艦隊これくしょん ~進化の因子宿す少女たち~ 作:玄武の使者
―――南西諸島海域 資源集積地―――
鎮守府を出発すること、数時間。
朝潮率いる第3艦隊は南西諸島海域に浮かぶ孤島へやって来た。
その島は無人島であるが、空母を運用するために必要不可欠なボーキサイトが多量に採掘できるスポットだ。
今回の任務はこの島で採れるボーキサイトを可能な限り持ちかえることである。
「これが限界かしら?」
「そうだね。これ以上積むと沈んでしまうかもしれない。」
海岸に接岸されたボートにはボーキサイトが一杯詰まった木箱がいくつも積まれている。
乗せられた荷物のせいで鎮守府から持って来た船は今にも沈みそうだ。
「帰り道に敵と遭遇しなければ、このままの量持って帰れるのにね」
「仕方ないのです。まったく持ち帰れないよりはいいのです。」
遠征任務では確保した資材をボートに積んで持ち帰る。
しかし、帰り道に運悪く深海棲艦の艦隊と遭遇することがあり、少しでも移動速度を上げるためにせっかく確保した資材を捨てることがある。
そのため、遠征任務の時はボートに可能な限り資材を積んで、鎮守府までの帰り道につくのだ。
「そろそろ帰りますよ。」
「ちょっとぐらい休憩しましょうよ。流石に疲れたわ。」
「……分かりました。帰還準備が終わるまで休んでいてください。」
そう言って、朝潮は帰還準備に取り掛かる。
と言っても、大量のボーキサイトを乗せたボートに曳航し易いように頑丈なロープを結び付けるだけだが。
「出発しますよ。」
「う~……もう少し休憩したいわ。」
「暁。一人前のレディは文句を言わないよ。」
「さぁ、出発するわよ!!」
響の言葉に反応して暁は態度を180°反転させる。
そんな暁に朝潮と雷はため息を零し、電は苦笑いを浮かべた。
「暁と響はボートを曳航してください。雷と電は私と一緒に周辺の警戒です。」
朝潮の指示に4人は頷いて、迅速に行動を開始する。
そして、ヒトロクフタヨン(16:24)。第3艦隊は鎮守府に向けて再び出発した。
重いボートを曳航しているので航行速度は行き道よりも遅いが、あまりスピードを出し過ぎるとボート自体が転覆してしまう可能性もあるので仕方なく15ノットで航行する。
(天気は問題なし。警戒すべきは深海棲艦の襲撃だけ。)
「そういえば、ボーキサイトって空母の人が主に使うのよね?
鹿屋基地に空母娘って着任してたっけ?」
「言われてみれば、見たことないね。」
「電もないのです。」
「私もよ。」
朝潮たちが運んでいるボーキサイト。これは艦載機に使われる物で駆逐艦娘の彼女らには縁がない物だ。
それを大量に消費するのは艦載機を運用して敵を攻撃する空母娘なのだが、暁たちは空母娘に会ったことがない。
「朝潮は知ってるかい?」
「知ってますよ。秘書艦だった頃は彼女たちと一緒に艦隊を組んでましたから。」
「彼女たちって……誰ですか?」
「祥鳳さんと瑞鳳さんです。以前は私と一緒に第1艦隊に所属していました。
あの2人は鹿屋基地唯一の空母娘ですから、今も第1艦隊で最前線に出ています。」
後輩の質問に答えつつも決して警戒を怠らない朝潮。
そして、警戒しながら朝潮は遠征前に提督から聞かされた重要な情報を思い出していた。
☆ ☆ ☆
数時間前、執務室にて。
「深海棲艦の目撃情報……ですか」
「ああ。遠征先の海域で戦艦ル級の姿が何度か確認されている。
大本営は見間違いか、何かだと思っているようだが、俺はそうは思わない。」
「今回の遠征中に遭遇、戦闘になる可能性がある―――ということですか?」
蔵馬提督はその質問に首肯する。
遠征任務に出発した艦隊が深海棲艦と遭遇するのは珍しいことではない。
しかし、戦艦クラスや重巡クラスが交じった艦隊に遭遇するのは非常に稀な事態である。
今回の遠征では駆逐艦のみの編成なので万が一遭遇してしまうと、任務失敗は確定だろう。
そこで提督は朝潮にある許可を出すことにした。
「もし、重巡クラスや戦艦クラスの深海棲艦に遭遇した場合は天穿の使用を許可する。」
「よろしいのですか?」
提督が出したのは朝潮の主砲――《天穿》の使用許可だ。
戦艦並みの高火力を出せる代わりに大量の燃料を消費してしまう切り札。
それは駆逐艦の長所である燃費の良さを損なってしまうのだが、蔵馬はそれを許可した。
「ああ。無為に終わるよりはマシだ。」
「了解しました。」
☆ ☆ ☆
「ん?」
「どうかしたのですか?」
周囲を警戒していた朝潮は空を飛行する小さな影を見つけた。
かなり遠方を飛んでいるのか、小さくてその正体は分からないが、朝潮は何となく嫌な予感がした。
朝潮が見つけた影はどんどんと大きくなっていき、その正体がようやく判明した。
「全員、臨戦態勢!! 敵の偵察機です!!」
「「「「!!!!」」」」
朝潮が見つけたのは敵、深海棲艦が飛ばした偵察機。
軽巡洋艦クラス以上は必ず偵察機を持っているので敵の艦種・規模は分からない。
分かるのは少なくとも現在航行中の海域付近に敵が潜んでいることぐらいだ。
(戦艦クラスが来なければ良いけど……)
しかし、朝潮の願いも空しく、第3艦隊の前方数メートルという位置で水柱が立ち昇る。
おそらく牽制を兼ねて放った砲撃なのだろう。
(こんな時に限って嫌な予感が当たる……!!)
