Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
来週はどうなんだ!ええっ!?
ということで仕事中ずっとチラついてた妄想をようやく書き留めることができました。
便利屋68を初めて知った時の感想は、私がACで散々やってきた事と同じだ!でした。
今回も楽しんで頂けたら幸いです。
『それは難しい問題だな、ビジター。』
「…やっぱり、そうかな。」
私はアビドス高校1年生、黒羽レイヴン。
今は、セリカ先輩がこの学校の為に日々アルバイトをしている事を知り、それに習い私もお金を稼ぐ手段を得る為、チャティに相談しているところだ。
『ビジターには、履歴書が書けるほどの経歴が無い。』
『それに、黒見セリカのように、接客業に従事するのも、申し訳ないが、向いてないだろう。』
「そう、だね。」
話せるようになったとは言え、まだ私の言葉遣いはまともではない。
セリカ先輩のように、元気に、人当たり良く挨拶することは難しい。
少し落ち込んだ私に、チャティはしばらく沈黙したあと、何か解決策を見つけたのか、データを表示しながら話しかけてきた。
『興味深いものを見つけた。これだ。』
「……なるほど。」
チャティが見せてくれたホームページ…
ゲヘナ学園の「生徒」が経営している便利屋という「企業」。
説明文には「情け無用、お金さえもらえればなんでもやります。」と書かれていた。
つまり、これは、
「どくりつ、ようへい。」
『何処かに雇われるのが難しいなら、自分で起業すれば良い。』
「…まさか、ここでも、やることに、なるとはね。」
『会計や依頼の仲介、その他面倒なことは全て俺に任せてくれ。ビジターは、依頼を受けて、暴れてくれれば良い。』
「いいね。わたしに、ぴったりだ。」
独立傭兵としての経験は、十分にある。
まずは、不特定多数に向けたばら撒き依頼を片端から受けて、実績を作って、名を売る。
初めは、はした金しか稼げないだろうが…
そのうち、他の学園や企業から、名指しの依頼がくるだろう。
私には、きっとこの方法でしか、アビドスを救うことはできない。
明日の朝開かれる、アビドス対策委員会の定例会議で提案する事にしよう。
アビドス対策委員会教室 時刻9:30
「…それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。」
いつもの教室に、アビドス対策委員会のメンバーと、先生が揃ったのを確認し、アヤネ先輩が進行役を務める会議が始まる。
「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思うのですが…」
「は〜い☆」
「もちろん。」
「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない…。」
「ぶりーふぃんぐにさんか。ひさしぶりですね。」
『RaDの会議は会議と言えるようなものじゃなかったからな。楽しみだ。』
「うへ、よろしくねー、先生。」
"よろしくね。"
皆の挨拶が終わると、アヤネ先輩が手元の資料を見ながら改めて話し始める。
「本日は、非常に重要な問題…「学校の負債をどう返済するか」について、具体的な方法を議論します。」
「ご意見のある方は、挙手をお願いします!」
「はい!はい!」
1番に手を上げたのは、セリカ先輩だ。
自信満々だ。期待できる。
「はい、1年の黒見さん。お願いします。」
「…あのさ、まず名字で呼ぶの、やめない?ぎこちないんだけど。」
そういえば、この中で名字まで呼ぶのはチャティだけだ。
皆、仲が良い証拠で良いと思うが、アヤネ先輩はあくまで会議としての体を大切にしたいようだ。
「いいじゃーん、おカタ〜イ感じで。それに今日は珍しく、先生もいるんだし。」
「珍しくというより、初めて。」
「ですよね!委員会っぽくてイイと思いま〜す☆」
「おかたい、ふんいき。りょうかいです。おくそら、あやねせんぱい。」
「…ま、先輩たちがそう言うなら…。」
あまり納得していないようだが、この程度でいちいち止まっていては埒があかないと思ったのかセリカ先輩は発言を開始する。
「…とにかく!対策委員会の会計担当としては、現在我が校の財政状況は破産の寸前としか言いようがないわっ!」
「このままじゃ廃校だよ!みんな、わかってるよね?」
セリカ先輩の発言に、その場にいる全員が頷く。
「これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情を解決したり、ボランティアするだけじゃ限界があるわ。何かこう、でっかく1発狙わないと!」
セリカさんの発言に、一瞬、ウォルターの言葉が脳裏をよぎる。
『この惑星でコーラルを手にすれば…お前のような、脳を焼かれた独立傭兵でも、人生を買い戻すだけの大金を得られるはずだ。』
だが、このアビドスにコーラルはない。あったとしても、私が残らず焼いてやる。
ともかく、大きな収入源がいるということには賛成だ。
果たして、セリカ先輩はどのような解決策を持ってきてくれているのだろうか?
