Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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また頭の中に存在記憶が生えて来たので綴らせて頂きました。今回も楽しんでいただけると幸いです。
誤字報告、大変有難いです。自分でも何度も読み直しているのですが、見つけられないものですね。


第3話 LOADER4

「すぅ…すぅ…」

 

私はC4-621、改め黒羽レイヴン。

今はホシノ先輩にひんやりする抱き枕としてお昼寝に使われていて身動きが取れない。

この砂漠のど真ん中で、なんとも心地よさそうに寝ている。こんな砂まみれの所で寝ては体に悪いと主張すると、あと5分だけ…いややっぱ15分だけ…というので、それまでは大人しく抱き枕にされていようと判断した。

ローダー4の影に入っているので日光の問題もないし、またあの距離を歩いて帰らなければならないので、体力も回復させなければならないという考えもあるのだろう。

私は特に眠たくもないので、暇つぶしに端末を触っていようと思ったが、手が滑ってホシノ先輩に当たるかもしれないのでやめた。

だが、手持ち無沙汰なのは変わりない。

…なんとなく、ホシノ先輩の頭に手が伸びる。頭の頂点から、後頭部へ。ゆっくりと頭を撫でる。

 

「…うむぅ…」

「あ…。すみません、おこして、しまいました、か?」

「いや…やけに、撫で方が慣れてるなって…そのまま、続けて…」

「はい、わかりました。」

 

なぜ、私は人の頭の撫で方を知っているのだろう。少し考えて、思いつく。

ハンドラー・ウォルターがよく撫でてくれていたからだ。

第4世代型の旧型の強化人間にとって、睡眠は不要…というより、不可能であり、ACを使わない時は休眠状態にすることが普通だった。

機械の電源を切るように、スイッチ一つで休眠状態に出来るのにも関わらず、ウォルターは普通に眠るように指示してきた。

初めて私を起動した時から、私を休眠状態にしたのは、ルビコン3に密航する為長時間宇宙空間を一人で航行しなければならない時だけで、その時でさえ、とても不服そうだった。

ウォルターは、普通に眠ることが出来ない私の為に、色々な手間をかけてくれた。

体の感覚がない私をふかふかであろうベッドに寝かせてくれたり、ひつじを数えると眠くなることを教えてくれたり、私の意識が落ちるまで本を読んでくれたりしてくれた。

でも、私が一番好きだったのは、頭を撫でられることだった。

ミイラのような見た目で、声を発することもできず、みじろぎすら出来ない私をウォルターは人間として扱ってくれた。

体の感覚は無くても、私の頭を撫でるウォルターの手からは、優しさが伝わってきた。

そうしてくれていると、本来は眠れないはずの私でも、いつの間にか意識が途切れて、朝になっているのだ。

 

リリリリリリリ!

そんな事を考えていたら、15分にセットしていたアラームが鳴る。

 

「…ふぁああ…よく寝たぁ…」

「おはようございます、せんぱい。よく、ねむれましたか?」

「久々にね…ぐっすり眠っちゃったよ…」

 

頭を撫で始めて5分程度経過したころから消えていたヘイローが瞬き再出現する。

ホシノ先輩は大きく伸びをして立ち上がり、ショットガンと盾を背負う。

 

「さ〜て!たっぷり休んで元気も出たし、頑張って校舎まで戻ろうか〜。」

「りょうかいです。ほしのせんぱい。」

 

こちらも自分の荷物をまとめるが、一つの考えを思いつく。ローダー4の事だ。

電源は落ちてしまっているようだが、それは単純に搭乗者が居なくなったからで、壊れたわけではないのではなかろうか?

実際、ルビコン3に密航する際、乗っていたロケットが衛星砲の射撃を避けれず、やむをえず成層圏レベルの高さで脱出しそのままグリッド135を突き破りながら地表に叩きつけられたが、多少傷が付いただけで問題なく動いた。それにここは砂漠だし、オートパイロットも動いていたようだから、メインブースターが壊れていたとはいえ比較的衝撃も和らいだのではないだろうか?

