Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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今回も妄想が捗って楽しかったです。
どこまで続けられるか自分でもわかりませんが、楽しんでいただけたら幸いです。
小さな女の子が、巨大な武器を持つ…素敵ですよね。


第5話 救出作戦と素敵な贈り物

レイヴンちゃんがここに来たのは二週間くらい前のこと、ホシノ先輩が珍しく慌てた様子でパトロールから帰ってきた時だ。

ぐったりとしているレイヴンちゃんを背負っているホシノ先輩を見て、ついに犯罪に手を染めてしまったのかと思い、動揺しながら埋める場所を用意しようとしたが、ホシノ先輩からすごく冷静に保健室に連れて行くのを手伝ってと言われてしまった。

保健室のベッドに寝かせるときに、ほんの少し触れただけでも、びっくりするくらい冷たかった事を覚えている。

心配はしたが、次に様子を見に行った時には、すでに起き上がって窓の

外を眺めていた。その後、色々あってこのアビドス高校の1年生になったレイヴンちゃんは、学年こそ一緒だが私のことを先輩として慕ってくれた。

大体無表情で、笑顔を作るのが苦手だが、どこか抜けているところがある憎めない子だ。

勉強にもすごく興味があるみたいで、私の拙い授業もどきにも、すごく真面目に取り組んでくれた。

だから、こんな表情ができる子だとは思ってなかった。

 

「だれが、どこに、しゃっきんをしているんですか。」

 

私よりも真っ赤な目が、こちらを睨みつけている。表現のしようのない、圧力のある目で見つめられ、何も喋れなくなってしまった。

そんな私を助ける様に、ホシノ先輩が間に入ってくれた。

 

「ま、しょうがないか。説明しなかった私が悪いね。先生にも、説明するよ。」

 

部外者である先生にもこの話をすると聞いて、一瞬止めようと思ったが、レイヴンちゃんが落ち着いてくれたので、この場はとりあえず静かにしておくことに決めた。

 

 

 

少し冷静さを取り戻した私は、跳ね飛ばした椅子を元の位置に戻す。

座る気にはならなかったが、ホシノ先輩が椅子に座るよう促してきたので、大人しく従う。

先生も私の隣に座るのを確認すると、ホシノ先輩が話し始めた。

 

「えーと、簡単に説明すると、この学校、借金があるんだー。9億円ぐらい。」

「…正確には、9億6235万円。私たち「対策委員会」が返済しなくてはならない金額です。」

 

その後、アヤネ先輩は借金をする事になった理由を話してくれた。

数十年前、郊外の砂漠で巨大な規模な砂嵐が発生し、学区の至る所が砂に埋もれてしまう災害が起きたこと。

その自然災害を克服するために、アビドス高校は多額の資金を投入する必要が生まれたが、片田舎であるアビドスに融資をしてくれる銀行は見つからず、結局悪徳金融業者に頼るしかなかったこと。

その上、砂嵐は年を経るごとに規模を増し、最終的に何も解決しないまま、借金だけが膨れ上がっていたということらしい。

返済できなければ学校は銀行の手に渡り、廃校となる。完済できる可能性がほぼ無いこの状況にほとんどの生徒は諦めて、去って行ってしまったこと。

そして、それでもこの学校の為に残ったのが、対策委員会のメンバーということも説明してもらった。

やむを得ない事情があったということで、私も少し落ち着く。

私の両親が借金をした理由とは、比べ物にならないくらいまともだ。

 

「…まあ、そういうつまらない話だよ。…レイヴンちゃんは、借金について嫌な思い出があるでしょ。」

「だから、説明するのを避けてたんだけど…まぁ、時間の問題だったか。」

 

ホシノ先輩なりの気遣いだったらしいが、なんだか仲間はずれにされていたように感じる。

 

「…わかりました。せつめいしてくれて、ありがとう、ございます。」

「先生とレイヴンちゃんのおかげで、ヘルメット団も片付いたし、これからは借金返済に全力投球できるようになった。」

「もし、この委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからねー。…レイヴンちゃんも、この件には関わらなくても」

「ふざけないで、ください!!」

 

思わず机を大きく叩き、立ち上がる。

関わるなだなんて、言わないで欲しい。

私だって、もうこのアビドス高校の対策委員会の一人だ。

 

「わたしも、この、あびどすのがくせいです!なかまはずれに、しないでください!」

"私も、対策委員会を見捨てて戻るなんて事はしないよ。"

 

ここまで感情をあらわにしたのは、初めてかもしれない。

ホシノ先輩は、私と先生が協力してくれることに驚いているようだ。

 