「でっかく…って、例えば?」
「これこれ!街で配ってたチラシ!」
セリカ先輩は興奮した目つきで一枚のチラシを取り出して見せてくる。
その内容は、
「『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』…ねぇ…?」
「そうっ!これでガッポガッポ稼ごうよ!」
「……。」
なるほど、ブレスレットを買うと、お金が手に入るようになるのか。
意味不明だ。
そんなもので稼げるなら、誰も労働なんてするわけがない。
セリカ先輩は説明会に行った話や運気が上がるなどの話を熱心に続けるが、皆が憐れむような視線を向けている事に気づく。
「…みんな、どうしたの?」
「却下ー。」
「セリカちゃん…それ、マルチ商法だから…。」
「儲かるわけない。」
「へっ!?」
「そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるのかな…」
『無いな。何の関連性もない。』
「そ、そうなの?私、2個も買っちゃったんだけど!?」
「セリカちゃん、騙されちゃいましたね。可愛いです☆」
セリカ先輩は大きく崩れ落ち地面に手をつき落ち込む。
どうやら、本気で信じていたようだ。
私も、一応気をつける事にしよう。
セリカ先輩にチラシを配った奴らに贈り物を贈ろうかとも思ったが、流石に街でやったら迷惑になるのでやめておく事にする。
「まったく、セリカちゃんは世間知らずだねー。」
「…気をつけないと、悪い大人に騙されて、人生取り返しのつかないことになっちゃうかもよー?」
「そうですね。わるいおとなには、きをつけましょう。」
「そんなぁ…せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのに…。」
一番借金返済に取り組んでいるであろうセリカ先輩だが、せっかく稼いだお金を詐欺に取られては元も子もない。
落ち込むセリカ先輩をノノミ先輩が宥め、
とりあえず、会議を進行させる事にする。
その後も、多数の意見が出た。
ホシノ先輩はスクールバスジャックによる生徒数増員によるアビドス高校の力の復興。
これは他校との衝突が懸念される為、却下された。
次は、シロコ先輩による銀行襲撃計画。
ターゲットの選定、金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートの把握、素性を隠すための覆面まで用意されていたが、犯罪行為である為却下された。
次は、ノノミ先輩によるスクールアイドル計画。
学校を復興する定番の方法と言っていたが、ホシノ先輩の一言で却下された。
先輩たちは皆、魅力的な外見をしているのでなかなか良い案だとは思うが、見せ物にされるのは、私も嫌だ。
あと、水着少女団という名前も、あまり笑えない。
「あのう…議論がなかなか進まないんですけど、そろそろ結論を…。」
「それは先生に任せちゃおう〜。先生、これまでの意見で、やるならどれがいい?」
「あれ、あの、わたしのいけんがまだ」
「えっ!?これまでの意見から選ぶんですか!?もう少しまともな意見を出してからの方がいいのでは!?」
「大丈夫だよー。先生が選んだものなら、間違いないって。」
先生は深く考え込んでいる。
当然だ、どれもこれも、まともな意見では…
"そうだね…この中から選ぶなら、比較的筋が通っているバスジャックによる生徒数の増員、かな。"
「よし、決まりー!それじゃあ出発だー!」
「ホントに?これでいいの?」
まさかの、乗り気だ。
アヤネ先輩と私以外の全員が、早速ゲヘナ学園のバスをジャックしに出かけようとした時、アヤネ先輩が爆発した。
「いいわけないじゃないですかぁ!!」
ガッシャーン!と机を持ち上げ、上に乗っていたものをあたりにぶちまける。
普段のアヤネ先輩からは想像できない荒々しさだ。
よほど耐えかねたのだろう。
「いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って!!」
アヤネ先輩の圧力に、私とチャティ以外の全員が圧倒され大人しくなる。
アヤネ先輩のお説教がひと段落したあたりで、改めて挙手をする。
「あの、わたし、まだいけんだしてません。」
「はぁ…はぁ…1年の、黒羽レイヴンさん。どうぞ…ふざけた内容だったら、お説教の仲間入りですからね。」
「は、はい。たぶん、だいじょうぶだと、おもいます。」
アヤネ先輩に当てられ、私は席を立ち発言をする。
「まず、わたしは、せりかさんのようにあるばいとにさんかすることが、できません。」
「りれきしょにかくものがないのもそうですが、このしゃべりかたでは、あまりいいいんしょうをあたえられるとは、おもえません。」