気づけば私は排出されたコックピットに乗り込んでいた。

 

「ほしの、せんぱい。もしかしたら、かえりは、らくになるかも、しれませんよ。」

「えぇ〜、だいぶボロボロだし、操縦席っぽいところも出ちゃってるのに、動くのぉ?」

「それは、やってみないと…よし。」

 

やはり、ローダー4はまだ動いた。一時的にオートパイロットを起動し、排出されたコックピットブロックを元の胸部へ戻すよう指示を出す。

キュイイイイ…と音を立てながらローダー4が立ち上がる。

 

「えぇ…ほんとに動いちゃった…」

「せんぱい、はやく、のってください。でないと、むねのあたりまで、よじのぼらないと、いけなくなります。」

「うへぇ、そりゃ面倒だ。」

 

一人乗りを想定されているACのコックピットでは流石に狭いが、幸いお互いに小柄な方なのでまだ余裕がある方だ。

二人とも乗り込んだところでローダー4が残っていた右腕でコックピットブロックを拾い、胸部へ差し込む。

 

「うへぇ、こんなてきとーに繋いで、ちゃんと動く物なの?精密機械なんじゃないの?この子?」

「えーしー…とくに、ろーだーふぉーはらっどせいですから。そのあたりは、しんぱいないですよ。」

 

ローダー4は、RaDというジャンク屋集団が作った探査用ACだ。探査用だけあって水に沈んでも泥に塗れても、それこそ砂まみれになっても問題なく動ける。

短時間であれば溶鉱炉の中でも活動が出来る頑丈な機体だ。見た目も愛嬌があって可愛い。

コックピットブロックが接続された事で、オートパイロットから私の操縦へ移行する。

何度も聞いた、COM音声がコックピット内へ響く。

 

『メインシステム 戦闘モード起動。』

「せ、戦闘モード?」

「…だいじょうぶ、です。ぶきもなにも、のこってないので。」

 

ホシノ先輩がなにやら不穏な空気を感じとるが、私はそれを軽く流し、ディスプレイに表示された機体状態に目を通す。

左腕武器、なし。

右腕武器、なし。

左肩武器、なし。

右肩武器、なし。

リペアキット、残数なし。

エキスパンション、残り0。

残りAP30%

ブースター、…異常状態。

どういう事だ。破損していないのか?

元々私がここへ漂着した理由…と言って良いのかは分からないが、爆発を起こし、広がり続けるコーラルから逃げきれなかったのは、ブースターが破損し、加速する事が出来なくなったからだ。

いつもの無表情とは少し違い、真剣な表情になっている私をホシノ先輩がポカンとした顔で見ていることに気づき、我に帰る。

………どちらにせよ、ACに二人で乗るなどという、カーゴランチャーで人間を打ち出すくらいの暴挙をしている今、ブースターを使用して機体を動かすわけにはいかないだろう。

 

「それじゃ、いきましょうか、せんぱい。」

「え、シートベルトとか…?」

「ない、ですね。」

「ええ…?」

「もともと、ひとりのり、なので。」

 

ホシノ先輩にはとりあえず私の膝に乗ってもらう。

…私はホシノ先輩より小さいので、前が見えなくなった。なので、少し横へ避けてもらう。見た目だけは、確か、「お姫様抱っこ」というような姿勢になる。

 

「…しっかり、つかまっててください。だいじょうぶ、です。そんなに、とばしませんから。」

 

不安と、好奇心が混じったような顔のホシノ先輩を見て、できる限り優しく微笑む。

レバーを強く握り、前に押し出す。

グィン、グィン、と音を立てながらゆっくりとローダー4が歩行を開始する。

歩行のスピードはそんなに速くは見えないが、歩幅が違う。速度計を見れば、これでも時速30kmは出ている。

…が、本来のローダー4の戦闘スピードを知っている身からすれば、物足りないのにも程がある。だが、ホシノ先輩は新鮮そのもののようで、珍しく目を輝かせているように思えた。

 

「おおー、すごいねぇ。こんな体験、生きてるうちにできるとはおじさん思ってなかったよ。長生きはするもんだねぇ。」

「よかった、です。わたしも、そうじゅうはからだが、おぼえてくれてる、みたいです。」

 

