリスさんの奇襲には久々に全身に死の恐怖が走ったが、それでも動いて躱してくれた自分の本能に感謝する。
整備が終わった本来の装備に戻し、帰り支度をしながらウタハさんと意見を交わす。
「ところで、こんかいのわたしのしごとは、うまくいきましたか?」
「もちろんだよ、ナイトフォール。 アリスの事が大体はわかった。」
「まさかスーパーノヴァのフルチャージを扱えるとはこのコトリの目を持ってしても予見できませんでした!」
「……本当に貴重なデータが取れた。 スーパーノヴァの射撃性能も、あなたの防弾パーカーの耐久限界のデータもね……。」
「せっかくだ、実際に相手をした君の意見も聞きたいな。」
「……まぁ、うたはさんとどういけんだとおもいますよ。」
可愛らしい見た目に、過剰なほど人に似せられたボディ。
初めはそれを愛玩用か、もしくは精巧な義体のサンプルかと思っていたが、違う。
ウタハさんもどうやら同じ見解に至った様だ。
「最低でも1トン以上とされる握力、発射時にもブレない安定した体幹バランス。」
「きょうどやしゅつりょくはもちろん、しゅうふくきのうがあるとしかおもえない、がんじょうなからだ。」
つまり、最初から厳しい環境での長期的な活動を想定して作られている。
ウタハさんは少し思い詰めた表情で結論を口にしようとする。
……確かに、その役目を担わせるにしてはあの見た目は綺麗すぎる。
「その目的はきっと……。」
「「……戦闘だな。
……さぎょうようですね。」」
そう。きっとアリスは危険地帯での解体作業を目的として作られたRaD製の土建AC『WRECKER』の様な……ん?
「「……えっ?」」
お互いの見解が合わなかったことに困惑しながらウタハさんと見つめ合う。
さらに間が空いたが、ウタハさんから話し始めてくれた。
「……作業用、か。 なるほど、そういう視点もあるのか。」
「せんとうようのろぼっと、というのがうたはさんのけんかいですか。」
「そうだね。 まぁ、他者との見解の違いというものはとても大切なものだ。」
ウタハさんは少し考え込む様な仕草をして、私の見解について語り出した。
「建設現場ではどんなに気をつけても、労働災害というものは起こってしまうものだ。」
「その被害に遭うのが簡単には壊れない頑丈なロボットで、事故を起こさないという意思を忘れさせないために人に似せているのだとすれば、悪くないアイディアだ。」
「……そうですね。」
正直に言うと単純に人間サイズまで小型化された作業用重機程度にしか考えていなかったのだが、ウタハさんの考えの方がそれらしいのでそういうことにさせてもらった。
今度はそちらの意見を聞かせてもらおう。
「うたはさんの、せんとうようというかんがえですが、それはどうしてですか?」
「たたかうことをぜんていとしているなら、ひとのかたちであることじたいは、はんようせいをたかめるということでなっとくできますが。」
「あれほどかわいく、せいこうにつくるひつようせいはかんじません。」
ACが人の形をしているのは、長い戦いによって蓄積された戦闘データの果てにたどり着いた最適解だからだ。
私の居た世界では様々な戦闘用のマシーンが作られ、実戦に出され、一定の戦果が上げられてきた。
バルテウスに、カタフラクトに、他にもきっと私が出会うことのなかった強大な兵器群があるはずだ。
それでも戦場で最後に残るのは正確無比で慈悲の無いAIを搭載した大型の無人機でも、人型を逸脱してでも出力と火力を高めた特務機体でもなく、優秀なパイロットが搭乗し操るACだった。
この世界でも戦車やヘリコプターなどの通常兵器よりもゴリアテなどの人型兵器の方が強力ではある。
アリスさんがその人型兵器としての進化の結果であるかもしれないというのは納得はできるが、それならばあの様な少女の姿ではなく、もっと戦意を喪失させる様な大仰な見た目になるはずだ。
私の考えを一通り聞いたあと、ウタハさんは少し顔を曇らせて話し始めた。
「……君は、偽装というものを知っているかな。」
