七囚人『深淵の蛇』 作:ゲヘナ狂
「ぅぅ……ぐすっ…えぐ……」
少女が泣いている。
今年付でトリニティ総合学園に入学したピンク髪の少女『聖園ミカ』は、つい先程ゲヘナの不良からカツアゲに遭ってしまった。トリニティ生は金持ちの出身が多い為、身代金目的で誘拐されることが多々あり、先ほどもゲヘナの方に外出すると聞いた友人から滾々と気を付けるように言われたばかりであった。
カツアゲの憂き目にはあったものの、決して弱くはないミカは不良をしばきあげ逆にカツアゲしてやったのだが、それがミカにとって慰めとなったかは今の状況を見れば分かるだろう。
聖園ミカは心優しき少女である。
トリニティにとって不倶戴天とも言えるゲヘナ生とも仲良くなれると考える程には。
後に大きな騒動の種にもなるその心優しさは、1年生の時から変わらないらしい。
「ぅぐ……うぅ……」
そんな慈愛の心で接した結果がカツアゲであり、当然のようにミカは現実を突きつけられ泣いていたのだった。
そんな時に、困惑したような声が聞こえた。
「あ〜……だいじょぶそう?」
「…ぇ?」
消え入りそうな声が路地裏に木霊する。
それが、聖園ミカと八岐ヤツメの出会いであった───
「んむっ」
「どお?おいしーでしょ?」
「んぐ…んぐ………うん、おいしい」
【速報】ヤツメ氏、後のティーパーティ役員にエンカウントする。
いやぁ…今日はトリニティとの境でパトロールしてたんだけども、それはもう見事に遭遇してしまったのですよ。
ゲヘナ生にカツアゲされる我らのお姫様にね!!!
当然居ても立っても居られず飛び出したけどその一瞬でカツアゲガール達はワンパンされていたぜ
やはり火力…火力は全てを解決する…
「それなら良し!ところでこんなところで何してたの?」
「…その…」
たどたどしく話してくれた内容を要約すると、『トリニティ生だけどゲヘナ生とも仲良くしたかったから来た!』とのことらしい。
………………聖人か?????????
うせやろ?こんないい子が外患*1誘致しでかすの????正気かヨースター???
現時点じゃアルちゃんレベルの良い子ぞ?
「そっかそっか!!!良い子だなぁ君ぃ!」
「え…えへへ…そうかな………」
「そうだ!名前は?私はヤツメ、二年生の八岐ヤツメだよ!」
「あ…えっと、聖園ミカ…一年生…です?」
「うんうん☆ミカちゃんよろっしくね~」
天使か?(モチーフは)天使だったわ。
ゲヘナ推しで通して来たこの身だけども…今からトリニティに乗り換え………いや……トリニティじゃ好き勝手できないわ…
っぱゲヘナっしょ。
「そんでそんでどうだった?ヤツメちゃんお手製クッキー」
「えっ手作りだったんですか!?」
「そういうこった!!!後そんな堅苦しくなくても良いよ!私達これから友達になるんだから!!」
「えっ……えぇっちょっと…」
「よぉし!!!うちの部活に食に関しちゃ一級品の知見を持ってる奴がいるんだ!!一緒になんか食いに行こう!!!!」
「わっ…わぁ…☆」
強引だけどミカちゃんもどこか楽しそうだしヨシッ!!!!!
…少女移動中(マコトとヒナがチェスをしている一枚絵)…
「この方がトリニティの?」
「へぇ~珍しいわねぇ~」
「あっ…み、聖園ミカ、だよ!」
「ミカさんですわね、私は黒舘ハルナと言います」
「私は鰐渕アカリよぉ~よろしくねミカちゃん」
「よ、よろしく…」
ハ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"(限界オタク化)
なんだこの光景はぁっ!私を殺しに来ているのかミカァ!!!
「や…ヤツメちゃん…?」
「心配は不要ですわミカさん、ヤツメさんはたまにバグりますから」
「…ぅし!私、復帰!」
「あら~先輩ったら気合十分ね!」
「当たり前田のクラッカー。今日行く店はなんてったってハルナちゃんセレクションだからな!」
「クラッ…?」
そんな訳でいずれ美食研になるであろうお二人と共に食事をすることにしました!!