やや自虐が過ぎるかもしれないが、だからこそ、結果さえ出せれば良いこの仕事が、私には向いている。
「そこで、わたしは、どくりつようへいとして、きぎょうしようとおもいます。」
「…独立傭兵?」
「うへ、危なそー。でも、確かにレイヴンちゃんくらい強い傭兵なら儲かりそうだね。」
「なるほど。アルバイトじゃなくて、起業。」
「学生が起こす事業としてはかなり物騒ですが、その、大丈夫なんですか?」
「だいじょうぶです。ふくざつなことは、ぜんぶちゃてぃが、やってくれます。」
『俺は元々企業の経営者の補佐をするAIだ。システム担当やその他の戦闘以外の業務は任せてくれ。』
危険な仕事であることは間違い無いだろう。
だが、ここはキヴォトス。滅多なことでは死にはしないだろう。
それに私はまだ、戦うことしかできない。
「はじめは、あまりかせげないかもしれませんが、ながうれれば、きっと、こうがくなほうしゅうのいらいもきます。」
「レイヴンさん…」
アヤネ先輩が、私の手を取る。
一体どうしたのだろうか、ひどく震えている。
「ようやくまともな意見を出してくれて、ありがとうございます…。」
まともなハードルが随分下がっていると思うが、どうやら、採用されたらしい。
とにかく、採用されたからには依頼を成功させて、早く実績を作って、アヤネ先輩の期待に応えなくては。
「えーと…じゃ、会議はこれで終わりかなー。」
"レイヴン、気をつけてね。何かあったら、すぐに連絡してね。"
「だいじょうぶですよ。まえいたばしょでも、にたようなことを…なんでも、ないです。」
「時間もちょうどいいし、みんなで柴関ラーメン行こうよ。」
「時間?…あっ!?マズい!!バイトに遅刻しちゃう!!私、先に行ってるから!!」
予想以上に会議が伸びてしまい、ちょうどお昼時になる。
柴関ラーメンの看板娘でもあるセリカ先輩は慌てて教室から飛び出して行った。
「まぁ、私たちはゆっくり行こうかー。」
「こんどは、しおを、ためしてみます。」
「ん、いい選択だね。」
柴関ラーメン店内
「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」
「怒ってません…。」
まともな意見を出さなかった先輩たちにご立腹なアヤネ先輩の機嫌を取るように、ノノミ先輩が口を拭いてあげたり、シロコ先輩がチャーシューを分けてあげたりしている。
私はそれを隣の席で塩味のラーメンを啜りながら眺めていた。
シンプル、だがそれがいい。
まるでベイラム・インダストリーの製品のような安定感だ。
そう思いながら食事を進めていると、店のドアが開けられ、紫髪が特徴の、ショットガンを携えた生徒が入ってくる。
「あ…あのう…。」
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
セリカ先輩の挨拶にその子は一瞬ビクッとするが、その後別の質問を続ける。
「…こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「一番安いのは、580円の柴関ラーメンです!看板メニューなんで、美味しいですよ!」
その生徒は、値段を聞くと目を輝かせて、お礼を言って一旦店を出て行った。
その後、すぐに彼女の仲間と思わしき生徒達が入ってきた。
「えへへ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」
「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ。」
「そ、そうでしたか、さすが社長、何でもご存じですね…。」
「はぁ…。」
随分と、個性的な4人組だ。
「4名様ですか?お席にご案内しますね。」
「んーん、どうせ1杯しか頼まないし大丈夫。」
4人なのに、1杯?数学は得意ではないが、数があってないのは分かる。
どういうことだろう。
「一杯だけ…?でも、どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし。」
「おー、親切な店員さんだね!ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。」
「…あ、わがままのついでに、箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん。」
「えっ?4膳ですか?ま、まさか1杯を4人で分け合うつもり?」
なるほど、そういう食べ方もあるのか。
面白いな。
素直に感心していると、初めに入ってきた紫髪の子が動転した様子で何度も頭を下げ始める。