「…先生も、レイヴンちゃんも変わり者だねー。こんな面倒なことに自分から首を突っ込もうなんて。でも、ありがと。」

「良かった…「シャーレ」が力になってくれるなんて。これで私たちも、希望を持っていいんですよね?」

「だいじょうぶです。このあびどすを、かいもどしましょう。」

 

借金という単語だけで、やや暴走してしまった私だが、どうやらまだ手遅れではないらしい。どうにかしてお金を稼いで、借金を返済、いや、アビドスを、買い戻せるまで稼ごう。そういえば、

 

「ちゃてぃ、わたしのかせいだおかねって、どれくらいあるの?」

 

ルビコン3でウォルターの猟犬として働いた時代のお金が、残っているはずだ。

それを借金の返済に、少しでも当てることができれば、楽になるだろう。

 

『ビジターの稼いだ金は、ウォルターからの補填も併せて34,816,374COAM。キヴォトスの通貨に換算すると、348,163,740,000円だな。』

「「「「「「えっ?」」」」」」

"えっ?"

 

私も含む、その場に居た全ての人物が驚く。

9億円の借金の話をしていたのに、それが霞むような金額が出てきた。

というか、ウォルターの補填がいくら入っているか知らないが、どう考えても普通の人生を送るには過剰すぎる金額だ。

周りの皆も理解が追いついてきたのか、騒がしくなる。

 

「ちょ、ちょっと待って今なんて言ったの!?3千億!?」

「あら、レイヴンちゃんもお金持ちだったんですね☆」

「銀行強盗でもしてたの?いや、全然足りないか…まさか、何度も?」

「レイヴンちゃん…いや、レイヴンさんって、ここにくる前は何をされてたんですか…?」

「うへぇ…ちょっと想定外だぁ。…まさか、ウォルターからの「仕事」って…」

「ちゃ、ちゃてぃ、なんでそんなにおかねがあるの?」

『ウォルターの補填もあるだろうが…ビジターは、あまり金を使わなかったからな。働いた分、ほぼそのまま溜まり続けていたんだろう。』

"レイヴン…私は…君とお話をしなければならない…"

「そ、そんなわるいことは…」

 

してはいない、とはとても言えなかった。

私がやっていた仕事は、人殺し以外の何物でもない。けれど、私にはそれしかできることがなかったし、それが、私の、ウォルターの猟犬の生きる意味だった。

詰まってしまった私の代わりに、チャティが話し始める。

 

『だが、残念ながらこの金を使うのは難しいだろう。元々通貨が違う。使うにしても、電子決済のような、現金を使わない方法でないと無理だ。』

「んー。それじゃ借金返済には使えないね。使うつもりもなかったけど。」

「そ、そうですね。現金だけしか受け付けてくれませんし…」

「一体どんな高収入なバイトをしてたの…?」

 

一悶着あったが、とりあえず日も暮れてきたし、今日は解散という流れになった。

先生は私が何でそんなにお金を持っているのか心配そうに聞いてきたが、チャティがレイヴンは働き者であったがそれ以上に、元々色々な資産家と関わりがあり、その人達の遺産が大量に転がり込んできてしまったのだと説得してくれた。

身内の不幸が理由であると解釈してくれたのか、先生は私に謝ってそれ以上の追及はしてこなかった。

 

皆それぞれの家に帰っていく中、私は学校のシャワー室を借りて身体を綺麗にして、アビドス高校の備品のジャージに着替えると、自分の個室でもあるローダー4のコックピットに入る。

他の皆は家があるのでそちらに帰るが、私は無いので基本的に学校に暮らしている。

ホシノ先輩の家に誘われたこともあったが、確実に抱き枕にされることが目に見えているので、丁重に断らせて貰った。

流石にコックピットの中で眠る事はなく、眠気がやってきたら降りて、すぐ近くの教室に移動させて貰った、保健室から拝借したベッドで眠る。

だが、今夜はいつもと違った。

 

"わぁ…"

 

ローダー4の中で、セリカ先輩から教えてもらった授業の内容を復習していると、先生の声が聞こえた。

コックピットハッチを開け外を覗き込むと、子供のように目を輝かせた先生が居た。

 

「こんばんは、せんせい。どうしました?」

"あ、こんばんは、レイヴン。"

 

挨拶をしたら返してくれたが、ほぼ上の空だ。一体どうしたというのだろう。

 

「あの…なにか、ごようで?」

"………はっ!あっ、ごめんレイヴン!こんばんは。"

 

ようやく意識が戻ったのか、もう一度挨拶して、ここに来た理由を話し始めてくれた。

 

"いや、他の皆は帰ったけど、レイヴンは帰る気配がなかったから、心配になって後をつけて来たんだ。"

「なるほど?」

 

しれっとストーカーのようなことをしていると明言するが、流すことにする。

 

"そしたら…人型の巨大ロボットがあったんだ!!思わず感動してたら胸の部分が開いて…もしかして!レイヴンってこのロボットのパイロットなの!?"

