七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
追記:いいんちょの苗字を誤字っていたので修正
「ねえ」
「何ですか委員長」
「暇だし何かキュンとくるセリフを言ってちょうだい」
「その書類の山を見て暇と宣う異常者の相手はできません」
「大好きだよ………アコちゃん…」
「きも」
風紀委員会本部。
今日も今日とて鳴りやまない爆発と銃撃の音をBGMに、天雨アコ以下数十名の風紀委員会幹部は仕事に追われていた。
ここまでくるともはや徹夜は当たり前で、皆が皆年頃の乙女にあるまじき表情で机に向かっていたり電話対応していたりする。
そんな中で一際ツヤツヤとしているのは、風紀委員会委員長の空崎ヒナである。
この委員長は必ず仕事を適当なところで切り上げて帰宅するため、連日徹夜続きの面々とは一線を画す肌のツヤとハリをしており、本人も元気いっぱいいっぱい勇次郎な状態だ。
「言葉を慎みなさい、これは重要なことがらよ」
「そんなバッカみたいな戯言のどこに重要さが隠れているんですか?」
「私のやる気に直結するという衝撃の真実が隠れているの」
「タンスの角に小指という小指をぶつけまくって死ね」
いっぱいいっぱいすぎてこんな小粋なトークを挟む余裕すらある。素敵だね。
ちなみにこんなアホトーーーーーーーークをしている間にもヒナとアコの手元からは恐ろしい勢いで書類が射出されており、他部員はそれに畏怖すら覚えている。
「小指じゃなくて親指ならこないだぶつけたわ」
「うっわぁ~痛そうですね~」
「タンスの方が凹んでたのは一体どういうことなのかな…?」
「悲しき
「触れるもの全て傷つけてしまう…!」
「現代社会向いてないですよそれ」
「遠回しにゴリラって言ってる???」
「何手先読んでるんですか、誰も言ってませんよそんなこと」
「そうよね…ゴリラは実は繊細な生き物だし腕力だけでものを見るのはいけないわ」
「そういえば前にヤツメさんがヒナさんのこと『ゲヘナシロモップ変種』とか言ってましたね」
「学名かな?」
やいのやいの、あーだこーだ。
そんな取り留めもない雑談をしながらも、手は止めない。
それが何時間か続き、机にうず高く積まれた書類が常識的な量に収まってきた頃、扉の向こうから騒がしい足音*1が聞こえてきて─
ドゴンッ!!!
「万魔殿の抜き打ち視察であるっ!!!!」
勢いよく扉を開いたのは万魔殿の生徒であり、開口一番に視察があるとの旨を述べた。
それに対する風紀委員連中の反応はと言えば…
「うわでた*2」
「ドアが壊れたら弁償してくれるんでしょうね?*3」
「こないだマコトがヒビ入れたドアの修復まだなのにぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”*4」
「YOU……GUILTY……*5」
「随分元気があるねぇ、何か良いことでもあったのかい?*6」
「カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ*7」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは殺すぞ*8」
「確かに……ペロロジラは方舟を照らす地平線の秩序を総監する揮発性の高い色彩です*9」
「あ~……その、日を改めた方が良いか?」
「ドア直せやコラ」
「賢明ね、万魔殿にしてはいい子じゃない」
「ENDLESS……」
「超人ですら成しえなかった!今やこの霊場に留まるは虚無の征服者のみ!たかだが五徹で混沌の平定を成しえないことぐらい、コズミックイラでは常識なんだよ!」
「……その…ヒナ先輩…何か一人明らかに様子のおかしい人がいるんですけど…」
「気にしないで頂戴、これがニュートラルなの」
「しっかしヤツメ先輩もキヴォトスの外から映画を仕入れようだなんてよく考えますよね」
「えぇ……」
視察に来た万魔殿の生徒すら引いてしまうというこの世界のゲヘナにおいては珍しくもなんともない光景を流しつつ、ヒナはその生徒と目を合わせて会話を続ける。
「それで、視察だったかしら」
「えっ…いや、その皆さん大変そうですしまた日を改めますよ…?」
「いいえ大丈夫よ、大丈夫ったら大丈夫なの」
「はぁ…」
すっかり素の調子に戻ったその生徒は、ひきつった顔をしながらも了承の旨を受け取り、恐らく部屋の外で待機しているであろう視察団の面々を呼びに戻っ─
「っと、その前に……」
「えぇ?」
戻ろうとドアの方を向いていた彼女が、ヒナの声に思わず振り向くと、そこにはデストロイヤーを構えたヒナがいた。彼女は慄いた、何せヒナの怒りを買うようなことをした覚えが一切無いからである。
…だが彼女の推測とは裏腹に、今空崎ヒナを動かしているのは怒りではなかった。
「えっちょっと何」
「特殊タグで遊んでんじゃあないわよこぉのバカチンがぁ!」
「今突っ込むのかぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
そう…ヒナを動かしていたもの…………それは芸人魂であったのだ!いやなんで?
ともあれ、無事(な訳あるか)デストロイヤーを叩き込まれた万魔殿の生徒は、改めて視察団の面々を呼びにいったのであった──
「あっおかえりな……どうしたんですかその顔」
「*10」