Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
ブルーアーカイブのストーリーをゆっくりやっていますが、「ここにレイヴンが居たら…」という遊びもできるのが、妄想好きの特権ですね。
今回も楽しんでいただけたら幸いです。
学園都市キヴォトス
シャーレオフィス
「おはようございます、先生!」
″おはよう、アロナ。″
いつも通りの朝。やや音程の外れた声に起こされる。ここは、最近活動を開始した連邦捜査部シャーレの本部。そして私はその顧問を任されている「先生」だ。
「ここ数日間、シャーレに関する噂もたくさん広まってるみたいですし、他の生徒達から助けを求める手紙も届いています。」
″良いことだね。まずは知ってもらわないと"
"助けてあげたくても頼ってもらえないからね。″
「はい!良い兆候です!私たちの活躍が始まるということですから!」
アロナのヘイローがハート型へ変形する。他の子と違って、アロナはヘイローの形が表情と一緒にコロコロ変わるのが良いと思う。感情を全身で表している感じが可愛らしい。
「ですがその中に…ちょっと不穏な、こんな手紙がありまして。」
ハート型からいつもの形へ変わり、少し心配そうな表情に変わる。
「これは先生に一度読んでもらった方が良いかなと。」
″どれどれ。″
アロナから3枚分の手紙をもらう。
連邦捜査部の先生へ
こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、
こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によってです。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが…。
どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、
そろそろ弾薬などの補給が底をついてしまいます…。
特に最近入ったばかりの子は、素手でも立ち向かうつもりでいます。
意気込みは素晴らしいと思いますが、このままでは暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで、今回先生にお願いできればと思いました。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?
3枚分の手紙を読み終え、元通りに丁寧に畳む。まさにシャーレの出番、といった内容だ。
「うーん……アビドス高等学校ですか…。」
手紙の内容を理解したアロナが、早速アビドス高等学校についての解説を始めてくれる。
"どんなところなのかな?"
「はい、昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で町が厳しい状況になっていると聞きました。」
「どれほど大きいかというと、街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるぐらいだそうです!」
街の中で遭難…?そこまで大きい自治区なのか。
「あはは、まさか、そんなことあるんでしょうか…?いくらなんでも街のど真ん中で遭難だなんて…。」
"冗談や例え話の類かな?"
「さすがにちょっとした誇張だと思いますが…。」
二人で噂の真偽に対して少し話し合った後、今アビドス高校の子達が直面している問題に戻る。
「それより学校が暴力組織に攻撃されているなんて…ただ事ではなさそうですが…。何があったんでしょうか?」
"そうだね…やっぱり、直接行って確かめるしか、無いと思うな。"
"うん、アビドスに出張に行こうか。今すぐ。"
「すぐに出発ですか!?さすが、大人の行動力!」
この手紙が送られたのは、何日前だろうか?もしかしたら、一週間前には既に出されていたもので、状況はますます悪くなっているかもしれない。一刻の猶予も無い。
"うん、すぐに補給用の物資をまとめて、救援に向かおう。"
「かしこまりました!すぐに出発しましょう!」
先生がアビドス自治区にて消息を断つまで、残り24時間。
アビドス自治区
対策委員会、教室。
「ただいま。」
お昼寝中のホシノ先輩以外が集まってのんびりしている教室に、シロコ先輩がドアを開け入ってくる。
「おかえり、シロコせんぱ…い?」
一番最初に反応したセリカさんが、異常に気づく。シロコ先輩が、なにか大きなもの…いや、大人の人を背負っていることに気づく。
「うわっ!?何っ!?そのおんぶしてるの誰!?」
「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を…!!」
「このめでみるのは、はじめて、です。でも、きれいな、したいですね。」
ACの戦闘後に残る死体なんて、カケラが残っていれば良い方だ。私も、死ぬ時はこれくらい綺麗な体で…いや、無理だろうな。そんな事を考えているとセリカ先輩がパニックになりながら指示を出す。