「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!!お金がなくてすみません!!」
「い、いや…その、別にそう謝らなくても…。」
「いいえ!お金がないのは首がないのも同じ!生きる資格なんてないです!虫けらにも劣る存在なのです!虫けら以下ですみません…!」
携えたショットガンの銃口を自分の頭に擦り付け引き金を引こうとしたが、彼女の仲間であろう白と黒の髪が混ざっているのが特徴の子が制止する。
「はぁ…ちょっと声でかいよ、ハルカ。周りに迷惑…。」
少し落ち着いた様子の紫髪の子に、セリカ先輩も励ましの言葉をかけている。
お金がないのは、私たちアビドス高校生も同じだ。
だからこそ、共感できるのだろう。
通された席で彼女たちは雑談を始める。
詳しくは聞こえないが、どうやら大きな仕事の前らしい。
私も、チャティが見つけてきてくれたばら撒き依頼の仕事がある。
お互い、上手く行くことを祈ろう。
私はラーメンを食べ終え、席を立とうとした寸前で、彼女達にラーメンが届く。
「はい、お待たせいたしました!お熱いのでお気をつけて!」
ダンッ!と見たことのない盛られ方をした超大盛りのラーメンが出される。
私がメニュー表を見て挑もうとして、皆に止められた商品だ。
「こ、これはオーダーミスなのでは?こんなの食べるお金、ありませんよう…。」
「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並!ですよね、大将?」
「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ。」
あのしっかり者の大将が、こんなミスをするなんて、珍しい。
彼女達はよほど運が良いのだろう。
あと、皆が止めてくれてよかった。
そう思いながら、今度こそ席を立つ。
「ごちそうさまでした。たいしょう。またきます。そこのひとたちも、おしごと、うまくいくといいですね。」
「おう、今度は醤油を試すといい。体に気をつけてな!」
「ありゃ、レイヴンちゃん相変わらず食べるの早いね。」
「ん、お仕事、頑張って。」
「あら、貴方もこの後仕事があるの?お互いがんばりましょう!!」
「が、が、頑張って、ください…。」
皆に見送られながら、依頼者の指定した場所へ移動する。
そこには私以外にもたくさんの傭兵が揃い、暇そうに時間を潰していた。
これほどの傭兵を一度に雇えるとは、雇用主はかなりの財力の持ち主らしい…の割には、報酬はあまり多くないが。
まぁ、名指しでない依頼ならこの程度のものだろう。
私は素性を隠すために道中で購入したフード付きのパーカーを羽織り、おまけでもらった防弾チョッキを装備し、ライフルとパルスブレードに偽装用の布を巻く。
独立傭兵は、恨みを買いやすい。
アビドスの皆に、迷惑がかからないようにしなくては。
今日は良い日だ。
相変わらず不良の喧嘩の後始末や、猫探しの依頼ばかりが来ていたところに、大企業からの大口の依頼が入った。
内容は、アビドス高等学校の生徒の排除。
人数はたったの6名。
ただ、この辺りではそこそこ有名なカタカタヘルメット団がこの6人を相手に苦戦し、
ついには本拠地を丸ごと吹き飛ばされ敗北したらしい。
いくら用心しても足りない相手だろう。
その為、私は便利屋68の全財産を使って傭兵を雇うことにした。
特に指定はなく、こちらの資産が尽きるまで参加してくれる傭兵を募った。
その結果まさか残金が600円しか残らなかったのは想定外だったが、幸運にも600円以下の飲食店を見つけることができた上、その店の大将の粋な計らいで4人でも食べ切れるか不安な量のラーメンを食べさせてもらった。
しかも、とても美味しかった!!
さらに、この店の常連の生徒達とも仲良くなることができた!
便利屋という仕事は、人との繋がりがとても大切だ。
きっとこの縁が、いつか私たち便利屋68にとって利益になることだろう。
「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、上手くいきますように!」
「貴方達も学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!」
最高にいい気分のまま、店を出る。
彼女達もお金がない中、母校を守る為に頑張っている。
私も、会社の為に、社員の為に頑張るとしよう。
雇った傭兵達との合流地点へ向かう途中で、カヨコは面倒臭そうな表情で、ムツキは何やら面白いことがあるような表情で肩を寄せてきた。
「社長。…あの子たちの制服、気づいた?」
「えっ?制服?何が?」
「アビドスだよ、あいつら。」
アビドス?なぜ今回の依頼の対象の名前が?
