Ab06(アビドスぜろろく) 生徒名 レイヴン 作:sepa0
ひと段落してどれくらいかなって文字数調べたら2万文字を超えていたので、分割することにしました。
楽しんでいただけたら、素敵だ…心が躍ります…!
「だ、大丈夫?」
「…はい!だいじょうぶです!!」
"なんだかいつもより元気になってるね。"
「ヤケになっているだけじゃないの…?」
私はアビドス高校1年生、黒羽レイヴン。
高校の借金を返す為、独立傭兵をやっている。
独立傭兵は、金次第でどちらにでも着く。
例えば、昨日味方した陣営を、今日襲撃したりするなんていうのは日常茶飯事だ。
そのため、基本的には恨みを買いやすい。
それがアビドス対策委員会の皆に波及しないように、素性を隠す為の変装をしていた。
のだが、
「まさか、はじめからばれていたなんて…とんださぷらいずです!」
「うーん…こんなレイヴンちゃん、初めてだよ。」
様々な感情が私の中で渦巻く。
恥ずかしい。
死んでしまいたい。
忘れてほしい。
ここまで勢いで喋るのは初めてだ。
失われた感情の起伏が戻ってきている証拠だ。
ウォルターが見たら、きっと喜んでくれるだろう。
「ん…そんなに、あの変装に自信があったの?」
「うぅ…ありました…」
「もうやめて!レイヴンちゃんが食べ物以外で泣きそうになってる!」
「ご、ごめん。」
『ビジター、一度深呼吸をするべきだ。』
「うん…」
チャティの助言通り、一度深呼吸をして、冷静さを取り戻す。
初めから、気づかれていた。
教訓を得るべく、私は鞄にしまってあったパーカーと防弾チョッキを着用し、フードを深く被った状態で皆に意見を求めた。
「あの、みなさん。このすがたの、どこでわたしってわかりましたか?」
特徴的な猟犬のような耳も、アビドスの制服も隠れている。
その場に居なかったアヤネ先輩以外の対策委員会の皆は少し考えた後、順番に話始めてくれた。
「おじさんは背格好かなぁ。 私より身長低い子って珍しいし。」
「私もです。 うちの子達はみんな可愛いですから、見間違えないですよ。」
「私は戦い方かな。…というか、なんで弾を避けれるの?」
「ん…私は、レイヴンの銃かな。 確かに、布は巻いてあったけど、そんな大口径で反動が強そうなのに、衝撃を全部手首で受けるような構造のライフルなんてレイヴンのしか見たことがない。」
"先生が生徒を見間違えるわけないからね。
ただ、レイヴンがアビドスの皆と敵対するわけないって言い出せなかったんだ。"
「なるほど…」
私は皆さんが出してくれた意見を手帳に書き連ねる。
先の発言通り、やはりアビドスの皆だからこそバレてしまったらしい。
ただ、シロコ先輩の意見に関しては、注意しなければならない。
ライフルはともかく、私の左手のパルスブレードはこの世界では間違いなくオーパーツだ。
正体不明の傭兵と同じ特徴の武器を使っては、そこから辿られるかもしれない。
特にカタカタヘルメット団に対しては何度か使用している。
ブラックマーケットにはカタカタヘルメット団の残党が流れてきていてもおかしくはない。
使うにしても、なるべく目立たないように使わなくては。
それと、正体がバレているとしても、通さなくてはならない筋がある。
私は少し声のトーンを落として、話し始める。
「みなさん。それでもわたしは、このすがたでいるときは、あびどすこうこうのれいゔんではなく、どくりつようへいということを、おぼえておいてください。」
「ん?どういうこと?」
「こんかいの、ぎんこうしゅうげきけいかく。 わたしは、ふくめんみずぎだんとしてではなく、やとわれたようへいとしてさんかします。」
いつもと違う低い声に、ホシノ先輩以外は少し動揺する。
その上で、勘違いされてしまったようだ。
