ダンガンロンパ〜オリキャラ約1名を添えて〜 作:ハッピーエンド至上主義の曇らせ人
続いて霧切さん視点になります。
よし。全力で曇らせるぞ。
「はじめまして……だな。よろしく。」
第一印象は変な人。
玄関ホールで初めてあったときも、アイドルの舞園さんや人の良さそうな朝比奈さんではなく、何故か真っ直ぐ私の下へとやってきた。
珍しい人もいるものね。
私自身、人に好まれるような性格をしていないのはわかってる。というより、むしろそう思われるように振る舞っている。
その後に差し出された手だって、無視するか振り払うつもりだった。
なのに……
「ええ、よろしく。」
気がつけば、私はその手を取っていた。何故かは解らないけれど、不思議とその行動に抵抗はなかった。
でも、なぜでしょうね。
「霧切……か。いい名前だな。」
その時に見えた彼の笑顔が、何処となく寂しそうに見えたのは。
私は何か、大切なことを忘れている……?
それから彼は、毎朝コーヒーを淹れてくれた。
他の皆にも……もういない人たちにも。
毎朝食堂に漂う香りに、不思議と懐かしさを感じた。
彼はピアノを引くのが上手かった。
不思議なことに引いてくれるのは私が好きな曲ばかりで、彼の演奏は何時までも聴いていられた。
彼はチェスがやたらと強かった。
これでも得意な方なのだけれど、持ちうる全てを注ぎ込んでも、何度やっても勝てなかった。ヤケになってまる1日無駄にしたこともある。
1日かけた結果は……すごく、悔しかったとだけ言っておくわ……。
全てが懐かしくて愛おしいはずなのに、どうして何もわからないの?
気のせいだと断じるのは簡単なこと。でも、どうしてもそうは思えなくて、私は我武者羅に捜査を続けた。
そして遂に、大神さんの一件で手に入れたモノクマのマスターキー。
これでなにか、わかるかもしれない。
そんな確信めいたカンを元に、私は閉ざされていた寄宿舎の2階に存在していた学園長の部屋を調べ始めた。
そこでようやく、私は忘れていた自分自身を思い出すことができた。
私が探偵だったこと、この学園に来た目的が、学園長に……父親に絶縁を言い渡すためだったこと。それから、失った姉のことも。
けれど、何故か垂日君のことだけは一向に思い出せなかった。私という人間を形作るために必要なピースのはずなのに、それだけがずっと欠けたままだった。
もう調べられる場所もない。モヤモヤを抱えたまま皆のところに戻ろうとしたとき、そのアナウンスは聞こえてきた。
学級裁判、開廷の合図が。
一体誰が誰を?
慌てて情報をかき集めて挑んだ裁判は、私を陥れるためのものだった。恐らくこの事件を仕組んだのは黒幕。盗んだマスターキーを持っていることや、能力や記憶を危険視したんでしょうね。
次々に出てくる私が犯人であるという証拠。
ロクに捜査もできていない現状、圧倒的に不利な立場にいる私が生き残る方法は限られていた。
黒幕の正体を暴くのは不可能。余りに証拠が足りていない。
この場全員の身の潔白を証明しても、学級裁判のルール的に犠牲が出てしまう。
最後に残ったのは、黒幕の矛先を別の人間に向けること。……つまり、苗木君を犯人に仕立て上げることだった。
運良く私の自室の鍵は十神君に没収されていたから、部屋の中で見つかった証拠品は苗木君がばらまいたものだと結論付けられた。
彼にはマスターキーの事を話しておいたのだけれど……黙っていてくれたのね。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
でも私は、死ぬわけには行かないの。
苗木君。あなたが犯人じゃないことはよく知ってる。
だって私がこの目で見たのだから。あの覆面の人物があなたを殺そうとしていた現場を。
その時あなたが酷くうなされていて、とてもじゃないけれど人を殺せるような状態じゃなかったことも。
もちろん、苦しかった。
生き残るためとは言えこんな手を使わなくちゃいけないなんて。
絶望に染まる彼の顔を見て、彼がどれだけ自分を信頼してくれていたのかわかった。
……許されるつもりなんてない。
元はと言えば、私が誰にも何も話さず、一人で全部解決しようとしたせいだから。
あなたは、今の私を見たら怒るかしら。怒って、くれるかしら……。
「……?」
そまで考えて、私の思考は止まった。
……
……怒ってくれる?
それって、誰のこと?
私を真っ向から叱ってくれる人なんて、ここにいるわけが……
「響子。」
あ、
「もう、やめろ。」
私を見る彼の……垂日くんの目には、悪いことをした子供を叱る親ような感情が浮かんでいた。
……ソレを見た私は、ようやく思い出すことができた。
いえ、思い出してしまった。
祖父と両親、それから姉と、それからもう一人、大切な人が、家族がいたことを。
彼の淹れたコーヒーから懐かしい匂いがしたのはなぜ?
どうして彼は私の曲の好みを知っていたの?
私のチェスの練習に付き合ってくれていたのは誰だった?
……なにも今思い出さなくたっていいじゃない。
今彼は、フェンスを隔てた向こう側で殺されようとしている。コンベアで少しずつ背後に待つプレス機へと運ばれていく。
私が、苗木君を見捨てたせいで。
ほかでもない私のせいで。
ようやく、思い出せたのに。
ごめんなさい。ごめんなさい。
謝るから、もうしないから。
お願いします。私から大切なヒトを、家族を奪わないで。
「行かないで……」
足に力が入らずに、その場にへたり込んでしまう。皆の隙間を縫って伸ばした腕は、冷たいフェンスに阻まれた。
「兄さん……ッ」
その声が聞こえたのかはわからない。
けれど彼は、兄さんは私を見て、
笑った。
「やめて……。」
落ち込んだ子供をあやすように、眉尻を下げて困ったように、私に笑いかけていた。
「やめて……!」
どうしてそんな顔をするの?
私のせいで今からあなたは死んでしまうのに。
もう、プレス機がすぐ後ろに迫ってる。
一回、二回、そしてーー
「やめてぇぇええええ!!」