最初は意味がわからなかったが、私の頭の中でバラバラの情報が組み合わさっていく。
「なななな、なっ、何ですってーー!!?」
あんなに良くしてくれた子達を、排除するという依頼を、私は受けてしまっていたのだ。
「あははは、その反応うけるー。」
「…本当に全然気づいてなかったのか…。」
「わ、私が始末してきましょうかっ!?」
「どうせもうちょっとしたら攻撃を仕掛けるんだし、その時暴れよっ、ハルカちゃん。」
先ほどまでの晴れやかだった気分が一転、どん底まで落ちる。
きっとあの超盛りのラーメンも、大将の粋な性格もあるだろうが、黒髪のあの子の口添えで増やしてもらったに違いない。
そんな一飯の恩のある相手を、今から襲わなければいけない…
「う、うそでしょ…何という運命の悪戯…。」
落ち込む私に社員たちがそれぞれ声をかけてくる。
それでも決心がつかない私に、ムツキが発破をかけてくれた。
「『情け無用、お金さえもらえればなんでもやります』がうちのモットーでしょ?今更何を悩んでるの?」
「そ、そうだけど…。」
そうだ、その通りだ。
私たち便利屋68は、お金さえもらえれば何でもする。
私が目指す、何にも縛られない、自由なアウトローである為に!!
「…行くわよ!バイトを集めて!」
誰かの命令でもなく、課せられた義務でもなく、受け継がされた使命でもなく、ただ一つ、報酬の為に働く。
それが、便利屋68だ。
私は覚悟を決め、雇った傭兵たちとの集合場所に、改めて歩み始めた。
アビドス自治区
商店街近郊
「なぁなぁ、今回は全力で良いんだよなぁ!?」
「いや…弾代はこっち持ちだ。あまり撃ちすぎるな。」
「んだよぉ…給料も少ねぇし、今回はハズレだな。」
「この給料じゃ、今夜はたぬきそば単体かぁ…」
総勢20名ほどの傭兵たちが駄弁りながら時間を潰している。
約束の時間はとっくに過ぎているが、まだ依頼主は現れない。
私も暇を潰すべく、周囲を観察する。
今回は仲間だが、いずれ商売敵として敵対することになる人達だ。
よく見ると、皆同じ格好をしている。
安全第一のヘルメットに、作業用のツナギ。
…明らかに、私の格好は浮いている。
もう少し馴染みやすい格好になるべきだったか…いや、私は少しでも名を売らなければない状況。むしろ一人だけ格好が違うのは好都合…などと考えていると、傭兵たちが雑談を止め、静かになり始める。
どうやら、依頼主が来たようだ。
私は、現れた依頼主にびっくりする。
さっき柴関ラーメンで出会った、幸運な4人組だ。
大仕事の前、とは確かに言っていたが、まさかその大仕事に関わることができるとは。
てっきり木端な仕事だと思っていたが、期待できる。
「なんだよ〜、遅かったじゃん。」
「少し野暮用よ。準備はできてるわね?」
「もちろん。残業はナシでね。時給も値切られてるし。」
やはり、かなり無理してこの人数を雇っているらしい。
だがこれほど揃っていれば余程のことがなければ失敗はないだろう。
実績作りには、丁度いい。
「細かいことは今は置いておいて!さぁ、行きましょう!」
傭兵の全員が立ち上がり、銃のチェックを始める。
私も改めてフードを深く被り、気合を入れ直す。
「アビドスを襲撃するわよ!」
「出動〜!」
「はぁ……。」
「アル様!わっ、私、頑張りますから!」
……………えっ?
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
が、今の私は雇われの身。
それも初仕事。
ここで暴れても構わないが、柴関ラーメンで出会ったあの4人からは、今まで相手にしてきた人達とは違う風格を感じる。
2人までならなんとかなりそうだが、4人は流石に厳しそうだ。
今は、まだ行動を起こすべきではない。
私はアヤネ先輩に送るメールの下書きをこっそりと書き終えると、私の母校であるアビドス高校へ向かう集団に合流した。
「アビドス?…ああ、例の時代遅れか。」
「侮るな、優秀な戦士達と聞いている。」
「そうですよ。とっても、つよいんですから。」
「?、なんでそんな誇らしげなの?」
雑談をしながら進軍していると、校舎へ辿り着く前に、私たちの接近を察知したらしい先輩達が現れた。
「あれ…ラーメン屋さんの…?」
「誰かと思えばあんた達だったのね!!ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ。」
「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす。」
「…なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ。」
便利屋?…まさか、チャティが見つけてくれたあのホームページの主は、私の雇用主なのか?