「レイヴンちゃん怒っちゃってるじゃない!シロコ先輩、謝ってください!」
「えっと…覆面を作ってなかったことは謝るから、許してほしい。」
「もう一度、たい焼き買ってきましょうか。」
どうやら、覆面を貰えなかったことに怒っていると思われてしまったらしい。
そうではないと言おうとしたところで、ホシノ先輩が続きを言ってくれた。
「んー、なるほど。雇った傭兵とは依頼限りの関係。 何があっても、それだけの関係で通せってことだね。」
「うへ、おまけにブラックマーケットを実質牛耳ってるマーケットガードに喧嘩を売った傭兵なんて、有名になっちゃうねぇ。」
「…そういうことです。」
私の言いたかったことを、全部言ってくれた。
さすが、ホシノ先輩だ。
非合法とはいえ、治安機関に喧嘩を売れる個人の傭兵。
後ろ盾がないからこその強みだ。
この仕事は、良い宣伝になる。
「え、そっちなの!?」
「なるほど、レイヴンにとっては、銀行強盗もただの通過点にすぎない…。」
『えっと…レイヴンちゃんって、ほんとに私たちと同年代なんですよね?』
「あはは…わたし、ちょっと怖くなってきました…。」
"うーん…先生としては危ない橋を渡るのを止めたいけど…今更だね。"
「ん、今から銀行を襲うのだからそれくらい誤差。」
「ここのきぎょうたちは、わたしたちをりようしていました。こちらも、せいぜいりようさせてもらいましょう。」
ここまで来ると、少し楽しくなってきた。
そうだ、カーラが教えてくれた通り。
この状況を、楽しむことにしよう。
即興ではあるが計画を立てる。
まずは覆面を被っていない比較的まともな姿の私が銀行内に入り偵察する。
その間に、セキュリティシステムへチャティが侵入。
警備システムを無効化すると同時に覆面水着団が突入する。
そこから先は、専門家(シロコ先輩)に任せるとしよう。
ブラックマーケット 闇銀行ロビー
『お待たせいたしました。お客様。』
「本当に待ったわよ!6時間も!ここで!!」
前回、便利屋68の全財産を掛けたアビドス襲撃作戦は雇った傭兵達の裏切りによって失敗した。
あの時、黒羽レイヴン…独立傭兵ナイトフォールがこちらについてくれていなければ、負けることはないにせよ、被害はもっと大きくなっていただろう。
今でもなぜ彼女がこちら側に着いてくれたのか理解できないが、とにかく私たちは、クライアントに依頼の失敗を報告した。
ようやくここまで築き上げた信頼もまた1から出直し。
そう考えていたがクライアントは、
『ここまでの練習は拝見したよ。 で、実戦はいつだね?』
「…うえ? あれが実戦だったのです…が…あ、いえ、なんでもありません…。」
『どうした? なにか問題でも?』
「いえ!もちろん実戦はすぐにでも…という感じで…」
『ふむ。次の襲撃はいつ頃になるかね?場合によっては、こちらからも…』
「あ、えっと、1週間以内には…はい。」
『1週間以内か。 では、実戦が成功することを祈っているよ。』
「ふふっ。はい、そうです。…お任せください。」
どうやら、まだこちらを信用してくれているようだ。
かなりピンチだが、同時にチャンスでもある。
なんせ今回のクライアントは詳しくは分からないが、超大物だ。
なんとか乗り切り受話器を置く。
「…はあ。」
「やつれたねえ、アルちゃん。」
「社長、一体どういうこと…?まさか、また戦うの?」
いつものように、悪戯っ子らしい笑みを浮かべているムツキと、可愛い顔が台無しになるくらい眉間にシワを寄せているカヨコが話しかけてくる。
「あのクライアントは、私も詳しくは知らないけど、超大物なのよ。…この依頼、今度こそ失敗するわけにはいかないわ。」
今までコツコツと積み上げてきた実績が、ようやく実を結んだのだ。
このチャンスを逃せば、次にやってくるのはいつになるだろうか?