強化人間ではなくなったこの体では若干反応が遅く感じるが、それでも、私が生きている時間の半分以上を共に過ごしてきた機体だ。

それに、ACは独立傭兵にとって自分の体も同然だ。多少のブランクはあっても、操縦の仕方を忘れるなんてことは基本的には無いはず…と思いつつも、オールマインドの用意した研修プログラムには何度もお世話になった事を思い出す。

 

おぉー、と新しい経験を楽しんでいるホシノ先輩とのACでの散歩を楽しんでいると、スマートフォンに通話が入る。

アビドスの皆からだ。

 

『ホシノ先輩!レイヴンちゃん!今、どこに居ますか!?』

「どしたのセリカちゃん?…大体、察しは付いてるけどさ。」

『ヘルメット団に、先輩とレイヴンちゃんが居ないこと、勘付かれちゃった!!』

『ん…、前よりも、数が多い。かなり不味い状況だね。』

『あと少しで、交戦距離に入ります〜。」

『幸い、ヘルメット団はホシノ先輩達が出かけた方から来ています。間に合えば、ホシノさんとレイヴンちゃんで後方から叩いて貰えれば、なんとかなるかもしれません…が…』

「…わかった。なるべく急ぐよ。でも、無理そうなら、ひとまず逃げて。もし校舎を奪われても、少し休んでから、皆で奪い返そう。」

 

ホシノさんが通話を切る。通話では、温厚な声色のままだったが、すぐそばにいるこちらから見れば、今にも爆発寸前といったところだ。このヘルメット団のやり方、どこか覚えがある。そうだ、私、ひいてはウォルターと関係が深い技術者集団。このローダー4の製造元でもあるRaDを目の敵にして隙あらば噛みついてくる商売敵、「ジャンカー・コヨーテス」。彼らは結局カーラ特製の「打ち上げ花火」によって「お星様」にされてしまったが、どこの世界にも、似たような俗物はいるものなのだと認識する。

無意識に、ブースターの起動ボタンに手をかけてから、その前に大切な質問をする。

 

「ほしのせんぱい。いそいだほうが、いいですよね。」

「…そりゃね。でも、これ以上速くなんて…」

「わかりました。」

 

自分の膝に乗っているホシノ先輩をぎゅっと自分の身に寄せる。

 

「え、レイヴンちゃん?こんな時に何を」

「…はを、くいしばって。こわかったら、めをつぶって、ください。」

 

真面目な表情の私に押され、ホシノ先輩は私にぎゅっとしがみつく。

しっかりと固定されたことを確認すると、私は左手のレバーについてるスイッチを深く押し込む。

 

グアッ!という爆発音と共に機体が大きく加速される。破損していたはずのブースターが起動され、アサルトブースト…直線的な加速に特化したモードへ移行される。

ブースターが動く理由だが、見当はついた。

爆発を起こしたコーラルに飲み込まれた時に付着したコーラルだ。ルビコンにいた頃、エアの依頼でコーラル逆流現象が起きた坑道に調査に行った時、エアは言っていた。

 

『コーラルは情報動体特性から機器類に干渉することがあります。』

『先の逆流現象の影響でシステムが部分復旧している残骸もあるはず…』

 

端的に言えば、壊れた機械にコーラルをかけると、直る。50年か、それ以上前に破壊されたACのシステムが一時的に直るのなら、ブースターの故障も直る…筈だ。

だが、これもやはり一時的なものだろうし、活性状態のコーラルをこのキヴォトスに持ち込むわけにはいかない。ここで有効活用して、焼き尽くしておかなければ。

 

「うへぇええぇえ!!!」

「ぐっ…」

 

膝の上のホシノ先輩の体重の分の負荷が私に掛かる。ホシノ先輩が軽い人で良かった。

ホシノ先輩は悲鳴こそ上げるものの、しっかりと目を見開いている。きっと、この景色に見惚れているのだろう。私も、空を高速で飛ぶ時にしか見えない景色自体は、好きだ。広大な砂漠を、高速で突き進む。廃墟を抜け、世界が目まぐるしく後ろへ流れていく様が2分も続けば、

私達の校舎を襲撃している、不法者達が、見えた。

 

