[完結]拝啓パパ上マエストロ様。トリニティでも私は元気です。   作:がくらん

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ハスミちゃんと修了式

[拝啓パパ上 マエストロ様

 桜が咲いていますね。それもたっぷりと! 梅の花が終わったと思ったらあっという間に暖かくなってびっくりしています。この春、パパはどんなことがしたいですか?

 

 さて、私がヘイローを授かって以来、テンションが上がりすぎてキャラが変になっていた黒服さんは、その後いかがですか?

 いっときは口癖の「ククク……」が「クークックックック……!」になっていて、含み笑いなのか高笑いなのかよくわからない感じになっていましたよね?

 いい加減に、そろそろ落ち着いているでしょうか。

 

 こちらは先日に卒業式がありまして、お世話になった正実の先輩が旅だってしまうということで私、それはもう大号泣しちゃって大変でした。

 前日までは全然そんな気はなかったのに、不思議です……

 呆れられて、でもなんだかんだ笑ってもらえて、結果的にいい思い出になったかもしれません。 ……私のさらした醜態と引き替えに、ですけれど。

 

 あとは明日、1年生の修了式が終われば春休みです。

 約束どおり、しばらくは技術指導を受けるため、パパのところにお世話になります。

 必要な道具の準備などあれば、早めにお伝えくださいな。

 

 それでは、次に会うのもすぐですが、それも楽しみにしていますね!  敬具]

 

 冬の冷たい風はいつの間にやらいなくなって、世はすっかり春の陽気です。

 ぽかぽかのお日様の光を浴びながら、たった今ポストに投函した手紙の内容に思いを馳せます。

 あの遊園地での一件の後はしばらく、黒服さん、本当に元気だったなぁ……

 ええと、なんでしたっけ?

 

「ミメシスの根源たる「恐怖」への「神秘」の添加! これが可能ならばやはり「神秘」への「恐怖」の付加も同様に可能でしょう……! 私の研究方針を裏打ちする素晴らしい事実です! クックックックック!」

 

 とか言っていたのでしたっけ?

 マッドなのは知ってましたが、さすがにちょっと気持ち悪かったので今は距離を置いてます。

 次に会うときには戻っているといいんですが……

 

 さて件の私のヘイローですが、ちょっとがんばって視線を頭上後方へやってみれば、今もきちんと浮かんでおりました。

 真紅と薄いオレンジと黄色系あたりの、明るめのマーブル模様で着色された木の輪っか。ちなみにマーブル模様はぐりぐりねりねり動きます。

 質感はツヤがなくてのっぺりした感じで、光の輪と言うよりどこか物質的です。

 決してキラキラと輝く見目はしていません。

 ですが、実際にこの目で見ているとなんだかすごく可愛くって美しくって、神秘的に感じるのは、いわゆるひいき目ってやつでしょうか。

 ふふふ、ふふふふふ……ずっと見てられちゃう……

 

「って、あいててて……自分のヘイローって鏡なしで見ようとすると首が痛いんですよねぇ……ちょっと前まで知りませんでしたけど」

 

 とはいえ、ヘイローができたからといって、こうやってちょくちょく見上げてはニヤニヤする時間ができた以外は、実はそこまで影響はありませんでした。

 木製の体が生身になるとか、なんかこう劇的に力が強くなるということもなかったです。

 さらに言えば、おそらく「神秘」の一部をいただいてしまった、あの場のみなさんの体にも、幸い影響はなさそうです。

 

「唯一の実感できる変化といえば……。 ……きっと私はもう、スランピアのミメシスではないんですよねぇ」

 

 ……言い換えれば、私が「スランピア」から「独立」した存在になった、ということでしょうか。

 あくまで感覚での話になりますが、私はもうきっと、定期的に「遊園地」にいかなくても大丈夫だし、行ったとしてもいつでも普通に帰ってこられるでしょう。

 でもってさらに、『メルヘンワールド』としての力も、もう使えないと思います。

 それだけの何かが、私の中からなくなって、大きめの穴になっているのを感じます。

 そしてなにより……

 

「……シロねえ達の言ってること、わからなくなってたものなぁ」

 

 シロねえ達が何を伝えたいのか、ニュアンスだけはしっかりとわかります。

 変わったのは、言葉が音として聞き取れなくなってしまったこと。

 シロねえの声が他の人にはこんな風に聞こえていたのかと、とってもびっくりしましたっけ。

 

「うーん、寂しい! けど、しょうがない! これが独り立ちってやつですよ! きっとね!」

 

 ヘイローを授かったうれしさと、ミメシスから一人の人間へと変わってしまった寂しさと。

 これらの入り交じった複雑な気持ちを、空元気で吹き飛ばして、ぐうっと天高く伸びをします。

 私に筋肉はありませんが、あんまり辛気くさいこと考えてると、どこかが「凝って」しまいそうですからね!

