七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
どうした?付け合せのミックスベジタブル見るような目でオレを見やがって。
忘れちまったかぁ!?オレだよオレ!ハンバー(ry
その後、柴関で軽い自己紹介や戯れを済ませたヤツメは店を後にした。
本人としてはこの後は風紀委員会なりに捕まっていく予定だったのだが、先生と話す内にある記憶が蘇ってきたからだ。
すなわち、カイザーPMCである。より具体的にはカイザーPMC理事長。
彼はキヴォトスではよくいるロボット系住民なのだが、その名の通りカイザーPMCの理事を務める有能であり、油断ならない人物である。
ヤツメは気が短い、
だからこそPMC理事の本編での煽りを思い出してしまった今、ヤツメの目標はカイザーの基地を襲撃し完膚なきまでに破壊しつくすことへと切り替わった。
やはり気分屋である。気分屋68。
「てぇことになると、ちょっとばかし無理させてもらわんといけんなぁ」
そうしてヤツメは右腕の包帯─ビナーとの戦いで負った火傷を隠すためのもの─を取り一息ついた。
つい数時間前のユメがこの状況を見れば烈火の如く怒るだろうし、何なら過去のヤツメも怒ってくるだろうが、
目も当てられないくらい焼け焦げていたその腕は、恐るべきことに現在進行形で回復している。
それはもはや再生と言ってもいい速度であった。
「なるほど……キヴォトス人が頑健な理由は神秘によるオートリジェネが備わっているからか……」
それを上澄み連中にのみ許されるゴリ押し理論で片づけたヤツメは、周囲の目も憚らずに着替えを始めた。
今までは総監部の制服を洗濯したりして着回していたが、今回の襲撃では総監部の関係者であることがバレてはいけないからだ。
この後にゲヘナぐるみで冤罪疑惑を連邦生徒会に叩きつけるのだから、こんなつまらないことでケチを付ける訳には行かない。
ゲヘナ以外で騒ぎを起こしたことは無いことはないが、証拠は残していないのでどうにでもなるだろうというのがヤツメの見立てである。
「いやはや、これを着るのも久しぶりだなー」
そうして着替えたのは、彼女が百鬼夜行時代に着ていた着物である。
ワカモの着ているそれのように動きやすくアレンジされており、戦闘向きである。
「後はテキトーな仮面を被れば万事OK、心置きなくカイザー破壊RTAが出来るって寸法よ」
クツクツと笑いながらPMC連中の吹っ飛ぶ様を想像する着物に狐のお面を被った不審者。
その姿は奇しくも友人である狐坂ワカモ……つまり『災厄の狐』の2Pカラーと言っても差し支えないものであった……
「あの…すいません……」
「さァ~て、手始めに例の基地を…」
「す、すいません!」
「WOW」
夢想に夢中になっていたヤツメは、接近してきた人影に気付けなかったようだ。
急な大声に驚いて外国産ミームのようになってしまったヤツメ、その声をかけてきた人物は彼女の知らないキャラ…ということは無かった
「ん?ハルカちゃんじゃん、どしたの」
「えっ!?…あの…何で名前を…」
「え?そりゃあ…………………まぁ、女には秘密の一つ二つ三つあるものよ、気にしないで頂戴」
「は、はぁ…」
「A secret makes a woman woman…」
「か…かっこいい…!」
声をかけてきたのは伊草ハルカ。
『八岐ヤツメ』としては面識があるのだが、『深淵の蛇』としては一切関わりの無い相手だ。
思わず名前を口走ってしまったことをいつかどこかで聞いた名言と共にはぐらかし、ついでにキャラと口調も変えたヤツメは、改めてハルカに向き直った。
「それで、貴女はこんな辺鄙な砂漠に何をしに来たのかしら?」
「ぇ…えっと…仕事で来たんですけど…少し昼食をと思いまして…」
「あら、それならおすすめの定食屋さんがここから程近い所にあるけれど…」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、柴関ラーメンってお店よ。オススメはサイドメニューのチャーハンね」
「あ、ありがとうございます!」
「あ、ちょっと…」
言うが早いが、どこかに走り出していったハルカ。
ヤツメとしてはもう少しハルカ…便利屋に用があったのだが、去ってしまっては元も子もないと諦め……ようとしたが、行先は分かり切っているため追いかけることにしたのである。
ヤツメ、数分ぶり三度目の柴関へ─
「ごきげんよう、大将さん」
「おぉ~いらっしゃ…へぇ?」
「!?」
「あ、さっきの…」
本日三度目となる柴関訪問。