 

大人の人とは思えないような瞳の輝かせっぷりだ。もしかしたら、カーラもオーバードレールキャノンを弄り倒していた時は、こんな顔をしていたのだろうか。

 

「まぁ、そうですね。このろぼっとは、ろーだーふぉーっていいます。」

「わたしの、たいせつなあいぼうです。」

"相棒…すごい!歴戦のパイロットみたいだ!"

 

みたい、というか、多分歴戦の部類に入るのか?いや、歴戦というのはコールドコールやスッラやミシガン総長のような、もう少し歳をとってからでないと名乗れないものだろうか?そのようなことを考えていると、先生は言いにくそうにお願いをしてきた。

 

"ねぇ、レイヴン。私も、コックピットに座っていいかな?"

 

座らせるか座らせまいか迷うが、あまりにも眩しい目でこちらを見てきたので、座らせてあげることにする。だが、流石に動かさせるわけには行かない。なので、妙なことをしないように先生の膝の上に座らせて貰い監視することにする。

 

"おお…すごい!ずっとロボットに乗るのが夢だったんだよ!先生になって良かった…"

「せんせいになるひつようは、ないとおもいますが…」

 

私は念のためローダー4の状態を確かめる。

今は待機モードで、レバーやペダルを操作しても動かない状態だ。主にアセンブルをする時に使うモードで、今なら何をしても大丈夫だ。

そう伝えると、先生は嬉しそうにレバーをガチャガチャと倒したり起こしたりしている。

まるっきし子供だが、ウォルターにも、このような時期があったのだろうかと思う。

あまりにも楽しそうなので、もう少しだけサービスしてあげることにする。

 

「せんせい、しみゅれーたーですけど、うごかしてみますか?」

"えっ!?そんなものまであるの!?"

「はい、きたいのそうさかくにんがめいんですが、あたらしいひとむけの、きょうしゅうしみゅれーたーがあります。」

"…やらせてもらっていいかな?"

 

私は頷き、機体にダウンロードされていた初等傭兵教育プログラムの操縦基礎のトレーニングを起動させる。

コックピットのディスプレイには仮想空間が表示され、操縦指南が表示される。

先生は興奮気味にその説明文を読み、早速レバーを前に倒し、前進する。

そして出てきたMTと戦闘に入るが、先生はまともに対応できず、あっという間に撃破された。画面には「NICE JOKE」と煽るように表示されるが、先生はそれでも目を輝かせたままだった。

そのまましばらくシミュレーターをやり続けていたが、1時間ほど経過すると、流石に体力の限界が来たのか満足げにシートに倒れかかる。

 

「なかなか、でしたね。」

"ほんとに?結構難しかったけど、レイヴンはどれくらい操縦できるの?"

 

まさか、トップランカークラスの私の腕前を舐めて貰っては…と思い適当にアリーナでも1戦やろうと思ったが、あまりやりすぎるとこの機体でどういうことをしてきたのか露見する上、二人乗りが出来たのは小柄なホシノ先輩とだったからだ。

それに、先生はキヴォトスの「外」から来た、あまり頑丈でない人とも聞いたので、フルパワーで動かせばシミュレーターでも取り返しがつかないことになるかもしれないということで、適当にはぐらかさせて貰った。

先生は自分の欲求を満たせたのか、礼を言ってローダー4のコックピットから降りる。

 

"本当にありがとう。とっても楽しかったよ。"

「それは、よかったです。」

"ところで、このローダー4って、今は壊れてるんだよね?実は、直せそうな子達のことを知っているんだけど、紹介して良いかな?"