社員のためにも、会社のためにも、この依頼は達成させなければならない。
「だけどアビドスの連中、思ったより強かったじゃん。 それに、あの『シャーレ』の先生が一緒にいるから、私たちだけじゃ無理だよ。」
「それに、前回は1人少なかった。 それも、ハルカと二人かがりとはいえ、傭兵集団と正面からやりあえる実力者が。」
「お金も使い果たしちゃったしね。どう戦うのさ?」
「わっ、私がバイトでもしてきましょうか?」
「その稼ぎで傭兵を雇うには、全員あと1年は働かないと…。 それに、今度は裏切らない傭兵を雇わないと。」
期限は1週間。
それまでに、アビドスと決着をつけなければならない。
バイトをして金を貯めていたのでは間に合わない。
こうなったら、
「…‥融資を受けるわ。」
「は?アルちゃんはブラックリスト入りしてるでしょ?」
「違うわよ!私は指名手配されて口座が凍結されただけ!」
「そうだっけ?…あ、そうだった。風紀委員会にやられたんだよね。」
「風紀委員会め…ここまで痛めつけられるとは思わなかったわ。」
口座さえ凍結されてなければ…傭兵を雇う金はともかく、夕飯代に困るようなことは無かったはずだ。
ふつふつと怒りが湧き上がるが、今はそんなことを思い出している場合ではない。
「中央銀行も、行ったところで門前払いだろーね。」
「うるさいってば! 他にも方法はあるんだから!」
揚げ足を取りつづけるムツキを横目に、プランを組み立てる。
指名手配されている便利屋68の社長では、まともな銀行は取り合ってくれない。
そう、「まともな」銀行は。
つまり、「まともでない」銀行なら、融資を受け入れてくれる可能性がある。
「見てなさいよ、アビドス。このままじゃ終わらせないんだから。」
「便利屋のミッションはこれからなのよ!」
そして勢いのままブラックマーケットの闇銀行にやってきて、6時間が経過した。
「融資の審査に、なんで半日もかかるの!? 先に人もいなさそうだったのに! 私の連れは待ちくたびれて、そこのソファーで寝ちゃってるし!」
『私どもの内々の事情でして、ご了承ください。』
捲し立てる私を一切気にせず、銀行審査官は話し続ける。
『ところで、アル様。 貴方はそのような態度を取れる状況ではないと思うのですが?』
「あ、うう…。」
そうだ。
私は融資を受けに「お願い」をしにきているのだ。
立場は、こちらが圧倒的に弱い。
『当行の助けが必要なら、辛抱強くお待ちいただくことも大事かと。 それとお連れの方ですが、そちらでお休みになられては困ります。』
審査官が指をパチンッと鳴らすと、近くにいた警備員達が、眠ってしまった社員たちを乱暴に起こす。
その後は、審査官との確認が続くが、終始舐められっぱなしだった。
便利屋68はペーパーカンパニーではないのかとか、社員の数と肩書きを見て会社ごっこでもしているのかとか、事務所の賃貸料が財政状況に合っていないとか。
最後にはより堅実な職に就いてみてはなどと言われた。
(ムカつく…もう、銀行のお金を持ち出しちゃおうかしら?)