アビドス組は見慣れぬ着物姿の生徒に一瞬警戒を強め、柴大将は意味深に呟き、先生は純粋に驚き、便利屋─ハルカは呑気に返事を返した─も驚いた。
狐面を被った淑女は勿体ぶるように言い放つ。
「一日に何度も何度もすみませんね大将さん、私も忙しい身でして」
「構やしねぇさ、お客さんの事情ってのは千差万別だ」
「ご理解いただけたようで何より…」
軽い事情の説明─最も、正確に理解しているのは柴大将のみだが─を済ませた後、仮面の美少女は便利屋68の面々が座っている席に近づき、言った。
「便利屋68さん」
「「「「!!」」」」
「貴女たちのモットーは『金さえあれば何でもできる』でしたよね?」
「断じて違うわ!?!?!?!?」
真面目な雰囲気を感じ取った便利屋の面々の予測とは裏腹に、とぼけた話題を振り彼女らを困惑させるヤツメ。
許してやってほしい、彼女はふざけないと死ぬ病気に罹っているんだ。
ボケのために歪曲されたモットーにはアビドスの面々が複雑そうに頷いていたりしたが、それはさておき。
「あら?では『金さえあれば何でもできると思ったら大間違いだバカヤローコノヤローメ』では…」
「だから違うわよ!?いや違ってはないんだけど違うのよ!!」
「禅問答みたいですね」
「貴女が振って来た話題よ!!!!」
「そんなに喧嘩腰なモットーを掲げた覚えはないです…」
「アッハハ!!お姉さんおもしろーい!」
この短い門答でどっと疲れた様子のアルとハルカ、そしてテンション上がって来たムツキを尻目に、カヨコが呆れながら一言を投げかける。
「それで、貴女は何の用なの?冷やかしならお帰り願いたいんだけど…」
「あらあら、冷やかしとは失礼ですわね…あなた達のようなところに赴く要件と言えば依頼以外に無いでしょうに」
心底不思議そうな表情でそう告げるヤツメ。
しかしその発言に不穏なものを感じたのか、それにいち早く反応したのはハルカであった。
「し、食事処を教えてくださった恩があるとは言え私たちを貶すような発言はさすがに頂けません…」
「どうするアルちゃん?処す?処す?」
「……依頼があるというなら先にそれを言いなさい…」
どこか疲れた様子のアル達に対して、ヤツメから渡されたのは一通の招待状だった。
便利屋68へ、と簡潔に記されているそれを開け中身を検分する便利屋を見ながら、ヤツメは説明を始める。
「今回、便利屋68に依頼することとはズバリ、パーティにおける警備ですわ」
「…パーティ?」
「確かに招待状風な資料ですね…」
「勿論、便利屋の皆さまもパーティを目いっぱい楽しんでもらって構いません」
「……………」
芝居がかった大袈裟な動作を交え、まるで歌う様に、嗤うように。
素性の分からないその出で立ちと、それを行っているのがただのラーメン屋というミスマッチなシチュエーションも相まって、ヤツメの──狐面の美少女の底知れなさがより一層高まっていった。
「パーティを楽しむ傍ら、不審な人物や物品を処理して周る…」
「あるいは狂騒に呑まれたお馬鹿さんにお灸を据えることだってあるでしょう」
「ちなみに、捕縛したお馬鹿さんは主催者……
「!!」
「万魔殿!?」
唐突に出てきた
便利屋68が数多のやらかしによりその両方の組織から指名手配されているのは有名な話であり、その頭目たるアルに至っては銀行口座すら凍結されているのだ。
反応するなというのが無理な話だろう。
「……どういうつもり?」
「おやおや、まだ説明は終わっていませんよ?」
一同を代表して凄んだカヨコの気迫ですら、彼女の前では心地いいそよ風にすぎないらしい。
全く以て動じた様子も無く説明を続ける彼女を見て、アルは密かに尊敬の念すら抱いていた。
即ち、(この人すっごくかっこいいわ……!まさしく私の理想とするアウトロー…!)といった具合である。
「そも、このパーティ…いえ祭りを開催する理由とは…」
「理由…」
「とは?」
「八岐ヤツメにあるのです」
「?」
唐突に出てきたヤツメの名に、便利屋のみならずこっそり聞き耳を立てていたアビドスの面々までもが頭に?を浮かべた。
カヨコに至っては呆然と言うほかない表情をしていたが、それが大きな動揺に変わるのは次の一言を聞いた瞬間だった。
「彼女は現在、秩序戦争の首謀者としてヴァルキューレに指名手配されていますが……その罪はでっちあげでしかありません」
「正確に言うなら当時の万魔殿と風紀委員会の陰謀とでも言うべきでしょうか」
「実際のところ、秩序戦争がいつ発生したかなど、彼女─ヤツメですら把握していない*1のです」