そういえば、この依頼を見つけてきてくれたチャティは今どうしているだろうか?
この依頼は、ちゃんと私も確認していたので強くは言えないが、まさかよりによって先輩達を敵に回すことになるとは思ってもいなかった。
これからは、具体的な内容が欠如している依頼は調べてから受けることにしよう。
「もう!学生なら、他にもっと健全なアルバイトがあるでしょう?」
「ちょっ、アルバイトじゃないわ!れっきとしたビジネスなの!肩書きだってあるんだから!」
そういうと自分達の役職を解説しだした。
一目でリーダーとわかる風格の赤髪の子が「社長」。
赤い制服と、大きめなバッグが特徴の子が「室長」。
黒い髪と白い髪のツートーンが特徴の子が「課長」。
最初にラーメン屋に入ってきた、紫の髪の子が「平社員」らしい。
なんとも少数精鋭な企業だ。
その後もしばらく問答が続いたが、遂に戦闘が始まる。
社長の号令と同時に傭兵が走り出す。
幸い遮蔽物が山ほどある市街地だ。
戦い慣れた土地なのもあって、圧倒的な人数差があるのにも関わらず、戦況は膠着状態に陥る。
けれど、やはり数の差は大きい。少しずつだが便利屋側の方が押している。
だが傭兵達の方も、割に合わない仕事に不満気な顔をしている。
頃合いだ。
私は遮蔽物に隠れスマートフォンを取り出し、後方支援をしているアヤネ先輩に電話をする。
『れ、レイヴンちゃん!?どこにいますか!?今、便利屋と傭兵集団を皆で迎撃しているところで…』
「だいじょうぶです。はあくしています。
さくをよういしました。めーるでおくります。つかってみてください。」
『策を?…これは…ほんとに、これでどうにかなるんですか?』
「だいじょうぶです。なんとかなると、おもいます。」
しばらくすると、私も付けている傭兵達の間で連絡が取れるように配られたインカムに雑音が入る。
『…暗号通信に切り替え。奥空アヤネ。舞台は整えた。あとは頼む。』
『は、はい!ありがとうございます。チャティさん。』
「な、なんだ!?」
「通信に割り込み…?どういうことだ!?」
傭兵達の間に動揺が走る。
ここに来る前の私の記憶。
ルビコン3でのある出来事。
ベイラムからの依頼で、ベイラム専属AC部隊「レッドガン」と協力してルビコン解放戦線のライフライン、ガリア多重ダムを襲撃していた時の出来事だ。
解放戦線は、企業所属ではない私に目をつけ、倍の報酬で裏切るよう提案してきた。
この仕事はウォルターの友人であるミシガン総長からの仕事でもあり、つまり裏切ればウォルターの信用に傷が付くと判断した私はその提案を蹴ったが、今この状況ではどうだろうか?
渋られた報酬、割に合わない相手、不満な仕事。
一日の稼ぎが、生活に直結する彼女達なら、どうするだろうか?
『傭兵のみなさん!こちらはアビドス対策委員会です!』
「アビドス?今戦ってる奴らから?」
「一体なんのつもりで…?」
『単刀直入に言います!私たちにつき、便利屋4名を排除してください!
報酬は、便利屋提示の2倍!!
