七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
ナギちゃんセイアちゃんも慮ってはいますが詳しい心情なんて分かる筈もありません。
………おかしいな、山も無ければ谷も無いただの怪文書だったはずなのに湿り気を帯びてきたぞ?
「さて、黒服」
薄暗い廃墟と化した家屋。
そこで、黒服と深淵は会談を行っていた。
「私は迂遠な言い回しも無駄な腹の探り合いも好まん…だからシンプルに告げる」
「………」
「
黒服は僅かに驚いた様子を見せ、尋ねた。
「どこでそれを?」
「………伊達にゲヘナは歴史を重ねてないからな、ヘイローの付いた機械の事も、それを作った者の存在も…かの『船』のことだって…もはや口伝レベルに曖昧だが伝わってはいた」
「…なるほど」
否、若干の虚が混ざっている。
確かに、ヤツメが閲覧したゲヘナ所蔵の古書には、
しかし、船の情報はヤツメ自身の原作知識によるものだ。
もしかしたらゲヘナの古書を漁れば本当に『船』の情報や、あわよくば『女王』のことだって載っているかもしれない。
しかし、ヤツメがそれに思い至った時は既に脱獄した後のことである。
故に、ヤツメにとってそれは
「話を戻す。私がそれと遭遇したのは、総監部の活動の一環として、当時のアビドスと合同演習をしていた時だった」
「アビドスに聞いたところ、それの名はビナーというらしい…」
「……ご想像の通り、かの機械の大蛇こそ第三セフィラ『違いを痛感する静観の理解者』で相違ないですが…」
「あなたはかの預言者に何がご用が?」
「耐久実験」
「は?」
「奴の放つ光線に対する……私の神秘の耐久実験が目的だ」
「………………………………」
「どーした?私の顔に何か付いてるか?」
絶句。
黒服はかつてないほどの驚愕と──それを凌駕する疑念に苛まれていた。
ヤツメの言うことをそのまま受け取るなら「ビナーの光線浴びてみたい!」という意味になってしまう。
黒服の中の常識では、自ら死地に飛び込んでいくもの─それも心底楽しみそうに─のことは測れなかった。
仲間を逃がすための決死の殿戦。己の矜恃に決着をつけるための決闘或いは殺陣。他にも色々あるが、黒服の定義するところの死地に飛び込む者とは、相応の覚悟と驚異的な意志を以って絶望或いは脅威に抗う─そういった者たちのことだ。
しかしどうだろう、目の前のゲヘナ生はまるでコンビニに行ってくるかのような気軽さで、死地に─アツィルトの光に焼かれようというのだ。疑念も湧くというもの。
「…自殺願望がおありで?」
さすがに、生徒を興味深い実験対象としてしか見ていない黒服としても、実験の関与しないところでは常識的な対応を取らざるを得ない。
「ないが?」
「…………」
「逆に聞くが私がそんなに思い悩むタイプだと思うか?」
「………つまり、純粋な興味?」
「おうとも。ユメちゃんやホシノちゃんは耐えれたんだからいけるいける」
「それは彼女たちの神秘がキヴォトスでは最多の部類に入るからであって……」
「うるせぇ!友達にできて私に出来ん道理は無い!」
「…ううむ」
「ヘイローは本人の精神状態に影響を受けるって説を聞いたことがあるからな。私ならいける」
「………」
無知ゆえの無謀を言っているかと思えば急に知的な一面を見せる。そこにゲヘナ生特有の─いや、そもそも彼女自身の気質がどうしようもないほどゲヘナだった。
「つーわけでビナーくんの先導頼むよーできるでしょ?パス持ってんだからさ」
彼女が『深淵』と呼ばれている理由を痛感しながら、黒服は大人しく従うことにした…
轟音。
砂漠の中から響き渡る、大地を震わすような咆哮。
それはやがて、音量を増し──
「グギャオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
機械仕掛けのその本体を表した。
デカグラマトン、第三セフィラ『違いを痛感する静観の理解者』
─ビナー、顕現
「いいねぇ…この迫力!ストーリー系だけじゃなくて総力戦や指名手配とかもやっておくべきだったなぁ………!」
相対するは『深淵の蛇』八岐ヤツメ。
前世の彼女は忙しい部類の仕事に勤めていたらしく、仕事終わりの疲れた頭でメインストーリーを追う日々であった。
そんな彼女が、焦がれたブルアカの世界に転生し十数年、いつまでも褪せぬそのミーハー精神を以て、預言者と対峙する─!
