Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン   作:sepa0

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私の頭から妄想が溢れてきたので書き留めました。
段々と文字数が増えていく様はまさにコーラル。
楽しんでいただけると、とても嬉しいです。


第7話 ブラックマーケット調査

「……遅いですね。」

 

私は焦っていた。

便利屋と傭兵集団による襲撃を退けたあと、しばらくしてからレイヴンちゃんから仕事が終わったとのメールが入った。

しかし、既に時刻は18:00過ぎ。

先生はレイヴンちゃんの帰りを待つつもりだったが、シャーレのオフィスに蓄積した書類が限界との連絡を受け、渋々帰っていった。

メールが入ってから1時間は経過している。

一体、どこまで行っているのか。

仕事の内容は、守秘義務として教えてくれなかったので、大まかな位置すらもわからない。

アビドス自治区はとにかく広い。帰り道がわからなくなってしまったのだろうか。

はたまた、セリカちゃんの時のように、一人のところを狙われて誘拐されているのではないだろうか…

それに、一時の危機を乗り越えられたとはいえ、約束通り傭兵に払うお金も用意しなければならない。

だというのに、他の皆は何も問題がないかのように、セリカちゃんは本を読んでいて、ノノミ先輩の膝枕でホシノ先輩が寝ていて、シロコ先輩は愛用の自転車を磨いてレイヴンちゃんの帰りを待っている。

ずっとソワソワしている私に、ホシノ先輩がふわふわした感じで話しかけてくる。

 

「どしたのアヤネちゃん。便利屋は撃退できたんだから、もうリラックスして良いんだよ〜?」

「…ホシノ先輩も、皆も、心配じゃないんですか?」

「心配? なにが?」

「レイヴンちゃんのことですよ!! 初めてのお仕事で、帰り道がわからなくなってたり、また、セリカちゃんみたいに誘拐されてたりするかもしれないじゃないですか…!!」

「それに、傭兵達に払うお金だって、金額次第じゃ、今月分の利息が払えないかもしれません…!!」

 

私の意見を聞いても、他の皆はポカンとしたままだ。

流石に、この反応はあんまりすぎる。

私の怒りが爆発する寸前に、ホシノ先輩が何か察したような表情をして、納得したように手をポンッと叩く。

 

「そっか、アヤネちゃんは見てないのか。」

「あ…そういえば、そうね。」

「? なにを、見てないんです?」

「ん…言っていいのかな、これ。」

「いいんじゃないでしょうか。レイヴンちゃんには秘密で☆」

「一体なんの話を…」

「いやぁ…今回、便利屋は傭兵をたくさん雇ってたじゃない?」

「そうですね。明らかに過剰戦力で、レイヴンちゃんのあの策が無ければ、どうなっていたことか…」

 

あの時、レイヴンちゃんが提案してくれた策。

2倍の報酬で傭兵達を雇い直すという手段は、思いつきもしなかった。

レイヴンちゃんは、一体どこであんな手法を学んだのだろう?

 

「その傭兵の中にさ…レイヴンちゃんが混じってたんだよね〜。」

「え……?」

「うんうん、本人は隠してるつもりかもしれないけどね。」

「…あんな大口径で銃身も長いのに、ストックが付いてないおかしなライフルなんて、扱えるのはきっとこの広いキヴォトスでもレイヴンだけだと思う。」

「フードを深くかぶって、防弾チョッキもつけてて…なんだか、とっても頼りになりそうな見た目でしたね。」

「え…ええっ!? じゃ、じゃあなんで傭兵達が裏切った時に、一緒にこっちに来なかったんですか!?」

 

私の疑問に、ホシノ先輩は少しだけ考えたあと、答えてくれた。

 

「多分…便利屋側について、傭兵達の仕事が『成功』しないようにしたかったんだと思う。こっちが2倍の報酬を払わずに済むようにね。」

「え…自分で裏切るように仕向けておいて、ですか?」

「そこまで考えてなかったけど…え? レイヴンちゃんってそんな事するような子だっけ!?」

「ん…レイヴン、恐ろしい子。」

「うーん…セリカちゃんが誘拐された時に、お仕置きとしてあんなもの(耳鳴り砲)を持ち出すくらい、思い切りがいい子ですからね…。」

「そ、そこまで計算していたんですか?」

「もっと言えば、傭兵達が裏切らなかった時のパターンも考えてたと思うよ。」

 

ホシノ先輩は、珍しく真剣な表情で話を続ける。

 

「もし、あの傭兵達が利益よりも信頼を優先して、取引に応じなかった場合、レイヴンちゃんは2倍の報酬を口実に、こちら側についた。」

「そうすれば、私達アビドス対策委員会はめでたく全員集合。レイヴンちゃんの位置的に不意打ちなり挟み撃ちなりが出来るだろうし、多少手こずりはするだろうけど、撃退は出来るでしょ。」

「なるほど…。」

「…どっちに転んでも、良いようにしてたんですね。」

「どのみちあの傭兵団を、レイヴンちゃんは踏み台にするつもりだった。20人傭兵を雇うより、私1人を雇った方がお得ですよ〜ってアピールする為にね。」

 

私のレイヴンちゃんに対する認識が、少し変わる。

ちょっと抜けてて、常識が足りてなくて、けれど頑張り屋さんで、どこか憎めない子。

独立傭兵として起業すると言った時も、チャティさんが補佐するとはいえ、本当にできるのかと心配していた。

けれど、私が思っていたよりレイヴンちゃんは、ずっと、なんというか、慣れている。

 

「なんだか、大人のやり口みたいですね。

…一体、誰に教わったんでしょうか。」

「さぁ…レイヴンちゃんの過去はとびっきり謎に包まれてるからね〜。」

 

ホシノ先輩は、一瞬心当たりがあるような表情をしたが、すぐにいつものふにゃふにゃした表情に戻った。

確かに、ここまでやるレイヴンちゃんが、道に迷ったり、誘拐に遭うとは思えない。

私も少し、安心する。

 