酒の席で語り合ってれば友達なんてできるべ、酒飲めんけど。
「ふふ…親しき者達と食べる料理…これもまた美食ですわね…」
「そういって毎度毎度先輩連れまわしてるでしょうハルナ?ヒナちゃんがヤキモチやいてたわよ?」
「そうですね…たまにはヒナさんやカヨコさんでも誘ってみるべきでしょうか」
「私はイロハちゃんやイオリちゃんとも食べたいな~」
「彼女らは未だ中等部でしょう、中等部は色々制限が厳しいですし…」
「『最高の美食』の前にそんな障害あってないようなものよ!」
「頼むから総監部にいる内は大人しくしててくれほんとに」
「はぁ~い」
「了解しましたわ」
「…仲、良いんだね」
「あったり前よ、自慢の後輩ぞ?」
「あら~また面と向かってそんなこと言う~」
「ふふふ…仕方ない人ですね」
生美食研尊すぎか??????
この尊さを貨幣価値に直したら軽くサンクトゥムタワー500本ぐらい建つぞ?????
ジュンコちゃんやイズミちゃんも中等部で確認済みだし…いやぁ楽しみだなぁ。
…………………ん?これ総監部続けてたら美食研結成されなくね…?
……ふむ、何か策を─
「おぉ!!誰かと思えばヤツメ先輩達だぁぁぁ!!!」
ふぉああああああ!!!メグちゃん!!!私も会いたかったよ!!!
「メグちゃんじゃないの、温泉の方は良いのかい?」
「だいじょーぶ!!きちんと退部届出して来たから!!」
「えっ噓ぉ!?退部ぅ!?」
うせやろ!?!?!?!?!?!?!?
「え?退部届出したらお休みできるんじゃないの?」
「メグさんそれでは永遠のお休みになってしまいます」
「あら~メグちゃんったらうっかり屋さんね♪」
「うっかりで退部するなんて…ゲヘナはすごいなぁ」
「ミカさん、あれはメグさんが特殊なだけですから」
「永遠のお休み…?私死んじゃうの…?」
「あ~メグちゃん、退部届出したらもう温泉開発部に行っちゃいけないことになるんだ」
「え~~~!?」
この子ほんまアホの子やなぁ…………………そんなところもまたヨシ!
固くて食べにくいアイスを食べやすくするために火炎放射した女だ…面構えが違う
「まぁ総監部楽しいしいっか!」
「あなたが良いならいいのですが…」
「ふふ…ふふふふ…」
ミカちゃんが笑いを堪えきれてなくて草。
「やっぱり悪い人なんていないじゃん」
「そうか?万魔殿や風紀委員は結構碌でも無いぞ?」
「この間トリニティ崩れのスケバンを鎮圧した時も地味に妨害されましたしね」
「大方デカい顔してるうちが気に喰わないんでしょう…全く、これだから野蛮人は」
「うぇぇ…やっぱりそういうのあるんだね」
「まぁでもミカちゃんの願いは間違ってないよ!」
「願い?」
「ミカちゃんはねぇ、トリニティ生だけどゲヘナ生と仲良くしたい!っていう純粋な思いで今日ここに来たらしいからねぇ」
「とても素敵な願いですわね」
「うんうん、ミカちゃんみたいな子なら全然ウェルカムよ」
「ミカちゃんはもう友達だね~!」
うおっメガトン好意…これは一足先にエデン条約不可避ですわ
「えへへ………そうかな…」
照れ顔ミカ鬼かわいいいいいいいいいいいいいいいえああああああああ!!!!!