朝潮の視界に敵艦隊の姿は見えない。
敵の規模は分からないが、少なくとも戦艦クラスが一隻以上居るのは間違いない。
「敵、12時の方向!! 戦艦リ級1、重巡リ級2、駆逐ハ級3!!」
「えっ……?」
「だから、敵艦隊の構成!! まっすぐこっちに向かってる!!」
朝ののほほんとした雰囲気から一変して力強く言うファム。
その小さな手には双眼鏡を持ち、ずっと砲弾が飛んで来た方向を見ている。
「ファム……見えてるの?」
「見えてる!! どうするの? この中で戦艦ル級や重巡リ級を攻撃できるのは……」
「……天穿、起動!!」
朝潮の掛け声と共にアームが稼働して《天穿》の砲口を敵艦隊が居ると思われる方角に向ける。
「暁と響はそのまま鎮守府を目指してください。電は2人の護衛に回ってください。
雷、かなりキツイですが、2人で敵の艦隊を陽動しますよ。」
「えっ、でも……」
「危険過ぎる!! いくらなんでも2人で戦艦を含む艦隊を相手にするのは無謀だ!!」
「そうよ!! 此処は少し荷物を軽くして……」
「大丈夫です。戦艦はここで倒します。」
そう言いながら朝潮は肩の乗るファムに目を向ける。
「ファム、敵戦艦にヒットさせるにはどうすればいい?」
「方位、12時の方向。仰角、そのまま!!」
ファムに言われた通りに《天穿》を動かし、榴弾を放つ。
ローレンツ力で加速された榴弾は空気を切り裂き、まっすぐ進んでいく。
「初弾命中!! これで艤装は使えない!!」
朝潮の視力では見えないが、どうやら戦艦ル級の艤装を使用不能に追い込んだようだ。
「次は重巡リ級を狙う!!」
「了解!! 右主砲、右40度回頭。仰角そのまま!!」
ファムに指示される通りに右側の《天穿》を動かし、砲弾を発射。
「天穿、命中!! 重巡リ級、撃沈。戦艦ル級、撤退を開始。
残った駆逐ハ級3体はそのままこっちに向かってきてるけど、どうする?」
「下手に付いてこられても面倒になるわ。ここで仕留める。」
そう言いながら、《天崩》を抜刀する朝潮。
「雷、行きますよ!!」
「分かったわ!!」
残った駆逐ハ級を迎え撃つために海上を進む朝潮と雷。
やがて朝潮と電の視界に3体の敵戦艦――駆逐ハ級の姿が映る。
「雷、私が前に出ます。援護をお願いします。」
そう言い残して朝潮は主機の回転数を上げて、最大速力を発揮する。
それを追い掛ける雷も速力を最大まで引き上げて、敵艦隊に向かっていく。
敵駆逐艦の射程範囲に足を踏み入れた瞬間、駆逐ハ級の5inch連装砲が火を噴く。
「危ない!!」
真っ先に敵の射程範囲に立ち入った朝潮に攻撃が集中する。
駆逐艦の火力は戦艦クラスには到底及ばないと言っても、装甲の薄い朝潮では直撃を受ければ大破してしまう。
しかし、雷は次の瞬間、信じられない光景を目撃することになった。
「―――弐の型、円月演舞!!」
煌めくのは翡翠の閃光。それは迫りくる砲弾を全て切り裂く。
結果、敵艦隊の先制攻撃は朝潮と雷にまったく被害を与えることができなかった。
(き、規格外にも程があるでしょ!?)
今の朝潮のように剣型の艤装を使って戦う艦娘も少数だが、存在している。
しかし、先ほどの彼女のように敵が撃って来た砲弾を切り裂く芸当ができるのは居ないだろう。
「―――壱の型、紫電!!」
雷が驚愕のあまり茫然としている間に朝潮は次の行動に移っていた。
海面をまるで地面のように蹴り、《天崩》で正面に居た駆逐ハ級を貫く。
突き刺さった剣を真横に振り抜いて黒い身体を真っ二つに切断する。
「「―――――!!」」
朝潮の存在を危険分子と判断したのか、敵は朝潮に攻撃を集中させる。
5inch連装砲の砲弾を左腕に装着した《飛鋏》で防ぐ朝潮。
しかし、その隙を突いて朝潮の背後に居た雷が動き出した。
「ってー!!」
飛び出した雷は照準が自分に向けられる前に主砲――12.7cm連装砲を発砲。
攻撃に集中していたせいでその場に停止していた敵に向かって砲弾を当てるのは簡単だった。
2発の砲弾の直撃を喰らった駆逐ハ級は海の底へと沈んでいった。
「―――参の型、無明無双」
そして、攻撃の手が弱まった瞬間。一閃二撃の斬撃が駆逐ハ級に襲いかかる。
目にも留まらない速さで振り抜かれた《天崩》によって、最後の一体は切り裂かれて撃沈した。
「ファム。敵はもう居ない?」
「うん、状況終了。ル級もあのまま撤退したみたい。」
「そう……」
ふぅっ、と胸を撫で下ろし、《天崩》を鞘に戻す。
「雷、暁たちと合流しますよ。向こうにも敵艦隊が攻めてきている可能性もありますから。」
「はーい」
敵艦隊を撃破した余韻に浸る暇もなく、朝潮と雷は暁たちの元に急いだ。
この時、2人は気付かなかった。
戦闘海域のすぐ近くの上空を飛行していた影に……