「それにさ、レイヴンちゃんに何かあったら、きっとチャティが知らせてくれるよ。」

「ん、チャティ。レイヴンは今どの辺りにいるのかな。」

『ビジターの反応は、今こちらに向かっている。電車やバスを利用すれば30分前には到着していたが、どうやら1人ではまだ使う自信がないらしい。あと15分もすれば到着するだろう。』

「ね?だからアヤネちゃんものーんびりして待ってようよ。」

「…そうですね。」

 

私も、余計な心配はしないようにしよう。

空いている椅子に座り、お茶とお菓子を摘む。

チャティさんの予想通り、15分程度した頃、廊下に足音が響く。

こつん、こつん、と響いていた足音がドアの前でぴたりと止み、何か服を脱ぐ音と、バッグのチャックが開かれ、何かをしまうような音と、レイヴンちゃんの

 

「あれ、おもったより、はいらない。」

 

という声が聞こえる。

多分、先輩達が言っていたフード付きのパーカーと、防弾チョッキの事だろう。

確かに、やり方は容赦ないかもしれないけれど、やっぱりレイヴンちゃんは、どこか抜けている憎めない子だ。

皆もレイヴンちゃんの尊厳を守る為、必死に教室の扉から目を背けている。

きっと今、扉を開けてしまえば、変装道具をしまうことに四苦八苦しているレイヴンちゃんを見ることになってしまうだろう。

さらに5分ほどバッグと格闘する声が聞こえたあと、ようやく教室の扉が開かれる。

 

「ただいま、もどりました。」

「ん、おかえり。」

「おかえり!」

「おかえりなさい☆」

「お疲れ様でした。レイヴンちゃん。」

「戻りが遅いよ〜レイヴンちゃん。心配しちゃったよ。」

 

ホシノ先輩の言葉に、レイヴンちゃんはキョトンとする。

 

「…すみません。でも、まだながうれたようへいには、なっていませんよ?」

「うへぇ、そうじゃなくて、こんな時間までお外にレイヴンちゃんみたいな小さくて可愛い子がお外に出てちゃダメってことだよ〜。」

『ビジター。バスや電車は、積極的に利用することを推奨する。時間は有効に使うべきだ。』

「…だって、どれにのればいいのか、わからない。」

「うふふ、今度、一緒に勉強しましょうね。」

「ていうか、スマホに入ってるナビアプリを使えば良いんじゃないの?」

「でも、これ、とほのるーとしかでませんよ?」

「それは、徒歩のルートでしか検索していないからでは? …ほら、横にスワイプすれば、電車やバスのルートも検索できますよ?」

「…わ、ほんとうですね。ありがとうございます、あやねせんぱい。」

 

その後、レイヴンちゃんから18枚のお金の入った封筒を受け取る。

初仕事のお給料とのことだ。

ちょうど、こちら側についた傭兵の人数と、レイヴンちゃんを足した数に一致していることに気づくが、レイヴンちゃんの自信満々の、ややぎこちない笑顔を見ると、なにも追及できなかった。

 

「それにしても、困りましたね。ヘルメット団の次は、妙な便利屋に狙われることになるとは、先が思いやられます…。」

「まぁ、少しずつ調べるとしよう。まずは社長のアルって子の身元から洗ってみたら?

何か出てくるよ、きっと。」

「わるいひとたちじゃないですよ。つぎあうときは、みかたかもしれません。」

「…なんでそんなこと言えるの?」

「…えーと…ただの、ちょっかん、です。」

 

レイヴンちゃんは便利屋達の撤退を手伝い、傭兵団を退けて帰ってきたと思われる。

共闘を通じて、少し仲良くなったのかもしれない。

皆、これ以上追及するとレイヴンちゃんのボロが出て面倒なことになると思い始めたのか、帰りの支度を始める。

 

「と、とにかく、皆さん夜遅くまでお疲れ様でした。気をつけて帰りましょう!」

「お疲れ様〜。…ふわぁあ…もう今日は学校で寝ちゃおうかな…。」

「ん、また明日。」

「うん、また明日ね。…ほら! ホシノ先輩! 帰りますよ!」

「それでは、さようなら〜☆」

「また、あした。おやすみなさい。」

『じゃあな。』

 

とにかく、レイヴンちゃんは、悪い子ではない…と、信じよう。

家に帰ったら、今日襲撃してきた謎の「便利屋」と、先日の戦闘で手に入れた兵器や武器の調査をしなければならない。

私は自分の睡眠時間を削ることにならないよう、急いで家に帰った。

 

 

 

 

 

アビドス高校 2F教室兼レイヴンの寝室

時刻6:50

 

『ビジター。起きてくれ。』

「ん…どうしたの、ちゃてぃ。まだ、おきるじかんじゃ」

『接近する反応がある。車両が一台だが、兵員輸送車という可能性もある。確認に出てくれ。』

 

この時間では、対策委員会の皆はまだ家で寝ている。

誰もいない校舎に、一体何のようだろうか。

カタカタヘルメット団は、本拠地ごと吹き飛ばされて暴れる元気はもう残っていないはずだ。

便利屋68?はたまた、別の雇われか?