そんなことを思いつくが、持ち出せたところで、ブラックマーケットから無事に逃げ出せる気がしない。
私達4人でかかれば、実際は大したことない連中かもしれないが、ブラックマーケットを敵に回す。
そんな勇気は、私にはない。
(くそっ、なによ。情けない…キヴォトス一のアウトローになるって心に決めたのに。
融資だのなんだの…こんなつまらないことばかりに悩まされて…)
(何事にも恐れず、何事にも縛られない。ハードボイルドなアウトロー…そうなりたかったのに…)
深い自己嫌悪に陥ってしまっていた時に、不意に声をかけられる。
「…おや、しゃちょう。こんなところで、なにを。」
「? その、声は…。」
顔を上げると、私の目の前には同じアウトローを目指す同士であり、残念ながら倒さなければならない敵でもある黒羽レイヴンが立っていた。
『あの、どちら様でしょうか。 今は商談中で…』
「ああ、そうでしたか。 となると、しゃちょうはおかねをかりようとしているのですね? やめたほうがいいですよ、こんなところからかりるのは。」
声をかけてくる審査官を無視し、レイヴンはそう言いながら空いている私の隣へ座る。
改めて見ると、初等部の子と言われても不思議ではないほど小さい。
けれど、彼女の実力はこの目で見てきた。
圧倒的な数的不利に一切躊躇せず、ハルカと共に傭兵集団へ突っ込んで行った時は、思わず声が出そうになったが、彼女は弾丸がいつ発射され、どこに飛んでいくのか分かっているように躱していた。
敵の攻撃には当たらず、こちらからの攻撃はほぼ確実に当てていく。
敵に回したくない相手だ。
それにしても距離が近い。
「…こっちにも、こっちの事情があるのよ。」
「あびどすをしゅうげきするために、ですか?」
「うぇっ!?」
あまりに的確な指摘に、思わず声を出してしまった。
やはり、彼女は普通じゃない。
一見ただの小さな女の子なのに、何かが、私達とは決定的に違う。
「あ、あ、アル様に近づかないでください!!」
「…独立傭兵ナイトフォール、これは私たちの受けた仕事。 貴方は関係ない。」
「んー。ナイトちゃんって、優しいんだね。 それとも、ほんとはもうアビドスに雇われてて、私達を始末しにきたとか?」
「お、落ち着きなさい!貴方達! こんなところで銃なんて撃ったらタダじゃすまないわ!」
レイヴンの的確すぎる発言に、社員達は警戒を強め、銃を抜き、彼女に構える。
3対1という圧倒的に不利な状況、しかしそれでもフードの下の彼女の表情は一切変わらない。
「まさか、そんないらいをうけてるなら、とっくにうってますよ。 これはただ、せんゆうとしてのちゅうこくです。」
「戦友…!?」
「はぁ…。 随分と余裕そうだね。」
「え? つ、つまり、お、お、お友達としてってことですか?」
「そう、おともだちとして。」
彼女はそういうとテーブルの上に乗っているすっかり冷めてしまった紅茶のカップを手に取り、物珍しそうに見たあと、一口飲み一言、「おいしくない。」と言ったあと改めて話し始める。
周囲の状況を一切気にしない、なんともハードボイルドな行動だ。
昔映画で見た、これから始末する相手のハンバーガーを美味そうに目の前で食べ、ドリンクすらも飲み干したシーンを思い出す。
「あるゆうじんのしてきなはなしですが、おなじようにおいつめられて、あくとくきんゆうのてをかりて、ききにおちいっているがっこうがあるそうですよ?」
「な、なんですって…」
『貴方! これ以上私達のことを悪く言うならセキュリティを呼んで強制的に出て行ってもらいますよ!』
審査官が合図をすると銀行の警備員が集まってきて、巻き込まれる形で私たちもその包囲網の中に閉じ込められる。
「ど、ど、どうしましょう!?」
「はぁ…これは面倒なことになったね。」
「どうするアルちゃん? いっそ暴れちゃう?」
「あわわわわ…。」
警備員達に囲まれパニックに陥りそうになってくると、不意にレイヴンが私の耳元まで近寄ってくる。
「な、な、なに!?」
(ともにたたかったえんです。ひとつつたえておきます。)
他の人には聞こえないような、小さな声で囁いてくる。
(いまから、すこしさわがしくなります。 じっとしていてください。)
「え、それってどういう…」
『コソコソと何を…もう我慢の限界です! セキュリティ!この不審者どもを追い出せ…』
バツンッ
不意に銀行内のあらゆる電灯が消える。
それと同時に銀行のドアが勢いよく開かれ、
ダダダダダダッ!!
ドォン!ドォン!
と様々な銃声が響き、銀行の警備員たちの悲鳴が次々と上がる。
まさか、銀行強盗!?