「しょうかい?その、がくせい、なんですよね?」

"うん。ミレニアム学園の、エンジニア部っていうところの子達でね。"

"機械を触るのが大好きな子達なんだ。私も、防弾仕様のペン立てとか作って貰ったんだけど、きっとその子達ならローダー4を直してくれると思うんだ。"

 

ローダー4は元々、ジャンクや廃材から作られたACだ。アーキバスのような特別な技術は使われていない。知識と設備さえあれば修理もできるだろう。

だが、私は特にローダー4を修理したいという欲求は無い。

この子はもう十分戦ってくれたから、やむをえない事情の時以外は持ち出したくない。

でもまぁ、紹介くらいなら良いだろう。

もしかしたらアビドスの観光資源にでもなって、人が戻ってくるきっかけになるかもしれない。

 

「まぁ、しょうかいくらいなら、かまいませんよ。」

"ありがとう。きっと、ウタハ達も…ああ、そのウタハって子がエンジニア部の部長でね…"

 

先生は、色々な学園を飛び回っているらしい。色々な思い出話を聞いていたら、流石に学生が起きていてはまずい時間になってしまった。

 

"ついつい話し込んじゃった…。ごめんね。レイヴン。また明日。風邪、引かないようにね。"

「はい、せんせいも、おきをつけて。」

 

手を振りながら、先生は夜中の道を歩いていく。私も、なんとも抗い難い眠気に襲われ始めたので、ベッドに横になる。

 

「おやすみ、ちゃてぃ。」

『ビジター。起こすのは7:30で良いか?』

「うん。…むりに、おこさなくても、いいからね?」

『それは聞けない。ビジターにはちゃんと健康的な生活をして貰わないとな。』

「…かーらも、ちゃてぃがおせわしてたの?」

『………俺は、ボスには逆らえないからな。』

 

大人は、ずるいな。そう思いながら、部屋の電気を消して、目を瞑る。

もう、頭を撫でてくれるあの手がなくても、私は眠ることができる。

嬉しくも、寂しくも思いながら、私は夢の世界に旅立った。

 

 

ピピピッ!ピピピッ!

 

『ビジター、RaDのチャティ・スティックが朝7:30をお知らせする。用件はそれだけだ。じゃあな。』

「…おはよう、ちゃてぃ。」

 

少し独特な言い回しな目覚ましを聴きながら、ベッドから起き上がる。顔を洗い、歯を磨き、髪を整える。

普通の、朝の生活だ。私はカロリーバーを齧り、水を飲みながら、国語の教科書を読み始める。

今日は自由登校日なので、学校に来る人は居ないだろう。セリカ先輩のお陰で、読めない漢字も随分少なくなった。

最低限の知識はウォルターからも教わっていたが、焼かれてしまっていた脳ではそこまでが限界だった。今は、新しい知識がスラスラと頭に入ってくる。その感覚が、楽しくて仕方ない。

そんな静かな時間は、唐突に終わる。

私の部屋として使わせて貰っている教室の扉がノック音と同時に開かれる。

 

「おはよぉ〜、レイヴンちゃん。」

"おはよう、レイヴン。よく眠れた?"

「ほしのせんぱいに、せんせい。おはようございます。」

『元気そうで何よりだ。小鳥遊ホシノ、シャーレの先生。」

 

予想外の来客だ。今日は自由登校日のはずだが、何か忘れ物でもあったのだろうか?

 

「いやぁ、散歩してたら街のど真ん中をウロウロしてる先生を見つけてねぇ。話を聞いてみたら、セリカちゃんを探してるみたいでさ。」

"バイトに行くって言ってたから、どんなところで働いてるのか気になってね。後をつけてたら、振り切られちゃった。"

 

先生はストーキングが趣味なのだろうか?

ホシノ先輩も、訴えられてもおかしくない先生の行動には思うところがあるのか苦笑いしているが、すぐに切り替えて話し始めた。

 

「まぁ、セリカちゃんの行き先は見当がついていてね。せっかくだから、皆で行こうと思ってね。」

「わたしいがいも、さそうのですか?」

「うん。皆で行った方が楽しくなりそうだからねぇ。」

「りょうかいです。すぐに、したくしますね。」

 

私はパジャマ代わりのジャージからいつもの制服に着替えるために、更衣室へ向かう。

 

「それにしても、意外だなぁ。先生ならこのロボット見て驚くと思ってたけど。」

"うん。驚いたよ。昨日はコックピットに乗せて貰ったよ。"

「ふぅん…何時くらいの話?」

"確か…20時くらいだったかな?"

「…帰ったのは?」

"…23時くらいかな。"

「うへぇ。先生、訴えられたら負けるよぉ?」

"そうだね、そんな時間まで生徒を起こしてるなんて、先生失格と言われても仕方ないかもね。"

「…そこじゃないんだけどなぁ。」

 

十数分後、私達はアヤネ先輩、ノノミ先輩、シロコ先輩と合流し、ホシノ先輩の先頭でとあるお店にたどり着いた。

『柴関ラーメン』と書かれた店からは、今まで嗅いだことのないような匂いがする。

お店の中からは聞き覚えのある声がした。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!」

 

セリカ先輩の声だ。いつもの様子からは考えられないような、人当たりの良さそうな、元気な声が聞こえた。

ホシノ先輩が扉を開き、その後ろへ続いていく。

 