色々考えてみるが、やはり直接見てきた方が早いだろう。

 

「わかった、ちゃてぃ。」

『まだ皆寝ている時間だが、問題が起きれば全員にモーニングコールを掛ける用意はできている。いつでも言ってくれ。』

「…よほどじゃなければ、まだねさせてあげて。」

 

私はアサルトライフルとパルスブレードを装備し、制服を着込み表へ出る。

表には、武装は施されていないが、装甲は厚く、武装集団に襲撃されることを想定されているようなトラックが止まっていた。

側にはトラックの運転手であろうロボットが直立不動の姿勢で立っていた。

 

「…なにか、ようですか。」

『随分と早いお出迎えで…おや、見ない顔ですね。ですが、その制服…ああ、もしや、新入生ですか?』

「しつもんに、こたえて。」

『随分と、幼い喋り方ですね。一体どこから拾ってきたのか…』

 

質問に答えない相手に私は苛立ち、ライフルの引き金に指を掛ける。

ロボットはそれを察知し、制止させるように手を出して話してきた。

 

『まずは、貴方から自己紹介をお願いします。貴方がアビドス高校の関係者でない場合、お話しする理由と義務がございません。』

「…わたしは、あびどすこうこういちねん、くろはねれいゔん。さいきん、にゅうがくしました。」

『なるほど、ありがとうございます。それでは、この高校が借金をしていることはご存知ですね?私はカイザーローンの職員で、返済するお金を受け取りに参りました。』

「えっ…まだ、きゅうおくえん、たまってない。」

『? …ああ、ご心配なく。309年ローンですので、今月分の利子を合わせて…」

「ろーん…ろーんって、なんですか?」

『えっ…ローンというのはですね、まぁ、大きな借金を、細かく返済する方法ですね。企業でもなければ、高額な取引をするのには借金をする必要があり…』

 

その後もアビドス高校の借金の返済方法について長々と解説してくれた。

相手も、対策委員会の皆が集まるまでただただ待つだけで暇らしいので、その後も雑談を続けた。

 

「つまり、あなたは、とりたてや? っていうことですか?」

『やや棘のある言い方ですが…そうですね。ですが、借りたお金を返すのは、至極当然の事です。』

「…ごえいとか、つけないのですか?」

『ハハハ、こんな辺境のお金を狙う輩などいませんよ。それに、あの車はロケットランチャーの直撃にも数発なら耐えられますし、ガラスも全て防弾仕様です。護衛をつける必要はありません。』

 

彼は自信満々に乗ってきたトラックを紹介する。

が、私が心配しているのはそこではない。

 

「いや…むかし、かりたかねをかえさないしめいてはいはんをしとめたことがあったのですが…」

「そいつをおっていたとりたてやは、いきたままようこうろにたたきこまれていたので。」

『…確かに、現金輸送車ではなく、私の安全は考えたことがなかったですね。…まさか、私にそのようなことをするつもりではないですよね?』

 

ルビコン3で出会った独立傭兵。

借金王、ノーザーク。

自分の金と他人の金を区別しない独特な金銭感覚を持ち、借金を作っては踏み倒し続けている狂人。…と、アリーナの情報で知った。

コーラルが集積していると思われる中央氷原へ到達するべく、グリッド086にある大陸間輸送用カーゴランチャーを使用する為、RaDの本拠地に潜入した時のことだった。

 

『掛かったな! 取り立て屋!』

『奇襲!? 所属不明のAC…独立傭兵です。』

 

ローダー4のスキャン機能で反応のあった場所に向かっている時に、不意に後ろから撃たれる。

現れたのは、各企業の最新パーツで固められた、わかりやすく言えば、お高い機体だ。

 

『君たちに返済する道理はない、死んでもらおう!』

『安心したまえ、君たちの融資を無駄にはしない。』

『ほら、この新たな機体を見てくれ。

こうして私の信用は拡大していくのだ!』

 

訳の分からないことを一方的に話しながら戦闘は私が優勢で進んでいく。

機体は良くても、腕は二流止まりのようだ。

 

『くっ…どうして分からない…!』

『借りた金をなぜ返す必要がある…!?』

『ある金は活かすべきだ…なぜ、理解しない…』

 

撃破される最後の最後まで、訳の分からないことを喋り続けていた。

この仕事の後、ノーザークを始末してくれた礼として多額の報奨金を貰った。

恐らく、彼のしていた借金はこのアビドスとは比にならないレベルの金額だろう。

ある意味、彼の精神構造が羨ましくなるが、その果てもこの目で見たので真似しようとは思わない。

 

『…あの、何故、何も喋ってくれないのですか!?まさか、埋める場所を考えて…!?』

「あ…いえ、むかしをおもいだしていただけです。」

 

シロコ先輩の銀行強盗がダメなら、取り立て屋を始末するというのもダメだろう。

カイザーローンの職員が怯えて逃げようとしたところで、先輩達と先生が来てくれた。

 

「あ、おはようございます!レイヴンちゃん。」

「おはよー、レイヴンちゃん。」

"おはよう、レイヴン。…おや、何かあったの?"

『あ、あなたはもしや最近噂のシャーレの先生!助けてください!あの生徒が私を亡き者にしようとしているのです!』

「ち、ちがいます!ただ、むかしばなしをしていただけです!」

 

先生の口添えでなんとか誤解は解け、先輩達と協力して返済分の現金を運び出す。

 

『…お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。』

 

大量の札束を箱に詰め替え、250円の小銭を袋に入れ、取り立て屋は現金輸送車の荷台を閉める。

 

『全て現金でお支払いいただきました、今回は以上となります。』

『カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします。』

 

取り立て屋は顔面のディスプレイを笑顔にし、深々と礼をすると、車を動かして走り去っていった。

当然ながら、皆不満そうな顔をしている。

毎月約800万円、馴染みのあるCOAMに直すと800COAM。

ACの弾薬費であっという間にすっ飛ぶ金額だが、一般市民が稼ぐには重すぎる値段だ。

 

「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー。」

「…完済まであとどれくらい?」

「309年返済なので…今までの分を入れると…。」

 

アヤネ先輩が電卓を取り出し計算し出すが、それをセリカ先輩が止める。

 

「言わなくていいわよ、どうせ死ぬまで完済できないんだし! 計算してもムダでしょ!」

「わかりませんよ。わたしのまえいたばしょでは、いっかいのおしごとでかせげるきんがくですから。」

「…レイヴンちゃんって、一体どんなアルバイトをしてたの…?」

「ひみつですが…ろーだーふぉーをつかうおしごとですからね。とくべつなおしごとです。」

 