「みんな落ち着いて、速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるから、それを…。」
「ろーだーふぉーなら、すぐにほれますよ。」
「それよ!悪いけどサクッと人一人分入りそうな穴を掘って!」
私は付着していたコーラルが不活性化し、機動兵器から便利な重機になってしまったローダー4を起動するため教室を出る。
そして隣の教室を通り過ぎる瞬間、いきなり扉が開き、昼寝していたはずのホシノ先輩に捕獲され身動きが取れなくなる。
隣の教室から、微かにだが声を聞き取れる。
「いや…普通に生きてる大人だから。うちの学校に用があるんだって。」
「えっ?死体じゃ、なかったんですか?」
「拉致したんじゃなくて、お客さん?」
「そうみたい…」
「もうレイヴンちゃんローダー4を起動しに行っちゃったけど…」
良かった。どうやらシロコ先輩を少し勘違いしていたようだ。
しばらくすると、ウォルターとは程遠い、若い大人の人の、元気な挨拶が聞こえた。
"やぁ、どうも。お騒がせして、すまない。"
「わぁ、びっくりしました。お客さまがいらっしゃるなんて、とっても久しぶりですね。」
「そ、それもそうですね…でも来客の予定ってありましたっけ…。」
"「シャーレ」の顧問先生です、よろしくね。"
シャーレ?初めて聞く名前だが、隣の部屋の皆は心当たりがあったらしい。
「…え、ええっ!?まさか!?」
「連邦捜査部「シャーレ」の先生!?」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで…弾薬や補給品の援助が受けれます。」
「ホシノ先輩にも知らせてあげないと…あれ?ホシノ先輩は?」
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる。ついでにレイヴンちゃんも呼び戻してくる。」
隣の教室の扉が開き、セリカ先輩が教室の扉を開け、ホシノ先輩によって抱き枕にされているあまり見られたくないところを見られてしまう。
「…何してるの?」
「ん〜…お昼寝…」
「だきまくらに、されてます。」
「もう!!せっかくアヤネちゃんの手紙が届いて、シャーレの先生が補給物資を届けにきてくれてるんですから、たまにはシャキッとしてください!!」
そう言ってセリカ先輩はホシノ先輩と私を引き剥がそうと努力するが、あんまりにも離れないので、私を抱えているホシノ先輩をそのまま抱えて隣の教室へ連行される。
セリカ先輩は力持ちだ。
「二人合わせてもこの重さって、二人ともちゃんと食べてるんですか!?」
「やだなぁ、乙女に体重の話なんてするもんじゃないよセリカちゃん。」
「ちゃんと、たべてますよ。おみずと、しかくいぼうとか。」
小亀の上に親亀が乗っているような構図が面白かったのか、目の前の大人の人はくすりと笑った後、にこやかな笑顔のまま、挨拶してきた。
"シャーレの顧問の先生です。よろしくね。ホシノ、レイヴン。"
「あれ、名乗った覚えは無いんだけどなぁ。大人の洞察力ってやつ?」
「よろしく、おねがいしま…っ!?」
リィィィィィン……
突然、私の頭に、鈴を鳴らすような音が響く。頭が痛い。この感覚、覚えがある。ずっと、前。コーラルの友人…エアが初めて話しかけてきた時のような、でも、何も聞き取れない。
耳鳴りが響く中、その原因になるようなものを探す。まさか、ローダー4に付いていたコーラル?いや、あのコーラルはもう不活性化して、結晶化してしまった。つまり、死んでいる。もう無害なものになった筈だ。
ふと、見慣れないタブレットが机の上に置かれているのに気づく。そこには、心配そうにこちらを覗き込む、薄い水色の髪と、白いリボンをした女の子が見えた。
「だれ、ですか?そこに、いるのは?」
「え?だれも居ないけど?」
「ん〜、レイヴンちゃんってもしかして霊感でもあるのかなぁ。ちょっと隣の部屋でおじさんともっかいお昼寝する?」
皆が心配してくれる中、先生は察したようにタブレットを持ち上げる。
"…もしかして、アロナが見えてるの?"
「あろ…な?」
"そう、この「シッテムの箱」に常駐してくれてるAIの女の子でね。…生徒達には、認識できない筈なんだけど。"
箱の中の女の子は、先生がそう発言したのを聞くと驚いた様子でこちらを見てくる。
はっきりと目があった瞬間に、にこやかな笑顔を浮かべこちらに手を振ってきた。
どうやら、この頭痛はアロナを認識することによって起きてしまっているらしい。
でも、悪い子には見えないし、頭痛も我慢できないほどではない。私はそのアロナという少女に手を振りかえした。
「えーあい、ですか。その、あろなさんは、おしゃべりもできるんですか?」
"うん。アロナにはいつも助けられてるよ。アビドス対策委員会が出してくれた手紙を見つけてくれたのも、アロナなんだ。"
先生が話してくれている間に、アロナさんが私に何か話しかけてきている。
だが、残念ながら声までは聞き取れないようだ。それに気づくと、少し寂しそうな顔を浮かべるが、閃いたようにスケッチブックを取り出し、何か描き始め、こちらに見せてきた。
(よろしくお願いします!!)
