七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
ご注意ください。
「う~っす!!!!やってるか大将ォ!?」
「おう、相変わらず元気だなぁ」
「私も色々あったんですよ!!!!」
「脱獄したんだって?」
「はい!!」
「元気でよろしい」
『深淵の蛇』がアビドスに着いた後、まず何をしようかと思考を巡らせた結果、総監部時代にお世話になった柴関ラーメンに顔を出すことにしたようだ。
この女、自分が追われる身だということを自覚しているのだろうか。
来店早々元気に大声であいさつするのを忘れない良い子ではあるが…*1
「待ちきれねぇッ!!豚骨だぜ大将!」
「はいよ」
そうして流れるようにオーダーをするヤツメ。
その風景はとても脱獄犯との会話とは思えないが、現実に起こっているために何とも言えない。
そして柴大将もここでヴァルキューレを呼ぶなどという野暮な真似はしない
どこぞの便利屋より遥かにアウトローな二人である*2。
「おっ、隣失礼するぜぃスーツの兄ちゃん」
「どうぞお構いなく…」
アビドスという限界集落の性質上、柴関に来る客はひどくまばらで、もはや面子は固定されているといっても過言では無い。
ヤツメは久方ぶりの来店であるが、総監部時代によく入り浸っていたために、柴関の主な常連さんの色んな情報を知っているのだが…
今現在、ヤツメの隣のカウンター席でオーダー待ちをしている黒ずくめのスーツ男に関しては話が別だった。
「…………兄ちゃん、アンタはこの辺によく来るのかい?」
「…えぇ、まぁ最近はよく来ますね…色々用事がありまして、キヴォトス各地を転々としているのです」
「ほ~ん…」
「……そう仰る貴女はかの『深淵の蛇』ではありませんか?」
「おっ、さすがに知ってるか。」
「勿論ですとも。…………脱獄犯と啜るラーメンというのもまた一興なものですね」
「…………いぃねぇ兄ちゃん、初対面だが私はアンタのこと嫌いじゃあないぜ?」
「クックック…それは何より…」
「何事もファーストインプレッションって奴が大事だからなぁ」
「えぇ、えぇ、勿論、交渉事において基礎的なテクニックです」
「交渉事かい?生憎私は高くつくぜ?」
「ククク…確かに生半可な対価では到底頷いてくれそうにありません…」
「…………ま、込み入った話は今この場じゃ必要ないね」
「同感ですね…ここは食事をする場所であって、密談をするような場所ではない…」
「……アンタのことはなんて呼べばいい?」
「黒服、でお願いします。本名は別にありますが…………個人的に気に入っていましてね」
「おう、じゃ私はヤツメだ。黒服、何頼んだ?」
「豚骨です」
「気が合うじゃないの」
ろくでなし二人、邂逅─
何の因果か、ラーメン屋でバッタリ出くわしてしまった黒服とヤツメ。
しかし不穏な空気が流れたのは一瞬で、今は完全にギャグ空間と化していた。
「お待ちどう」
「ありがとうございます!!!」
「ありがとうございます」
二人は誰に言うでもなく目配せをすると、ラーメンを啜り始めた。
黒服は変わらず食べ続けているが、ヤツメは途中で餃子やチャーハン、果ては普通の白飯までもを追加注文しており、黒服は密かに引いた。
「………よく食べますね」
「ラーメン屋で食べるチャーハンだとかって異様にうまくねぇか?」
「…そうでしょうか?」
「風情って奴だよ風情、お前友達とかによく冷たい奴だとか言われてるだろ」
「…それは…しかし……」
「いいから食ってみろって、大将チャーハンもう一個ね」
「はいよ、ヤツメちゃんの分先に渡しとくね」
「おっ大将相変わらず早いね~」
その後も届いた注文は、恐るべき速度でヤツメの胃の中に消えていく。
それを見た黒服は、彼女の胃袋こそキヴォトス最大の神秘なのでは?と思い始めていた。
「しっかし世間は景気の良いこったねぇ」
「何がですか?」
「いやだってアニメ化よ?ただのソシャゲがここまで来る例って中々無くね?*3」
「確かに尋常ではない朗報ですね、私のCVはどうなるのでしょうか」
「そもそもアニオリにすんのか本編のストーリーなぞんのかもわからんがね」
「アロナがA.R.O.N.Aだったらトラウマアニメになるのは確定ですね」
「おいやめろ」
「お話中失礼、チャーハンできたぜ?」
「ありがとうございます」
他愛も無い話をしていると、黒服の分のチャーハンがカウンター越しに渡される。
注文したのはヤツメだが当たり前のように黒服に渡されているのは御愛嬌である。
「……ふむ?ふむむ?」
「どうだ?おいしーだろ?」
「…確かに美味しいですが…それは柴大将自身の腕前で…」
「そ~~いうことじゃあらへん言うとるじゃろボゲェ!」
「急に治安悪くならないでください!?」
「キヴォトスでそんな呑気なこと言ってる場合か!」
「あぁ………確かに」
「そういうこった!!!」
「………ヤツメちゃん、ほんとに初対面なのか?そのお客さんと」
阿吽の呼吸で漫才を繰り広げる二人に苦笑しながらも、柴大将は聞いた。
このコンビネーションは一朝一夕で生み出せるものではないと思った柴大将だが、
「いやいや~まっさか~」
「一方的に知ってはいましたがねぇ…」
「…芸人向いてるぜ、お客さん」
「そうですか…?」
黒服はガチめの困惑と共にそう返した。
そして、そのまま愉快な雑談をする内に粗方の品物は食べ終わり、解散の流れが漂ってきたが…
「黒服」
「何でしょう?」
「表で話そうや」
「……そうですねぇ…クックック………」
示し合わせたように柴関の建物を出た後、誰に言うでもなく二人は人目のない所に向かった…
「深淵が深淵を覗き見ると、一体何が起こるんだろうね?」
「……覗いてみないことには分かりませんよ」
「…………くっ………あは…あっははははははは!!!………違いないね」
ヤツメがスジモンみたいな口調になってるのは雰囲気に合わせた結果らしい。
兄ちゃんと書いてあんちゃんと読むのはスジモンの常識だよね!