 

今回こそ、楽勝だ。前回は戦車を投入したのに、突然現れたよくわからないチビに何もかもぐちゃぐちゃにされた。だが、どうやら今はそのチビと、あのアビドス対策委員会で一番厄介であろう小鳥遊ホシノが出払っているらしい。しかも、近所の散歩とかではなく、どうあがいても1、2時間はかかりそうな遠方まで呑気に歩いて行ったそうだ。

だが、私は油断しない。今回は戦車を3両も用意した。歩兵達の数もそれに合わせて三倍だ。明らかに過剰戦力だろうが、個々の能力が誠に遺憾ながら低い私達は、数で蹂躙するしかない。そして、やるからには徹底的にだ。対策委員会が当然出てくるが、情報通り小鳥遊ホシノとあのチビは居ない上、圧力が薄い。やはりこの戦力差に気圧されているようだ。

今まさに、勝利が約束されている戦いが始まろうとした時、

 

「…隊長!なんか来ます!」

「なんかってなんだ!!」

「…なんかです!!」

 

部下の一人が、不意に上空に目をやり声を上げる。確かに、何かが飛んでくるような飛行音と、ジェット噴射のような音が突然聞こえてきた上、どんどんとこちらに近づいてくる。ヘリにしては、速い。見たことはないがジェット機だとしたら、軌道が急すぎる。

まさか、ミサイル?まさかカイザーに見限られた?今まさにアビドスを落とせる絶好の機会だというのに…

しかし、そのどれもが正解ではないことに気づく。飛んできているのは、鋼色の、巨人。

その巨人はあっという間に私達の頭上を通り過ぎると急停止し、アビドス校舎と私達の間に着地し、相対する。

 

「な、なんだぁ!?」

「こんな奴が出てくるなんて、聞いてねぇぞ!」

「に、逃げろぉ!」

 

はっきり言って烏合の衆である私達は、簡単に瓦解する。だが、この程度日常茶飯事だ。私は曲がりなりにも隊長として、部隊の混乱を収めるための台詞を考える…

突然降りてきた巨人を観察する。

よく見れば、弾痕と焦げ跡だらけで、左腕は痛々しく失われている。背中からは何やら火花も出ている。つまり、

 

「みんな落ち着け!確かに、でかいが…あれは見るからにジャンクだ!!」

「…言われてみれば、そうかも?」

「…なんだ、驚かせやがって!でかいだけかよ!」

「よく見ろ!武器も持ってない丸腰じゃないか!すり潰すぞ!」

 

戦線離脱しかけた子達も再び戦線に加わる。

そうだ、ボロボロで、戦車砲の一発でも叩き込んでやれば壊せそうじゃないか。

そして、あれがアビドスの連中の最終兵器なのも察せられる。つまり、あれを潰すことができれば、今度こそ、私達の勝利だ。

 

 

今回こそ、ダメかもしれない。

奥空アヤネは、後方支援する為の部屋で、すでに顔を曇らせていた。偵察ドローンから届けられた映像は、戦車が3両に、それに付随する小隊レベルの人数の歩兵。前回の襲撃でもかなりキツかったというのに、今回はそれのきっちり3倍の数がやってきている。この事は、前線の3人にはもう伝えてある。

本当に腹が立つが、ここで私がすべきことは、この校舎から撤退するタイミングを見誤らない事だ。そもそも、もう弾薬も心許ない。仮にここにホシノ先輩とレイヴンちゃんが居ても、弾がなければどうしようもない。

どんどんと思考がマイナスに持っていかれている頃、前線に異常な動きを感じた。

ヘルメット団も、対策委員会の皆も、空を見上げている。

 

『何あれ何あれ!!あんなのまで相手にしなきゃいけないの!?』

『あら〜、さすがに、覚悟決めないと、ですかね。』

『ん…、違う。どうやら、間に合ってくれたみたい。』

「まさか…ホシノ先輩とレイヴンちゃん!…挟み撃ちにする手筈は…?」

 

作戦通りではないが、二人が間に合った。どうにか、なるかもしれない。でも、あのボロボロのロボット…今考えることではないし、私達より進んだ技術の賜物の筈なのに、どこか骨董品にも感じる。