「よぉし!!!!せっかく出会ったんだし記念撮影でもしますか!」
「妙案ですわね」
「いいと思うわ♪」
「いえ~い!!記念撮影!!」
「よしっそうと決まれば…」
携帯を取り出して電話をかける。
相手はマコトだ。
『どうした先輩!』
「ちょっと空いてる車無い?ダチ公と記念撮影にヒノム火山行きたいんだけど」
『今なら…C4—621番が空いているな!しかし記念撮影に火山とは!キキッ先輩らしい斬新な発想だ!』
そもそも組織で使う車をこんな私事に使うのも大分おかしいんだけどな、そこはもうゲヘナだしな。
「おうとも、ソイツはトリニティ生だってのにうちらと仲良くしたいという善良な奴なんだ」
『………ほう、それは興味深いな』
「マコトちゃんも来るぅ?」
『キキッ言われずともな!』
「うす、じゃあ迎え頼んだ」
『任せられた!』
そうして、電話を切る。
周りを見渡すと、美食研組は『ま~たとんでもないこと言ってるよコイツ』みたいな呆れ顔でこっちを見ていたし、メグちゃんは火山での記念撮影に心躍っているし、ミカちゃんは完全に呆気に取られていた。
「よし!そういう訳で数分後にはマコトちゃんが迎えに来るからな!ミカちゃんも楽しみにしててくれよな!」
「えっ…ええええええええええ!?」
その後無事記念撮影を敢行した後、当初の予定通りハルナちゃんセレクションのお店で食事を済ませた。
写真は携帯で撮ったので渡すのはモモトークでも良い筈だが、ミカちゃんが紙の写真も欲しいと言ったのでまた自治区を練り歩くことになったりしたけど、充実した内容だったのではなかろうか!
「ふふふ……今日はありがとうねヤツメちゃん」
「ん、良いってことよ。いつでも遊びにきてくれよな」
「うん!分かった!」
言うが早いが、我らのお姫様は砂塵を上げ走り去っていった…
いや速すぎやろ、もう影も見えんぞ…?
後に寮の門限ギリギリだったと聞き、腑に落ちたヤツメさんであった。
……
………
…………さて、この
最近、みんなと遊べていない。
みんなというのは、ゲヘナで仲良くなった皆だ。
ヤツメちゃんを始め、ハルナにアカリ、ヒナにアコ、カヨコ、そしてマコトにメグに…
みんなみんな、私の大事なお友達。私の馬鹿馬鹿しい妄想を現実にしてくれた、個性的で憎めない友人達。
そりゃあ私も二年生になってティーパーティ見習いとして動き始めたからさ…接触自体が難しいんだけどね…
でも、友達と気軽に遊びにいけないなんて間違ってる。だから今度の『エデン条約』も絶対成功させないといけない……いけないんだけど……
うぅぅ、ダメだなぁ…疲れると思考がネガティブになっちゃう。こういう時は通話していっぱい話したい……けど……迷惑じゃないよね。
皆はきっとそんなの気にしないだろうけど、私は気にしてしまう…あぁもう、こういう時ゲヘナ特有のアウトロー感が羨ましいよ…
ええいままよ!気にしすぎてても始まらない!よし!通話を…
「ミカさん?」
「!!ナギちゃん!?」
びっびっくりしたぁ…
「も~いきなり話しかけないでよ!びっくりしちゃうじゃんね☆」
「それはすみません…しかしミカさん、最近はお疲れのようでしたし…」
「あはは~やっぱナギちゃんには分かっちゃうかぁ…」
「セイアさんも心配していましたよ?」
「うへ~…迷惑ばっかりかけてる~」
「迷惑ではありませんよ……やはり、ヤツメさん達が恋しいですか?」
「うえっ!?何で分かったの!?ナギちゃん実は超能力者?」
「誰でも分かりますよ……確かに、ゲヘナらしからぬカラっとした気質の方々ですからね…」
「だよねぇ…ゲヘナ生みんなああだったら例の条約もうまくいくんだろうけどねぇ…」
「しかし積み重なった歴史がそれを難しくしています。いつものメンバーの中でもマコトさんあたりは我々以外話が通じないと思い込んでいらっしゃいますし…」
「トリニティにもいい子いっぱいいるのになぁ…」
「何度説明しても一顧だにしませんでしたね…」
「辛うじて『話が通じる奴は私達以外にもまだちょっといる』くらいの認識になってくれたのが良かったよ…」
「あら?そうなんですか?」
「うん!この間の通話で何とかね!」
「それは…微妙ですが非常に重要な進歩ですね」
「うんうん☆きっとその先にエデンが待ってるよきっと!」