 そんなの私らしくないですから!

 

 と、その時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえます。

 

「アオちゃん! もう、こんなところにいたのね。 ……修了式の前にみんなで写真とろうって言ったの、アオちゃんでしょう?」

「あ、ハスミちゃん! ごめんなさいすぐ行くね! 走る走る!」

「ううん、ウイさんも来てなくてサクラコさんが呼びにいってるから、私たちもゆっくりでいいみたい」

「あ、そうなの? じゃあ歩いてこっか」

 

 ハスミちゃんと連れだってゆっくりと歩く、となれば……?

 それすなわち、おしゃべりチャンス到来! と言うわけで、

 

「ハスミちゃんは春休み、どうするの?」

「私は寮で過ごすかなぁ。春休みはあんまり長くないし、それに正義実現委員会の日直もあるし。アオちゃんは?」

「私はほら、パパのところに」

「あ、体の調整の仕方、教わってくるんだっけ?」

「そうそう。お仕事は任せちゃって申し訳ないー」

 

 ひとつ前の手紙でパパは言いました。

 「今後、体の調節は「遊園アオ」が行うように」と。

 理由は、パパも自分のすべきことに集中するため今後は時間が捻出できなくなるから、とは言っていますが、きっとこれも建前で。

 そろそろ自立の頃合いだと、暗に言ってくれているのですよね……

 そんなわけで私は、この春休みをまるまる木工の修行にかける予定です。

 「スランピア」に続いてすぐに、こっちも放り出されるのかと、思わないでもないのですが……

 すでにそうと決定されてしまった以上、ここで完璧に教わり、習得し、技術を仕上げなければ、私のお肌のキメと滑らかさの存亡に関わります……!

 気合いを入れていかなければ……! と、日々、戦々恐々でございます。

 

「って……あれ? そういえば私、みんなともう当たり前に話してるけど、“体が木でできてますよー”とかって、いつの間に公表したんだったっけ?」

「……ええっと、いつだっけね?」

「あれぇ?」

「……ふふ」

 

 ハスミちゃんのクスクス笑いに誘われて、私も「……まあいっか!」と一緒に笑ってしまって、この様子にふと既視感を受けました。

 ……これは、なんでしたっけねぇ。

 記憶の棚をひっくり返しても、なんだか引っかかったままですっきりしません。

 

「……こんなふうにしていると、思い出すね」

「え?」

「ほらこのあたり、アオちゃんと初めて会った場所じゃない? 一年前、入学式に」

「……ああ! たしかに!」

 

 ピンと、記憶の線がつながって、既視感の正体にたどり着きます。

 

「あのきれいでかっこいいのに、笑うと可愛いお茶目さんな「ハスミさん」の場所だ!」

「え、ええっ? そんな風に思ってたの?」

「思ってたの! わぁ、なつかしー!」

「……ね、懐かしい」

 

 うわぁ、そうです。当たり前ですがあれからもう一年がたつんです。

 この道沿いの建物も、向こうに見える噴水も校舎も、最初は圧倒されてましたっけ。

 あんなに気高く見えた在校生も、ふたを開ければみんな全然特別ではない、ごくごく普通の子たちばかりだって、今は知っています。

 あまりにこの学園が日常になりすぎて、入学式に見た景色が、とっさには今と結びつかなくなっていました。

 

「あの時は、「パパのためにがんばるぞ!」っていう気持ちでいっぱいいっぱいだったからなぁ」

「あ、もしかしてそれ「タイ子ちゃん」の原因になった“お使い”の話?」

「ちょ、ちょっと「タイ子ちゃん」はやめてよぉ! 今でもすんごい恥ずかしいんだから!」

「ふふふ……!」

 

 未だにシスターフッドの一部の中では、私は「タイ子ちゃん」のままなのだとか。

 ううう、過去の私のアホちんめー。なんでもうちょっと考えて動かないのですかー!