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで…わわっ!?」

「あの〜☆6人なんですけど〜!」

「あはは、セリカちゃん、お疲れ…。」

「お疲れ。」

「お、おつかれ、さま、です。」

「うへ〜、やっぱここだと思った。」

『元気そうでなによりだ。黒見セリカ。』

"どうも。お疲れ様。"

 

いつもの制服とは違う格好で、接客しているセリカ先輩も気になるが、あたりから漂う、良い匂いに混乱する。

ここは一体どういうところなのだろうか。

 

「どうしてここを…先生まで居るし…やっぱストーカー!?」

「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?」

「だから来てみたの。レイヴンちゃんにも、良い刺激になるだろうからね。」

「ホシノ先輩かっ…!ううっ…!」

 

本当はバレたくなかったかのような反応をしているが、どこが恥ずかしいのだろうか?

そんなことを考えていると、店の奥から見たことのない生き物…いや、エンブレムの柄としてはみたことのある生き物が顔を出してきた。

 

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、お喋りはそれぐらいにして、注文受けてくれな。」

「あ、はい、大将…こちらへどうぞ…。」

 

可愛らしい見た目とは逆な、なんともダンディな声で喋った。大将の見た目に、勝手にシンパシーを感じながら、未だ不服そうな顔のセリカ先輩が広い席へ案内してくれた。

しかし、流石に6人ともなると、少し狭い。先生はシロコ先輩の隣へ、私はノノミ先輩の隣へ座る。

セリカ先輩のユニフォームを褒めたり、ホシノ先輩が後輩の写真を売りつけるという変な副業を始めようとしたりしていると、セリカ先輩は話を強引に切りながら、注文を取り始めた。

 

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

「私は塩」

"私も塩で。"

「えっと…私は味噌で…。」

「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!レイヴンちゃんもこれで良い?」

「え、えっと、はい、だいじょうぶ、です。」

 

皆が順番に呪文のような何かを唱えているので、そのまま流されてしまった。

しばらくすると、初めて見る物体が目の前に置かれる。だが、これが所謂「美味しい」物だということだけは、わかった。

先輩達や先生の食べ方を真似て、私も箸というものを使って食べてみる。

細長い何かを、警戒しながら口に入れる。

 

「うっ…」

「ん?レイヴンちゃん、どうした…泣いてる!?」

「えっ!?なんで!?」

「いやぁ、エナジーバーで泣いてたんだから、こんな美味しいものを食べたら…」

"だ、大丈夫?"

「だいじょうぶ、です。おいしい、です…」

 

今まで感じたことのないような、幸福感が一気に襲ってくる。戦場を駆け回っている時とはまた別な、生の充足感を感じる。

私はそのまま箸を止めることなく食べ続け、スープまで飲み干した。

 

「うぇっ…うう…ぐすっ、ああ…」

「お、美味しいのよね!?美味しくて泣いてるのよね!?」

「そんなに喜んでもらえるとは…感激だねぇ。」

「とても、おいしかった、です。ああ、でも…」

 

ここに、あの人も、居てくれたら。

あの人は、このような食事を、したことがあるのだろうか?

 

「うぉるたーと、いっしょに、たべたかったな。」

"ウォルター?"

「…いえ、なんでもないです。」

 

生徒思いの先生のことだ。私の事を大切に思ってくれているとはいえ、キヴォトスとは違う、簡単に命が失われる戦場へ私を何度も送り込んだ飼い主の話をしたら、面倒なことになるのがなんとなく察することができた。

 

全員がラーメンを食べ終え、店を出る。今回は先生の奢りらしい。

 

「いやぁー!ゴチでしたー、先生!」

「ご馳走様でした。」

「おなか、やぶれそうです。こんなこと、はじめてかも、しれません。」

「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」

「そんなこと言ったら…ああほらレイヴンちゃん落ち込んじゃってるじゃん。」

「ほかのあじも、たべてみたかったです…」

「ああもう…ホント扱いづらい!」

 

セリカ先輩は結局また来てもいいと言ってくれた。ありがたいことだ。今まで、気にもとめていなかった「贅沢」。普通の人生には、欠かせない物なのかもしれない。ホシノ先輩は、この事を教えたかったのだろうか。

今夜は、きっといい夢が見れるだろう。

その筈だった。

 

 

 

 

「あいつか?」

「…はい、そうです。アビドス対策委員会のメンバーです。」

 

