艦隊これくしょん ~進化の因子宿す少女たち~   作:玄武の使者

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第1話 進化の芽

 

 

 

 

 

 

戦闘海域から北へ3海里ほどの地点に建設された鎮守府。

国内からは鹿屋基地と呼ばれるその鎮守府は朝潮が所属する鎮守府である。

鎮守府として建設されたのは最近で、鎮守府内の設備も新品と見間違えるほどピカピカだ。

 

 

今、鹿屋基地は予想外の事態で大パニックに陥っていた。

訓練に出ていた艦隊からの通信が途絶え、さらにはその艦隊がボロボロになって帰還したからだ。

 

 

「大丈夫か!? お前たち!!」

 

 

ボロボロになって帰って来た艦娘たちに駆け寄る白い海軍服を身に纏った男性。

年はまだ若く20代前半と言った所で少し釣り上がった目つきと小さなメガネを掛けている。

 

 

彼の名前は蔵馬 総一郎。この鎮守府を統括する提督であり、階級は少将。

1人も轟沈させないことをモットーにしており、そのための努力は惜しまない人物である。

しかし、今回の事態は本当に予想外の出来事だった。

 

 

「暁は大丈夫よ!! それよりも朝潮が……」

 

 

「朝潮に何かあったのか!?」

 

 

「私たちを逃がすための囮になった。多分、今も戦ってると思う。」

 

 

提督の質問に銀髪に蒼い瞳を持つ少女、響が答える。

 

 

「一体、何があったんだ? 出撃した海域にはそれほど強い深海棲艦は居ない筈だ。」

 

 

響、暁、雷、電の4人に朝潮を加えた5人が今回出撃した艦娘である。

“第6駆逐隊”と呼ばれる彼女らは数日前にこの鎮守府に着任したばかりで練度も低い。

練度の低い4人だけで出撃させるのは不安なので、鹿屋基地でもトップクラスの練度を誇る朝潮を旗艦に据えて出撃したのだ。

 

 

「帰島しようとした時に敵の増援の奇襲を受けたんだ。それで朝潮が囮に……」

 

 

「そうか……後はこっちで何とかする。

 暁と響は雷、電の2人をドックへ。2人も一緒に入渠してこい」

 

 

「暁はまだ戦えるわよ!! 補給が終わったら、すぐに朝潮を助けに……」

 

 

「ダメだ。中破しているお前を行かせる訳にはいかない。大人しく入渠していろ。」

 

 

雷と電――共に大破――に比べると暁と響の被害は少ないが、それでも中破している。

助けに行く途中で深海棲艦に遭遇する可能性も捨てきれないのでここで行かせるのは轟沈に繋がると判断したのだ。

 

 

「朝潮を見捨てるって言うの!? 暁なら補給さえできれば……」

 

 

「暁」

 

 

元々少し鋭い目つきがさらに鋭くなり、話す相手に恐怖心を与える。

蔵馬提督の威圧を籠めた視線に気圧された暁は口をパクパクと開閉するだけで言葉を発することができない。

よく見ると恐怖のあまり身体が小刻みに震えている。

 

 

「これは命令だ。大人しく入渠して回復に努めろ。」

 

 

「うっ……わ、わかったわ。」

 

 

「響。暁が勝手に抜け出さないように見張っておいてくれ。」

 

 

「ん、了解。」

 

 

暁と響はそれぞれ大破して意識を失っている妹を背負ってドックに向かった。

ちなみに、ドックというのは正式名称を“艦娘専用傷病療養施設”と言い、戦闘で怪我を負った艦娘の治療を行う施設である。

鹿屋基地にはそのドックが全部で4つ存在しており、今日は他の艦隊の出撃がなかったので全部空いている状態だ。

 

 

「大鯨。救援に向かえそうな艦隊は?」

 

 

蔵馬提督は癖のある紺の髪に赤い瞳を持つ女性、大鯨に問う。

 

白と紺のセーラー服の上に白いエプロンを着たその姿はとても軍の関係者には見えない。

しかし、彼女も立派な艦娘であり、蔵馬提督の2代目秘書艦である。艦種は潜水母艦。

 

