艦隊これくしょん ~進化の因子宿す少女たち~ 作:玄武の使者
深海棲艦の襲撃を退けること、数時間後。
夕暮れ間近になった時、朝潮率いる第3艦隊は無事に鹿屋基地へと帰還した。
戦艦ル級を含む敵艦隊の襲撃を退けた後は他の深海棲艦の艦隊に襲われることもなく、全員無傷で帰投。
ボーキサイトもボートの積載量ギリギリまで積まれたままだ。
「司令官、これが今日の報告書になります。」
随伴艦の第6駆逐隊を先に休ませた朝潮は報告のため、提督の執務室を訪れていた。
今回の遠征任務で手に入れることができたボーキサイトは通常時の1.5倍。
これで第1艦隊の空母も出し惜しみする必要もなくなるだろう。
「ご苦労だったな、朝潮。敵の襲撃は大丈夫だったか?」
「はい。天穿とこの子のおかげで何とかなりました。」
そう言いながら朝潮は肩に座ったファムの頭を優しく撫でる。
「朝の時も気になったが、その妖精は何者なんだ?
原典を保有する他の鎮守府に問い合わせてみたが、固有名を持つ妖精の発現は報告されていない。」
「そうですか……。」
「まあ、害はないようだから保留だな。
それはそうと、お前が遭遇した深海棲艦の艦隊はどうなった?」
「戦艦ル級は艤装を破壊した段階で撤退。重巡リ級、駆逐ハ級3隻は撃沈しました。」
「ふむ……かなり大がかりな艦隊だな。今までは安全な航路だった筈だが……」
普通、遠征任務の時は敵と遭遇する可能性が低い航路を使って資源を回収する。
それでも敵艦隊と遭遇することはあったが、遭遇するのは大抵が本艦隊から逸れた艦隊。
戦艦クラスの深海棲艦が出てきたという報告は一度もなかった。
「まるでこちらの補給路を潰そうとしているみたいですね。」
「正直に言うと、俺はその線を疑っている。」
蔵馬提督は真剣な表情で言う。
妖精の出現と同時に艦娘の艤装に使う燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイトが各地で採取できるようになった。
大本営や各鎮守府はこれらの資源を定期的に確保できる補給路を持っており、それで艦隊を運用している。
もしも、この補給路が寸断されれば多くの鎮守府が大きな打撃を受けることになる。
「考え過ぎ、ではないでしょうか?」
「俺の思いすごしであるなら良いのだがな。それはそうと、報告は以上か?」
「はい。それでは失礼します。」
「ああ。」
朝潮は海軍式の敬礼した後、執務室から出て行き、蔵馬提督だけが残された。
1人になった所で彼は椅子の背もたれに全身を預けつつ朝潮の報告書に目を通す。
ちなみに、秘書艦の大鯨は所用で工廠の方に行っているので執務室には居ない。
「邪魔するよー」
「ん?」
朝潮が提出した報告書から視線を外すと、ファムが提督の机の上に立っていた。
「何の用だ?」
「ちょっと世間話しに来ただけさ。出撃がないと、私も暇だからな。」
「俺は暇ではないのだが……ちょうど良い。俺も少し聞きたいことがあった。」
そう言って、蔵馬提督は朝潮の報告書を脇に置いて、ファムと向きあう。
「お前は……何者だ?」
「いきなり答えを求めるのは感心しないなぁ。」
「生憎と俺はこの鎮守府と此処に所属する艦娘を守る義務がある。
今回は朝潮を援護してくれたようだが、俺はお前を信用している訳じゃない。」
「疑わしい奴は置いておく訳にはいかないってか。」
いつものほほんとした雰囲気が何処かに飛んで行ったファムはケラケラと笑う。
「安心しな。少なくとも今は敵じゃないさ。」
「どういうことだ?」