前回の襲撃が失敗した後、隊長は宣言通りこの仕事から手を引いた。元々頭が硬いあいつは、いつも真正面から挑んでは返り討ちに遭っていた。

だが、私は違う。アビドス対策委員会。確かに、たった5人…いや、6人だったか。この数で我々カタカタヘルメット団とやり合ってこれたのは想定外だ。

だが、6人を相手にするのが無理なら、1人ずつ始末すればいい。

好都合なことに、1週間ほど前から、単独行動が目立つメンバーがいた。

まずは、そいつからだ。

 

「準備はいいな。次のブロックで捕獲するぞ。」

「了解。」

 

こんな遅くまで、よく働いた結果だろう。

包囲されていることにも気付かず、独り言をぶつぶつ呟きながら目標の地点へ歩いていく。私たちの切り札…Flak41改の射程に入ったところで、姿を表す。

 

「?…何よ、あんたたち。」

 

真っ赤な瞳でこちらを睨んでくる。もう既に術中にはまっているというのに、なんとも強気なことだ。

 

「黒見セリカ…だな?」

「カタカタヘルメット団?あんたたち、まだこの辺をうろついてんの?」

 

こちらの正体に感づくと同時にターゲットはアサルトライフルを構える。

 

「ちょうど良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこの辺りに足を…」

 

隙だらけだ。私は背後に潜んでいる仲間に合図を出す。

こちらしかみていない黒見セリカは、まんまと不意打ちを食らい、近くの遮蔽物に身を隠す。

何から何まで、プラン通りだ。最初から私が隊長をやれば良かったんじゃないか?

 

「今だ、仕掛けろ。」

『了解!発射します!』

 

後方に控えていた改造重戦車、Flak41改が黒見セリカを遮蔽物ごと吹き飛ばす。

流石のアビドス高校生でも、これは効いたらしい。しばらく起きあがろうとした後、力尽き気絶するのを確認する。

 

「…続けますか?」

「生かさなければ意味がない。車に乗せろ。ランデブーポイントへ向かう。」

 

どうだ、隊長。あのアビドス高校生を倒してみせたぞ。あとは、同じような手法で1人ずつ減らしていけば…

私たちの、勝利だ。

私はヘルメットの中でニヤリと笑いながら、気絶した黒見セリカを回収し、トラックを発進させた。

 

 

 

 

 

 

夜も更けてきた頃、アヤネ先輩が息を切らしながら学校へやって来た。

何事かと事情を聞いたら、セリカ先輩が行方不明になった、との事だ。

緊急招集がかけられ、対策委員会のメンバーが揃う。

 

「電話はしてみました?」

「…はい。でも数時間前から、電源が入ってないみたいで…。」

 

バイト先である柴関ラーメンへ確認を取っていたシロコ先輩が、電話を切って話し始める。

 

「定時に店を出たみたい。その後、家に帰ってないってことかな。」

「こんな遅くまで帰らないなんてこと、これまでなかったですよね…?」

「…ちゃてぃ。なにか、いいあんはない?」

『既に、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにハッキ……確認を取っている。もう少し時間をくれ。』

「とりあえず、待とう。ホシノ先輩と先生が…ん?チャティ、今なんて。」

 

シロコ先輩がチャティの不穏な発言を追及しようとすると同時に、教室の扉が開く。

 

「みんな、お待たせー。」

"ただいま。"

「ホシノ先輩!先生!」

「どうだった、先輩?」

 

別室で調査をしていたホシノ先輩と先生が入ってくる。

表情からして、何か掴めたようだ。

 

「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた。」

「…先生、そんな権限までお持ちなのですね…」

「うへ〜もちろんこっそりだけどね。バレたら始末書だよー?」

「ええっ!?だ、大丈夫なんですか、先生?」

"問題ない。セリカの安全のためなら。"

 

昨日、目を輝かせながらコックピットに座り、操縦レバーを握っていた大人と同一人物とは思えない頼もしさだ。

 

『安心してくれ。バレることはないだろう。痕跡は消しておいた。』

"えっ?それってどういう…"

「まぁ、それはそれとして、連絡が途絶える直前のセリカちゃんの端末の場所、ここだったよー。」

 

ホシノ先輩はホワイトボードに貼られた地図を指差す。

砂漠化が進んでいる市街地の、特に端の方、治安が維持できず、物騒な人達の巣窟になっている場所だ。

 

「このエリア、以前危険要素の分析をした際に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です。」

「つまり、またあのひとたちのしわざってこと、ですね。よくもまぁ、あきないものですね。」

「学校を襲うくらいじゃ物足りなくて、人質を取って脅迫しようってことかな。」

 

犯人と目的地がわかった今、これ以上ここにいる意味はない。

 

「考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」

「うん、もちろん。」

「よっしゃー、そんじゃ行ってみよー!」

"出発!!"