ちなみに、秘書艦というのは提督の補佐を任された艦娘のことである。

提督が指名するが、基本的には第1艦隊の旗艦が秘書艦を兼任することが多い。

この鹿屋基地では第1艦隊の旗艦≠秘書艦なので大鯨が第1艦隊の旗艦という訳ではない。

 

 

「天龍さん率いる第2艦隊が空いています。ですが……」

 

 

大鯨は口を濁した。

 

 

「ああ、分かっている。間に合わない確率の方が高いだろう。」

 

 

提督は茜色に染まる海を見つめながら呟いた。

朝潮率いる第3艦隊との通信が途絶してからすでに2時間が経過している。

今から出撃の指令を出しても艤装の装備して、戦闘海域に到着してもすでに戦闘が終わっている可能性が高い。

つまり、何の成果も得られずにいたずらに燃料と弾薬を消費してしまうことになる。

 

 

「だが、俺は1%でも可能性があるのなら、チャレンジする主義でな。このまま何もしない訳にはいかない。」

 

 

「……分かりました。提督がそう仰るなら、第2艦隊に出撃要請を出しましょう。」

 

 

「ああ。」

 

 

「おっと。その出撃、ちょっと待った方がいいぜ」

 

 

第2艦隊の出撃が決まった刹那、提督と大鯨に待ったを掛ける者が居た。

 

 

「工廠長……どういうことですか?」

 

 

2人の会話に口を挟んできたのは2頭身サイズの小人だ。

 

 

 

妖精。それが小人の正体である。

深海棲艦にダメージを与えることができる艤装を作ることができる謎の多い知的生命体である。

一口に妖精と言っても、それぞれ任されている役割は異なる。話しかけてきたのは工廠――艤装の建造・整備を行う場所――を統括する高位妖精である。

 

また、妖精は普通の人には見えるが、会話することはできない。

国の防衛を担うには彼女らとのコミュニケーションが必要不可欠であり、彼女らと会話できる特殊な資質がないと提督は務まらない。

ちなみに、人間と同じように話せる妖精を“高位妖精”と言い、舌足らずな喋り方の妖精を“下位妖精”と呼ぶ。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「んー……口で説明するよりも実際に見て貰った方が早いな。」

 

 

そう言って、工廠長は単眼望遠鏡――妖精にとっては天体望遠鏡サイズ――を提督に渡す。

 

 

「この距離では流石に見えないと思うが……」

 

 

「まあ使ってみな。」

 

 

提督は怪訝に思いながら工廠長からソレを受け取り、南の方角を見る。

望遠鏡越しに見る茜色に染まる海の上にポツン、と浮かぶ人影が辛うじて見えた。

その人影は鎮守府に向かって来ているようでどんどんと大きくなっていく。

 

 

「あれは……朝潮!?」

 

 

「ホントですか!?」

 

 

「ああ。だが、あの艤装は一体……」

 

 

鹿屋基地に向かっているのは間違いなく、第2艦隊の旗艦――朝潮だ。

しかし、背負っている艤装は一般的な朝潮型駆逐艦のモノとはまったくかけ離れていた。

 

 

 

▼    ▼    ▼    ▼    ▼

 

 

 

時間は遡り、鹿屋基地の南の海域。

 

 

 

 

茜色に染まった海に水柱が立ち昇り、その中から1人の艦娘が姿を現す。

身に纏う衣服、髪の色や瞳の色、髪型も先ほど海の底へと沈んでいった朝潮と瓜二つだ。

しかし、背負っている艤装はまったく別のモノへと変貌してしまっている。

 

 

 

腰を挟むようにして存在する61cm酸素魚雷発射管(装甲板付き)。

 

 

 

艤装の上部から伸びる2本のアームに接続された砲身が異様に長い単装砲。

 

 

 

元の艤装の面影が残る部分には鞘に納められた剣型の近接戦闘用艤装が2本。

 

 

 

そして、破損した魚雷発射管の代わりに装着された小型の盾のような艤装。

 

 

 

朝潮の艤装は少し大型化し、武装が大量に追加されていた。しかも、どの艦娘の艤装にも該当しない。

さらに言えば、敵の雷撃で壊れた筈の主機も完全に修復されており、破れた衣服も元通りだ。

今まで経験したことがない事態に敵の深海棲艦も混乱していた。

 

