七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
つまり私も意図して曇らせた訳ではないんです、それだけははっきりと真実を以下略
対策委員会編なのに対策委員会に全くもって触れないクライマックスがあるらしいんですよ奥さん
便利屋=風紀委員連合軍とバイザーヘルメット団の戦闘の行く末は、存外呆気ないものであった。
何故なら……
「あっ!弾切れだ!」
「「「ええっ!?」」」
「………む、カイザーに使いすぎたか」
先のカイザー襲撃で弾薬の大半を使い果たしていたヘルメット団は、連合軍相手にいい勝負をしていたのが嘘のように鎮圧されていったからだ。
「……なんか、拍子抜けだな…」
「それに関してはごめんなイオリちゃん」
すっかり縛り上げられてしまったヘルメット団の頭領であり、我らが主人公であるヤツメもイオリに謝罪していた。が、それにホログラム上のアコがツッコミを入れる。
「いやなんで先輩が謝るんですか!?」
「え?だってあれでしょ?戦いの中で分かり合う感じの展開を予想してたんでしょ?」
「してませんよそんなこと!?」
「しっかし、風紀委員会と便利屋の連合軍だなんて多分もう見れないんじゃないか?」
「…まぁ、公的には絶対見れないね」
捕縛されても尚気楽な様子のヤツメのぼやきに、カヨコは呆れつつも答えた。
二人とも、距離感が総監部時代とさほど変わっていないと分かるやり取りだ。
それは、八岐ヤツメという異物が成したゲヘナの団結という大きな功績の一端を象徴するものでもあった。
「まぁ、そうね。実際のところヒナ個人から依頼が来たことはあっても風紀委員会から来ることなんて無かったもの」
「えっ委員長が便利屋に依頼を!?」
続いたアルの発言に驚いたのは風紀委員会の一般構成員。それも最近入部してきた者である。
無理もない、彼女は総監部が猛威を振るっていた頃のゲヘナを詳しくは知らないのだ。
その身が存在するという事実1つでゲヘナの治安を維持する風紀委員会の長が、やることなすことトンチンカンでその実一番ゲヘナの利益を考えている万魔殿の議長が、今ゲヘナや各地で有名なお尋ね者の長や構成員が、かつては同じ部に集い、彼女と同じように平和な日常を謳歌していたこと、それによって育まれた絆、信頼、信用、そのどれもが彼女には想像し得ないものであり─知るハズのない事なのだから
「まあカヨコさんと委員長は知らない仲ではありませんからね…」
「そうなんですか…なんか意外…」
「と、とにかく!ヤツメ先輩も捕まえたことだし依頼は達成ってことで良いわよね?」
「そうだな〜、よーし!総員撤退だー!」
おー!
アルの仕切り直しとイオリの号令を受け、ヘルメット団を捕獲した風紀委員会はゲヘナへと帰路を進めようとして……
ドゴォォォォン………
「……何だ?」
「地震?」
現在地─砂に埋もれた廃駅から見えるまだ埋もれきっていない市街地、駅から見て近いとも言えないが遠いとも言えない絶妙な位置にあるその街の方角から、地鳴りのような音がこの場の全員の腹に響いてきたのだ。
「一体何だってんだい?」
「…行って見ないことには分からないと思う、どうする?社長」
「……行きましょう、何となくここで引いちゃダメな気がするわ」
「くふふ~アルちゃんのいつもの勘って奴ー?」
「そうよ!今ここで確かめないと一生後悔する気がするわ!!」
(言い切るねぇ…)
騒めく風紀委員会とは対照的に、便利屋68は既に首を突っ込むことに決めたようだった。さもありなん、少数精鋭な便利屋と制約の多い風紀委員会を比べ、どちらがスムーズな意思決定ができるかと言われれば何だかんだ便利屋に軍配が上がるのは自明の理なのだ、この光景を見ていたヤツメも護送車の中で苦笑い。
「…
「本当?先輩達はどうするの?」
「ゲヘナに戻る班と便利屋に付いていく班で分ける!」
「…なんだかんだ言って貴女も気になるのね」
「当たり前だろ!?アコちゃんもそれでいいよね?」
「…えぇ、それで構いませ……………は?」
「アコちゃん?」
発言の途中で様子のおかしくなったアコに、イオリは怪訝な声で問いかけた。
次の瞬間、ホログラム上のアコは思いっきり顔を顰めたかと思うと
「…前言撤回、私もそちらに向かいます」
「アコちゃん!?」
まさかの発言に驚愕するイオリ。アコとて戦えない訳ではないがしかし、行政官がゲヘナを留守にするのは如何なものか。この場の皆のそんな思いを汲み取ったのか、アコは反論が来る前に
「説明している暇はありません!!!!」
「で…でも!って切れちゃったし!」
持ち前の強引さでその案を押し通した。
その後、通信端末をいくらいじってもアコは応答しない。
だが、先の彼女の様子を見て何か尋常ではない事態が起こっていると確信したカヨコはボソッと呟いた。
「…あのアコがああまで焦るほどのことがこのアビドスで起こってる…っていうこと?」
「……」
その呟きに、勘の良い者─或いは心配性な者が先の地鳴りを思い浮かべた時だった。
GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!