「つっても、任務を碌に進めてないからその辺は出来なかったんだが、ね!」
言いながら、ヤツメは銃を撃つ。
モチーフとなったドイツ軍の銃、
「ギャバァァァ!?」
「四つも眼があるなら一つ二つ無くなったところで問題あるまい?」
その一撃は、ビナーの特徴的な四ツ目の内一つに深々と刺さり、一気に機能停止まで追い込んだ。
しかしビナーも負けじとミサイルを放ち迎撃する。
大道の劫火とも題されたその連撃は、しかし高速移動し接近するヤツメには追いつけない。
砂地という悪路にも関わらず、圧倒的機動力を見せつけるヤツメに、ビナーは動揺を隠せない。
「ガ、ギャア」
「もーらいっと♪」
「ゲラアアアアアアア!?」
ビナー、再び目を喪失。
ビナーの右側面から見て一番目、左側面から見て二番目の眼が機能停止に追い込まれた。
たった今奪われたのは左二番目の眼であり、攻撃には恒例の雷槍(爆弾括りつけただけの鉄パイプ)が使用された。
毎度毎度どこで調達しているのだろうか。
「さぁて、ブレスはいつ来るかね?」
「ギャ、オオオオオオ!!」
大きく飛んで距離を取る選択をしたヤツメに対して、ビナーが選んだのは光線─ヤツメの望む行動であった。
「っし!ブレス誘発ぅ!」
「オオオオオオオオオ………」
開口部にあらん限りの光を溜め、放つのは光線─アツィルトの名を冠する強大なる一撃だ。
その光線は、ターゲットを違うことなくヤツメの方に向かって行く。
「おぉ…すっげえ迫力…!」
ビナーは見た、見てしまった。
己の最大火力と言ってもいい技を前にして─ひどく狂暴に、ひどく凄惨に、ひどく楽しみでたまらないといったように嗤う一人の生徒を
見た、記録した、分析した。そして超高性能AIでもあるビナーがその事象に対して結論を出すより速く─
ゴオオオオオオオオオオオオン!!!!!!
それに対して困惑したのはビナーだ。
己の光線は全てを焼き尽くす劫火、岩ですら溶かす超高温の熱エネルギーを収束させたもの。
それを受けたものは無音の内に焼き尽くされる筈で──
「……へへへ、名付けて神秘バリアってな」
否。
光線は、生徒を、ヤツメを避けていた。
ヤツメの掲げた右腕の丁度数ミリ先の虚空から二又に分かれて避けていた。
やがて光線が収まり………
「………………やるじゃねぇのビナーくんよぉ」
其処に立っていたのは、右腕がひどく焼けただれた様子のヤツメであった。
「こんぐらいやれなきゃあ………」
ビナーはそれを目撃し、完全にフリーズしてしまっている
目の前で起こっている事象は、デカグラマトンによって感化されただのAIの枠組みを捨て去ったビナーをして、正常に処理することが出来なかったのだ。
そして、武闘派なヤツメがそれを見逃すはずも無かった。
「うちのマキちゃんはやれぇぇん!!!!!!!!!!!」
一体、いつからマキの父親になったというのだろうか。
焼け爛れた右腕から伝わる激痛に表情を少し歪めながら、構えたのは
ヤツメからバチバチと漂うエネルギーのような何か─神秘をこれでもかと込められたそれは、ようやく再起動し始めたビナーに向かって─
バァン!!
派手に直撃した。
「ゲゴァァ!………」
潰れた蛙のような悲鳴を上げながら、ビナーはその機能を停止。
砂の大地に慣性のままに倒れこんだ。
「ッ!!!」
ザアアアアアアアアア!とビナーの質量に耐えられず、空中に飛散する大量の砂。
ヤツメは咄嗟に目を瞑り、右腕を庇いながらしゃがみ込む。
やがてその身を打つ砂礫が落ち着いてきた頃、ヤツメは立ち上がり焼け爛れた右手に愛銃を握り、高らかに天に突き出し─
「決着ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
ビナーの咆哮にも匹敵する声量で、そう宣言した。
「ハァ……ハァ…へっへっへ、敗北者はビナーくん、キミだったようだな………」
「貴様如きにうちのマキちゃんをやるには………五十年早いわ!!」
………いつから彼女はマキの保護者になったというのだろうか
それと誤字報告ありがとうございます!!!
ポチっと押すだけで修正できて便利ですねぇ…
気の向くままに書いてるので突然総監部活動日誌を挟むかもしれませんし、そもそもいつ投稿されるかも定かではないですがそれでも良いという方は気長にお待ちください。
でもミカちゃんは晴らします、それだけははっきりと真実を伝えたかった。
ん、ひとまずエデン条約編で一区切り付ける