予測できなかった事態に動揺しているとタァン!タァン!とすぐそばでも発砲音が起きる。
間違いなく、レイヴンだ。
彼女は、私が決断できなかったこと。
「ブラックマーケットを敵に回す」ということを、一切の躊躇なく、やってみせている。
しかも彼女はこの行為を「少し騒がしくなる」で片付けている。
巨大な組織を恐れず、常識にも縛られない。
私の目指すアウトローの手本が、目の前に居る。
きっと、この出会いは運命だ。
闇銀行への侵入は特に問題なかった。
あまり世間を知らない私でも、銃を持ったまま重要な施設に入れる事はおかしいと思うが、このキヴォトスでは銃を持たない方が異常という事だろう。
警備員は当然、銀行員ですらハンドガンを腰から吊るしている。
まず、シロコ先輩の要望通り、監視カメラの死角、警備員の動線、銀行内の構造を胸ポケットに隠したスマートフォンで映像を送る。
その間にチャティが外部に通報される警備システムを掌握し、機能不全に陥らせる。
どうやらアロナさんもハッキングが得意なようで、先生からもやりたがっていると聞かされたが、この一件にシャーレが関わっている証拠は一切残すべきではない。
そう判断して、今回は譲ってもらった。
ある程度歩き回るとシロコ先輩からもう十分とのメールが入る。
『ばっちり。 あとはこちらに任せて。』
『了解しました。 幸運を。』
メールの返信を終えると同時に、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「本当に待ったわよ! 6時間も!ここで!!」
便利屋68の社長、陸八魔アルだ。
なぜ、こんなところに?
そう思ったが、次の瞬間にはもう答えは出ていた。
便利屋68はまだ仕事を続けるつもりだ。
つまり、彼女達は作戦を発動するための資金を借りに来たわけだ。
だが、なぜよりによってこんなブラックマーケットの闇銀行などに借りに来ているのだろう。
こんなところから借りれば、もし依頼を達成できても、その報酬は丸々持ってかれてしまうだろう。
下手をすれば、彼女達の依頼主とこの闇銀行が繋がっていて、実質タダ働きさせられただけになる可能性もある。
アビドスを脅かす危険因子ではあるが、それはあまりにもあんまりだ。
それに、彼女達とは共に戦い、初めてできたアビドス以外の生徒の友人でもある。
私は偶然を装い、銀行員に追い詰められている社長に話しかける。
「…おや、しゃちょう。こんなところで、なにを。」
「? その、声は…。」
上手く装えたか自信がなかったが、どうやら社長の反応を見るに成功しているようだ。
社長の隣がちょうど空いているので座らせてもらう。
そのままここで借りるのはやめた方がいいと諭してみるが、社長は決して引けないといった表情で融資を受けようとしている。
確信を得るためアビドス襲撃を話題に出すと、面白いほど動揺してくれた。
ここから先、どうやって社長を説得しようか考えていると、後ろで銃のセーフティーが外される音がした。
「あ、あ、アル様に近づかないでください!!」
「…独立傭兵ナイトフォール、これは私たちの受けた仕事。 貴方は関係ない。」
「んー。ナイトちゃんって、優しいんだね。 それとも、ほんとはもうアビドスに雇われてて、私達を始末しにきたとか?」
便利屋68の社員達の銃口を突きつけられる。
なるほど、やはり彼女達は固い絆で結ばれているようだ。
社長は社員達を止めるが、私も彼女達の気持ちは分かる。
むしろまだ落ち着いてる方だ。
もしこの状況を私とウォルターに差し替えたら、私はもう引き金を引いているだろう。
彼女達の忠犬ぶりに共感しつつ、敵意がない事を説明していると、チャティからメールが届いた。
いつものように用件はそれだけだで締めくくられた文には、10秒後に電源を遮断、混乱に乗じてアビドスの皆が突入すると書かれていた。
今回の銀行襲撃作戦、便利屋68が絡んでくれば、失敗してしまうかもしれない。
