艦隊これくしょん ~進化の因子宿す少女たち~   作:玄武の使者

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プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

20XX年。世界は緊張に満ちていた。

 

 

 

 

第2次世界大戦以降、各国に強い影響力を与えていた大国が軒並み衰退。

 

 

 

 

それを良い事に自国の繁栄を求めて、大人しかった国が動き出したことが始まりだ。

 

 

 

第3次世界大戦が勃発するのでは……と噂されるほどまで緊張感が高まるが、それは突然終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

―――深海棲艦―――

 

 

 

 

 

それが突如として現れた世界共通の敵の名前である。

彼らは海上交通路《シーレーン》をズタボロに破壊し、世界の混乱の渦へと引き込んだ。

突然現れた未知の敵を排除するために多くの戦力が投入されたが、人間の兵器は深海棲艦の装甲に傷一つ付けることはできず、最初の討伐戦は大敗を喫した。

その後、関係がギスギスしていた国が一時協力体勢を敷いて立ち向かったが、結果は第1回目と同じ。

こうして、地球の海上は深海棲艦に征服されてしまった。

 

 

鎖国状態に陥った各国は困り果てた。

何せ、他の国とも連絡を取ることもできず、孤軍奮闘を強いられている上に敵に人間の兵器は効かないという絶望的な状況なのだ。

そんな状況に追い込まれて踏ん反り返っていられる訳がない。

 

 

そんな最中、日本の某所で深海棲艦に唯一対抗できるモノが生み出された。

 

 

 

人類の期待を背負った深海棲艦に対するアンチユニット。

 

 

 

その名は艦娘《かんむす》。

 

 

 

第2次世界大戦で活躍した日本海軍の艦と同じ名前を持つ彼女たちは目覚ましい活躍を挙げた。

彼女らの活躍によって、日本近海はある程度平和を取り戻すことができた。

しかし、相変わらず他国の現状を知ることは難しく、鎖国状態に近い状態が続いている。

 

 

 

 

今日も人類と深海棲艦との戦いは続いている……

 

 

 

 

 

▼    ▼    ▼    ▼    ▼    ▼

 

 

 

 

ドンッ!! ドンッ!!と砲撃音が海上に木霊する。

 

 

その発生源は黒いストレートの髪に翡翠のような瞳を持つ小学生ぐらいの少女。

グレーの吊りスカートに白いブラウス、黒いハイソックスと手首まで覆うアームカバーという服装はまさに何処かの小学校の制服だ。

だが、その制服も今は所々破損してしまい、露出した肌は少し煤けてしまっている。

 

 

「はぁ…はぁ…これで2体。」

 

 

少女は異形の集団――深海棲艦に取り囲まれていた。

 

 

艦娘にも艦種があるように深海棲艦にも同様に艦種が存在している。

少女を取り囲んでいるのは駆逐イ級2体、軽巡ホ級、軽巡へ級の合計4隻。

駆逐艦である彼女にも倒せないことはないが、今回は多勢に無勢だ。

 

 

(弾薬はまだ残ってますが、魚雷は無し。危機的状況ね)

 

 

少女――朝潮型駆逐艦の1番艦、朝潮は唇を噛む。

朝潮型駆逐艦には虎の子の次発装填装置が搭載されているが、その分の魚雷も撃ち尽くした。

残ってるのは右手に装着された12.7cm連装砲の弾薬のみ、という非常に危機的な状況だ。

 

 

(相手は無傷。それに対して、こっちは大破一歩手前の中破。囲まれて逃げるのも無理)

 

 

朝潮は冷静に現状を分析する。

 

 

敵を振り切って撤退するのは彼女のスピードでは不可能だろう。

敵の艦隊の最大速力は朝潮と同等かそれ以上であり、軽巡ホ級と軽巡ヘ級の射程は朝潮の武器よりも長い。

後ろから撃たれて轟沈するのが関の山だろう。

 

 

(ここで沈む訳にはいかない。私にはやらなければならないことがあるから!!)

 

 

心の中で自分を鼓舞し、朝潮は眼前の敵を見据える。

最初のターゲットはこの中で一番射程の長い軽巡の2隻。

艦娘の身体を浮かせる主機――足に装備する艤装――の回転数を上げて、カタログスペック以上の速力を出す。

全方位から放たれる砲撃をこれまでの戦闘で培った戦闘経験をフル活用して回避していく。

特に装甲が脆い駆逐艦は軽巡洋艦の直撃を受けてしまうと一発でアウトだ。

 

 

「この距離なら外さない!!」

 

 

小回りの利く身体を利用して、可能な限り至近距離で12.7cm連装砲を連射する。

放たれた砲弾はすべて軽巡ホ級に全弾命中し、敵艦は力尽きたように海上に横たわる。

 

 

「まずは1体!!」

 

 

その場に留まらず、すぐさま取舵。

一度軽巡ヘ級と距離を取る朝潮だが、そこへ5inch砲弾と6inch砲弾が降り注ぐ。

海面に着弾すると同時に水しぶきと水柱が上がって朝潮の視界を遮る。

舞い上がった海水のせいで口の中がしょっぱくなるが、彼女にそんなことを気にしている余裕はない。

 

 

朝潮は多少の被弾を覚悟して砲弾の雨の中から飛び出る。

もう使い物にならない魚雷発射管を盾にしつつ、最優先ターゲットの軽巡ヘ級を狙う。

しかし、駆逐イ級2隻が盾になるように朝潮の進行方向上に立ちふさがる。

 

 

(チャンスだわ!!)

