艦隊これくしょん ~進化の因子宿す少女たち~   作:玄武の使者

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第3話 性能テスト

 

 

 

 

 

 

―――翌日 朝―――

 

 

 

朝6時。

他の艦娘が起き出すよりも早い時間に蔵馬提督と秘書の大鯨は第2工廠に居た。

第2工廠というのは艦娘たちの艤装を格納しておく格納庫みたいな場所で整備も此処で行われる。

昨日、出撃した第6駆逐隊の艤装もこの工廠に運び込まれて整備されている。

 

 

鹿屋基地に所属する艦娘の艤装が全て揃っている中、1つだけ異彩を放つ艤装があった。

自己進化プログラム【Pandora】によって変異……否、進化した朝潮の艤装だ。

蔵馬と大鯨がその艤装を見つめていると工廠長が2人に声を掛けた。

 

 

「おう。こんな早い時間に呼び出して悪かったな。」

 

 

「大丈夫だ。それより、聞き出せたのか?」

 

 

提督の質問に工廠長は「ああ」と答えて、A4サイズの紙を手渡す。

そこには朝潮の艤装に搭載された【Pandora】の詳細が箇条書きに記されていた。

 

 

 

 

《自己進化プログラム【Pandora】について》

 

 

・前提条件として、【Pandora】を起動できるのは【原典(オリジン)】のみ。

 

 

・普通の艦娘ではソレを起動することはできず、無理に起動させようとすれば何が起こるか分からない。

 

 

・【Pandora】は装着者の経験・深層心理に基づいて艤装を進化させる。予測することはほぼ不可能。

 

 

・【Pandora】で進化した艤装は完全なワンオフになり、他の艦娘候補生に装着することはできない。

 

 

・なお、【Pandora】の起動は装着者に依存するのでON/OFFの切り替えは可能。

 

 

・場合によっては、燃料及び弾薬の消費量が飛躍的に増加する可能性もあり。

 

 

以上のような内容がA4の紙に書かれていた。

 

 

原典(オリジン)にしか使えないのか……」

 

 

「となると、使える艦娘はかなり限られますね。」

 

 

横から覗きこんだ大鯨が言う。

 

 

「ああ。原典《オリジン》にしか使えないとなると、有用性は低いか……。」

 

 

「大本営への報告はどうしますか?」

 

 

「今は保留にしておこう。しばらくは様子見だ。

 工廠長、予定通りヒトサンマルマルから新艤装の性能テストを行う。」

 

 

「おう。バッチリ整備しておくから安心しな!!」

 

 

そう言って、工廠長は人員をかき集めて早速朝潮の新艤装の整備に取り掛かる。

今までとは異なる艤装の整備ということもあって工廠の妖精たちも何処か張り切っているように見える。

 

 

「しかし、燃料の消費が増えるのは少し辛いな。」

 

 

蔵馬は先ほど工廠長から渡された紙の裏面を見る。

 

そこには朝潮の新しい艤装を運用するために必要な燃料と弾薬の量が記載されている。

弾薬の消費量は変化ないが、燃料の消費量に関しては重巡洋艦並みになっている。

12.7cm連装砲の代わりに搭載されたレールガンが大量の燃料を消費するかららしい。

レールガンさえ使わなければ、燃料の消費は普通の駆逐艦と同等まで抑え込めるようだ。

 

 

「極力レールガンを使わせないのが一番でしょうか?」

 

 

「そうだな。それよりも、こちらの準備に取り掛かるぞ」

 

 

「はい。」

 

 

蔵馬は工廠長から受け取ったメモを胸ポケットに仕舞い、大鯨と共に第2工廠をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ヒトサンマルマル(つまり、午後1時)

妖精によって整備された新艤装を身に付けた朝潮は海面に立ち、提督からの指示を待っていた。

港には鹿屋基地に所属する艦娘たちが全員集まっており、テストの様子を見学しようとしている。

 

 

『朝潮、テストの準備ができた。大鯨の姿が見えるか?』

 

 

「はい。見えます。」

 

 

双眼鏡を覗きながら朝潮は答える。

 

鹿屋基地より少し離れた海上に珍しく艤装を身に付けた大鯨が手を振っている。

その傍らには分厚そうな鋼の板が波に揺られて浮かんでいる。

 

 

『あの鋼板をレールガンで撃ち抜け。』

 

 

「了解しました。」

 

 

耳に付けたインカムから聞こえる提督の声に返事しながら朝潮はアームを操作する。

用意された鋼板は成人男性の身長ぐらいのサイズなので双眼鏡で正確に照準を合わせる。

ちなみに、大鯨が居るのは大和型戦艦に搭載された主砲が届く限界の地点である。

 

 

「……撃て!!」

 

 

バチバチと一瞬だけ青白い閃光が弾けて、砲口から加速された砲弾が飛び出す。

ローレンツ力によって加速された砲弾は音速を凌駕する速度で海上を横断し、鋼板にヒット。

生み出された衝撃によって鋼板は倒され、水しぶきがあがり、ギャラリーから歓声があがる。

 

ちなみに、本来は榴弾を打ち出すのだが、今回は普通の金属球を用いている。

 

 

『大鯨、どうだ?』

 

 

『ちゃんとヒットしています。但し、貫通はしてないですね。

 弾は数cmほど埋まった所で停止しています。距離次第では貫通することもできると思います。』

 

 