えっと…色良い返事を、期待します!』
銃声が、ぴたりと止む。
暗号通信は私たち傭兵達にしか聞こえていないため、急に戦闘が止まったことに便利屋の4人は戸惑っている。
「…どうする?」
「弾代は?あっちが持ってくれるのか?」
「終わったら相談してみよう。もしかしたら、持ってくれるかもしれん。」
「倍になったら…おそば、大盛りにして、天ぷらも追加して…」
予想通りの結果だ。
私はゆっくりと後退し、便利屋達のそばに近づく。
「貴方達?一体どうしたの?」
「悪いね、新しい仕事が入っちゃった。」
「新しい仕事?まだ、定時には…」
アビドスに倒された3名と私を除く傭兵が振り向き、便利屋達に向けて発砲する。
私は社長の体を引っ張り、近くの遮蔽物へ身を隠す。
銃弾の雨が降り注ぐ中、他の便利屋のメンバーも集まってくる。
「ど、どういうことよ!?」
「……多分、アビドスの連中が、傭兵達を雇い直した。」
「こりゃヤバいね。まさか給料をギリギリまで値切ったのが裏目に出るなんて…どうする?逃げる?」
「あ……うう……。」
「てったいしますか?」
「あ、アル様のご命令であれば、わ、私がここに残って敵諸共自爆してきます!!」
社長はしばらく悩んだあと、撤退することを決めたようだ。
「これで終わったと思わないことね!アビドス!!」
「あはは、アルちゃん、完全に三流悪役のセリフじゃんそれ。」
「うるさい!逃げ……じゃなくて、退却するわよ!」
便利屋は捨て台詞を吐くと同時に市街地の路地裏へ駆け出す。
私もそれに合わせて一緒に逃げ出す。
なかなかの逃げ足の速さだ。
背後からは2倍の報酬に目を輝かせた傭兵達が追跡してくる。
1時間ほど逃げたところで、狭い通路内で、挟み撃ちにされる。
「…回り込まれたですって!?」
「あはは、だいぶマズい状況だね。」
「やられたね。ここまで誘い込まれたみたいだ。」
「あ、あ、ど、どうしましょう…。」
「めいれいさえくれれば、いつでもつっこみますよ。」
逃げ道を塞ぐことに成功した傭兵達は、余裕ぶってゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「手こずらせやがって…今時便利屋なんぞ、流行らないんだよ!」
「アウトロー気取りもここまでだな!!」
「貧乏人には、水底が似合いさ。…ぐあっ!?」
正面から近づいてきた傭兵の顔面にショットガンが叩き込まれる。
「い、い、今、アル様の事を、なんて言いましたか!?貧乏人!!?貴方如きがアル様の悪口を言うなんて許せない許せない許せない許せない…」
「あはは、始まっちゃった。どうする?アルちゃん。」
「決まってるでしょう…私たちを裏切った代償、払ってもらうわよ!!」
「りょうかいです。」
「はぁ…こうなるなら初めから雇わなければ…。」
狭い通路の中で銃撃戦が起こる。
すでに前に出ている…確か、ハルカという名前だった。
その子の支援をするため私も前に出る。
「死んでください死んでください死んでください!!」
「なんだこいつ!!」
「弾当たってんのに止まらねぇ…ぎゃあっ!!」
ハルカは正面から弾を受けながら、それを意に介さないように突っ込み続けている。
見かけによらず、かなりタフらしい。
私も彼女に負けないよう、全力で敵に飛び蹴りを喰らわせる。
背後では社長と室長と課長が反対方向の傭兵達を迎撃している。
やはり、彼女達は相当の実力を持っている。
これなら、傭兵を雇う必要はなかったのではないだろうか?