 

皆が攫われたセリカ先輩の救出に飛び出していく中、私は少しだけ残った。

 

「ちゃてぃ。」

『なんだ、ビジター。』

「ひとつ、「すてきなおくりもの」をみつくろってもらえる?」

『了解だ、ビジター。終わる頃までには間に合わせよう。』

「まかせたよ。ちゃてぃ。」

 

 

 

 

 

 

作戦は成功だ!!黒見セリカを人質にして、返して欲しければ一人で来いと挑発して、乗って来たやつをまた人質にして…

アビドス対策委員会の奴らは、仲間思いだ。

きっと私の予想通りに助けに来て、間抜けに捕まるだろう。

あとはこの広大な砂漠に埋めておしまいだ。

愛した土地と一緒になれるなら、本望だろう。

 

「…長!新隊長!!」

「なんだ、騒々しい。」

 

確信した勝利に浸っている幸福な時間を、部下が邪魔をする。

 

「正面に、人が!」

「人?こんな砂漠の端っこに、迷子なんぞ…」

 

部下が指差した方を見ると…リストで穴が開くほど見た顔が、ずらっと並んでいた。

 

「な・ん・だ・と!!!?」

「新隊長!どうしましょ…」

 

次の瞬間には、アビドス対策委員会による一斉射撃が私と部下が座っている運転席を穴だらけにする。

当然、私たちは無事では済まず、その上トラックの燃料タンクに被弾し、私達と人質を乗せたトラックは吹き飛ぶ。

黒見セリカが乗っている荷台を、対策委員会の奴らが確認しにいく。せめて1発、後ろから…

落としたショットガンに手を伸ばすが、その手をガンッと踏まれる。

 

「ほんとうに、しぶといひとたちですね。」

 

真っ赤に、爛々と光る目が、こちらを見下す。私は、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。そのアビドス対策委員会の生徒は、何の躊躇もなくその大口径のライフルを構え、私の顔面に狙いを定める。

おかしいな…私はまだ…これから…

 

 

 

 

 

しぶとく動いていたヘルメット団員にとどめを刺すと同時に、後方が騒がしくなる。

どうやら、探し物は見つかったようだ。

 

「な、何っ!?トラックが爆発した!?」

『セリカちゃん発見!生存確認しました!』

「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」

「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!

そんなに寂しかったの?

ママが悪かったわ、ごめんねー!!」

「よかった…のうみそは、ぶじですか。ぞうきは、ぬかれてないですか?」

「うわぁあ!?う、うるさい!泣いてなんか…あとレイヴンちゃんの心配が怖い!!」

 

どうやら、五体満足で助けることができたらしい。

初めは元気がなさそうなセリカ先輩だったが、次第にいつもの調子に戻っていった。

 

「…まだ、油断は禁物。ここは敵陣のど真ん中だから。」

「だねー。人質を乗せた車両が破壊されたって知ったら敵さん怒り狂って攻撃してくるよー。」

 

その心配通り、爆発音を聞きつけたカタカタヘルメット団がぞろぞろと集まってくる。

本拠地らしく、今までとは比にならない人数が確認できる。

 

「巨大な銃火器も多数確認しました!徐々に包囲網を構築しています!」

「敵ながらあっぱれ…それじゃー、せっかくだから包囲網を突破して帰りますかねー。」

「…気をつけて。奴ら、改造した重戦車を持ってるわよ。」

「知ってる、Flak41改良型。」

 

迫る軍勢を前に、全員が自分の銃の状態を確認する。

 

「それじゃ、行こうか?」

「「「「了解(りょうかい)!」」」」

 

敵の包囲網に対して、一点突破を狙い一斉に駆け出そうとした瞬間、ヘリコプターのような飛行音が聞こえる。

空を見上げると、何か吊るした輸送用のドローンがこちらに近づいて来ていた。

皆が警戒し、シロコ先輩が撃ち落とそうとした瞬間、通信が入る。

 

『待たせたな、ビジター。ヘルメット団への贈り物だ。』

「おそかったね、ちゃてぃ。このままおわるかとおもったよ。」

「…チャティ?贈り物って?」

「はぁ!?今更賄賂でも送ってヘルメット団に許してもらうつもり!?そんなのマジで許せないんだけど!?」

「セリカちゃん…レイヴンちゃんとチャティの言う事をあんまり真に受けない方がいいよー。」

 

私達の目の前に、3mほどの箱が投下される。

何故か怒り心頭のセリカさんが私を押し退け箱を開けて中身を確認し、絶句する。

 