「私が………いや、“私たち”が優先するのは朝潮の身の安全だからな。
変なことを考えなければ、“私たち”が敵に回ることはないよ。」
それだけ言い残すと、ファムは机から降りて執務室から退出した。
「………君は、一体何者なんだ?」
―――???―――
「レ級。面白イ報告ヲ持ッテキテヤッタゾ。」
太陽の光すらも届かない広大な海の底。
闇に塗りつぶされた深海の一角に禍々しい赤色の光を挟んで話す2人が居た。
1人は真っ白な髪にフードを付いた黒いコートを身に纏った少女の姿をしているが、病的に白い肌と尾てい骨の辺りから蛇のように伸びている尻尾が普通の人間ではないことを物語っている。
もう1人は黒く長い髪に黒いネグリジェのような衣服を身に纏った若い女性の姿をしている。
こちらも少女と同じように病的に白い肌をしており、見た目はヒトに近いが、額から生えた鬼ような角がそれをヒトでないことを証明している。
彼女たちは深海棲艦。
それも戦艦ル級とは一線を画するほどの力を持った特別な個体である。
識別するために少女の方は戦艦レ級、女性の方は戦艦棲姫と仲間の中では呼ばれている。
「何サ? 弱イ奴ノ相手バカリサセラレテルセイデ退屈ナンダケド?」
「補給路ヲ潰シニ掛ッタ戦艦ル級ガ駆逐艦二敗北シタソウダ。」
「ヘェ~……」
戦艦棲姫の言葉に退屈を持て余していたレ級が反応する。
「ソレハ興味深イ情報ダネ。一体、何処ノ艦娘ダイ?」
「鹿屋基地ノ艦娘ダソウダ。」
「鹿屋基地? ソンナ鎮守府アッタカ?」
「最近デキタ鎮守府ダ。ソレクライ覚エテオケ。」
戦艦棲姫は呆れたようにため息を零す。
戦艦レ級は常に強者との戦闘を渇望している―――すなわち、バトルジャンキーである。
一応、指示には従うが、強い艦娘を見つけると作戦そっちのけで戦いを吹っ掛けに行ってしまう。
さらに言えば、強者以外にはまったく興味がないのだ。
「ゴメンゴメン。ソレニシテモ、鹿屋基地ノ艦娘カ……。チョット遊ビニ行ッテクルヨ。」
「待テ。」
「何? 邪魔スルンナラ容赦シナイヨ?」
早速鹿屋基地に向かおうとしたレ級を止める戦艦棲姫。
すると、レ級の顔から笑みが消えて息苦しくなる程のプレッシャーが放たれる。
そのプレッシャーの中でも戦艦棲姫は平然とした表情を浮かべつつ、口を開く。
「モウ少シデ大規模作戦ガ行ワレル。ソノ時ナラ、良イソウダ。
ダカラ、ソレマデハ大人シクシテイロ。」
「…………ソレハ本当カ?」
「アア。キチント作戦総指揮官カラ許可ヲモラッタ。存分ニ暴レテモ構ワナイソウダ。」
「……ワカッタヨ。」
レ級はプレッシャーを収めると、再び寝転がる。
「ソウイエバ、作戦ノ開始ッテ何時ダッケ?」
「少ナクトモ、2週間後ダロウ。海域ニ出テイル仲間ヲ呼ビモドスノニ時間ガ掛ルカラナ。」
「2週間カ暇ダナ~」
「我慢シロ。」
TOEICや資格の勉強に時間を取られていたせいで更新が遅くなりました。
さらに言えば、今回はいつもよりも1000文字ぐらい少ないです。
というのも第6話は本来第5話の最後に持ってくる予定だった部分を独立させたからです。いつもと同じぐらいの文字数を目指していたのですが、書くことがないので断念して投稿することにした次第です。
それとこんな駄作を読んでくださっている読者の皆様に連絡です。
今までは勉強があっても夏休み中だったので執筆する時間はそれなりにありましたが、来週からとうとう学校が始まってしまいます。
授業、艦これ、MH4Gなどやらなければならないことがたくさんあるので更新間隔がさらに遅くなります。ストックもないですし。