ダンガンロンパ〜オリキャラ約1名を添えて〜 作:ハッピーエンド至上主義の曇らせ人
苗木君視点です。
ちょい重たいかも。
苗木視点
「名前は垂日蓮/タルヒレン。垂日でも蓮でも好きに呼んでくれ。」
それが、ボクと彼とが初めて交わした言葉だった。
何時でもケラケラと笑っていて、彼の余裕ぶりを見ていると、何でもどうにかなってしまうんじゃないかって、そんなふうにすら思えた。
実際、その予測はあたっていたと思う。
突然巻き込まれたコロシアイの学園生活。その中で疲弊していくボクらを支えてくれたのは彼だった。
閉じ込められてから毎朝垂日君のコーヒー飲んでたから、今更ソレがなくなったら味気ないなんてものじゃすまないだろうね。
誰よりも周囲に目を光らせ、異変があれば誰より早くすっ飛んでいく。
大和田くんと石丸君の根性だめしに鉢合わせたとき、一緒に巻き込まれてくれたのはいい思い出だ。
……それから『殺人』が起きれば、ボクはもちろんとして霧切さんすら見逃していた証拠を持ち帰ってきた。
そのたびに顔から感情が抜け落ちてたのはちょっと怖かったけど。
多分、クセの強い面子が力を合わせていられるのは、ひとえに彼の尽力によるものだろうね。
かく言うボク自身も、何度も相談に乗ってもらった一人だ。
きっと彼は、誰一人も欠けさせるつもりはなかったんだと思う。
それでも、起きてしまった。
外に出られない苛立ち。それに加えてご丁寧に用意された動機。
それだけの条件が揃ってしまえば、ギリギリ保たれていた均衡が崩れるのにさして時間はかからなかった。
最初に殺されたのは舞園さん。
僕の部屋のシャワールムで腹に包丁を突き刺されて死んでいた。
犯人は桑田くんだった。
オシオキと称されたふざけた処刑。無数の硬球を身体に打ち込まれて殺された。
見せしめに江ノ島さん。
モノクマに反抗したがために、体中を槍で突き刺されて死んでしまった。
3人の死を目の当たりにして、ボクは激高した。
笑いながら誰かの命を奪えるモノクマに。皆をそんな状況に追い込んだ黒幕に。
全部、アイツのせいじゃないかっ!
……だけど、垂日君だけは違っていた。
「殺させたのは俺等だろ。」
なんでもないように言った彼の顔が、モノクマの腹立たしい笑みと重なって見えた。
バギィッ!
……気がつくと、ボクは拳を振り切ったまま固まっていた。
眼の前には机や椅子を巻き込んで倒れ込む垂日君の姿。
そう言えば、珍しく霧切さんが動揺してたっけな。
モノクマが……黒幕が正しいっていうのかよ!
一周回って落ち着いた、なんてよくある話だけど、それがもう一周するとああなるらしい。どうにか抑えていたタガが外れたんだ。
柄にもなく罵詈雑言をまくし立て、なんなら大神さんや大和田くんが止めに入らなかったらまだ何発かぶん殴っていたと思う。
……だけど、そんなボクの怒りは一瞬で霧散することになった。
二人に押さえつけられながらも喚くボクの目に、あるものが飛び込んできたから。
それは垂日君の握り拳。
ギチギチと音を立てて握り込まれた指先からは、幾筋もの血が滴っていた。
ボクにはそれが……なんでだろうね。彼が泣いてるように見えたんだ。
「桑田を犠牲に選んだのは俺達だ。」
「自分の命欲しさに、あいつを売ったんだよ。」
「引きずっていくなら、忘れるな。」
前向きだったしか取り柄がなかったボクが、少し後ろ向きになっちゃったのは間違いなく彼のせいだろうね。……悪い気は、しないけど。
勘違いはしてほしくないんだけど、別に彼への恋愛感情とかを抱いてるわけじゃないよ?ボクはノーマルだし、彼に感じているのは紛うことなき友愛だ。
強いて言うなら……ボクには両親の他に、妹がひとりいる。
もちろんお兄ちゃんお兄ちゃんってボクのことを慕ってくれる妹は可愛いよ。でもまぁ、ちょっと寂しかったんだよね。
ここまで言えばわかるでしょ?ボクもそっちの側になってみたかった。兄弟に甘えてみたかったんだよ。
わかるでしょ?いやわかれ。
一種の憧れかな?不二咲君じゃないけど、男の理想像ってやつ。そういうのを彼の背中に見ていたのかもしれない。
さて、ここまで長々と語ってきたわけだけど、結局ボクが何が言いたいかっていうと……そんな人がさ、
「それでは張り切っていきましょう!」
ほかでもない自分を庇って処刑されかけてたら、
「オシオキターイム!」
冷静じゃいられないよね。
もともとこの学級裁判はおかしなことだらけだった。
事の発端は突然死体で現れた16人目の高校生。
覆面をかぶってるわ、突然爆発するわで身元すらロクに捜査できやしない。
おまけに風邪で寝込んでいたことが祟ってボクにはアリバイと呼べるものがほぼなかった。
もちろんボクは殺してない。もしもボクが『クロ』になってしまえば、皆も揃ってオシオキだ。だから、どうにか身の潔白を証明しようと奮闘した。
「苗木君のアリバイは不十分よ。」
そんな中突然、霧切さんがボクを犯人だと言い始める。
当然戸惑った。信用してくれていると思っていたのにどうして?
困惑しながらもどうにか切り抜けようとしたけど、彼女がボクにだけ明かしたウソを指定することに躊躇した結果……ボクは遂に犯人に仕立て上げられた。
もう終わりだと、そう思った。
「なぁ、ここにも容疑者がいるとしたら、どうする?」
だけどそんなとき、またしてもボクは彼に救われた。
彼は自分のアリバイをセレスさんの供述を使って切り崩し、それらしい動機を語り、遂に自分自身をを犯人に仕立て上げた。
そして、突然に下されたタイムアップ。そんなモノ今まで一度もなかった。裏があるとしか思えない。
おかしいって分かってる。それでも、逆らえなかった。
投票の結果なんて、見たくもなかった。
案の定垂日くんはクロに決まり、今まさにオシオキと称したふざけた処刑が開始されようとしている。
フェンスを跨いだ向こう側に彼はいる。
教室の中に置かれた机。彼は怠そうに座って、モノクマが黒板に描く落書きを眺めている。
コンベアに乗せられたそのセットがゆっくりと進むその先には、巨大なプレス機が鎮座していた。
恐怖を煽るように踏み鳴らされる地面。
もう間もなく、彼はあれに飲み込まれる。ボクはそれを眺めていることしかできない。
「くっそ……!」
フェンスを殴りつけてから周りを見渡すと、皆一様に悔しそうな顔をしていた。
「ゴラァっ!イインチョーのオレが納得してねぇぞ!!」
石丸くん……もとい石田くんはフェンスをこじ開けようと蹴りつけ、時々反撃のように帰って来る電流で黒焦げになってなお雄叫びを上げて飛びかかっていく。
「垂日蓮殿……もうしわけ、ないですぞ。」
メガネで表情は見えないけど、一二三君はそう言って項垂れる。自分の脚に、握りこぶしを振り下ろしていた
「………!」
あの十神君でさえ、額に青筋を浮かべてわなわなと拳を震わせていた。
……何が幸運だ。
自分の身の潔白を証明できただろうって?
それじゃ意味がないんだよ。
本当に、本当にボクに幸運なんてものが宿っているなら、
「友達の一人、助けてみろよ……!」
彼に伸ばした腕は、冷たいフェンスに遮られた。