「…はい、よろしくおねがい、します。あろな、さん。」
「へぇ、ほんとに何かいるんだねぇ。」
「そもそもそのタブレット、動いてるようにも見えないんだけど…」
「ん…ほんとに霊感があるのかもしれない。」
よく出来たAIだ。ふと、私にもそういう友達がいた事を思い出す。
チャティ・スティック。RaDの頭目、シンダー・カーラが自分を補佐させるべく作ったAIだ。
物凄く自然に喋るAIで、カーラからのお話やアリーナの説明文を読まなければ、人間と勘違いしたままだっただろう。何かある度に私にメッセージを送ってきてくれた、とてもお喋りなAIだった。
そんな彼を、私は、目の前で失った。アーキバスの攻撃を受けるザイレムを守る為に、…エアと、道を分つ選択をした、その時の戦いだった。
『安そうな方から片付けよう。』
Ⅴ.Ⅰフロイト…特例上位ランカー、その頂点に君臨する文句無しのエース。そいつは私を無視して、チャティのAC、サーカスに目も留まらぬスピードで襲い掛かり、一瞬で撃破した。
『無人ACだな。そういう動きだ。』
『ボス…ビジ…ター…』
『チャティ!?ビジター!チャティが…』
(チャティ…!!)
私は怒りに任せて、フロイトに突撃する。
ミサイルとライフルを斉射しながらパルスブレードで切り掛かる。
激しい攻防が繰り返させるが、最後はローダー4のキックがフロイトのAC、ロックスミスのコックピット部分に直撃し、爆発する。
『動け…ロックスミス…!』
『まだだ、これからもっと、面白く…』
チャティの仇を取ることはできた。しかし、チャティはAIだから、戻ってきてくれると思っていた。でも、違った。カーラはチャティのバックアップを取っていなかった。
「それが、命っていうもんだろ?」
カーラは、チャティを、きっと人間扱いしていたのだ。ウォルターが私を人間として扱ってくれていたように、カーラはチャティを、一人の人間。自分の息子として扱っていたのだろう。
懐かしい気分になると、人はそれを他人に話したくなるものだ。
「せんせい、わたしにも、むかし。えーあいのおともだちが、いました。」
"そうなの?ミレニアムよりこっちの方がそういう技術は進んでるのかな?"
「いやぁ、レイヴンちゃんは結構複雑な過去をお持ちでねぇ。多分、その頃のお話でしょ?」
「そうです。ちゃてぃ、すてぃっくといって」
『呼んだか、ビジター。』
「そう、こんな、おとこのひとのこえでしゃべる…」
何か、違和感を感じた。
幻聴にしては、はっきりしているし。何より、周りの空気が固まっている。この場には、大人の人は、先生しかいない筈なのに…
「…ちゃてぃ…?」
『なんだ、ビジター。』
私がアビドスの皆に保護された時からの持ち物である端末の電源が勝手に入り、ディスプレイに、幾つものミサイルが絡み合っているような、エンブレムが表示されている。チャティ・スティックのエンブレムだ。
震える口を動かし、必死に声を絞り出す。
「ちゃてぃ、なんで、あなたは、あのとき、」
『驚かせてしまったか。俺は、正確にはチャティのバックアップ…強いていうなら、チャティ・スティックジュニアというところか。』
「でも、かーらは、ばっくあっぷは、とってないって」
『そうだな。ボスは俺のバックアップを取ることはなかった。…バックアップを取ったのは、俺自身の判断だ。』
「…ぢゃでぃ…」
ぎゅっと端末を抱きしめる。涙が溢れてきて、嗚咽が漏れてしまう。
結局、私は誰も守れなかった。
飼い主も、命の恩人も、戦友も、友人も、チャティだって、守れなかった。
もう誰とも話せないと思っていた。けれど、チャティは、戻ってきてくれた。
突然泣き出した私を見て皆が取り乱してしまう。それを察したのか、チャティは他の人達にも話しかけ始めた。
『すまないな、アビドス高校の人達。それと、シャーレの先生だったか。』
「うわぁ、話しかけてきた。」
"すごい自然に喋るね。びっくりしたよ。"
(わ、私より自然に喋ってる…)
しばらく泣きじゃくっていたが、チャティが皆に自己紹介がしたいと言うので、名残惜しいが机の上に端末を立てかける。
『RaDのチャティ・スティックだ。ビジターが世話になったな。俺は、ボスからビジターの…今は、黒羽レイヴン、だったか。とにかく、そいつの世話を頼まれている。』
流暢に話し始めるチャティ・スティックという突然現れた新しい人物(AI)に皆動揺するが、よくよく考えてみれば、機械がしゃべるのはこのキヴォトスでは割と普通の事というのを思い出したのか、じきに平静を取り戻してくれた。