セリカ先輩が羨ましそうな顔をするが、本当のことを知ったら気にやんでしまうだろう。

生きているうちに返済できるよう、早く名を上げて、企業からの仕事を受けれるようにしなければ。

チャティも色々と宣伝はしてくれているようだが、来る依頼はまだ木端なものばかりだ。

個人の護衛、不良の始末、チンピラからの犯罪への加担要請。

今日はどんな依頼を受けようか。

 

「ところで、カイザーローンは何故現金でしか受け付けないのでしょうね?わざわざ現金輸送車まで手配して…。」

「……。」

 

シロコ先輩が走り去る現金輸送車を見て、目を輝かせる。

襲うつもりだ。

だが、あの車両は生半可な武器では傷一つつけられないだろう。

しかしシロコ先輩は、私の部屋である2Fの教室を見て、ほくそ笑む。

 

「レイヴン、この前、耳鳴り砲を撃ちたいって言ったら、もちろんって言ってくれたよね?」

「ええ、もちろん…ああ、そういうことですか。」

 

なるほど、確かに私のお気に入り(耳鳴り砲)ならば、あの現金輸送車もひとたまりも無いだろう。

かなり明確なビジョンが見えたところで、セリカ先輩が遮るように話しかけてきた。

 

「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ。」

「………うん、わかってる。」

「計画もしちゃダメ!」

「うん…。」

「でも、ひさびさにあのおと、ききたくないですか?」

「もう二度とごめんよ!! あのあと1日中耳が痛かったんだから!!」

 

2人まとめてセリカ先輩に怒られてしまった。

久々に耳鳴り砲を撃てるチャンスだったが、仕方ない。

しばらく雑談をしていたが、問題は借金だけではないので、今後の方針を決めるための会議を開くべく、教室へ集まる。

 

 

 

アビドス高校 対策委員会教室

 

「全員揃ったようなので始めます。まずは、2つの事案についてお話ししたいと思います。」

 

アヤネ先輩はそういうと、2枚にまとめられた資料を回し始める。

全員に資料が行き渡ったのを確認すると、改めて話し始める。

 

「最初に、昨晩の襲撃の件です。」

 

皆、渡された資料に目を通しながらアヤネ先輩の説明を聞く。

 

「私たちを襲ったのは『便利屋68』という部活です。ゲヘナでは、かなり危険で素行の悪い生徒たちとして知られています。」

「便利屋とは頼まれたことは何でもこなすサービス業者で、部活のリーダーの名前はアルさん。」

「自らを『社長』と称しているようです。彼女の下には3人の部員がいて、それぞれ室長、課長、平社員の肩書きがあるとのことです。…まぁ、昨日自分達で言っていた通りですね。」

 

資料に目を通しながら話を聞く。

彼女達は「便利屋68」という企業を起こしているが、ゲヘナ学園では起業が許可されていないらしい。

つまり、彼女達はまさしく自由を求めて便利屋をやっているらしい。

自由な鳥ではなく、主人に忠実な猟犬であることを選んだ私より、「レイヴン」の名に相応しいかもしれない。

そんな彼女達だが、今はこのアビドスのどこかに入り込んでいるらしい。

アヤネ先輩と先生も、今朝便利屋68の子に絡まれたらしい。

 

「そんな危険な組織が、私たちの学校を狙っているのです! もっと気を引き締めないといけません!」

「次はとっ捕まえて取調べでもするかー。」

「またせめてくるとは、おもえないですけどね。」

「なんで? また直感ってやつ?」

「いえ、こんかいははっきりとりゆうがあります。」

 

私はわざとらしく、発言をするたびに指を一つずつ増やしていく。

 

「ぜんかい、ようへいのみなさんがねがえってくれたのは、にばいのほうしゅうにつられるていどしかはらっていなかったから。」

「つまり、あのかずのようへいはむりしてやとっていたということ。そんないっかいしかできないさくせんを、かのじょたちはしっぱいした。」

「ともすれば、さいしゅうげきをかけるためのしきんはもうない。かのじょたちだけでしかけてくるかもしれませんが、それでかてるみこみがうすかったから、あんなにようへいをやとった。つまり、かのじょたちが…」

 

今日は珍しく舌が回る。

気づけば、皆が私のことを暖かい目で見ている。

 

「えっと…どうしました?」

「いやぁ…レイヴンちゃんがこんなに楽しそうに話すなんて、珍しいなって。」

「なんか、すごい経験者って感じ。」

「ん、もしかして、ここに来る前はどこかのエージェントだったのかもしれない。」

「うふふ、頼もしい限りです☆」

"先生としては、もう少し健全なことで元気になってほしいかな。美味しい食べ物のこととか。"

「と、とにかく、それでも便利屋68がこのアビドスに潜んでいる以上、やはり警戒すべき対象なのは変わりません!」

「続いて、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!」

 

そういうと、アヤネ先輩はダンボールを一つ持ち上げ、机の上に置く。

中からは、戦車の破片や破損した銃器やさまざまなパーツが入っていた。

 

「カタカタヘルメット団との戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を分析した結果…現在は取引されていない型番だということが判明しました。」

「もう生産してないってこと?」

「それをどうやって手に入れたのかしら。」

 

皆それぞれ破片を手に取って眺める。

私はその辺りはさっぱりだ。

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は…キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません。」

「ぶらっくまーけっと? ききおぼえが…」

 

思い出した。チャティがあの耳鳴り砲を見つけ出し、買って来てくれた場所だ。

 

「…とっても危ない場所じゃないですか。」

「…そうなの? ちゃてぃ。」

『うちの製品が流れていた闇市と同じようなものだ。確かに、一般的には危ない場所だな。』

「そうです。あそこでは中退、休学、退学…様々な理由で学校を辞めた生徒たちが集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない非認可の部活もたくさん活動していると聞きました。」

「便利屋68みたいに?」

「はい、それから便利屋68も、ブラックマーケットで何度か騒ぎを起こしていると聞きました。2つの出来事の関連性を探すのも、1つの方法かもしれません。」

 

やることは決まった。

私達はカタカタヘルメット団が使用していた武器の謎と、便利屋68を雇った謎の組織を確かめるべく、ブラックマーケットへ向かった。

 