 

 

軽巡ヘ級の周囲に敵が集まったことで包囲網が解除され、隙間が生まれる。

朝潮は牽制に12.7cm砲弾を放ちつつ、鎮守府に向かって撤退する。

最大速力で戦闘区域から離れて行く朝潮だが、その進行方向に水柱が立ち昇った。

 

 

「なっ!?」

 

 

目の前で立ち昇った水柱に朝潮は思わず足を止める。

反射的に振り向くと、撃沈したと思われた軽巡ホ級の砲身から煙が上がっているのが見えた。

 

 

(仕留めそこなった!!)

 

 

少なくとも大破してしまっているのでその場から動くことはできないだろうが、朝潮の動きを止めることはできたのだ。

そして、足を止めた彼女に向かって軽巡ヘ級の6inch砲弾が再び降り注ぐ。

反射的に魚雷発射管を盾にするが、頑丈な艤装もとうとう限界を越えて粉々に壊れる。

 

 

(すぐに移動しないと……っ!!)

 

 

身を守る物を失った朝潮はその場から退避しようとするが、視覚が海上を走る一本の線を捉えた。

 

 

 

駆逐イ級が放った魚雷がまっすぐ彼女に向かってきているのだ。

しかも、軽巡ヘ級の援護射撃は続いており、回避行動を妨害する。

軽巡クラスの攻撃の直撃を受ければ、身を守る盾もない朝潮は一気に大破まで追い込まれるだろう。

 

 

「くっ……」

 

 

回避を諦めて、迫りくる魚雷に向かって12.7cm連装砲の砲身を向ける。

しかし、砲口から砲弾が発射されることはなかった。

 

 

 

先ほどの牽制で残っていた全ての弾薬を使い果たしてしまったのだ。

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

そして、2本の魚雷が朝潮に命中し、大きな爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私……こんな所で終わるの……?)

 

 

主機が機能を失い、海の底に沈んでいく朝潮。

大破状態で魚雷の直撃を受けて轟沈。無茶を仕出かした艦娘に多い末路だ。

あのまま離脱できれば、少なくとも大破状態で鎮守府で帰島できただろうが、もう後の祭りだ。

 

 

(嫌……まだ、あの子の顔すら見てないのに!!)

 

 

日光が射し込んで来る海面に向かって必死に手を伸ばすが、朝潮に出来るのはそこまでだ。

さっきまで動いて身体はまるで麻痺したかのように動かず、もがくこともできない。

 

 

(こんな所で……こんな所で沈んでいられない!!)

 

 

朝潮は心の中で叫ぶ。

しかし、朝潮の身体はどんどん海底に向かって沈んでいくだけ。

そんな時、彼女の頭に直接語りかける声があった。

 

 

 

 

―――コッチニオイデヨ―――

 

 

 

 

―――ボクタチノトコロニオイデヨ―――

 

 

 

 

―――ナカマニナロウヨ―――

 

 

 

 

―――ナカマニナロウヨ―――

 

 

 

 

朝潮を仲間に誘う謎の声。

その正体について、朝潮はおおよその検討がついていた。

 

 

(こうやって仲間を増やしているのね、深海棲艦は)

 

 

突如として世界各地の海洋に出現した深海棲艦。

その生態はまったく判明しておらず、さまざま仮説がささやかれている。

数ある仮説の中で有力視されているのが“かつて沈んだ船の怨念や憎悪が形になって現れたモノ”という説だ。

そして、轟沈した艦娘は深海棲艦になると言われている。

 

 

朝潮とは別の鎮守府に所属する艦娘が轟沈した時に海中で謎の声を聞いた、という証言がそんな説が立てられた。

ちなみに、その艦娘は偶々緊急ダメコンを積んでいたために鎮守府まで帰還することができた。

 

 

(でも、私は貴方たちの仲間になる気はないわ。私には目的があるもの)

 

 

朝潮は深海棲艦の誘いを確固たる意志を持って拒絶する。

 

 

(だから、こんな所で沈む訳にはいかないのよ!!)

 

 

朝潮が心の中で叫んだ時、彼女の艤装に秘密裏に搭載されたプログラムが起動した。

 

 

 

 

―――SELF-EVOLUTION PROGRAM “Pandora” GET READY―――

 

 

 

 

 

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