「ぎそう……みためをごまかす、とかそういうことですよね。」
「一つ、具体的な例を出そうか。 私の友達の友達に、少し困った趣味を持っている人がいるんだ。」
「その子は人の秘密話を盗み聞きすることが好きでね。 シャーレにも何回か盗聴器を仕掛けに行っている。」
……なんとも、反応に困る例え話だ。
どう考えてもヴァルキューレに突き出されてもおかしくない行為だが、一応それを許している先生のおおらかさを改めて実感すると同時に危険だとも思う。
「もちろん彼女も盗聴器をそのまま置けばバレることはわかっている。 そこで彼女は、大きなクマのぬいぐるみを先生にプレゼントしたそうだ。」
「まぁ、あまりにも怪しい言動と行動のおかげで先生は盗聴器が仕組まれている事を察して受け取らなかったそうだけどね。」
「それは、よかったですね。……まってください。 まさか、ありすさんのあのみためは……」
ウタハさんの言いたい事が分かり、一気に血の気が引く。
その事が伝わったのかウタハさんの表情はさらに暗くなる。
「戦闘が目的のロボットをあそこまで可愛くするのには理由がある。 その目的はおそらく、警戒心を抱かせず敵地の奥深くまで入り込むためだ。」
「警戒心を持たせないために、武器や兵器には見えない様に作成されたり偽装された物品の例は山ほどある。 私たちもいくつか作ったことがあるくらいには、ありふれた手段だ。」
私達があの地下でアリスさんを警戒できたのは、彼女がいた場所があまりに異質で、そして彼女がロボットである事を事前に察知できたからだ。
もしどこかの市街地で、『道に迷ってしまい、助けを求める生徒』を演じて近づかれたら警戒よりも保護を優先するに違いない。
そしてあの膂力で不意打ちや格闘戦に持ち込まれれば……おそらく、まともな抵抗をする間もなくやられてしまうだろう。
ウタハさんはさらに少し考え込み、苦笑しながら話し出した。
「けれど、君の考えの方が私は好きだな。……ふふっ、まさか私が君より物騒な考えをしてしまうとはね。」
「……わたしも、すこしはまるくなれているということでしょうか。」
その後、改めて武器のメンテナンスをしてくれたお礼を言って部室を出る。
……もし、ウタハさんの懸念が当たっているとしたら。
アリスさんは私と同じ、戦う為に、戦いに勝つ為に作られた存在ということになる。
ここが前に私のいた世界であれば、脅威となる前に破壊する判断をしただろう。
けれど、私が普通(一応)の女の子として生きている様に、アリスさんにもそれができるはずだ。
私は彼女の幸運を祈りながらアビドスへの帰路へついた。
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ミレニアムサイエンススクール
ゲーム開発部部室
「ただいまー!」
「ただいま。」
「アリス、帰還しました。 クエスト達成です!」
「お、おかえり、みんな。 ! ぶ、武器、貰えたんだね……。」
お留守番をしていたユズが無事に目的を達成できた事を喜んでくれる。
ナイトフォールが出てきた時はどうなることかと思ったけど、先生が助けてくれたおかげでなんとかなった。
……部室の床も無事みたいだし、スーパーノヴァを持ち込んでも平気な部室の床を作ってくれた人達に感謝!
新入部員が入ったことはもうユウカに伝えたし、これで廃部の危機は去った!
となればやる事はもちろん……
「じゃあ、アリスの入部を記念して今夜はみんなでゲームしよう!」
「アリスちゃん、協力プレイは初めてだよね?」
「協力ですか? 私は過去に何度も僧侶や魔法使いや戦士と冒険しています! 初めてではありません!」
「えっと、それはあくまでNPC達とだから……。」
「まずはアリスのアカウントを作らなきゃね! 早速基本情報を……?」
これから遊ぶネトゲはフレンドからの招待を受けて始めれば経験値アイテムが大量にもらえて、始めたばかりのアリスでもすぐに私達のレベル帯になれるはず。
その為にスマホを開いたらモモトークに通知が来ていた。
一体誰だろ?
