七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
「もしもし〜?久しぶり〜」
前回、預言者目当てにアビドスに襲来すると決めた完璧で究極の気分屋『八岐ヤツメ』は、襲来に際してアビドスの数少ない知り合いに久方ぶりの連絡を行っていた。
「うーん、当初は動かないつもりだったんだけどね…」
「偶然友達も捕まっててさ、その友達に無理矢理外に連れ出されたんだ」
「だから私も晴れて脱獄者って訳」
そう会話を続けていくヤツメは、非常に嬉しそうな表情だった。
ヤツメが前回アビドスに訪れたのは無論のこと総監部時代の話で、当時も少ない人数で奮闘していたアビドスに対して色々激励したり遊んだりしたことがある。
「えぇ?深淵の蛇ぃ?何かかっこいい二つ名だね」
八岐ヤツメが『深淵の蛇』の異名を知った瞬間である。
既に行政権回復、そして脱獄から数日が経った頃の出来事だった。ヤツメは転生者な為、噂の七囚人に選ばれていることに対して密かな喜びを覚えているのだが、それは知らなくてもいい情報だろう。
「いやぁ〜私って頑丈じゃん?」
そうこうしている内に、話題はアビドス来訪の理由にシフトしていったようだ。
「よくパイルバンカーモドキを使ってるけど目立った怪我はしてないし…」
「ヒナちゃんとガチファイトしたこともあるけど最終的に引き分けに持ち越されたし……」
「いやぁ〜あれはびっくりしたよ」
「かわいい後輩がいつの間にかとんでもない実力派になっちゃってるんだもん、カスミちゃんが震えてたもん」
「心底総監部で良かった~って具合にね。まぁ解体されて温泉開発部に行っちゃったから結局追われてるんだけどさ」
「マコトちゃんはそれを見て更に奮起したなー、イロハちゃんというかわいい後輩に、飛び級で入ってきたかわいいかわいいイブキちゃんという宝の存在も大きかったのかも」
「え?イブキちゃんに会いたい?」
「マコトちゃんに電話してみれば?ユメちゃんならきっと歓迎されるよ。知らない仲でもないし」
「あー…ごめんね〜後輩自慢ばっかりになっちゃった」
「そうだ!そっちの後輩ちゃんはどーなったの!?」
「へぇ〜上手くやってるんだ、人と馴れ合うの嫌いそうな感じだったのに」
原作知識持ちの転生者な故、所々白々しいヤツメであるが電話の向こうにいるユメには気づかれない、そもそもユメも後輩大好き人間なので今はホシノ達のことで頭がいっぱいであった
「えぇ?自分のことおじさんって言ってるの?」
「ホシノちゃんまだまだ若いのにな〜」
「ね〜」
「ふふふ、そんなこと言われたら気になるってもんですよ」
「よぉーし!ついでに会いに行こう!ユメちゃんはどうする?」
「あーやっぱ忙しいか〜…ま、しょうがないよね」
「ん?私の用事?そういえば言いそびれちゃってたね」
「私頑丈だしビナービームも耐えれるんじゃないかな〜って思って……」
「………いや、ちょ、怖いよユメちゃん?ユメちゃんのそんな低い声初めて聞いたんだけど…」
「だいじょーぶ!ちょっとした実験で…」
「え?やっぱり来るの?お仕事は?休む?」
「え?え?えぇ?」
「あ、うん」
そうして、通話は切れた。
どうもヤツメはユメを怒らせてしまったらしいが、ヤツメ自身は全くもって心当たりが無い。ヤツメにとってビナー光線実験はなんてことの無い日常の一幕といった認識で、ユメが怒る理由が本気で分かっていないのだ。この頭ゲヘナがよ(罵倒)
「一体、何がいけなかったんでしょうかねぇ…」
怪訝な思いを抱えながら、ヤツメはアビドス行きの列車に乗り込んで………
「いやというか待ってよなんで普通に電子マネーとか使えんの?????」
もう乗り込んでいるのに妙なところを気にし始めるヤツメ。
確かにヤツメは指名手配犯であるため、その手の決済手段などは凍結されているのが然るべき対応なのだろうが…
「…………マコトちゃんに聞いてみるか。次点でヒナちゃん」
普通のゲヘナ生なら「まぁいいか」で切って捨てる問題だが、ヤツメは気になって仕方ないらしい。
それは今となっては欠片も残っていない前世のまともな感性の名残なのかもしれない
「さ~て、出るかね~?」
そして、ヤツメは万魔殿の電話番号を入力しコールを掛けた
そんなことをせずともマコトの連絡先は持っているのだが、念のためである。
数秒コール音が鳴り響き、電話が取られた。
「もしもし万魔殿で~す」
「おろ?イロハちゃん?」
「…………………その声ってもしかして…」
電話に出たのはマコトではなく、マコトの側近的な生徒『
その状況に、まぁ本人はどうせ寝ているんだろうな~と勝手に納得したヤツメは言葉を続けた。
「うんうん、みんなのヤツメちゃんだよ☆」
「はぁ………………やっぱり」
「それでイロハちゃん、なんか私指名手配犯なのに普通に電子マネーとか使えるんだけどそこんとこどうなってんの?」
「……指名手配中の身で万魔殿に電話をかけてきたうえでよくもまぁそう呑気なことが言えますね」
「にへへ~それほどでも~」
「褒めてませんよ…………その辺はマコト先輩に聞いてみないと分かりませんね」
「やっぱりか~、肝心の本人は?」
「サボりです」
「サボりかぁ~」
「…………お、見つけました、ヒナ先輩と茶をしばきながら何か話してますね」
「あ~そっかぁ、じゃあまあいいよ。ごめんね突然」
「本当ですよ…」
「イロハ先輩誰と電話してるんですか?」
「あっ……あぁすみません切りますね」
「お~っす、イブキちゃんにもよろしく…ってもう切れてるし…」
返事を待たずして、電話は切れた。
それならそれでいいかと諦めたヤツメは、列車の外の風景に目を向け、ビナー光線に心躍らせるのであった…
ぁ!