 

 

「なんとか、まにあった、ようです。」

「うへっ…うへぇ…」

「だいじょうぶ、ですか?ほしの、せんぱい?」

「ちょっと…大丈夫じゃ、ないかなぁ。」

 

何故か調子の悪そうなホシノ先輩を心配しつつ、目の前の脅威に目を向ける。

ローダー4を見れば、びびって逃げてくれると思ったが、そうはいかないらしい。どうやら相手にもそれなりの理由があってここを襲撃しているようだ。

それならば、やる事は前と一緒だ。

先頭の車両の砲門が動き始める。どうやら、本当にやり合うつもりらしい。本来なら避ける必要もない筈だが、ローダー4はかなり損傷している状態だ。当たったらどうなるかなんて試す余裕もない。私は再びレバーを強く握りしめる。

 

「ほしのせんぱい、もうすこし。つかまっていて、ください。」

「え!?何言ってるの?この子、武器無いんでしょ!?」

「…ふしぎなこと、いいますね。」

「ど、どのあたりが?急いで降りて、前線に加わらないと…!!」

「ろーだーふぉー…えーしーは、ひとのかたちを、しているんですよ?」

「…しっかり、つかまって。ろーだーふぉー。もうひとしごと、だよ。」

 

戦車の主砲が、発射される前にクイックブーストで接近し、

3両いる戦車のうち、右の戦車をローダー4の左足で蹴り上げる。

ガコォ!!という金属と金属がぶつかり合う音が響く。

まず、戦車から半身を出していた車長と思わしき人物が宙を舞う。戦車はそのまま部品をあちらこちらに撒き散らしながら転がり続け、停止すると同時に目を回したヘルメット団員がのそのそと這い出て来てそのまま倒れる。キヴォトスの住人なら、あれくらい大丈夫だろう。多分。

残る2両は、それでも一発でも当てれば勝てるという状況を、捨てられなかったのだろう。蹴り上げたあと、着地した隙を狙い主砲を発射した。寄せ集めとは思えない、的確な射撃だ。だが、そんなものに当たっていては、機動兵器は名乗れない。

私は機体の姿勢がまだ安定していないまま、構わずクイックブーストを発動させる。

不自然な格好のまま、機体は真横に跳ね、砲弾は機体の真横を掠めていった。

そのまま、クイックターンで機体の向きを90°旋回。アサルトブーストで近づき、蹴りを食らわせる。1両目と同じように、2両目の戦車も鉄屑と化した。残り一両となったところで、流石に戦力差…というよりこのACの性能に恐れをなしたのか、撤退するようだ。

隊長と思われる他の団員よりやや立派なヘルメットをした団員が撤退の合図を全員に出している。

 

「…にげられると、おもっているのですか?」

 

追撃をかけようとレバーを握る手に力を入れたところを、ガシッと掴まれる。

 

「…十分だよ。レイヴンちゃん。追わなくて、良い。」

「でも、にがせば、また、やってきます。」

「大丈夫、大丈夫だから…」

「はやく、降ろして、欲しいな。…あ、やば、やっぱおじさんもうダメかも…」

「!!…ほしの、せんぱい!どうしました!」

 

みれば、ホシノ先輩の顔色が悪い。血の気が引いていて、青白くなっている。何かを我慢するように、必死に口を抑えている。一体、何が起きたのだろうか。私は急いで校舎に戻る為、クイックターンを…

 

「そのボタンはもう絶対に触らないで!!

…校舎には、歩いて、向かって。」

「は、はい。わかりました。」

 

頭に疑問符を浮かせながら、指示に従う。

ローダー4を歩かせ、私達の校舎に近づく。みんなが出迎えに来てくれる。

機体から降りる為、膝をついた待機姿勢に移行しようとすると、ホシノ先輩が

 

「上下の動きは、今は絶対にやめて。」

 

と今にも消え入りそうな声で訴えて来たので、ちょうど良さそうな高さにあった3階の窓から降りる事にした。

4人が3階の教室に来るまでに、コックピットハッチを開け、ぐったりとしているホシノ先輩を担ぎ出す。

 