そうなる前に、味方に、少なくとも出しゃばって来られないようにしておかなければ。
気づくと私と便利屋は何故か銀行の警備員に囲まれていた。
銀行員達に聞かれないように、私は社長の耳元で騒がしくなる旨を伝える。
社長が発言の意味を問いただそうとした瞬間、銀行の電気は消え闇に包まれる。
同時にアビドスの皆が突入する音が聞こえる。
正面入り口に気を取られた銀行の警備員を私が後ろから撃つ。
「うわっ!ああああっ!」
「なっ何が起きて…うああっ!!」
「無念…!」
銃声が止むと同時に銀行の電力が復帰する。
そこには覆面と紙袋を被った5人組が立っていた。
「全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!」
「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」
「あ、あはは…みなさん、ケガしちゃいけないので…伏せてくださいね…。」
ノリノリのシロコ先輩とノノミ先輩。
この中で一番慣れてないはずなのに、なんとも発言に深みを帯びているヒフミさんが先導して混乱に満ちている銀行内を制圧する。
「ぎ、銀行強盗!?」
『非常事態発生!非常事態…』
「おうえんはこない。 けがをしたくないなら、じっとしていてください。」
騒ぎ始めた銀行審査官の背中にライフルの銃口を押しつけ脅す。
『ひ、ひいっ!』
「うへ〜無駄無駄ー。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー。」
「ほら、そこ!!伏せてってば!下手に動くとあの世行きだよ!?」
「みなさん、お願いだからじっとしててください…あうう…。」
警備員達は全員戦闘不能にされ、銀行員達も全員武器を捨て隅に集められている。
私が脅した審査官には銀行の金庫を開けてもらうため同行してもらう。
「うへ〜ここまでは計画通り!次のステップに進もうー! リーダーのファウストさん!指示を願う!」
「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか?リーダーですか?私が!?」
「リーダーです!ボスです!ちなみに私は…」
「覆面水着団のクリスティーナだお♧」
「うわ、何それ!いつからそんな名前になったの!? それにダサすぎだし!」
「わたしも、そのなまえはちょっといやですね。」
「そ、そうですか…?」
「あう…リーダーになっちゃいました…これじゃあティーパーティーの名に泥を塗る羽目に…。」
突然の無茶振りを受けてヒフミさんは完全に動揺するが、拒否はせずにリーダーにはなってくれるようだ。
ふと、便利屋の方々はどうしているのかと振り向くと、何故か目を輝かせている社長を物陰へと引きずって隠れようとしているのが見えた。
邪魔をしてこないなら、戦う理由はない。
どうやらシロコ先輩も目的の品を確保できたらしい。
潮時だ。
「それじゃ逃げるよー! 全員撤収!」
「アディオ〜ス☆」
「みなさん、きをぬかないように。いえにかえるまでがえんそくですよ。」
「け、ケガ人はいないようですし…すみませんでした、さよならっ!!」
リーダーの号令と共に一斉に銀行の外へ駆け出す。
たった5分でここまでやるとは、頼もしい限りだ。
銀行から逃げ出し、逃走経路を進行して10分ほどでチャティから連絡が入る。
『聞こえるか?RaDのチャティ・スティックだ。 銀行の通信網が復旧し、通報を受けたマーケットガードが出動した。 非合法とはいえ、流石は治安機関だな。 既に逃走経路上にバリケードを展開し待ち構えている。気をつけてくれ。』
「うへー。流石にこのまま逃しちゃくれないかー。」
「上等!!」
「ん、邪魔をするなら、排除するまで。」
「傭兵ちゃんも、この展開は織り込み済みでしょ?」
「ええ、じゅんびうんどうはおわりです。 ぜんせんでなぐりにいくかかりならまかせてください。」