ヴェリタスの皆への用事はもう終わってるし、ユズからの連絡に気づかなかったのかな。
確認だけならすぐに済むし、ささっと見ちゃお。
『独立傭兵、ナイトフォールです。 先ほどはお世話になりました。』
……なんだって?
『少し工夫をして、あなたの連絡先を突き止めさせてもらいました。』
『私の素顔に関しては、秘密でお願いします。 失礼ですが、モモイさんは口が軽そうな印象があったので。』
『それから、廃部にならなくて良かったですね。 これからのゲーム開発部の活躍を応援しています。』
『要件はそれだけです。 では、また。』
あんな幼い喋り方をしているとは思えない丁寧な文章が送られてきているけど、そんな事はどうでもいい!
なんで、なんで私のモモトークをナイトフォールが、工夫って何!?
……まって、工夫ってもしかして……。
「モモイ、どうしましたか? ゲームのインストールは終わりましたよ!」
「ね、ねぇミドリ。 ナイトフォールに私のモモトークのアカウントって教えたりした?」
「え? いや、そんな事してないけど。」
「……もしかして私達、とんでもない人と関わっちゃったのかも……。」
「え、えっ、なんの話……?」
おそらくナイトフォールの友達にハッキングや情報の改竄が得意な人がいるんだ。
それも、ミレニアムサイエンススクールのセキュリティを突破できるほど優れたハッカーの。
電子戦が得意な子と、実際に戦闘するのが得意な子の組み合わせ……
最っ強のコンビじゃん!!
久々に創作意欲が湧き出て来てるけど……今は、アリスの歓迎会を優先しないとね!
私は適当な紙に思いついた事をババっと書いてアリスのアカウント作りに戻った。
その紙は、後日どっかに行っちゃった。
独立傭兵ナイトフォール、普通に釘を刺す。
だが、効果はいまひとつのようだ。
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アビドス高校 1F
対策委員会教室
「……ふぅ、とりあえず今日はここまでにしまょう。」
「おつかれさまです、あやねせんぱい。」
「あ、レイヴンちゃん! おかえりなさい!」
私がアビドス高校の支出と収入の計算作業をしていると、お仕事が終わったレイヴンちゃんが帰ってきました。
レイヴンちゃんのおかげで9億円あった借金がおよそ半分になったとはいえ、経済状況が火の車なのは変わりありません。
まだまだお金を稼ぐ方法を考えなくてはいけませんが、今は休憩することにして私とレイヴンちゃんの分の麦茶を用意して椅子に座りました。
「今日のお仕事は、どうでしたか?」
「けんちょうでした。 せんせいがまわしてくれたおしごとなだけはありましたね。」
「良かったです。……なんだか最近は、レイヴンちゃんを貶めることが目的の依頼も増えているとチャティさんから聞いていたので、安心しました。」
明らかに異質な金額の報酬で、受けてみたら依頼主が過去に潰した傭兵部隊やマーケットガードの生き残りだったり、1人で敵対勢力の本陣を潰すなどの無茶な依頼が来ていた事を聞かされていたので心配しましたが、レイヴンちゃんは涼しい顔で麦茶を飲みながら答える。
「じゃくしゃには、じゃくしゃのせんりゃくがあります。 こちらとしては、たたきつぶすのみですが。」
なんとも頼れる返事だ。
入れた麦茶を飲み干すと、今度はレイヴンちゃんから話し始めた。
「そうだ。 あやねせんぱいって、あんてぃーくにきょうみがあるんでしたよね。」
「ええ。 まぁ、あくまで趣味程度ですが……。」
「たからさがしに、きょうみはありませんか? きちょうなものがありそうな、はいきょをみつけましてね。」
「宝探し?……いいですね!」
レイヴンちゃんの傭兵活動には助けられていますが、たまには戦う事以外のお金の稼ぎ方をするのも良いでしょう。
詳しい話は明日改めてするとして、今日は解散しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
書き溜めた物を投稿前に読み直して、手直しした方が良いところを見つけると心底安心します。
あと、私のネトゲの知識はPSO2辺りで止まっているので、細かいところはご容赦いただけると幸いです。
それでは、また。