 

 

 

ブラックマーケット 入口付近

 

様々な格好、種族の人達が行き交う、賑やかな入口。

ほぼ人が居なくなってしまったアビドスとは、比べ物にならない密度だ。

 

「ここが、ブラックマーケット…。」

「わあ☆すっごい賑わってますね?」

「本当に。小さな市場を想像してたけど、街一つぐらいの規模だなんて。」

「うへ〜私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよー。」

「ひとって、こんなにいるんですね。……おや? あれは…。」

 

私はブラックマーケットの入り口のすぐ横のジャンク屋に惹かれる。

あまり人気は無さそうだが、私の嗅覚が何か面白いものがあると知らせる。

覗いてみると、表には雑多なガラクタしかなかったが、奥の方には大変興味深い代物が並んでいた。

大口径で、長銃身のライフルとは言えない、もはや大砲と言うべきもの。

鉄塊としか表現のしようがない大剣。

6つのチェーンソーが一つに纏められた奇妙な武器。

持つ人の事を考えていないような代物達がずらりと並んでいた。

 

「これは…なかなか、おもしろいですね。」

「レイヴンちゃーん、あんまり離れないでー。」

「あっ、すみません。おもしろそうなにおいがしたもので。」

『皆さん、油断しないでください。そこは違法な銃器や兵器が取引される場所です。何が起こるかわからないんですよ。』

『ビジター。今回はヘルメット団に流れていった兵器群の調査だ。観光はまた今度にしてくれ。』

「わかった。ちゃてぃ…むっ!?」

 

タタタタタタタタ!

突然、銃声が響く。

音のした方を見ると、茶髪と何か珍妙な鳥のデザインをしたカバンを持っているのが特徴の生徒が、街のチンピラに追われてこちらへ走ってくる。

 

「待て!!」

「う、うわああ! まずっ、まずいですー!! つ、ついてこないでくださいー!!」

「そうはいくか!」

 

追われている方は、逃げるのに必死で前を見ていない。

私の低身長も合わさってか、避ける間も無くぶつかる。

 

「わわっ! 何かにつまづいて…」

「うわっ。」

 

生徒が私に覆いかぶさる形で倒れ込む。

顔が一気に近づくが、この距離感は

ホシノ先輩との付き合いで慣れている。

 

「い、いたた…わっわぁ!? ご、ごめんなさい! 気づけなくって…」

「だいじょうぶです。なれてますから。」

 

しばらく、お互いを見つめ合ったままの時間が流れる。

 

「あの、そちらがおきあがってくれないと、おきれません。」

「あっ! す、すいません。いま退きますね…。」

 

むくりと立ち上がった後、その生徒が私の手を取り私も起こしてくれた。

それと同時に、追って来たチンピラたちも追いついて来た。

 

「なんだお前…おお? こいつ羽がついてる。服は違うが、お前もトリニティか?」

「へへ、ちょうど持ち運びしやすそうなサイズじゃん?」

「とりにてぃ? …わたしは、あびどすのせいとだよ。」

「バレバレの嘘ついてんじゃねぇ! あの終わりかけの高校に、今更転校生なんて来るかよ!」

 

チンピラに絡まれているところに、先輩たちが合流する。

 

「大丈夫…なわけないか。」

「うへー、早速トラブルかー。ほんとに治安悪いねー。」

「なんだお前らは。どけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒共に用がある。」

「あ、あうう…わ、私の方は特に用はないのですけど…」

 

トリニティ?確か、皆に拾われて最初に意識を取り戻した時、私の羽を見て

 

「トリニティの子じゃないの?」

 

と言われた事を思い出す。

だが、私の隣にいる生徒を見ても特に羽らしきものは見当たらない。

やはり個人差があるのだろうか。

そして何故、トリニティの生徒は狙われているのだろうか?

 

『トリニティ…! 確かに、その制服…キヴォトスいちのマンモス校のひとつ、トリニティ総合学園です!』

「そう、そしてキヴォトスで一番金を持っている学校でもある! だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

「拉致って交渉! なかなかの財テクだろう?くくくくっ。」

 

チンピラ達は自分達の行おうとしている事を自慢げに話す。

なるほど、身代金目的か。

私はアサルトライフルを構え、引き金に指をかける。

 

「どうだ、お前らも興味があるなら乗るか? 身代金の分け前は……ん?」

 

タァン!! タァン!!

これ以上相手が喋る前に、顔面に1発ずつ叩き込む。

こちらは一度セリカ先輩が誘拐されるという憂き目に遭っている。

そのせいもあってか、いつもより引き金が軽かった。

横のトリニティの生徒は、突然発砲した私に驚いているが、先輩達は手間が省けたという顔をしている。

とりあえずその場を離れ、事情を聞く事にする。

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした…。」

「それに、こっそり抜け出してきたので、何か問題を起こしたら…あうう…想像しただけでも…。」

 

私に衝突してきたトリニティの生徒、「阿慈谷ヒフミ」。

何やら後ろめたい事情があるらしい。

 

「えっとー、ヒフミちゃんだっけ? トリニティのお嬢様が何でこんな危ない場所に来たの?」

「それはですね…実は、探し物がありまして…。」

「もう販売されていないので買うこともできない物なのですが、ブラックマーケットでは密かに取引されているらしくて…。」

 

彼女も、私たちと同じ、通常では取引されないものを求めてきたらしい。

私はお嬢様の生活というものは一切わからないが、お金があって、地位があるのにも関わらず手に入れられないものとは、何だろうか?