数分後、傭兵達の殲滅に成功する。
これで、アビドスは傭兵達に2倍の報酬を払わなくて済む。
「お疲れ様。片付いたわね。」
「アル様!!この人達、どうしましょう。海に沈めますか?」
「このまま放っておきなさい。…ああ、けれど、払った報酬は返してもらいましょう。」
「はい!!」
指示を聞くと、ハルカは気絶している傭兵達の身包みを剥ぎ始める。
私は改めてフードを深く被り、雇い主である社長に近づく。
「おつかれさま、でした。」
「ああ、お疲れ様。…貴方は、裏切らなかったのね。」
「はい。まぁ、いちどうけたしごとですから。」
「へぇ〜。お真面目さんなんだね。」
「はぁ…皆、貴方のような傭兵なら助かるのに。」
「アル様!!渡していたお金の回収!出来ました!」
「ちょうど良かった。ハルカ、そのお金、そのままこの子に渡してあげて。」
「えっ?良いんですか?…あ、いえ、口答えするつもりは、はい、わかりました。…どうぞ。」
私に17枚分のお金が入った封筒が渡される。
「いいんですか?こんなに、もらってしまって。」
「当然よ。貴方は私達の事を裏切らなかった。特別手当よ。受け取りなさい。」
「あはは、アルちゃんかっこいいー!…明日の朝ごはんどうするのか気になるけどね。」
「ふふふ…明日は明日の風が吹く。今考えていてもしょうがないわ。」
「…つまり、ノープランってことだね。はぁ…。」
「と、とにかく今日の仕事は終わりよ!とりあえず帰って次の作戦を…そういえば、貴方。名前は?」
私は、ルビコンの時に借りていた名義であるレイヴンは今は私の名前になってしまったので、彼のもう一つの名前を借りることにする。
「わたしは、どくりつようへい。ないとふぉーるです。」
「独立傭兵?あまり聞いたことないけど…」
「ほうしゅうとひきかえに、あらゆるいらいをすいこうする、こじんのようへいです。」
「あは!私たちと同業ってことじゃん!これからよろしく!あれ?それとも商売敵?」
「ど、ど、どうしますか?ここで、ライバルは減らしておいた方がいいですよね?社長…?」
「あらゆる依頼を遂行…ナイトフォール…夕暮れ時…夜をもたらすもの…」
社長はなにやら恍惚とした表情で独り言を言ったあと、私の手を掴んできた。
「カッコいいわ!!貴方も、私と同じアウトローを目指してるのね!」
「え、あ、まぁ、はい…。」
話が見えてこないが、まぁ、好印象を与えられたのなら、十分だ。
ほんの小遣い稼ぎにしかならないと思っていたが、結果的には17人分の報酬が私1人のものになったので、悪くない。
「連絡先!!交換しましょう!私達きっと良い友人になれるわ!!」
「あ、じゃあ私も〜。」
「私も、一応ね。同じ仕事で被らないようにしたいから。」
「あ、あの、私も…あ、いや、やっぱり私は…」
「…かまいませんよ。よろしくおねがいします。べんりやさん。」
お互いに連絡先を交換し、別れる。
初仕事にしては、報酬は沢山。皆、喜んでくれるだろうか?
マナーモードにしていたので気付かなかったが、アビドスの皆から私を心配するメールがいくつか届いている。
早く帰って、安心させてあげなければ。
私は、家でもあるアビドス高校に走り出した。
「色々あったけれど、素敵な出会いができて良かったわ!!同じアウトローを目指す同志にも会えるなんて!!」
まさか、私と同じ自由で危険なアウトローを目指す仲間に会えるとは思っていなかった。
これだけでも、このアビドスに来て良かったと思える。
そう考えていると、カヨコとムツキがもらった連絡先を見て怪訝な顔をしている。
「ねぇ…あの子、ナイトフォールって名乗ってたよね?」
「ええ!とってもイカす名前よね!!」
「…黒羽レイヴン…ちょっと待って…」
「どうしたの?カヨコ。」
「…社長、今回のターゲットのアビドスのメンバー。覚えてる?」
「もちろんよ!小鳥遊ホシノ、十六夜ノノミ、砂狼シロコ、黒見セリカ、奥空アヤネ、黒羽レイヴン。それがどうしたの?」
「はぁ…。」
カヨコはスマートフォンの画面をこちらに見せてくる。
先程交換した連絡先には、「ナイトフォール」という名ではなく「黒羽レイヴン」と書かれていた。
黒羽レイヴン?なぜか最近口にした覚えが…………
「ななななな、なんですってーーー!!?」
「え、あの子、アビドス高校の子なのに、うちらに着いてたの?」
「や、や、やっぱり、今度会ったら撃ったほうが、いいですよね?」
「はぁ…どういうつもりかはわからないけど、次は敵として会うことになるかもね。」
独立傭兵ナイトフォール、普通に身バレする。
最後までお読みいただきありがとうございます。
お楽しみ頂けたでしょうか?
さて、目覚ましチャティくんがほんとに発売されないかなと思う今日この頃、お気に入り数2277件(2024/2/26現在)ありがとうございます!
感想もここすきも、毎回読ませて頂いています!
独立傭兵の名前は色々考えました。
便利屋621(シックストゥーワン)とかやりたかったんですが、621と呼ぶのはウォルターだけなのが良いので却下になりました。
また次回、頭の中から妄想が溢れたら書き留めます。
皆様も、妄想が止まらなくなったら書いてみてください。
妄想を書き留めたら、すっきり眠れるだろうよ…!!(イグアス風味)