 

 ……まぁでも、それはそれとして、いいタイミングなので伝えてしまいましょうか、この気持ち。

 

「何度も言うけど、仲良くしてくれてありがとうねぇハスミちゃん。あの時会えたのがハスミちゃんじゃなかったら私、どうなっていたやら……きっと今頃学園のスミでジッとしすぎて根を張って、およよよ……」

「ふふ、泣き真似までして、そんな大げさに言わなくても。……でもこちらこそ、いつも楽しい時間をありがとうね」

「……へへへ、どういたしまして!」

 

 わざとらしく目元を隠していた手をどけて、弧を描く瞼でニシシと笑って見せて、思わず漏れた本音をごまかします。

 

 ハスミちゃんは大げさって言うけれど、全然そんなことないんだよ。

 ハスミちゃんに会えたから私は正実に入ろうと思えたし、正実に入れたからツルギちゃんともミネさんとも友達になれた。卒業式で号泣するほどに慕える先輩にも出会えた。

 シスターフッドの人たちや、ウイさんやもっといろんな他の人たちとも、こんなにうまくつき合えるのは、ハスミちゃんに友達とのおしゃべりの仕方を教えてもらったからなんだよ。

 

 ……なーんてとこまでは、照れくさいから言いませんけど!

 

「……へっへー! やっぱりおしゃべりはいいよね! どんより気分もどこへやら!」

「あ、少しそんな感じはしてたけど、今日のアオちゃん、やっぱり元気なかったんだね」

「そうそう、実はちょっぴりおセンチちゃんだったのです……でももう大丈夫! 私ってそういえば、誰かとおしゃべりできればすぐ元気になるんだった! 忘れてた!」

「私は忘れてなかったよ? だから、お話ししてればきっとすぐ、いつものアオちゃんに戻るかなって」

「ただいま戻りました!」

「お帰りなさい。でもさっきのアオちゃんも、いつもと雰囲気ちがって良かったかも?」

「えー!?」

「ふふふ、ちょっとウソついちゃった」

「ひどーい! ははは!」

 

 あんまり意味をなさない単語と単語を、テンションと流れに任せて並べて唱えて、時々笑って、時々驚いて、そんな時間を楽しみます。

 

 そう、ちょっと復活してきてシャキっとした頭で考えればわかるのです。

 別にシロねえ達ともパパとも、今生の別れというわけではありません。

 会おうと思えばいつだって会いに行けるし、お手紙だっていつだってやりとりできちゃいます。

 

 今まではパパ達家族が私の両手を強く握って、しっかりと暖めていてくれました。

 けど今は私の為に、2つの手のうちの片方を離してくれたから。

 もちろんちょっと寒いなとは思ったけど、また別の、たくさんのお友達と手を繋げるようになりました。

 と、いうことは……いまなら故郷のつながりに加えて、ここでのたくさんの友達もいて、まさにお相手は選び放題、よりどりみどり!

 私、落ち込んでいる暇なんてありません!

 

「ねね! ハスミちゃん、お手て、つなぎましょ! お手て!」

「え? ……はずかしくないかな?」

「ありませーん! ……わ、ハスミちゃんの手、やわらか!」

「……やわらか……ふくよか……? も、もしかして最近お菓子たべすぎかな?」

「そういう意味じゃないから! ハスミちゃんはちょっと気にしすぎ!」

「そ、そう?」

 

 手を取った瞬間に感じた温もりに、なんだかすごく安心しちゃいました。

 でもそれを知られると変態さんみたいで恥ずかしいから、悟られないようにわざと大きなリアクションでおどけて見せます。

 

「あとこれ、見てほしくって……じゃじゃーん! こちら、なんかすごいらしい「カメラ」です!」

「あ、もしかしてパパさんのお友達の不思議道具?」

「そうそう! この「カメラ」ね、実はね? ーーーー……」

 

 会場までは後少し、よく目を凝らせば、門の前に集まっているみんなも見えるような見えないような、そのくらい。

 そのあとちょっとを、少しでも長くしたくって、ゆっくりゆっくり歩きます。

 

 ねえ見てください。「スランピア」のみんな、ゲマトリアのみなさんやパパ。

 この子と話している私、楽しそうでしょう? こんなに親しい友達が、私にもできたんです!

 だから、大丈夫。

 トリニティでも、私は元気です。だから安心していてくださいね。

 

 世にも不思議な「カメラ」を空に向けて、ぱしゃりと一枚、撮ってみます。

 内蔵のモニタに移った画像に、私とハスミちゃん、ふたりして大騒ぎして。

 それを聞きつけて遠くから寄ってきたみんなとも、やっぱり大騒ぎして。

 

 これからもずっと、こんな風に楽しいといいなって、そう思えた春の一日でございました。

 

 

 

 

おしまい!

 

 









1年生編、完結です。
次回から、他者視点のおまけをはさんでから、2年生編へと移ります。
もしご興味があればもう少しだけ、ここのアオちゃんを見守ってあげてください。
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