 

「………」

 

 

やがて、朝潮の瞳が開かれる。

朝潮は感触を確かめるように右手を開閉させた後、指先を軽巡ヘ級を向ける。

同時にアームが稼働して砲身が異常に長い単装砲が軽巡ヘ級に向けられる。

 

 

「てぇぇぇっっ!!」

 

 

掛け声と同時に青白い閃光が海の上を真っ直ぐ進む。

その速度は従来の主砲よりも圧倒的に速く、明らかに音速を超えている。

放たれた弾は軽巡ヘ級の装甲を容易く貫いて確実に撃沈する。

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

軽巡ヘ級が一撃で撃沈されたことに残った仲間も混乱する。

 

 

 

レールガン。それが朝潮の新しい主砲として顕現した艤装で軽巡ヘ級を一撃で撃沈した兵器の正体だ。

“電磁投射砲”とも呼ばれるソレはローレンツ力を応用して弾を発射するモノである。

その速度は音速を遥かに上回り、あの大和型戦艦の主砲の初速にも勝る。初速が速ければ、その分射程も長くなる画期的な兵器だ。

朝潮の艤装はこのレールガンを2基搭載し、あの大和型戦艦並みの射程を出すことができるようになったのである。

 

 

「呆けている暇はありませんよ?」

 

 

残された駆逐イ級2隻と軽巡ホ級に向かって伸びて行く白い筋。

それが敵と接触した瞬間、大きな爆発音と同時に海水が巻きあがって水柱が立ち昇る。

 

 

レールガンを放つと同時に発射した駆逐艦の最強武器、酸素魚雷が見事に炸裂したのだ。

蒔き上がった水しぶきが治まると、2隻の駆逐イ級は火を噴きながら水底へと沈んでいく。

しかし、軽巡ホ級は未だに健在だ。

 

 

「肉薄する!!」

 

 

水面を滑るように走り、軽巡ホ級に肉薄する朝潮。

その手には鞘から引き抜かれた剣型近接専用艤装が握りしめられていた。

 

 

「せいっ!!」

 

 

夕暮れが近づいた海上に奔る一筋の閃光。

翡翠のような刃のせいで緑色の線に見えるそれは軽巡ホ級の身体をいとも容易く切り裂いた。

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

獣のような叫び声を上げる深海棲艦。それが断末魔の叫びとなった。

 

 

「増援は……無し。間一髪だったわね」

 

 

周囲を肉眼で見渡し、増援が居ないことを確認した後、朝潮は胸を撫で下ろした。

50口径レールガン《天穿》の砲口を下ろし、近接専用艤装《天崩》を鞘に戻す。

 

 

「急いでこの場を離れた方がいいわね」

 

 

ほとんど休憩することもなく、朝潮は鹿屋基地に向けて舵を切る。

 

万が一、肉眼で確認できる範囲の外に敵の増援が居たら、危険だからだ。

生憎と鹿屋基地では電探は軽巡洋艦に優先的に配備されるので駆逐艦の朝潮まで回って来ない。

もっとも駆逐艦に搭載できる電探は小型のモノに限られるが……

 

 

(暁たちは無事に鎮守府にたどり着けたかな?)

 

 

先に逃がした同じ艦隊の艦娘のことを考えながら朝潮は鎮守府に急いだ。

 




ソロモンよ、私は帰って来たぞぉぉぉ!!

………という訳で活動を数カ月ほどお休みしていた玄武の使者です。お久しぶりです。
本当なら未完結の小説を何とか完結させるつもりで居たのですが、お休みしている間にどうも腕が鈍ってしまったので断念。リハビリも兼ねて艦隊これくしょんの二次創作を製作することにしました。

後々に分かると思いますが、この作品の世界観のベースは小説版「陽炎、抜錨します」になっています。なので艦娘の誕生の仕方も一緒です。
違うのは艤装の作成に妖精が関わっていることです。(それ以外にも違いはありますが、また追々に説明します。)


では、今回はこのあたりで。
書き過ぎるとネタバレになってしまいますからね。



9/18 矛盾点の修正、武装の一部変更
9/20 文章を一部修正
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