 

「もしかして…戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学兵器とかですか?」

「しけんようにつくられたぱーつ?」

 

色々と物騒な提案をする私達に彼女は驚くが、冷静に返答してくれた。

 

「えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです。」

「ペロロ?」

「限定グッズ?」

「なんでしょう、それは。」

 

ペロロ様とは一体なんだろう。

グッズというのも初めて聞く。

 

「はい! これです! ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

そういうと彼女はバッグの中から、大事そうに手のひらサイズのぬいぐるみを見せてくれた。

焦点の合ってない目。

楕円形の白い体。

ピンク色の頬。

そして口にはチョコミント味のアイスが突っ込まれている。

間抜けな顔付きだが、何だかそれが癖になってくる。

笑えるデザインだ。

 

「限定生産で100体しか作られてないグッズなんですよ。ね?可愛いでしょう?」

「ふふ、わらえるでざいんですね。これが、かわいいってことなんですね。」

「ん…人によると思う。」

「わあ☆モモフレンズですね! 私も大好きです! 私はミスター・ニコライが好きなんです。」

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコ良くて。」

「……いやぁー、何の話だか、おじさんにはさっぱりだなー。」

 

その後も、ヒフミさんによるペロロ様講座が続けられるが、私とホシノ先輩はあまり付いていけなかった。

でも、ヒフミさんが筋金入りのペロロ様のファンということはわかった。

きっと、彼女の生きる意味なのだろう。

 

「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれて…みなさんがいなかったら今頃どうなっていたことやら。」

 

ヒフミさんはペロロ様について語り終えて満足したのか、今度は私たちが何故こんなところにいるのかを聞いてきた。

 

「私たちも似たようなもんだよ。探し物があるんだー。」

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくい物なんだけど、ここにあるって話を聞いて。」

「そうなんですか、似たような感じなんですね。」

 

談笑を続けていると、アヤネ先輩から通信が入る。

 

『皆さん、大変です!四方から武装した人たちが向かってきています!』

「何っ!?」

 

けたたましい複数人分の足音が私たちのいる場所に向かってくる。

格好からして、先ほど叩き潰したチンピラの仲間のようだ。

 

「あいつらだ!!」

「よくもやってくれたな! 痛い目に遭わせてやるぜ!」

『か、完全に敵対モードです!』

「ん、望むところ。」

「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね? 私たち、何か悪いことした?」

「つぎからつぎへとふほうもの…しどうがひつようですね? せんせい。」

"うーん、暴力は良くないんだけどね…"

『愚痴は後にして…応戦しましょう、皆さん!』

 

総勢18人のチンピラが現れるが、正直今までの戦いで一番つまらなかった。

どうやら人数差でビビらせる作戦だったようだが、元々少数精鋭の私たちアビドス対策委員会には何も効果はない。

その上個人の能力もカタカタヘルメット団以下だ。

 

「な、なんだこいつら!」

「訳わかんねぇ! なんで数で勝ってんのに負けてるんだ!?」

 

あっという間に半分ほど片付けると、手を出す相手を間違えた事に気付けたのか、徐々に後退を始めた。

 

『敵、後退しています! ですが、この動きは…』

「仲間を呼ぶつもり? いくらでも相手してあげる。」

「まなばないれんちゅうですね…がっこうにいけなくなるわけです。」

 

後退する敵に追撃をかけようと私とシロコ先輩が駆け出そうとしたところで、ヒフミさんが私たちを止めてきた。

 

「ま、待ってください! それ以上戦っちゃダメです!」

「ん? どうして?」

「ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません!」

「あうう…そうなったら本当に大ごとです…まずはこの場から離れましょう!」

 

非合法のブラックマーケットに、治安機関?

矛盾している気がするが、確かに妙な奴らが出てきた。

隊長と思わしきロケットランチャーを装備したロボットと、大型のシールドを持った大柄なロボットだ。

どちらも全身黒塗りで、威圧的な空気を放っている。

幸いな事にチンピラの始末に集中しているようでこちらに気づいていないようだ。

 

「ふむ…わかった。ここのことはヒフミちゃんの方が詳しいだろうから、従おう。」

「ちぇっ、運のいいやつらめ!」

「りょうかいです。てっしゅうしましょう。」

「こっちです!」

 

ヒフミさんが先導する方へ、一斉に駆け出す。

非常に入り組んでいるこのブラックマーケットの一画を、彼女は何の迷いもなく進んでいく。

途中何度も見失いかけるが、なんとか着いていく。

 

「…ここまで来れば大丈夫でしょう。」

 

ブラックマーケットの歓楽街まで移動したところで、一息つく。

 

「ふむ…ここをかなり危険な場所だって認識してるんだね。」

「え? と、当然です。連邦生徒会の手が及ばない場所のひとつですから…。」

「ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと…。」

「なるほど、ふそくのよそくができてえらいです。」

「あはは、ありがとうございます。…ここでは、様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。」

 

ヒフミさんの言葉に、企業とは、どこでもやることは同じなのだな。と思う。

辺境の資源惑星であるルビコン3で見つかった「コーラル」の利権を巡り、アーキバスとベイラム、そしてそれに対抗するルビコン解放戦線の戦い。

そしてそれを商売の機と見て売りに来るそれ以外の様々な企業。

それはここでも変わらない。

企業にとって、争いとは金儲けの機会でしかなく、そこに付け入りうまい汁を啜ろうとするのが独立傭兵だ。

せいぜいこちらも利用させてもらうとしよう…まだ名は売れていないが。

 

「それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから…。」

「銀行や警察があるってこと…!? そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体だよね!?」

「はい、そうです。」

「スケールが桁違いですね…。」

「特に治安機関は、避けるのが一番です。騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです…。」

「ふ〜ん、ヒフミちゃん、ここのことに意外と詳しいんだねー。」

 

ホシノ先輩の目が、一瞬ギラリと輝くのが見えた。

ホシノ先輩のあの目は、何か良いことを思いついた時の目だ。

 

「えっ? そうですか? 危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか…。」

「よし、決めたー。」

 

ホシノ先輩はそういうと、ヒフミさんの腕に自分の腕を絡ませ、がっしりと掴む。

 