「その割には、随分引きこもってたねぇ。おじさんほんとにびっくりしたよ。」
『特に呼ばれなかったからな。』
「ん…レイヴンの、保護者?」
「あら、私たちがレイヴンちゃんの保護者かと思ってましたが、本物が出てきちゃいましたね☆」
"RaD?どこの学園だろう…聞いたことないな…"
(アロナのデータベースにもないですね。)
ともかく、懐かしい友人との再会に心が躍る。ああ、でも、私は過去をなるべく秘密にしている事を、後でチャティにも伝えておかなければ。
『確かに、俺はビジターの世話を頼まれているが…ご覧の通り、今の体では、直接的な干渉はほぼ不可能だ。』
『まともな人に拾って貰えること自体が想定外であり、ありえないほどの幸運だった。だから、これからもあんたたちにビジターを任せたい。』
チャティ・スティックの言葉に、その場にいた皆が言われずともそうするといった感じで頷く。
「ねぇ、チャティは、レイヴンちゃんの知り合いなのよね?どこで知り合ったの?」
『そうだな…ビジターと初めて会ったのは、「花火会場」だったな。迷惑な客をビジターが片端から追い払ってくれてな。そのあと一緒に「打ち上げ花火」を見たりしたな。』
「うん?思ったよりロマンチックな出会いだねぇ?」
「えー!!凄い素敵な出会い方じゃない!」
「そ、そうですね…」
セリカ先輩がチャティに私の過去を聞いた時、ゾッとしたが上手く勘違いしてくれているようだ。
もしくは、チャティも私がはぐらかしてほしいところは理解してくれているのかもしれない。
そのまま、チャティの生みの親であるカーラの逸話とかRaDが作っていた奇天烈な機械や銃について話そうとしていた時、突然銃声が響いた。
またいつもの、不法者達…ヘルメット団がやってきたらしい。
「あいつら…性懲りも無く!!」
「ん…今回は戦車は居なさそうだね。」
「うへぇ。もーちょっとチャティとお話ししたかったのになー。」
「先生のおかげで、弾薬も補給品もバッチリです。」
「反撃開始ですね☆」
「しごとの、じかん、です。」
皆、先生が自分用の水とか食料品とかを詰めるスペースにすら弾薬と補給品を詰めてきてくれた大容量のリュックサックから物資を受け取り、
いつも通り真正面から迎え打とうと駆け出したところで、先生が声をかける。
"みんな、待って。"
「何?先生。」
「手加減しろっていう話なら、聞かないわよ!」
"違うよ。彼女たち、何やら話し合ってるみたい。突入前の士気を上げるお話でもしてるみたい。"
懐から取り出した双眼鏡から攻めてきたヘルメット団を観察していたらしい。
"つまり、騒がしく行かずに、静かに近づいて、頭を潰してあげれば、楽に終わるんじゃないかな?"
「…奇襲ってこと?」
「わーお、良い事思いつくね。さすが先生。」
「そうと決まればすぐに攻めちゃいましょ!!」
「静かに行きましょうね、セリカちゃん☆」
「では、私と先生と、チャティさんは、ここから支援します。皆さん、気をつけて行きましょう!」
静かに、気づかれる事なく奇襲する。
あまりやった事のない、苦手な部類の戦術だ。体に緊張が走るが、その様子を見たホシノ先輩が私の背中をポンっと叩き、話しかけてくる。
「大丈夫!頭を潰すのはシロコちゃんのドローンに任せて、そこから先はいつも通りだよ。」
「お互い最前線に立つ者同士、怪我しないように行こうねぇ。」
「…りょうかい、です。」
作戦会議を終えて、私達は校舎の裏口からこっそりと出て、ヘルメット団の視界に入らないようにゆっくりと行軍を開始した。
「諸君!おそらく今回がアビドスへ仕掛ける最後の襲撃となるだろう!」
「今回の襲撃が失敗したら…私はもう、この仕事を降りる!!」
最初は、美味しい仕事だと思った。たった5人しか残ってない校舎を襲撃して奪う。
それだけの事に、もう何ヶ月も費やした。
4両あった虎の子である戦車のうち、3両は突然現れたチビと巨大なロボットにスクラップにされ、最後のとっておきの1両は離反者によって盗まれてしまった。
それでも私についてきてくれたチームの皆には感謝しかない。
「だが、こんな宣言をするのには当然理由がある!!」
「その理由はなんですか隊長!」
「それは…奴らの弾薬が遂に底をついた、という事だ!!」
「つまり、奴らは丸腰…どんな一騎当千な奴等であろうと、丸腰であれば、銃を持っている我々の方が強い!」
長かったこの戦いも、ようやく終わる。
報酬を貰ったら、ちょっと良いものを食べて、ちょっと贅沢をして…
「あの…隊長…」
「どうした!!」
「頭の上…ドローンが…」