「ッ!?」
何かの唸り声─いや咆哮。
それはさっきの廃市街から聞こえてきたもので…
「まずいな……」
「せ…先輩?」
それはごく短時間のことだった。
護送車に押し込まれたはずのヤツメが、いつのまに抜け出したのやらイオリの前に立っていたのだ、手錠は無理やり千切ったらしくパンクなアクセサリーのようになっていた。
「今のは”預言者”の咆哮だよ」
「えっ…」
「なぁっ!?」
ヤツメのその言葉に、二~三年生の者達が反応する。
分からない者はそのまま首を傾げていたが、次のヤツメの発言で事の緊急性を察する。
「預言者ってのはでっかぁぁい蛇みたいな鯨みたいな存在だ」
「二年くらい前かな?アビドスの子たちと合同演習してた時に私ら総監部はソレに出くわした」
「相当苦戦したよ、アレに対抗できるほどの戦力が当時は私とヒナちゃんにホシノちゃんぐらいだったからな」
「で、まぁ何とか撃退したんだが……アビドスの子が一人死にかけたんだ」
「!」
「まぁその子は奇跡的に助かったんだが……でも危険なのには変わりねェ」
「だから撤退するのをお勧めするよ……あぁ心配すんな、後できちんとゲヘナには行く」
「……相手はビナー、か」
「ま、待ってちょうだい!や、ヤツメ先輩はどうするのよ!?」
今にもビナーに向かって特攻せんと言わんばかりの様子に、陸八魔アルは慌てて問いかけた。
すると、ヤツメは不敵に笑って─
「気にすんな、ビナーくんとは数日前にタイマンで戦って勝った。つまりアレは今手負いだ」
「ねぇ待ってせんぱい今聞き捨てならない発言が」
「もちつけカヨコちゃん」
「……タイマンってどういうこと」
若干目の据わっているカヨコが問い詰めたところ、『深淵の蛇』はそもそものアビドスへの訪問理由を話した、カヨコは激怒した。
怒るカヨコにタジタジなヤツメの様子を見てこの場の生徒たちは呆れながらも覚悟を決めたらしい。
「……みんなにチクるから」
「えぇ!?それだけはやめてくれよカヨコちゃん!?」
「うるさい」
カヨコはモモトークでヤツメに縁のあるメンバーに事の詳細を詳らかに送り始め、その怒り様にユメの剣幕を思い出して若干震えたヤツメもまた覚悟を決めた。
「……じゃあ、私も行くよ」
「イオリちゃん!?」
「けが人が確実に出ますし、私たちが撤退する理由もありませんね」
「その通りよチナツ!アウトローとして……なにより一人の後輩として!先輩に向かってかっこつけないとね!」
「くふふ~♪大変な事態なのに何故だか負ける気がしないや♪」
「ム、ムツキちゃんまで……」
この一瞬で覚悟をキメた連合軍*1は、かの預言者がいるらしい廃市街へ向けて行軍し始めた……
「…………先輩」
「カ、カヨコさん……なんでしょう…」
「……もう……置いていかないでね」
「……おうとも」
在りし日の便利屋
ヒ「便利屋……?また面倒くさそうなのが出てきたなぁ…」
ヒ「構成員は〜っと……あら、カヨコも仲間なのね」
ヒ「お金さえ積めば何でもしてくれる……なるほど」
ヒ「活動資金にされても厄介だし口座は抑えときましょう…」
ヒ「ふぅ~疲れた……仕事多すぎ……マコト許すまじ……」
ヒ「…………………金さえあれば何でもしてくれるのよね」
ヒ「………」
カ「そんなわけで社長、ヒナから万魔殿の中にあるありとあらゆるボールペンのバネを抜いて欲しいって依頼が来たんだ」
ア「ど、ど、ど、どうしてそうなるのよ〜!?」
※案の定一波乱あった