「助けてあげたお礼に、私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

「え? ええっ?」

「わあ☆ いいアイデアですね!」

「なるほど、誘拐だね。」

「えっ、けっきょくゆうかいするんですか?」

「はいっ!?」

「誘拐じゃなくて、案内をお願いしたいだけでしょ? もちろん、ヒフミさんが良ければ、だけど。」

「あ、あうう…私なんかでお役に立てるかわかりませんが…お世話になりましたし、喜んで引き受けます。」

"ありがとう、助かるよ。"

 

とても、良い子だ。

多分、ルビコンだったら長生きできないタイプだろう。

 

「よーし。それじゃあ、ちょっとだけ同行頼むねー。」

 

 

 

ブラックマーケット 中心街

 

「はぁ…しんど。」

「もう数時間は歩きましたよね…。」

「なにもせいかなしとは、わらえないじょうきょうですね。」

 

ブラックマーケット内の武器屋を片端から回っているが、求める情報は一切手に入らなかった。

大半がガラクタやゴミの押し売りで、最初に出会ったお店ほど惹かれるところはなかった。

チャティは良くこんな当たり外れが大きい場所で、あの耳鳴り砲を見つけてきてくれたものだ。

 

「これは流石に、おじさんも参ったなー。腰も膝も悲鳴を上げてるよー。」

「えっ…ホシノさんはおいくつなのですか…?」

「ほぼ同年代っ!」

 

ホシノ先輩の独特の一人称に翻弄されるヒフミさんを見て、おじさんと名乗ることが少し変であることを知る。

私は正確には10年間冷凍保存されていた為同年代ではないので、おじさんと名乗るべきなのだろうか?

いや、冷静に考えてみれば、おじさんとは歳をとった男性のことだ。つまり…

 

「ほしのせんぱいは、おとこのひとなのですか?」

「えっ、そうなんですか? とてもかわいらしいですけど…」

「れ、レイヴンちゃん急に何を言い出すの? おじさんは正真正銘女の子だよ〜?」

「いちぶんでむじゅんしていますが…」

 

そんなくだらないことを言い合っていると、ノノミ先輩が突然大きな声をあげる。

 

「あら! あそこにたい焼き屋さんが!」

「たいやき…?」

「あれ、ホントだー。こんなところに屋台があるなんてね。」

「あそこでちょっとひと休みしましょうか? たい焼き、私がご馳走します!」

「あの、たいやきって、なんですか?」

「えっ、たい焼き知らないの?」

「ん、レイヴンちゃんはエナジーバーと水以外の食べ物を基本的に知らないから、お勉強も兼ねて食べるべき。」

 

どうやら、ラーメンと同じ「美味しい」物らしい。

そう認識すると、途端に口の中が唾液で溢れてきた上、お腹も鳴ってしまう。

屋台に近づくにつれて、嗅いだことのない、柴関ラーメンとは違った香ばしさの匂いが漂ってくる。

早速ノノミ先輩が人数分のたい焼きを買って戻ってきてくれる。

私の手に、何か生き物を象ったような形の、温かいものが渡される。

どうやって食べるのかわからなかったが、皆がそのまま齧っているのでそうすることにする。

カリッという心地よい音がして、私の口の中にふわふわな生地と、初めて経験する、エナジーバーとは比較にならないほどの「甘さ」が広がる。

 

「……………おいしい、です…」

「あはは、レイヴンちゃんまた泣いてる。」

「あ、あの、レイヴンさんって、どんな食生活を送ってきたんですか…?」

「ヒフミちゃんは多分、知らないままの方が良いかな〜。」

"まぁ…今が幸せなら、大丈夫かな。"

 

皆でたい焼きを齧りながら、休息を取る。

どうやら、ラーメンと同じようにたい焼きにも味の種類がいくつかあるらしい。

素晴らしいことだ。

この世には、一体どれほどの食べ物があるのだろうか?

私の人生の楽しみが、一つ増えた。

皆がたい焼きを食べ終えたあと、ヒフミさんが話し始める。

 

「妙ですね…ここまで情報がないなんてありえません。」

「お探しの戦車の情報…。絶対どこかにあるはずなのに、探しても探しても出てきませんね…。」

「いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底して隠すことは不可能なはず…。」

「そんなに異常なことなの?」

「異常というよりかは…普通ここまでやりますか?という感じですね。」

 

そういうと、ヒフミさんは何の変哲もないビルを指差した。

 

「例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です。聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているようです…。」

 

さらりと、とんでもないこと言う。

だが、察しはついた。

 

「なるほど、はんざいによってえられたりえきを、あしがつかないぶきやへいきにかえ、さらにはんざいをじょちょうさせる…。」

「そう、そんな悪循環が続いているのです。」

「そんなの、銀行が犯罪を煽っているようなものじゃないですか。」

「その通りです。まさに銀行も犯罪組織なのです…。」

「…現実は、思った以上に汚れているんだね。外のことをあまりにも知らなさ過ぎたかも…。」

 

子供が見るには、あまりにも汚れている現実に直面し、気分が沈んでいるところに、大量の足音と、車が走ってくる音がする。

見れば、先ほどのチラリと見かけた黒塗りのオートマタ達が、トラックを護送している。

 

「う、うわっ!? あれは、マーケットガードです! ここの治安機関でも最上位の組織です!」

「トラックを護送してる…現金輸送車だね。」

「あれ…闇銀行に入りましたね?」

「せんぱい。あのとらっく、あさみたやつとおなじです。」

「あれ…ホントだ。ナンバーも運転手も同じだ。」

「えっ!? ええっ…?」

「…どういうこと?」

 

運転手が闇銀行の職員と挨拶をし、何か書類にサインをする。

その後、その現金を職員達が回収していく。

なるほど、そういうことか。

なぜ電子決済が主流のこのキヴォトスで、頑なに現金のみで借金を返させるのか。

電子では、どうしても足がつく。

だから誤魔化しがいくらでも効き、オンライン上に証拠が残らない現金で返させるのだ。

…ブラックマーケット全体の、犯罪資金として提供させる為に。

どうやら、この答えに至ったのは全員らしい。

皆、顔つきが暗くなっている。

あの取り立て屋。

今度会ったら生きたまま埋めてしまおう。

 