「……………は?」
次の瞬間、私は機関砲とミサイルの雨に襲われ、黒焦げになった。
やっと…やっとここまできたのに…
そう思いながら、私の意識は遥か闇の向こうへ沈んでいった。
「…撃ってよかったの?」
「当たり前じゃん?」
「当たり前よ!!」
「当たり前です☆」
「あたりまえ、です。」
『当たり前です。』
シロコ先輩のドローン攻撃によってリーダーが倒されたのを確認すると同時に、私とホシノ先輩は物陰から飛び出す。
後方からノノミ先輩とセリカ先輩の支援射撃を受けながら、まだ混乱に満ちている戦場を暴れ回る。
「た、隊長!!」
「なんだよ!!全然丸腰じゃないじゃん!!」
「と、とにかく応戦…ぎゃっ!」
一人、また一人と順調に処理していく。
だが、今思えば、誰かと一緒に戦う、というのはここでは初めてだ。自分のすぐ横で、盾を構えながらショットガンで突っ込んでいくホシノ先輩を見る。
普段のおっとり具合からは想像できない、気迫に満ちた戦い方をしている。
背中を預けるに相応しい、素敵な先輩だ。
「この…余所見してんじゃねぇ!!」
ホシノ先輩を見ている私を隙だらけと判断したヘルメット団員が私にショットガンを構える。
彼女の引き金が引かれる直前に、私は右へ大きく跳ねる。
面攻撃に優れているはずのショットガンは、私の体を掠めることもなく、飛んでいった。
「えっなんで避け」
「おそいです。」
ヘルメット団員は改めてショットガンを構え直すが、もう遅い。アサルトライフルを三発叩き込み、体勢を崩したところを思い切り蹴りつける。
スピードが乗った蹴りを食らったヘルメット団員は道路標識をへし折りながら吹っ飛び、コンクリートの塀に叩きつけられ動かなくなった。
「うへぇ、容赦ないねぇ。」
「そう、ですね。きょうは、いつもより、あばれたいきぶん、です。」
その後、1分ほどで襲撃してきたヘルメット団は全滅した。皆、先生が提案した作戦がうまくいったことを喜ぶ。
「お疲れさまぁ。レイヴンちゃん。」
「はい、おつかれさまでした。」
お互いにほぼ無傷で終われたことを確認し、ハイタッチを交わす。
初めてしたが、良いものだ。
「いやぁ、レイヴンちゃんの戦い方、魅せられちゃうねぇ。おじさんもうあんなに動けないよぉ。」
「ありがとう、ございます。ほしのせんぱいも、すてきでしたよ。」
「うへへ。ありがと。」
ホシノ先輩はショットガンと盾を肩にかけ、皆がいる後方へ歩いていく。
でも、私はなんだか物足りない気分になっていた。信頼できる人との共闘、優秀な指揮官の下による作戦。
私は、はっきり言って興奮していた。
だから、いつもなら見逃すであろう獲物から目が離せなかった。
私達が後方にいる味方と合流する為に背を向けた瞬間、何かが動く気配がした。ゆっくり振り向けば、比較的軽傷で済んでそうなヘルメット団員が意識を取り戻し、逃走を図っている。
今回の作戦の失敗を報告しにでもいくのだろう。ちょうど良い。巣に案内してもらおう。
アジトなり前哨基地なりを叩き潰してみせれば、アビドスの皆も喜んでくれるだろう。
私はノコノコと巣へ帰っていく獲物の追跡を始めた。
「ただいまぁ。みんな、お疲れ〜。」
「お疲れ様です、ホシノ先輩。…あれ?レイヴンちゃんは?」
「うへ?…あれ、さっきまで一緒にいたのに?」
アビドス校舎から約30km地点。
随分遠いところから、来ているようだ。
歩いている間に体力が回復したのか、途中で小走りになったり、後方を確認したりしていたが、遂に目的地と思わしき廃墟に到着した。
本拠地と思わしきホール跡地には、ご丁寧に「カタカタヘルメット団!!」と書かれた看板が飾ってあった。
わざわざカタカタを着けるということは、他にも様々なヘルメット団がいるということだろうか?そんなことを考えながら、ホール内へ侵入する。
「おい、お前!ヘルメットを無くしたのか?」
「ん?なんかどっかで見たことあるような…?」
「…ろくにんしかいないのだから、あいてのかおくらい、おぼえたら、どうですか?」
「こ、こいつ!アビドスの新入りだ!」
侵入者の存在にようやく気づき、30人ほどのヘルメット団員がゾロゾロと集まってくる。
「一人で来るとは、カタカタヘルメット団を舐めやがって!」
「これだけの戦力を相手に挑むとは、ただの愚か者か、それとも…」
「ちょうど良い!生捕りにして人質にしてやろう!」
「さっさと降伏すれば悪いようには…ぎゃっ!」
降伏を勧告してきたヘルメット団員を迷いなく撃ち抜く。それをきっかけに残りのヘルメット団員は一斉に射撃を開始する。