「そう…願いたいものです」
──でも
『現在ゲヘナ自治区で未曾有の大混乱が起こっており、万魔殿や風紀委員、そして現地のヴァルキューレ支部など、主要組織と連絡が付かない状態である、と連邦生徒会は発表しました』
『同時に、連邦生徒会長によるSRT特殊学園の介入が検討され、昼の会議で正式に介入することが決定しました』
「「………は?」」
──私達の思い描いていた淡く青い理想は
「マコト!?そっちはどういう状況なの!?」
『私も何が何だか分からん!ミカ、外で何か動きは──総員伏せろ!!!』
「マコト!…マコト?ねぇ!ッ……切れた…?」
「ダメですミカさん!ヤツメさんや他の皆さんと連絡がつきません!」
「唯一通じてたマコトももう繋がらないよ…」
「先の放送と言い……一体ゲヘナで何が起こっているのです?」
──運命に嘲笑されているかのように打ち砕かれ
『万魔殿と風紀委員の共同発表によりますと、先の大混乱を引き起こしたのはゲヘナ秩序総監部の部長『八岐ヤツメ』であるとされ、近く矯正局に移送される見込みとのこと』
『尚、ヤツメ容疑者の移送に伴い秩序総監部は解体するとも発表し、元総監部の生徒からの反発による衝突が多く繰り返されています』
「………何?これ」
「…ニュース、ですよ…」
「ヤツメちゃんはぜっっっっったいにそんなこと…」
『また、ヤツメ容疑者は「全て私の責任だ、それから逃げるわけにはいかない」と供述している模様です』
「………何で」
「…」
──そして
「………ミカさん、ヤツメさんの件ですが…」
「…!!」
「ッ…………一部万魔殿や風紀委員会に歪められたところはあるものの、概ね間違いでは……」
「万魔殿…風紀委員……………!!!」
あぁ、そっか、そうなんだ。
結局私達は………ゲヘナとトリニティは分かり合えないんだ…………
…………いいもん、そんなの、最初から分かってたし。
結局、ゲヘナは野蛮で…………
『親しい友人と食べるご飯は美味しい……このように変わり映えしない場所でも』
野、蛮で
『ミカもいっぱい食べて頂戴!!三十杯食べればご飯代タダよ!』
ひ……品が無くて
『え~!?ミカちゃん温泉に行ったこと無いの!?』
『なんということだ…聖園ミカ!温泉を愛する者として…そして一人の友人として!この鬼怒川カスミ、キミに温泉の何たるかを教えてしんぜよう!!!』
品が……
『キキキッ、私のように一流の者となると、所作のひとつひとつにも気を配るもの…』
『マコトせんぱ~い!先輩とミカ先輩の絵描いたよ~!』
『何ィ!?………おぉ………これは…とても良く描けている……えらいぞイブキ……』
『全く…絵の一つで大袈裟ですね………………額縁を手配しておきます』
『頼んだぞイロハァ!』
…………………………………
『ごめんね、ミカ。うちは治安悪いから…』
『全くそうですよ、せっかくトリニティの方から仲良くしたいと言う酔狂な方が……あ、すいませんヒナさん失言でしたからそのデストロイヤーを下g痛い痛い痛い!!』
『……ほんとにごめんね、ミカ』
『カヨコさんだって最初は警戒しt痛い!!痛いです!!!』
………………………………………………………………………………………
『な?みんな個性強めだしところどころロクデナシだけどさ、話してて嫌な気持ちにはならないだろ?』
『だから……さ、ナギちゃんやセイアちゃんの他にもいっぱいトリニティ生と仲良くなれたら良いなって』
………私………は……………
「うぅ……ぐす………えぐ…」
私は……ゲヘナのことが……
「うぐ……っううう…」
「ひぐぅ……ぐすん…」
………………………………………………………………もう、何にもわかんないよ。
「うぅぅぅぅぅ…………」
泣けども泣けども、自分が分からなくなるばかりで。
もしかしたら心の底では期待していたのかもしれない。
こうやって泣いていれば、ヤツメちゃんがまたあの日のように困惑した声で話しかけてくれるんじゃないかって
「うぅ……」
……………………勿論、そんなありもしない期待が叶うことは無く。
路地裏には、いつかと同じような啜り泣く声だけが響いていた。
中途半端に仲良くしたせいでミカはゲヘナを憎み切れなくなってしまいました。
………………もしかしなくてもこれって曇らせでは????????