私にとっては、ここからが本番だ。
予想通り、ハイウェイ上をバリケードと大柄なオートマタと、黒いガスマスクをつけた人達が立ち塞がる。
「隊長、ハイウェイ上で所属不明の生徒達を確認しました。」
『謎のテロリストどもが…秩序を乱す汚物は、消去されるべき。 それが、我々マーケットガードの役目だ。』
「了解、撃破します!」
「うへー、向こうもやる気満々だねぇ。」
「こちらとしては、なんであろうとたたきつぶすのみです。よね?」
「ん、やることは変わらない。」
一本道のハイウェイ上で戦闘が発生する。
先頭の大柄なオートマタ達が、大型のシールドを地面にめり込ませるほどの勢いで構え、
その隙間から後方のマーケットガード隊員達が射撃をしてくる。
なるほど、チームであることを活かした良い戦術だ。
ホシノ先輩や他の皆も、重厚なシールドに手こずっているらしい。
シロコ先輩のドローンの一斉射撃にも耐えるとは、見掛け倒しではないらしい。
身分さえ気にしなければ、パルスブレードで切ってしまうのだが、特徴的すぎるこの武器を見られるのはまずい。
だが、問題はない。
シールドを構えている相手は、ルビコン3で何度も相手してきた。
それに、ホシノ先輩も私の機動力を頼りにしているらしい。
「レイ…傭兵ちゃん! 私達が正面で敵を引きつける! あの盾持ちをなんとかして!」
「りょうかいです!」
遮蔽物から飛び出し、弾幕の中を掻い潜りながら走り抜ける。
「な、なんだこいつ! 弾を避ける!?」
「弾幕が怖くないのか!? くそ、当たらない!」
『任せろ!』
踏ん張っていたオートマタはシールドを持ち上げ、シールドバッシュを繰り出してきた。
相手はこちらの意表を突いたつもりだろうが、その動きはルビコンで経験済みだ。
繰り出されたシールドバッシュを左にステップし、空振りしてガラ空きになった脇腹にライフルを叩き込む。
『何っ!?…ぐぉっ!!』
「おしかったです…ねっ!!」
体勢を崩したところにダメ押しで思い切り蹴りつける。
大柄のオートマタは吹き飛ばされ、ハイウェイ下に落ちていった。
流石に全力を込めた蹴りでこちらもふらついてしまうが、その隙をアビドスの皆とヒフミさんがカバーしてくれた。
ひとまず、バリケードとマーケットガードを乗り越えることに成功し、ハイウェイの上を走り抜ける。
そして出口まであと数十mといったところで、不意に私達に大きな影が落ちる。
見上げるとそこには、複数の大型輸送ドローンに吊るされた…
「…えむてぃー!?」
「うへぇ、重装歩行戦車『ゴリアテ』 実際に見るのは初めてだねー。」
「嘘でしょ!?あんなのまで出してくるの!?」
「ん…思ったより、厳しい。」
「うわぁ!! 流石にあんなものがあるなんて、調べても分かりませんでした!!」
「うふふ、展示品は見たことありましたけど…本当に歩けるんですかね?」
『…データに無い敵です。 皆さんの経験と勘に頼るしか…。』
"カッコいい…"
吊るしているワイヤーが離され、ドスンッと大きな地響きを立てながら着地する。
『調子づくなよ、テロリストども。 貴様らなぞ木っ端微塵にしてくれる!』
恐らくこれがマーケットガードの切り札だ。
大型のガトリング砲そのものの両腕に、頭部に付けられた大砲。
逆関節よりの脚部による二足歩行。
そして、この世界で今まで遭遇してきた兵器群の中で一番分厚そうな正面装甲。
まさか、こんな兵器を作れるほど技術が進んでいるとは思っていなかった。
なるほど、これぐらいの技術力が特別でないのなら、ローダー4の修理も余裕かもしれない。
だが今はこの…確か、ホシノ先輩はゴリアテと呼んでいた。
このデカブツをどうにかしなければならない。
正面装甲が硬いならば、それ以外を狙うべきだ。
私はかつてレイヴンの名が知れ渡るきっかけになった作戦「壁越え」で遭遇した「ジャガーノート」と戦った時を思い出す。
あの時と、同じように。