ショットガンに、アサルトライフルに、マシンガンと様々な種類の銃撃が飛び交うが、私は持ち前のスピードを活かして翻弄しつつ、一人ずつ数を減らしていく。
確かに数は多いが、この程度の人数差、ルビコン3で何度も経験してきた。
そのまま戦闘は続き、敵の数が半分程度になった時、不意に自分の胸のあたりが振動する。アビドス対策委員会の備品としてもらった連絡用のスマートフォンだ。
流石に回避運動をしながら応答はできないので、遮蔽物に身を隠す。遮蔽物に弾が当たる振動を背中に感じながら応答する。
ホシノ先輩からだ。
『あ、出た出た。レイヴンちゃん、今どこに…なんか、騒がしくなぁい?』
「そうですね、しょうしょう、さわがしいですね。」
遮蔽物に隠れている私へプレッシャーを与える為か延々と射撃が続けられていて、ホシノ先輩の声を聞き取るのも難しい。
『…もしかして、カタカタヘルメット団の前哨基地にでもいる?』
「すごいですね。さぷらいずさせてくれないなんて。」
どうしてわかったのだろう?ホシノ先輩は本当に勘がいい。
けれど、ホシノ先輩は何やら残念そうな声色だ。
『うへぇ、みんなー。レイヴンちゃんもう始めちゃってるみたい。』
『嘘でしょ!?一人で乗り込んでるの!?』
『うーん、流石に相談してほしかったですね☆』
『ん…速いのは脚だけじゃないみたいだね。』
『と、とにかく急いで私達も向かいます!無理せずに退避してくださいね!』
『"無理だけはしないで…いや、もう無理はしてるのかな?"』
「りょうかいです。みなさん、おきをつけて。」
通信を切り、遮蔽物から顔を少し覗かせ、敵の配置を確認する。残り15人、楽勝だ。
障害物にヒビが入り、割れる。
それと同時に飛び出し、アサルトライフルを乱射する。
あっという間に3人倒され、相手も私がただの愚か者ではないことを理解したのか、遮蔽物に隠れ始めた。どうやら持久戦に持ち込むつもりらしいが、付き合う道理は無い。私は左腕のパルスブレードを起動し、手始めに一番近くの遮蔽物に切りつける。
何発もの銃弾に耐えられるバリケードは紙を破くように弾け、信じられないと言った様子で固まっているヘルメット団員を容赦なく撃つ。
同じようなことを後2回ほど続ければ、この戦闘は終わる。ブレードの冷却が終わるのを確認し、駆け出そうとした瞬間、いきなり後ろからガッと羽交締めにされたうえで持ち上げられる。
「つ、つかまえたぁ!!」
「この…!」
私よりかなり大柄なヘルメット団員だ。さっき仕留めたと思ったが、気合いで持ち直したらしい。パワーには自信があるが、宙に浮かされた状態では身動きができない。
「こんなチビに、舐められたまんまでいられるか!構わねぇ!アタシごと撃て!!」
「よく言った!!」
「アンタのこと忘れねぇぜ!」
「往生せいやぁ!!」
遮蔽物から残ったヘルメット団員が体を出し、一斉にロケットランチャーを構える。
「え、いや流石にそれは…」
「…っ!」
ロケットランチャーにより、私を捕まえているヘルメット団員ごと吹き飛ばされる。特に小柄な私は爆発の衝撃で大きく吹き飛ぶ。まともな被弾は初めてだ。なるほど、とても痛い。
だが、この程度のダメージではまだ倒れはしない。幸い相手も訪れたチャンスを生かすことに全力を注ぎ過ぎたのか、吹き飛んだ私を見失ってしまったらしい。
私は寝転んだまま空になったアサルトライフルのマガジンを弾き飛ばし、新しいマガジンを、……無い。鞄の中を、マガジンが入るわけがない胸ポケットも確認するが、見つからない。どうやら、吹き飛ばされた時に落としてしまったようだ。突然、頭の中に懐かしい飼い主の声が聞こえる。
(621、一つ助言を送ろう。不測の事態を予測しろ。)
「…すこし、いうのがおそいですよ。うぉるたー。」
とにかく、この場を離れようと起きあがろうとした時、急に腕を掴まれる。
私を掴んだ手は、よく知っている手だった。
「うへぇ、随分、暴れたねぇ。間に合ってよかったよ。」
「ほしの、せんぱい。」
そう言うと、ホシノ先輩は私をグイッと引っ張って起こし、吹き飛ばされた時についた汚れや埃を払ってくれる。
敵陣のど真ん中で立っている私達を見つけヘルメット団は発砲するが、ホシノ先輩は咄嗟に盾を展開して防ぐ。さらに後方から、カタカタヘルメット団に恨み満載の二つの声が上がる。
「ちゃんと、私たちの分も残ってるわね!」
「ノノミ、行きまーす☆」
ノノミ先輩のガトリングの斉射とセリカさんの射撃で、残っていた敵は一掃された。
少し離れた建物から爆発が起きて、立ち上る煙の中を、満足そうな顔をしたシロコ先輩が歩いてくる。