『ま、まだそうハッキリとは…証拠も足りませんし、あの輸送車の動線を把握するまでは…。』

「しょうこ…はがゆいですね。もうぜんぶやいちゃいましょうか。」

「流石に放火は不味いよレイヴンちゃん。」

「…あ! あの銀行員さんがサインしてた集金確認の書類…。それを見れば、証拠になりませんか?」

 

頭の回る、賢い子だ。もう私の頭の中にはあの闇銀行を丸ごと叩き潰すことしかなかった。

 

「さすが。」

「おお、そりゃナイスアイデアだねー、ヒフミちゃん。」

「あはは…でも考えてみたら、書類はもう銀行の中ですし…無理ですね。」

 

提案しておきながら申し訳ない…と言った表情でヒフミさんは縮こまってしまう。

 

「ブラックマーケットで最も強固なセキュリティを誇る闇銀行…マーケットガードもかなりの数が付いてます。」

「他に輸送車の集金ルートを確認する方法は…。うーん…。」

 

ヒフミさんが策を講じているところで、シロコ先輩が一言、つぶやく。

 

「うん、他に方法はないよ。」

「えっ?」

「ホシノ先輩、ここは例の方法しか。」

 

ホシノ先輩は、ピンときたらしい。

ヒフミさん以外の他の皆も、大体察したらしい。

もちろん、私も。

 

「なるほど、あれかー、あれなのかぁー。」

「あ…!! そうですね、あの方法なら!」

「まさか、あれ?まさか、私が思ってるあの方法じゃないよね?」

「なるほど。やるんですね。あれを。」

 

シロコ先輩の瞳が一層輝く。

 

「…あ、あのう。全然話が見えないんですけど…「あれ」ってなんですか?」

「残された方法はたったひとつ。」

 

置いてけぼりのヒフミさんをそのまま置いていきながら、シロコ先輩は鞄から、あるものを取り出し、被る。

 

「銀行を襲う。」

「はいっ!?」

「だよねー、そう言う展開になるよねー。」

「はいいいっ!!??」

「わあ☆ そしたら悪い銀行をやっつけるとしましょう!」

「ふぅ、それなら…とことんまでやるしかないか!!」

 

皆それぞれ鞄から覆面を取り出し、被り始める。

…………あれ?

 

『…はぁ、了解です。こうなったら止めても聞く耳持たないでしょうし…どうにかなる、はず…。』

「ごめん、ヒフミ。あなたの分の覆面は準備が無い。」

「うへー、バレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねー。」

「ええっ!? そ、そんな…。」

「それは可哀そうすぎます。とりあえずこれでもどうぞ☆」

「え? ちょ、ちょっとまって…あ、あうう…。」

 

ヒフミさんに、たい焼きの入っていた紙袋を改造した覆面が被せられる。

なんだかRaD製の作業用ACのような頭だ。

 

「ん、完璧。」

「番号も振っておきました。ヒフミちゃんは5番です☆」

「見た目はラスボス級じゃない? 悪の根源だねー、親分だねー。」

「わ、私も闇銀行の襲撃に…? わ、私もう生徒会の人たちに合わせる顔がありません…。」

「それじゃあ先生。例のセリフを。」

"よし、銀行を襲うよ!"

『ふう…では、覆面水着団。出撃しましょうか。』

「ちょ、ちょっとまってください!! わたしのぶんのふくめんは!?」

 

このままでは私だけ素顔を晒したまま銀行に飛び込むことになる。

というか、なぜ皆覆面を鞄の中に入れているのだ!?

この前の定例会議で銀行強盗の案は却下されたはずなのに!?

 

「あ、ごめん。レイヴンにはもうパーカーとチョッキがあるからいいかなって。」

「ああ、そうでしたね。わたしにはもう…」

 

そういえばそうだった。私にはもう素性を隠すためのアイテムが…‥え?

 

「…うへ、シロコちゃん、やっちゃったね。」

「ん? ……………あっ。」

"やっぱりあの子、レイヴンだったんだ。"

「あらら。レイヴンちゃんには秘密にしておこうと思ってたのに。」

「シロコ先輩…」

『シロコ先輩!?』

『…‥あってはならないことだ…。』

「あ、あはは…とりあえず、静かにしておきますね…。」

「…………いつから、ばれてました…?」

 

独立傭兵ナイトフォール。

フード付きのパーカー、おまけでもらった防弾チョッキ、偽装用に銃と左手に巻いた布。

前回、不本意ながらアビドス対策委員会と敵対した時、これのお陰でバレていないと思っていた。

一体、いつからだ?

 

「えっと…その…最初から…普通に居るなって…」

「あ…ああああああああ!!!」

 

私は、自分の変装が特に意味をなしていなかったことを知らされ、その場に打ちひしがれる。

 

「えっと、その、ごめんね。」

「うへ〜。安心してよレイヴンちゃん。分かったのはずっと一緒に過ごしてたからこそだからさ。」

「そ、そうです! それにそのパーカーと防弾チョッキの組み合わせ! とってもおしゃれです!」

「げ、元気出してレイヴンちゃん!」

『れ、レイヴンちゃんがあの場に居たからこそ、皆助かったんです! 皆そのことはわかってますから!』

『ビジター。ボスからの伝言を覚えているか。こういう辛い状況こそ、楽しむべきだ。』

「よ、よくわかりませんが、元気出してください! ほら、ペロロ様のぬいぐるみ、あげます!」

「おくりものをくれるのですか…? すてきです…!」

"大丈夫?もう少し休んでから銀行を襲う?"

 

Ab06 生徒名レイヴン

普通に落ち込む。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
感想や誤字報告、非常に助かります。
さて、前回のレイヴンちゃんのマッチポンプ、好評を頂けているようで嬉しいです。
色々なプランがありましたが、これを閃いた時は一気に妄想が加速していきましたね。
また私の頭の中の妄想が破綻を起こしたら忘れないようにここに残していこうと思います。

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