『重装機動砲台ジャガーノート…正面から攻めるのは得策じゃない。』
でも、今回は、彼がしてくれたことを、私がする番だ。
「わたしがすぴーどでかくらんします! みなさんは、はいめんか…きゃくぶのかんせつをねらってください!」
「うぇっ!? 難しいこと言うね!?」
「やってやろうじゃない!!」
「ん、火力支援は任せて。」
激しいガトリング砲の銃撃の中を、スレスレでかわしていき、注意を引きつけながらゴリアテの股下をくぐり抜け背面に回る。
ジャガーノートほどの弱点はなさそうだが、それでも背面への被弾はあまり想定していないようだ。
私は頭部と接続されている太いチューブ目掛けてライフルを発砲する。
5発ほど命中させるとチューブは千切れ、頭部のキャノン砲が動かなくなった。
『やってくれたな!! このテロリストがぁ!!』
ゴリアテがこちらへ向こうと方向転換をした瞬間、ゴリアテの脚部関節へシロコ先輩のドローンのミサイル群が直撃。
関節が砕かれ、ゴリアテはそのまま倒れてしまった。
「ん、やった。」
「いよっし! あの状態じゃもう追ってこれないね! 今のうちに全力で逃げるよ!」
「ナイスアシスト!! レイヴ…傭兵ちゃん!!」
「いえ、しろ…なんばーつーの、てがらです。」
「うーん、ガトリング砲の銃撃の中を突っ切るなんて、カッコ良すぎます☆」
ひっくり返された亀のように、必死に起きあがろうとしているゴリアテを尻目に一斉に駆け出す。
無事にハイウェイを抜けられたが、一つ誤算が生じる。
『ま、待ってください! 後方からマーケットガードの増援です! この動きは…ブラックマーケットの外まで追ってくるつもりです!』
「うへぇ、まぁ、現行犯が居るなら言い訳はいくらでもたつ…かな?」
「どうする? 下手すると、私達の拠点がバレちゃうかも…。」
『それだけは、なんとか避けなければなりません…どうにかして、マーケットガードの追跡を振り切らなければ…」
ブラックマーケットを抜ければ、マーケットガードは追ってこない。
自然とそう考えていたが、どうやら向こうはどこまでも追ってくるつもりらしい。
面子というやつだろうか。
白昼堂々、銀行強盗をされた上1人も捕まえられずに逃げられましたではマーケットガードの権威は地の底まで落ちるだろう。
ますます私が望んだシチュエーションだ。
自然と私は、自分を売り込むための策を講じてしまった。
「わたしが、ここでやつらをくいとめます。」
『「「「「えっ?」」」』
"1人で!?無茶だよ!"
「もとより、ようへいとはそういうものです。 つゆはらいに、しんがりにつかわれるつかいすてのこまです。」
「うーん…でも…」
決心がつかないようだが、この仕事の最初に、約束したはずだ。
「どうしました? わたしはみなさんにやとわれたただのようへいですよ。 なにをきにしているんです?」
『気にするな。 俺たちはこの程度の修羅場は何度も潜ってきている。』
「…わかった。 ここは任せるよ。傭兵ちゃん。」
「そうするしかないの…?」
「目的の回収が最優先!! 皆、行くよ!!」
私以外の皆がハイウェイを抜け、その先の市街地へ走って消えていく。
私はライフルのマガジンを交換し、マーケットガードの追跡部隊に備える。
たった1人で、マーケットガードと渡り合う。
こんな事をすれば、企業の連中も私の名を覚える気になるだろう。
「壁越えの傭兵」の時のように。
独立傭兵ナイトフォール、普通に血が騒ぐ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
感想やここ好きを見て自己肯定感を高めている今日この頃。
順調にAC×ブルアカが増えてきて嬉しいです。
ACのセリフとブルーアーカイブはとても相性がいいと思います。
まだまだ言わせたい、言われたいセリフがあるので、どこまで続けられるかは不明ですが、軽い気持ちでお待ちいただけていると嬉しいです。