『そうか、分かった。距離を少し縮めてくれ。』

 

 

『分かりましたぁ』

 

 

大鯨が鋼板の位置を動かし、朝潮がレールガンで撃ち抜く。

この地味な作業を何度も繰り返して《天穿》の性能を測る。

 

 

『よし、レールガンの性能テストはこれくらいで良い。次は近接戦闘用艤装だ』

 

 

「はい。」

 

 

インカムから聞こえる指示に従って朝潮はレールガンの銃口を下ろし、代わりに剣を手に取る。

《天崩》という固有名称を与えられた近接戦闘用は刀身が超高速で振動する高周波ブレードになっている。

通常は鞘に納まっており、全長は朝潮の身長よりも少し短い程度だ。

 

 

『朝潮、今度はその剣で鋼板を切ってくれ。』

 

 

「はい。」

 

 

大鯨は穴だらけになった鋼板を再び浮かべて、その場から離れる。

 

 

一方、朝潮は抜刀した《天崩》の柄をしっかり握りしめて、正眼の構えをとる。

切り裂く対象は厚さ10cmを僅かに越える鋼板……重巡洋艦級の耐久力を持つ板である。

全員が固唾を呑んで見守る中、朝潮は水面を蹴り、鋼板に肉薄する。

 

 

「せいっ!!」

 

 

気合いを籠めて一閃。

残像が見えるほど素早く振り抜かれた《天崩》によって、厚さ10cmの鋼板は容易く切断された。

バランスを失って鋼板が倒れるのと同時にギャラリーから再び歓声があがる。

 

 

『朝潮、最後だ。ここから100m先に旗を浮かべておいた。

 その旗を持って港まで戻ってきてくれ。もちろん、最大速力でな。』

 

 

「はい、司令官」

 

 

新しいオーダーを受けた朝潮は《天崩》をなおすと、主機の回転数を上げて港を離れる。

最大速力を発揮した朝潮は20秒足らずで海面に浮かぶ旗を回収し、すぐさま身体を反転。

大体同じぐらいの時間を掛けて港にたどり着く。

 

 

『朝潮。テストはこれで終了だ。

 艤装を工廠に預けて、少し休んでてくれ。』

 

 

「はい。」

 

 

朝潮は陸地に上がると、そのまま一直線に第2工廠へ向かった。

港に集まったギャラリーもテストが終わったので、それぞれ割り振られた仕事を果たすために解散する。

遠征に行く艦隊もあれば、深海棲艦に征服されている海域を開放するために出撃する艦隊もある。

中には今日一日待機を命じられている艦娘たちも居る。

 

 

「蔵馬の旦那、“飛鋏”の性能テストは良かったのか?」

 

 

蔵馬提督の肩に乗った工廠長が問いかける。

 

《飛鋏》というのは朝潮の左腕に装着されている小型の盾のような艤装である。

その正体はロケットアンカーであり、少し離れた敵を引き寄せたり、そのまま鋏のように切断することもできる。

ちなみに、工廠娘が調べてみた所、アンカーに接続されたロープの長さは15mである。

 

 

「ああ。あんまり資材を無駄遣いする訳にはいかないからな。」

 

 

「まあ、詳細な性能を測定するにはそれなりの設備が必要だからな。」

 

 

「そもそも艤装の性能測定は大本営の仕事だ。

 こっちはある程度把握できていれば、差し支えない。」

 

 

「まあ、そうだな。しかし、Pandoraのせいで朝潮の嬢ちゃんもアンバランスな艦娘になったものだ。」

 

 

「火力は戦艦に匹敵するが、雷装や装甲、対空は普通の駆逐艦娘の域を出ない。

 速力だけで言えば、あの島風にも匹敵するくらいになったが……集団戦ではあまり意味がない。」

 

 

蔵馬提督は朝潮の運用について頭を悩ませる。

 

 

提督の口から出てきた“島風”というのは公式記録で日本最速を叩きだした駆逐艦のことだ。

その速力は40.90ノット。時速に換算すると約76㎞毎時。

ちなみに、【Pandora】発動前の朝潮の最大速力は34.85ノット。発動後は39.23ノットになっている。

 

 

「いっそのこと、単身で突っ込んで近距離で斬りまくるっていうのはどうだ?」

 

 

「却下だ。味方の砲撃に反応できずにフレンドリーファイアになるのがオチだ。」

 

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

 

「それを今考えてるんだ。」

 

 

朝潮の新艤装の大雑把な性能を纏めた紙を眺めながら考える。

 

 

「時間が掛りそうだし、俺は仕事に戻るとするか。」

 

 

工廠長は肩から飛び降りて第2工廠へ歩いて行く。

 

 

「せめて、朝潮のもう一つの目になるような存在が居れば……」

 

 

誰も居なくなった港で蔵馬は独り呟いた。




この小説を予想以上に読んでくれている人が多くてびっくりしている玄武です。
導入章の第3話ですが、正直要らなかったかなぁ……と思ってたり。
ここら辺の内容な後々に投稿する設定集に記載するつもりだったのですが、気が付いたら手が動いて書いていました。

そろそろ戦闘に出して無双させたいなぁ……


9/18 武装の変更に伴い、本文を一部修正
ちなみに……私は鹿屋基地で提督業をやっています。
現在はキス島撤退作戦に向けて4-3で潜水艦を狩りつつ、駆逐艦娘のレベリングの真っ最中。
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