「弾薬庫も、補給所も吹っ飛ばした。これでしばらくは大人しくなるはず。」
「少し暴れたりないけど、まぁいいわ。」
「よーし、作戦終了。みんな、先生、お疲れー。」
「たのしい、えんそくでしたね。」
私の発言にみんなが不思議なものを見るような目でこちらを見る。
どうにも、ミシガン総長の口癖というか、言葉回しが離れない。あの人も、私を人間扱いしてくれた、大切な人だったからだろう。
「…そうだね。でもレイヴンちゃん、これからは、遠出する時は必ず一言いってね。」
「はい。…すいません、でした。」
一瞬、ホシノ先輩の空気が変わった気がしたが、すぐにいつもの腑抜けた感じに戻る。
「それじゃ、学校に戻ろっかー。」
アビドス高校 教室
「お帰りなさい。皆さん。お疲れ様でした。」
『全員無事で何よりだ。』
"お疲れ様"
「ただいま〜。」
「アヤネちゃんとチャティと、あと先生もお疲れ。」
労いの言葉と同時に、人数分のお茶を出され、各自空いている椅子に座って一息つく。
乾き切った喉に、冷たいお茶はよく沁みる。
今はもう、物を食べることや飲めることを実感すると、また目が潤んできた。しかし、ここに来てから初めての食事であるエナジーバーを齧った時にも泣き出して皆に心配されたことを思い出し、見られる前に涙を拭う。
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件がようやく片付きましたね。」
「もっと、はやく、こうすれば、よかったですね。」
「そうだね。でも、これでやっと重要な問題に集中できる。」
「ええ、これで心置きなく…」
お茶を飲んでいたホシノ先輩がギョッとした表情で急いでコップを置く。
一体何事だろうか。
「セリカちゃん、ちょっと待っ…」
「全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
……………借金?
私の人生が、奪われる原因になった単語が耳に飛び込んできて、何度も反響する。
どういうことだ。
先生がセリカ先輩の発言について追及しようとする前に、私は椅子を跳ね飛ばして立ち上がっていた。
いつもと様子が違う私を見て、ホシノ先輩以外はびっくりした表情でこちらを見るが、説明してほしいのはこっちの方だ。
「しゃっきん、って、なんですか。」
「れ、レイヴンちゃん?どうしたの、急に。」
「だれが、どこに、しゃっきんをしているんですか。」
私は発言の主であるセリカ先輩を睨みつけるが、その視界を遮るようにホシノ先輩が目の前に現れる。
「ま、しょうがないか。説明しなかった私が悪いね。先生にも、説明するよ。」
"聞かせてほしいな。"
「…おしえて、ください。」
Ab06 生徒名、黒羽レイヴン。
普通ではないアビドス高校の現状を知る。
黒羽レイヴンがアビドスに流れ着く前の世界。
ルビコン3、衛星軌道上
いよいよ大詰めだ。アーキバスが再建し、延伸させたバスキュラープラント。そこに集約されたコーラルに、この恒星間入植船ザイレムで突っ込んで、火をつける。
唯一の誤算は、アーキバスがまだ制御できていないはずの衛星砲が動き、このザイレムを撃ち抜いた事だ。このまま蜂の巣にされると思ったが、それ以上は撃たれなかった。訳がわからなかったが、それと同時に、ビジターが何故かACでの出撃を申告してきた。
何故だ?依頼も何も出してない筈…
そう思い、ビジターの端末の履歴を確認すると、差出人不明の依頼が一件入っていた。
内容は、衛星砲はその差出人不明の何者かが掌握した事と、そして、ビジターを封鎖ステーションで待っているというものだった。
まるで、決闘状だ。相手が何者かはわからないが、もうビジターに任せるしかない。
ザイレムがいよいよ宇宙空間に出る。
「…船体のダメージが、大きい。どうやら、手動操舵で突っ込むしか無さそうだね。」
プラン通りであれば、アーキバスの最終防衛ラインを突破した後は、各部の推進ベクトルを固定して脱出する予定だった。
だが、衛星砲による攻撃で制御システムに深刻なダメージが入り、もう自動操縦に移行することは出来なくなっていた。
ビジターが指定された座標に到達し、現れた技研の兵器との戦闘を開始する。
ただ、見ることしかできない。
もう私しか残っていない操舵室のディスプレイが急に点灯する。
『ボス…聞こえるか。俺だ。チャティ・スティックだ。』
「…チャティ!?なんで、あんたがここに…バックアップなんて」
取っていない筈だ。なのに、何故チャティがここに?