「な、なにこれ?」

「ちゃてぃ、これは?」

『「Flak36改/改」。ブラックマーケットで売られていた製造元不明の改造対空砲だ。』

『特徴は、新素材の使用や不要部分の洗練などの徹底した軽量化により辛うじて手持ちの火器として扱える点だな。』

『軽量化のため小型化はしているが、口径と発射音だけはそのまま、着いた名称は「耳鳴り砲」だそうだ。』

『ここまでして人の手で対空砲を撃ちたいとは、笑えるだろう?』

「そうだね。おもしろいね。」

 

チャティの解説を聞きながら、3mの箱にぎっちり詰まった戦車からそのまま砲塔だけを取り出したような見た目の大砲を引きずり出す。

 

「いやいやいや!?贈り物って言ってたじゃない!?これのどこが贈り物なの!?」

「おくりもの、ですよ。もうにどと、あびどすに、てをだしたくなくなるような。」

「うへぇ…なんで持ち上げられるのさ。」

「ん…レイヴンちゃんと喧嘩するのはよそう。」

「うーん、いくらしたのか、聞かないことにします☆」

『あの…チャティさん、あとでこちらに請求して貰っても良いですからね?』

『問題ない。これは俺とビジターの趣味でもある。』

"キヴォトスの子達って、皆力持ちなんだね。"

 

自分の身長の3倍近い長さの砲をなんとか構える。流石に重量過多のようで、足元がふらつくが、撃てれば問題ない。

ちょうど、セリカ先輩が懸念していた改造重戦車が出てくる。

ちょうど良い的だ。

私は照準器を覗き込む。

彼のように狙撃に自信があるわけではないが、この程度の距離なら、

 

「はずしは、しない。」

 

引き金を引くと同時に凄まじい轟音を響かせ

砲弾が発射される。

発射された砲弾は重戦車の装甲を真正面から貫通し、そのまま通り抜けていった。

戦車は沈黙し、突然の砲撃に驚いたのか、敵の進軍も止まる。

だが、本番はここからだ。

私は箱の中に入っていた特殊な砲弾を装填する。

チャティが用意してくれた「花火」だ。

私は今度はカタカタヘルメット団の拠点である廃墟群に狙いをつけ、引き金を引く。

再度凄まじい轟音が鳴り響き、廃墟群を丸々巻き込む大爆発が起きる。

チャティと初めて会った時の、打ち上げ花火を思い出す爆発だ。

 

『えっと…敵性反応…なし、です…』

「おわりましたよ。みなさん…どうしました?」

「うへぇ…なんも聞こえないよぉ〜。」

「耳が、耳が痛い…」

 

私以外の全員が痛そうに耳を押さえている。

ヘルメット団は贈り物が気に入ってくれたのか、どこへともなく消えてくれているので、ゆっくり休む事にした。

このあと、皆で校舎に戻ったが、輸送用ドローンはもう帰ってしまったので、この耳鳴り砲を持ち帰るのは、とても大変だった。

 

「いや、置いていきなさいよそんなもの!」

「無駄だよセリカちゃん。あんなに目が輝いてるレイヴンちゃん、初めて見たよ〜。」

「ん…私も、撃ってみたい。」

「もちろんです。とりこになりますよ、これ。」

「うふふ、レイヴンちゃんが楽しそうで、私も嬉しいです☆」

"手伝いたいけど、手伝えそうにないなぁ…"

『というか、それはどこに置くつもりなんですか?』

「もちろん、わたしのへやに、かざります。」

 

Ab06 生徒名レイヴン。

普通(?)の人間の聴覚の限界を知る。

 

 

 

 

 

 

「…格下のチンピラごときでは、あの程度が限界か。主力戦車まで送り出したと言うのに、このザマとは。」

「…目には目を。生徒には生徒を…か。専門家に依頼するとしよう。」

 

カタカタヘルメット団の全滅を知らされた、謎の人物はそうつぶやくと、固定電話を取り、番号を入力する。

2コール後、受話器が取られる。

 

『はい、どんなことでも解決します。便利屋68です。』

「仕事を頼みたい、便利屋。」

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
まずは、お気に入り数1964件(2024/2/17現在)ありがとうございます。ご期待に添えるよう、これからも頑張って燃えたいと思います。
感想にノーザーク、ブルートゥが湧きだす今日この頃、
お仕事がなかなか大変ですが、ブルーアーカイブも楽しく遊ばせてもらっています。
ac×ブルアカの作品もちょっと増えて、嬉しいです。
ここからコーラルの如く作品が増殖するのが、楽しみですね。
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