「しっかりして、ください。ほしのせんぱい。もどって、これたんですから…。」

「うん、うん、大丈夫、大丈夫だから、お願いだから、揺らさないで…」

「おかえり!ホシノ先輩…すっごくぐったりしてる!!大丈夫ですか!!」

「大丈夫だから、揺らさないで、お願いだから…おじさん一生のお願いだから…」

「う〜ん、そっとしておいた方がいいと思います☆」

「ん…、お昼寝以外でぐったりしているところ、初めて見たかもしれない。」

「この症状…多分、「乗り物酔い」かと…」

「のりもの、よい?」

 

私以外納得したように、そして安堵した雰囲気が流れる。

 

「う〜ん、確かに、とんでもない動きしてたもんね。」

「アニメから飛び出してきたみたいな、そんな動きでしたね☆」

「ん…、ちょっと乗ってみたいような、乗りたくないような。」

「かっこいいですけど、私はちょっと遠慮しますね…」

「うへぇ…まだグラグラする…立ち上がれないよぉ…」

「…すみません、ほしのせんぱい。ところで、のりものよいって、なんですか?」

「えぇ!レイヴンちゃんは全然平気なの!?」

「うふふ、乗り物酔いっていうのはですね〜…」

 

その後、乗り物酔いについて教えてもらった。乗り物酔いとは、不規則な加速・減速の反復を受ける三半規管や耳石器からの情報と目からの情報、体からの情報を受けた脳が混乱することによって起こる自律神経系の病的反応…思い当たる節が多すぎる。ましてやホシノ先輩は私の視界を確保するために変な姿勢をしてもらっていた。その事も間違いなく関係しているだろう。

 

 

保健室でぐったりとしているホシノ先輩にじっと寄り添う。

 

「せんぱい…いまは、ゆっくりやすんで、ください。」

「うへぇ…やっと回転が止まったみたい…」

「ほしのせんぱい、きいて、いいですか?」

「なぁに、レイヴンちゃん。」

「ろーだーふぉーにのったの、たのしかった、ですか?」

 

ホシノ先輩は、だいぶ返答に困ったように、深く考え込んだ後、口を開いてくれた。

 

「…もう乗りたくはない…けど、あの空からの景色は、好きかな。」

「!…わたしも、ろーだーふぉーにのってるときは、そのときのけしきが、いちばん、すきです!なんだか、とりになった、みたいで。」

「ふふ、鳥みたいに、か。レイヴンちゃんの名前にぴったりだね。」

「…はい、だから、またいっしょに」

「それは、保留で。」

「…りょうかいです。」

 

Ab06 生徒名、黒羽レイヴン。

普通(?)の人の三半規管の限界を、知る。

 

 

 

 

 

 

「ところで、皆さん。残念なお知らせがあります。」

「なに、アヤネちゃん?」

「ん、だいたい予想はついてるけど。」

「たぶん、その通りです。いよいよ、弾薬が尽きそうです。」

「今回、レイヴンちゃんのあのロボットのおかげで何とかなりましたが、もしあのロボットがなかったら、人数が揃ってても、撃退するまで弾が持つかわかりませんでした。」

「う〜ん、厳しい状況は変わらず、ですね。」

「連邦生徒会の連中は、聞く耳持たないし…どうしたら…」

「そこなのですが…最近、新しい部署ができたそうで。そこは、あらゆる生徒の助けになってくれるそうなんです。」

「連邦捜査部、S.C.H.A.L.E(シャーレ)。…そこに、救援の手紙を出しておきました。」

「聞いたことないけど…まぁ、藁でも掴まないと、ね。」

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
さて、まずはお気に入り数1585件(2024/02/02現在)ありがとうございます。こんなにたくさん気に入って貰えるとは…素敵だ。私はこの方達の期待に応え続けることができるでしょうか…不安だ。けれど、それ以上に…いややっぱり不安です。
これからも自分で読んで満足できる代物ができたらひっそりと投稿していきますので、オーバーシアーのごとく観測を続けてくださると幸いです。そしてこの作品が、読んでくださった閲覧者様に燻っている創作意欲に火をつける火種になってくれると嬉しいです。
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