台本を読み上げるように言い切った彼女は、大いに動揺し何かを呟いているカヨコを尻目に言葉を紡ぐ。
「当代の万魔殿のトップ─羽沼マコトはその事実にいち早く辿り着き、今まさにヴァルキューレに…そして連邦生徒会に揺さぶりをかける直前…!」
「そしてパーティとは『ヤツメ復活祭』のことに他なりません」
………ちなみに、ドヤ顔で語っている彼女であるが、当の祭りは未だ計画段階より前の段階である。
今の所決定しているのは、みんなでおっきいケーキを食べることの一点のみであった。
「あぁ…勿論このことはご内密にお願いしますね」
わざわざあなた方に言うことでもありませんが、と言葉を続け、困惑の沼から抜け出せていない便利屋を見渡した彼女は、徐に携帯を取り出した。時間確認の為である。
「ん~…ま、こんなもんでええやろ」
「え?」
「おっと失礼、キャラが崩れてしまいました」
「へぇ~?普段のお姉さんの様子も気になるところだね?」
ひとしきり言いたいことを吐き出した彼女のボソッとした呟きを、便利屋は─ムツキとカヨコとハルカは聞き逃さなかった。
「ふふふふ……ふーふっふっふっふっふ……」
さり気ない探りを入れてきたムツキに対して、彼女のとった行動は笑うことだった。
「ふふ…はははは……」
心底可笑しくて仕方ないといった風に、便利屋が、アビドスが、先生が、柴大将が見ている中で─大声をあげて笑う。
「アーハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
ひとしきり笑った後、仮面の美少女は柴関の出口へと歩を進め始める。
ムツキの質問で何か癇に障ったかとアルが戦々恐々としている内に、扉を開き外に体を出しかけたところで──
「……………いずれわかるさ」
便利屋を振り向き、彼女らへ抉るように鋭い眼光を叩きつけた。
ずらされた仮面から覗く紅い目は、覗く者の心を等しく委縮させる"圧"を放っていたのだが─
「っ待って!!」
ある一人の生徒─鬼方カヨコにとって、それはこの短い学園生活の中でも強烈に焼き付いた青春の象徴でもあり、未だ彼女の心の奥底に巣食う切望と熱狂を呼び起こすトリガーでもあったのだ。
席を立ち、脱兎の如き勢いで仮面の少女の方へカヨコは走る。
しかし、彼女に触れる一歩手前で─ピシャリと閉じられた。
「っ!」
無情にも閉じられてしまったその扉の前で、カヨコはただ立ち尽くすことしかできなかった──
──お?へいそこの彼女どーしたそんな辛気臭い顔してよ
──あん?怖くないのかって?何がだ?私が怖いのは確定申告だけだぞ?
──え?顔?全然?幼さの中にどこか凛々しさを感じてよきよきのよきだぜ?
──世辞じゃねぇよアホンダラァ!!!オメーはオメーがかわいいということを認めるっきゃねぇんだぞぉ!?!?!?!?!?
──よぉーし分かった、お前さん名前は?
──カヨコちゃんだな!
──カヨコ、お前船乗れ。
──アハハハ!!!比喩だよ比喩!うちの部活に来いってことだよ!
──うちの部活には将来的にめっちゃ濃くなる面子ばっか揃ってるからな!
──一癖も二癖も…いや百癖はある奴らさ……きっとカヨコちゃんの悩みなんてあっという間に吹っ飛ぶぜ?
──なんたってうちは秩序総監部!!自由と混沌渦巻くこの地において─秩序を求める変人の巣窟だからなぁ!!!!
──さァて、この手を取るならカヨコちゃんはもう総監部だ。
──来るか?
──アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!辛気臭さも吹っ飛ぶいい返事じゃあねえか!!!!!
──手始めにドブカス魔殿の執務室に牛乳を染み込ませた雑巾を見えないように放置する作業からだ!!!
──アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッゲッホォォォ!?!?!?
──やば…エナドリが肺に入った……
──ん?……肺に…?……ッぶわっはははははははははは!!!!!
【速報】八岐ヤツメ氏、笑いのツボがクソ浅
ヤツメちゃんがコウメ太夫しながらカイザーを襲撃するというシチュは出来てるんですよ。
Q.カヨコちゃんはおじさんやパイセンと面識あるはずなのに何で柴関に入店した時点で気づかれないんですか?????
A.必死の他人のフリをしていたからです(無理があろうと思われます)(私のミスでした)(あ ほ く さ)
Q.バレないように変装したのに何故正体を示唆するような真似をしてるんですか?
A.気分屋の思考回路なんて読めません