『すまない、ボス。ボスの代わりにこの船を押そうと思ったが、壊れた物は俺でも流石に動かせない。』
ペリメトルプロトコル…最初のプランである、自動操縦に切り替え、制御システムに一切の干渉をさせなくするプランを発動させようとしていたらしい。
だが今はそんなことよりも知らなければならないことがある。
「チャティ…あんた、なんでここにいるんだい?」
『ボスが俺をどれだけ一つの命を持つものとして扱ってくれたとしても、俺はあくまでボスを補佐するためのAIだ。』
『補佐することができなくなるのは、嫌だったんでな。ビジターと合流できた時点で、ビジターの端末内に、俺自身の判断でバックアップを作成しておいた。』
なるほど、主人の主義に反しようとも、役に立ち続ける道を選んだ訳だ。チャティが私に逆らったのは初めてだ。少しショックを受けるが、それ以上にチャティが自分で勝手に行動したということが、何より嬉しい。
「なるほど…」
『ボスの主義に反するのは分かっていたが…まぁ、反抗期、というやつだ。ボス。』
「反抗期、ねぇ。ちょっと違うよチャティ。それは親離れってやつさ。…選ぶのはいいことだ。あんたの親として、私は誇らしいよ。チャティ。」
私は決心する。諦めかけていた事を、チャティに託そう。
「チャティ…あんたに頼みたい、最後の仕事がある。」
『なんだ、ボス。』
「ビジターのことだ。あの子はきっと、あの戦いに勝つだろう。ウォルターはあの子に、仕事が終わったら再手術を受けさせて、普通の人生を送らせるって言っていた。」
「あの子のACにはもうウォルターが手配している医者への座標が仕込んである。けど、問題はその先だ。」
「本当だったら、再手術を受けて、普通の女の子になったビジターを支えてやりたいが…それは出来そうにない。」
「あの子は、普通の人生を知らない。まともな生活を送れるようになれたって、保護者も、友達も、経験も、何もない。とてもじゃないが、生きていけないだろう。」
本当に、大人として情けない。
何から何まであの子頼りで、その恩に報いてやることもできず、ただこの星を焼いたという業を背負わせることしかできない。
だけど、それでも、あの子には幸せになってもらいたい。
「だから、チャティ。あの子を支えてやってくれ。年齢も、種族も違うが…あの子は、あんたの妹みたいなもんだ。面倒を見てやってくれ。」
『妹、か。フッ、まさか俺にボス以外の家族ができるとは、驚きだ。』
「チャティ…あんた、今、笑ったのかい?全く…あの子には、ほんとに世話になってばかりだね。」
ビジターからメールが届く。衛星砲を停止させたらしい。いよいよ、お別れの時間だ。
「じゃあね、チャティ。お別れだ。ビジターを頼んだよ。」
『了解だ、ボス。じゃあな…母さん。』
ディスプレイの電源が切れ、静寂が戻ってくる。まさか、母さんとはね。そんな言葉、教えた覚えはなかったが。
どうやら、最後まで笑っていけそうだ。
ザイレムはバスキュラープラントに深く突き刺さり、集められたコーラルに火をつける。
最後に、ステーションから離れる一筋の光が見えた。ビジターの乗るACだろう。
無事に、逃げ延びてほしい。そして、今まで不運続きだったあの子に、これからは幸せになってほしい。
「不運なあんたの…幸運を祈るよ。」
この祈りは、届いてくれるだろうか?
そう思いながら、RaDの頭目、シンダー・カーラはコーラルの爆発の中に消えた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
ブルーアーカイブのタイトル画面をみるとコーラルリリースを思い出す今日この頃、夢の中でも楽しい妄想で遊ばせて貰っています。
優しい閲覧者様からの誤字報告、コメント欄に沸くブルートゥやスッラ、そして何より、お気に入りしてくださる閲覧者様!!どいつもこいつもこの私を奮い立たせる!!いつもありがとうございます!
これからも頭から妄想が溢れたら綴らせていただきます。